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「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー
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印刷2010/07/10 10:30

インタビュー

「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー

 2010年4月22日にスクウェア・エニックスから発売されたPlayStation 3用ソフト「ニーア レプリカント」とXbox 360用ソフト「ニーア ゲシュタルト」(以下,共に「NieR」と表記)。

画像集#001のサムネイル/「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー

 本作は,こちらのレビューでも書いたように,その強烈な世界観とゲームジャンルに囚われない演出の数々で,ネットの口コミを中心に大きな話題となったタイトルだ。
画像集#002のサムネイル/「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー
 発売から少し間が空いたNieRであるが,今回4Gamerでは,本作のプロデューサーである齊藤陽介氏とディレクターである横尾太郎氏の両名に話をうかがう機会に恵まれた。
 本稿では,発売から時間が経った今だからこそ話せる裏話を中心に,今のゲーム業界についてやNieRの開発に当たって心がけたこと,そして公にはされていない「NieRの知られざる謎」についてなど,NieRを生み出した両名の会話をたっぷりとお届けしたい。

※以下の文章には,物語上のネタバレがたくさん含まれます。ご注意ください。

「ニーア ゲシュタルト」「ニーア レプリカント」公式サイト



「ジャンルという概念を打ち破りたかった」

      ――NieRが目指したゲームとしてのあり方


4Gamer:
 本日はよろしくお願い致します。
 まずは,「NieR」開発に至るまでの経緯からお聞かせください。

齊藤陽介(さいとうようすけ):スクウェア・エニックスのエグゼクティブプロデューサーとして,「スターオーシャン」シリーズや「ヴァルキリープロファイル」シリーズなどを担当。また「クロスゲート」や「コンチェルトゲート」をはじめ,モバイル/オンラインゲームの企画/開発にも携わる
画像集#007のサムネイル/「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー
齊藤氏:
 私は,いわゆる“旧エニックス”系と呼ばれるタイトル群,例えば「スターオーシャン」や「ヴァルキリープロファイル」などといった,「ドラゴンクエスト」以外のプロジェクトを全部見るという立場をずっと続けていました。ただそういう役回りだと,当然広く浅くでしか作品にタッチできませんよね。

4Gamer:
 プロジェクトを複数統括する立場ともなると,激務でしょうし。

齊藤氏:
 で,そんな中で「そろそろ現場の仕事もやりたいな」ということをずっと考えていて,それと同時に,以前一緒に仕事をさせて頂いたキャビアさんと「また何かやりたい」という思いがあったんです。それでキャビアさんにいくつか企画書を出して頂いたんですが,その中の一つにNieRがありました。

4Gamer:
 企画の趣旨としては,やはり「オリジナルの新規IPを立ち上げる」という部分が大きかったんですか?

齊藤氏:
 そうですね。当時,私は海外市場に対してもアプローチできるゲームという意味で,コマンド式ではないRPGを模索していて,「これを形にして行けば面白いものができあがるんじゃないか」と感じていたんです。

横尾太郎(よこおたろう):株式会社キャビア所属のクリエイターで,「NieR」ではディレクターを担当。“横尾ワールド”と呼ばれる独特の世界観でも知られるゲーム開発者。代表作は「ドラッグ オン ドラグーン」など
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横尾氏:
 最初は,割と小さめのプロジェクトだったんですよね。言葉を適当に組み合わせて遊ぶような,簡単なアクションゲームを考えていました。

4Gamer:
 言葉を組み合わせるとは?

横尾氏:
 NieRにおける「ワードシステム」の原型みたいな感じです。絵とかもすごく地味で,シンプルでした。企画書を出した当時は,あまり大きなプロジェクトは通らないだろうと考えていたんです。でも,齊藤さんと話し合って行くうちに,「どうせなら,もう少しリッチな方向でいこう」という話になって。その中であらためて「RPG」という言葉も出てきたんです。

4Gamer:
 ゲーム全体として見れば「アクションRPG」というジャンルに分類される本作ですが,アクションゲームでありながらも弾幕シューティングっぽい要素があったり,急に2Dスクロールアクション風になったり,果てはサウンドノベルみたいになる一幕もあったりと,なんといいますか……一言で言うなら“カオス”なゲームですよね,NieRって。

横尾氏:
 NieRに関しては,プレイヤーさんに“色々なゲーム性”を楽しんでもらいたいと考えていたんです。だから,弾幕シューティングや横スクロールアクション,あるいは「Diablo」みたいな視点とか,いろいろな要素をいっぱい詰め込ませて頂きました。NieRでは,「既存のジャンルの概念を打ち破る」というところに挑戦したかったんです。

画像集#006のサムネイル/「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー
4Gamer:
 既存のジャンルの概念?

