本稿では,タランティーノ監督とユマ・サーマン氏によって語られた,映画とゲームの境界を曖昧にした本プロジェクトの詳細と制作裏話,そして筆者が現地でいち早く体験した「チャプター7:Pacific Break」のプレイフィールをお伝えする。
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「音楽」ではなく「映画」のプレミアを。GOGO夕張の妹が狙う復讐劇
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ことの発端は,Epic Gamesがタランティーノ監督に対し,新シーズンのローンチに合わせて「10分から12分程度の映像作品はないか」と打診したことにある。そこで監督の記憶の底から呼び覚まされたのが,映画「キル・ビル」の脚本初稿に存在しながらも,本編では撮影すらされずに終わった「Yuki's Revenge(ユキの復讐)」というチャプターだ。
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「キル・ビル」ファンならば,映画のクライマックスの一つである「青葉屋(House of Blue Leaves)」での壮絶な死闘を覚えているだろう。あの伝説的なシーンの裏側で,実はもう一つの物語が進行していたのだ。
タランティーノ監督によると,今回映像化された「Yuki(ユキ)」というキャラクターは,栗山千明さんが演じた「GOGO夕張」の双子の妹だという。脚本上の設定では,ユキはあの夜,アイルランドを離れて青葉屋へ向かっていたが,わずかなタイミングの差で惨劇には間に合わなかったとされる。
当時,すでに4時間近い長尺となっていた映画本編において,ただでさえ困難を極めた青葉屋の撮影に加え,ユキのシークエンスまで撮ることは,物理的にもスケジュール的にも「クレイジーすぎる」判断だったという。最後まで撮りきることすら危ぶまれた状況下で,監督は泣く泣くこのシーンをカットしたそうだ。
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しかし,監督の中では「観客には見せていないだけで,物語上この出来事は“起きた”こと」として処理されており,20年の時を経て,この幻の物語がフォートナイトの世界で正史として語られることになった。
タランティーノ監督といえば,映画制作において細部まで異常なほどのこだわりを見せることで知られる。今回のイベントでは当時の撮影現場での興味深いエピソードも披露された。
それは,ユマ・サーマン氏演じるザ・ブライドが,ヴァニータ・グリーン(コッパーヘッド)の家を訪れ,呼び鈴を鳴らすシーンでのことだ。テイク4の撮影中,静まり返った現場に,突如として近所を走るアイスクリーム販売車の軽快なメロディが響きわたった。シリアスな復讐劇の撮影において,通常であればNGになりそうなハプニングだが,監督の脳内では,これが脚本上の設定と奇跡的にリンクしたという。
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実は監督の構想(脚本の初期段階)では,復讐に燃えるユキはアイスクリームトラックに乗って潜伏し,ブライドが現れるのをずっと監視しているという設定だったのだ。もちろん映画本編にユキの姿は一切登場しないし,そんなシーンも撮影されていない。しかし,その音が偶然聞こえた瞬間,監督は「あれはユキだ! ユキがそこにいるんだ!」と確信したという。
実際,映画本編で使われたのはこの「テイク4」であり,そのメロディが環境音として残っており,耳を澄ませば聞こえるという。この「偶然聞こえた音」だけが,監督の中ではユキの実在を証明する唯一の手がかりとなっていたのだ。つまり,20年間監督の頭の中にしかなかった「アイスクリームトラックから監視するユキ」という幻のビジュアルが,今回のコラボレーションによって初めて映像として具現化されたことになる。
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主演のザ・ブライド役として,20年振りに同役を演じることになったユマ・サーマン氏は,この新しい撮影手法について,当初こそ頭部に取り付けるカメラなどの機材に戸惑いもあったようだが,すぐにその存在を忘れて没頭できたと振り返る。
サーマン氏にとって,セットがない環境というのは,純粋に演技に集中できる好環境だったそうだ。衣装や部屋の細部に助けられることなく,監督の演出と共演者とのやり取りだけに集中する時間は,彼女にとって「純粋な演技」そのものだったという。
また,撮影現場の空気感についてサーマン氏は,タランティーノ監督が「パルプ・フィクション」のころのように楽しそうで,「キル・ビル」本編撮影時の張り詰めたストレスを感じさせなかったと語った。
Unreal Engineによるリアルタイムレンダリングは,アニメーターだけでなく演者にとっても,ポーズや表情をその場で確認できる有用なツールとなり,クリエイターたちは技術的な制約から解放されて純粋に創作を楽しんでいるようだった。