横尾氏:
 はい。最近,自分自身がゲームをやってても最初は面白いんですが,すぐにやめちゃうんです。なんでかなって考えてみると,例えばムービーがあって,アクションがあって,ボスがいて……というのを2回ぐらい繰り返すと,そのゲームの全貌が「大体分かっちゃう」んですよね。そうなると,もうその先の楽しみがなくなっちゃって。

4Gamer:
 その感覚はとてもよく分かります……。

横尾氏:
 なんといいますか,最初のステージで学んだことを繰り返していくという印象が非常に強くて。それはちょっと,あまり良くないんじゃないかなとずっと考えていたんです。だから,そうじゃなくて,ゲームシステムというかゲーム性がクルクル変化するようなゲームを作りたいと考えました。
 ただ,だからといってチュートリアルとかを毎ステージやるような設計だと,それはそれでただの鬱陶しいミニゲーム集になっちゃうじゃないですか。そうせずに,最初に覚えたことだけでゲームの体験が変わっていく……そういうゲームを作りたかったんです。

4Gamer:
 本当に色々ありすぎて,知人から「NieRってどんなゲーム?」と聞かれると割と困るという。

横尾氏:
 僕が開発チーム内でよくしていた話で,「最近のゲームって,すごく美味しいラーメン屋みたいなものだよね」というのがあるんです。美味しいんですけど,全部が専門店化していて,メニューにあまり幅が無いといいますか。だから“体験”としては,最初から最後までラーメンだけを食べてるような感覚がしてしまう。

4Gamer:
 なるほど。

横尾氏:
 その点,じゃあ「NieR」ってなんなのかというと……。

齊藤氏:
 定食屋さん(笑)。

横尾氏:
 ええ。例えるなら,NieRは「さばの煮込み定食」なんですよね。そこにから揚げも一皿追加して,さらにビールも飲んでみたりとか(笑)。NieRってそういう感覚のゲームなんです。

4Gamer:
 面白い例えですね(笑)。しかし,的を射ているかも。

横尾氏:
 「このシステムにはこういう面白さがあるし,あっちのシステムもこういう面白さがあったよね」というところを楽しんで貰えたらなと。ただそうなると,当然ながらそれぞれの品目は専門店に遠く及びません。さばもちょっと冷たいのが出てしまったり……みたいなデメリットがあります。

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齊藤氏:
 そうだとしても,やはりNieRは「ゲームらしいゲーム」だと思うんですよね。登場人物やストーリーが突飛だというところに隠れていますけど,根底にある「触ってみて/やってみて面白いでしょ?」というところに関しては,とてもゲームらしい“芯”があると思う。

横尾氏:
 僕としても,そこはこだわりをもって頑張らせて頂いたんですけど,プレイヤーさんからご評価頂くのは,やっぱり音楽とかシナリオに関しての部分が多くて。この「ゲーム性が変化する」ということに喜んでくださったのは,同じゲーム開発者の方やメディア関係の人ばかりでした(笑)。

齊藤氏:
 いや,そこは気が付かないで「疑問を抱かずに遊んでくれた」のが成功の証なんだと思いますよ。業界の人はそれが仕事だから,穿った見方をしてしまうというだけで(笑)。プレイヤーさんの「楽しかった」という一言が,すべてを物語っているのかなと。

4Gamer:
 アクションRPGで“弾幕をかいくぐる”感覚とか,個人的には「なんだこれは」くらいのインパクトがあったんですけどね。

横尾氏:
 あの弾幕は,元々僕自身がシューティングゲーム好きということもあって,ずっとシューティングゲームを作りたかったんです。でも,今のご時世,3Dアクションゲームを作るチームでそれは無理だということで……。どうやったらシューティングゲームを作れるのかな?って考えた結果が「NieR」に反映されたんです(笑)。

齊藤氏:
 サウンドノベルに関しても評価は分かれましたよね。

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横尾氏:
 そうですね。サウンドノベルはとくに海外では厳しい評価を頂きました。ゲーム中,いきなりサウンドノベルのパートが始まるんですけれども,それこそ「F○ck」みたいな反応が(苦笑)。しかも,海外のフォーラムとかで発売前に流出した違法コピーで動画配信してる人が「F○ck」とか言ってて。むしろ「お前がF○ckだ!」と言いたい気分で……。

4Gamer:
 海外でサウンドノベルって受け入れてもらえないんですかねぇ。

齊藤氏:
 そもそも市場として成立してませんからね。海外のプレイヤーさんからしたら,「なんだ,これは?」ぐらいの感覚だったのかもしれません。

横尾氏:
 サウンドノベルのスタイルも,やっぱり実際の本にはない面白さがあると思うんですよね。だから,そういう面白さを海外の方にも楽しんで頂ければと思って入れたんですけど……結果としては駄目でした。
 あと,実はコストをおさえて「ゲームのボリュームを稼ぐ」という目的も大きかったですね。


意識したのではなく,せざるを得なかった「海外市場」


4Gamer:
 コストのお話が出たので,ちょっとビジネス寄りの質問をさせて頂きますが,NieRって企画当初から海外をかなり意識したプロジェクトだったんですか?

齊藤氏:
 意識したというか,せざるを得ない状況でした。そもそも,いわゆる据え置き機マシンだと開発費もかかるので,ある程度は海外のマーケットを織り込まないと採算が取れないという実情があります。

4Gamer:
 マーケティング会議を北米で現地スタッフと共にやったそうですね。

齊藤氏:
 はい。北米だけではなく,欧州のスタッフも呼んでやりました。日本で作った物をただ売るのではなくて,モチベーションを上げてもらうためにも,現地のスタッフが意見を出せる場を用意したかったんです。そうすることで「自分達も一緒になって作った作品」だという意識を持ってほしかった。
 日本もそうですが,どうしても新しい物が売りにくいマーケットになっているのは事実なので,できることは何でもやろうという覚悟で取り組んだんです。

4Gamer:
 横尾さん的に会議の印象はいかがでしたか? 向こうの要望とかを聞いてみて。

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横尾氏:
 実を言うと,「ドラッグ オン ドラグーン」(以下,DoD)が海外であまり売れなかったこともあって,「自分は海外で売れるものを作るのが苦手だ」という自覚がありまして。だから,言われたことはちゃんとやろう,勉強させてもらおう,という気持ちで会議に参加させて頂きました。向こうのことは現地の人の方が一番分かっているだろうと。


4Gamer:
 DoDの評判については意外ですね。

齊藤氏:
 いや,評判は決して悪くはなかったんですよ。ただ,日本の評価の方が“圧倒的に良い”という感じで。これは,今回のNieRにも言えることなのですが,凄い温度差がありました。
 また評価してくれる人とそうじゃない人の間で差が激しいのも,DoDとNieRの特徴ですね。「これは面白い!」と言ってくれる人達は,恐らく日本のゲームのファンなんでしょうけど,逆にFPSやTPSが好きな人たちからすると「これはちょっと違う」みたいに思われてしまうのかもしれません。

4Gamer:
 しかし,海外で売れる売れないという話が出ると毎回疑問に思うのですが,それは単に「趣向性の違い」で済む問題なんですかね。

齊藤氏:
 正直なところ,そこの見極めはとても難しいです。

4Gamer:
 例えば,会議では海外のスタッフから具体的にどういった意見が出てきたのですか?

横尾氏:
 色々な意見は出たのですが,キャラクターの顔や表情については何も言わないんですよね。そうじゃなくて,肩幅とかをすごく気にするんですよ。それが意外でした。

4Gamer:
 え,肩幅ですか?