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監督は,今回のコラボレーションが単に「フォートナイトの流行に乗っかった」ものではないことを強調した。もしEpic Gamesが「キル・ビルを使って何か適当にクールなものを作ってくれ」と言ってきただけなら,それは有機的なプロジェクトにはならなかっただろうと語る。監督自身が長年「日の目を見せたい」と願っていた「失われたチャプター」だからこそ,このプロジェクトは成立したわけだ。
イベントの終盤,タランティーノ監督の口からは,ファンにとって聞き捨てならない構想も飛び出した。それは,タイトルロールである「ビル」の過去についてだ。
「ビルがいかにしてビルになったのか」――エステバン・ヴィハイオ,服部半蔵,パイ・メイといった3人のゴッドファーザーがいかに彼を形成したのかを描く「ビルのオリジンストーリー」のアイデアがあるという。
「まあ,それを実現できるだけ僕が長生きできればの話だけどね」と冗談めかして語った監督だが,今回のフォートナイトでの実験が,新たな創作の呼び水になるかもしれない。なお,ここで紹介された「The Lost Chapter:Yuki’s Revenge」は,12月1日4:00(日本時間)に「フォートナイト」内でプレミアム上映される。
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「チャプター7:Pacific Break」は西海岸の風が吹く,蘇生とサポートの新時代
トークショウ終了後,筆者は一足先に「チャプター7:Pacific Break」の世界を体験できた。今回プレイしたのはソロモードだ。せっかくタランティーノ監督のお話を聞いた直後ということもあり,ユマ・サーマン演じる「ザ・ブライド」のスキンを選択。黄色いトラックスーツに身を包み,今回はバトルバスからのグライダー降下ではなく,波に乗るように島へ突入する「ストームサーフ」で戦場へと降り立った。
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新マップに到着してまず目を奪われたのは,やはり「Battlewood Boulevard」を見下ろす巨大な看板だ。丘の上にそびえるその姿は,まさに映画の都ハリウッドそのもの。看板には足場が組まれており,ここでの高低差を生かした撃ち合いは熱くなりそうだ。
そこから視線を転じると,ラスベガスを思わせるカジノ街「Sandy Strip(サンディ・ストリップ)」のネオンが輝き,海沿いにはサンフランシスコ風の路面電車(トラム)が走る港町が広がっている。全体的に「アメリカ西海岸」の空気感が濃厚な,非常に明るく開放的なマップという印象だ。
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探索中に気になったのは,上空に浮かぶ気球だ。ソロプレイ中,敵の銃火を避けながら見上げたその気球は,なんとなく乗れそうな雰囲気を醸し出していた。今回は残念ながら接近して試す機会を得られなかったが,もし移動手段として使えるなら,上空からの奇襲や優雅な遊覧飛行が楽しめるかもしれない。
また,マップの随所にはユニークなロケーションも点在している。特に「SUS STUDIOS(サス・スタジオ)」と呼ばれる映画スタジオエリアは必見だ。ここでは映画のセットとして,毒々しい紫色の植物が生い茂るバイオームが作られている。過去のチャプターでプレイヤーを苦しめた「異界」が,今回は作り物(セット)として登場するという,メタ的なユーモアには思わずニヤリとさせられた。
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ゲームプレイ面での新要素として見逃せないのが,新たな装備と車両の存在だ。今回は,除細動器のようなデバイスを確認できた。これは「セルフリバイブ装置」と呼ばれるもので,スクワッドでの味方蘇生はもちろん,ソロプレイでもダウン(DBNO)状態から自力で復活できるというアイテムだ。
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これに合わせてダウン中のアクションも進化しており,転がって回避する「ロール&タンブル」や,ダッシュで遮蔽へ逃げ込む「DBNOスプリント」が可能になった。ダウン=即終了ではない,粘り強い戦いが展開されそうだ。
さらに電源マークと「ZZZ2AP」というナンバープレートを付けた特殊なSUVも確認できた。形状から推測するに,これが噂されていた「運転可能なリブートバン」だろう。移動しながらリブートが可能になれば,アンチ(ストーム)移動中の蘇生戦術が劇的に変化するかもしれない。
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このほか,今回は体験できなかったが,公式情報によれば「ボスを倒すとボス自身に変身できる」システムや,建築操作を簡略化する「シンプルビルド」の実装も予定されているとのこと。
「チャプター7:Pacific Break」は,映画のようなロケーションと,攻守の常識を覆す新要素が詰まった,非常に賑やかなシーズンになるだろう。「失われたチャプター」のプレミア公開と合わせ,フォートナイトは熱い冬を迎えそうだ。
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