横尾氏:
 そうなんです。男女問わず「肩幅がいまいち」だと。

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齊藤氏:
 そこに関しては,3Dモデル自体の骨格の問題があって,なかなか難しかったんだよね。

横尾氏:
 そうです。NieRの主人公である青年と父親は,3Dモデルのデータとしては同じボーンで作っていたので,肩幅を広げるのにも限界があったんですよ。なので「ここが限界なんです。すみません」という話で納得してもらうしかなくて。それと,「PS3版の主人公も父親にしてくれ」と言われまして……海外版ではああいった形になりました。

4Gamer:
 横尾さん的には,そこはかなり“ごねた”と聞きましたが。

横尾氏:
 ええ。青年の主人公がいなくなっちゃったら,僕ら開発チームのモチベーションが下がって開発期間が延びます!みたいな(笑)。むちゃくちゃ言って,齊藤さんに日本で青年主人公という目を残してもらったんです。

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齊藤氏:
 そこに関しては,私も相当闘ったんですよ。ハードごとに主人公が違えば,プロモーション的にも面白いことができるんじゃないか!とか,いろいろ提案して話し合ったんです。ただ,やはり最終的には「根底から趣向性の違いがあるな」というところで,双方相容れず終いでした。

4Gamer:
 ヨーロッパのスタッフもそうだったんですか?

齊藤氏:
 ヨーロッパの方が,まだどうしようか悩んでいるようなニュアンスはありましたね。
 アレなんですよ。どうも,細身のキャラクターが大剣を持ってバッタバッタと敵を薙ぎ倒して行くのはコメディに見えると。ちゃんちゃらおかしい,子供騙しだという感覚なんです。

4Gamer:
 任天堂さんの「ポケットモンスター」でさえ,発売前の会議では,あのキャラクターの造形に対して海外スタッフから批判があったという話を聞くくらいですからね。

齊藤氏:
 海外では,家庭用ゲーム機で遊ぶのは大人のユーザーが多いという市場の違いもあって,そこはコミカルに見えてしまったらダメだと言われたんです。
 「ファイナルファンタジー」クラスのブランドであれば,ファンは確実についているから,そういうキャラクターの造形に対する偏見というか食わず嫌いみたいな壁は乗り越えられると思うんですよね。しかし,NieRに関しては完全新作ということもあったので,現地スタッフの意見をなるべく取り入れる方針でいきました。

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4Gamer:
 ところどころに他作品のオマージュっぽい要素があるのは,海外市場を意識して……みたいな部分はあったんですか?

齊藤氏:
 いや,それは横尾さんがただやりたかっただけなんじゃ(笑)。

横尾氏:
 はい(笑)。というのも,人が「面白い!」と感じる部分って,かなり記憶が関与していると思うんです。例えば,笑いのネタにしても,自分が知らない芸能人のことを語られてもまったく笑えないけど,自分の勤めている会社の上司の話だと笑えますよね。そのくらいの「ちょっと笑ってもらえたらいいな」という軽い気持ちだったんです。

4Gamer:
 エミールの洋館とかすごく不気味ですよね。何と言うか……「某有名ホラーゲーム」的な雰囲気で。

齊藤氏:
 そこはノーコメントで(笑)。

4Gamer:
 そういえば昔,ダウンタウンの松本人志さんが「漫才は,マス(テレビ)に向けたネタはつまらなくなる」という話をしていたことがあって,個人的にそれがとても印象に残っているんです。要は,誰もが笑えるネタっていうのは,本当は「逆に面白くない」んだという話です。本当に面白いネタは,むしろ“尖った面白さ”であると。

齊藤氏:
 身内ネタってツボにハマると滅茶苦茶面白いけれど,それは絶対に一般ウケはしませんからね。

4Gamer:
 ええ。だからNieRが日本で絶賛されているのに海外では振るわないというのは,突き詰めればそういうものの延長だったりするところはあるんでしょうか。

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齊藤氏:
 うーん,どうなんでしょうね。
 ただNieRに関しては,やっぱり絵的なものとか,先入観みたいな部分で食わず嫌いする人がかなりいるのかなという感触はあります。特にグラフィックに関しては,最近の海外のゲームは凄いので,NieRを見て「なんだ,ショボイじゃん」と,単純に比較されてしまう厳しさはありますね。

4Gamer:
 実際に遊ぶとそんなのは気にならないし,むしろマップの空気感や雰囲気はとてもいい感じなんですけどねぇ。

横尾氏:
 実際に遊んでくれた人の意見を聞くと,「この音楽でこの世界観だから,この絵が良いんだよ」って言ってくれる方も結構いるので,そこは安心しているんですけどね。

4Gamer:
 まぁ,いわゆる海外の“大作”と呼ばれる作品だと,制作費の桁も半端じゃありませんからね。ちなみにNieRの開発体制はどうだったのですか?

齊藤氏:
 開発期間で3年。人数は,一番多い時で40〜50人。アベレージをとれば,20人くらいですかね。


高く評価されたストーリーと音楽

     ―――周回プレイをしたくなるゲーム


4Gamer:
 ここからは,ゲームの細かい部分について聞かせてください。まず,発売後の感触は如何でした?

齊藤氏:
 それはもう,ご好評頂いたのはストーリーと音楽ですね。

ニーア ゲシュタルト & レプリカント オリジナル・サウンドトラッ
価格:¥2,800(税込)
仕様:12cmCD2枚組
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4Gamer:
 NieRはサウンドトラックが出ていますよね。

齊藤氏:
 NieRのサウンドトラックの勢いは凄いですよ。最近だと,ゲームのサントラ盤って,4桁売れない作品がごろごろしているんです。そんな中にあって,NieRのサントラはあっさり5桁に突入して,まだ伸びていますから。

4Gamer:
 え,そんなにいってたんですか!

横尾氏:
 ただ現場としては,ほかにも音楽やストーリーがいいゲームは沢山あると思うので,こんなに高く評価して頂けていること自体がちょっと不思議な感じはしますけれど。

4Gamer:
 ストーリーに関しては,割と救いのない話が多いのが印象深いですが。

横尾氏:
 悲しい話のゲームって,最近あんまりないんでしょうか? 僕はRPGを長い時間遊べないので,そのへんちょっと分かってないんですけど……。
 少年編の前半は,割と明るめにしようと頑張ったんですよ。青年編では周回プレイも念頭に置いて,同じことをやっても飽きちゃうだろうと思い,暗い展開にしました。

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4Gamer:
 横尾さんの十八番(?)の「マルチバッドエンディング」って,狙ってやっている部分もあるんですか?
 例えば,アドベンチャーゲームとかでは,バッドエンドを見せることで「もっと良いエンディングがあるはずだ」と,プレイのモチベーションを高めたりするのはポピュラーな手法だとは思うんですが。

齊藤氏:
 いやでも,横尾さんのは全部バッドエンディグですからね(笑)。モチベーションになるのかな……。

横尾氏:
 以前作ったDoDは基本アクションゲームだったので,プレイ時間的な意味でのボリュームはあんまりなかったんです。で,プレイヤーさんから「もっとボリュームを!」というご意見を沢山頂いて。だから今回は,ボリュームを稼ぐためにどうやりくりしようかと考えていました。

4Gamer:
 今,周回プレイ前提のアクションRPGってそんなにあります? どちらかというと,クエストとかでボリュームを稼ぐ方向が割とポピュラーなのかなと思うんですが。

画像集#022のサムネイル/「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー
横尾氏:
 そうですね。まぁNieRも周回プレイというよりはクエストでゲーム全体のボリュームを増やす形にはなってますけど。ただ,2周目でマモノのセリフが見えるっていうのは周回プレイ前提の要素ですよね。それを考えたのは,開発のかなり初期の段階でした。

齊藤氏:
 NieRは“良いボリューム”だと思いますね。飽きず,一気にクリアできるんじゃないかと。そのうえで「気になるからもう1回やってみよう」とプレイしてみると,全然視点が違って「おおっ!」と思っていただけるんじゃないかと。

4Gamer:
 ゲームのボリューム云々のお話をすると,やはり近年のゲームの遊び方についても考えちゃいますよね。

齊藤氏:
 ゲームの遊び方というか,ゲームに使える時間が変わってきたのは間違いないと思います。Twitterやったりとかニコニコ動画見たりとか。私自身でさえ,テレビの前でコントローラーを握る時間は減っていると感じますから。

4Gamer:
 「クリアまで100時間!」とか言われると,逆に敬遠されちゃったりしますしね。

齊藤氏:
 僕は昔,「メール de クエスト」とかも作ってたことがある人なんですけど,あの時から似たような議論はありましたよね。

4Gamer:
 メール de クエスト! いや,懐かしい(笑)
 実は齊藤さんというと,4Gamer的には「オンラインゲームの人」というイメージが強いんですよ。

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齊藤氏:
 ああ,「クロスゲート」とか「コンチェルトゲート」とか?

4Gamer:
 そうです,そうです。ちなみにプレイ時間やプレイスタイル云々でいうと,最近流行のソーシャルゲームやブラウザゲームについてはどう思われます?

齊藤氏:
 いや,いろんな形のゲームがあっていいなとは思いますよ。ただ,簡単なゲームばかりが浸透していった結果,「ゲームって面白くないね」と思われてしまうのは嫌です。ソーシャルゲームにせよブラウザゲームにせよ,“面白さ”という部分にはこだわっていきたいですよね。

4Gamer:
 齊藤さんが手がけられたゲーム繋がりで言うと,「アストロノーカ」とかをブラウザゲームにしたら凄く面白そうだとか少し思うんですけど……。

齊藤氏:
 僕はああいうゲームも大好きなので,機会があればぜひ作りたいですね。ちなみに「アストロノーカ」は,チューニングだけで1年掛かったとかそういうゲームなので,作るにしても実は結構大変だと思いますが(笑)


開発段階では流行りのQTEアクションにも挑戦?


4Gamer:
 当初はアクションゲームとして開発されていたというNieRですが,いわゆるQTEアクション(※)も試作段階では試してみたとか。

※Quick Time Eventアクション。ゲーム中のイベントシーンなどでコントローラの入力が促され,それに応じたアクションやイベントが展開されるというもの

画像集#023のサムネイル/「ジャンルという概念を打ち破りたかった」――裏話もたっぷり聞けた「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」ロングインタビュー
横尾氏:
 「砂の神殿」というステージにボスが出るんですが,あれのプロトタイプ版では,相手にQTEみたいなことをやってました。しかし,いざ作ってみたら魔法攻撃(遠距離攻撃)が中心のNieRとはちょっと合わなかったんです。
 で,なんでNieRにはQTEが合わなかったんだろうと思って,色々と調べてみたんですけど,参考にしていた某アクションゲームでは,画面の中のキャラクターとすごく一体感があるんですよね。その一体感がないQTEアクションのゲームって,自分が画面に映らなくなった瞬間,他人事になっちゃう。だからNieRで導入するとしたら,全部近距離攻撃で終わらせないといけないのかなということになって。「それはちょっと嫌だな」ということで,NieRでは違うシステムを導入することにしました。

4Gamer:
 最近のアクションゲームって,QTEアクションを採用しているゲームが多いですよね。

横尾氏:
 まだ出てきたばかりのシステムなので,進化の余地は全然あると思うんですよ。ただ,僕らの世代はどうしても「タイムギャル」(※)を連想しちゃって,むしろ「インタラクティビティがない」という風に考えちゃうんですよね。まぁ,これからどんどん変わって行くとは思うんですけど。

※タイトーがリリースしていたレーザーディスクアニメーションゲームの第三弾。ドット絵しかない時代,フルアニメーションを駆使したゲームの存在はかなりのインパクトがあった

4Gamer:
 タイムギャルときましたか。

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横尾氏:
 ちなみにインタラクティビティでお話をすると,数年前に発売された他社さんの某RPGで,味方が戦闘中に「援護しようか?」と聞いてくるときがあるんです。で,そのときにどうするかをプレイヤーが選択するんですけど,その間ずっと戦闘は継続してて,そのリアルタイム感が僕はすごく楽しかったんです。
 そういう,「QTEアクション」という名前じゃないにせよ,ユーザーの関与によってダイナミックにイベントが起きていくというシステムは,映像の見せ方と共にこれからどんどん発展していくのかなと思います。

齊藤氏:
 ゲームの映像や演出という面で言うと,最近のFPSやTPSは,冒頭の盛り上がりを相当意識して作り込んでます。

4Gamer:
 最近は序盤すごいのに真ん中くらいになるとショボくなって,最後ちょっと盛り上がりますみたいなゲームが多いと思うんですよね。

横尾氏:
 やはりこう,つかみでガッとお客さんを喜ばせないといけないんでしょうね。でも,そこに全力投球しちゃうと,残りの部分でも同じような要素を使いまわすことになっちゃう。体験としては似てきちゃいますよね。

4Gamer:
 下世話な目線で行くと,一番最初に見せ場を持ってくれば,買ったその日に口コミで広がりやすいとか,そういう部分もちょっとあるのかなぁとか。

齊藤氏:
 まぁそうですね。NieRも露出という意味では新宿の部分を伏せていましたし,横尾さんには「一番初めに派手な戦闘を入れてください」ってお願いしてたんですよ。それで,魔法を一通り使いながら無双できる形に。

4Gamer:
 ゲーム開始直後にいきなりレベルがガンガン上がったりでビックリしました。

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