インタビュー
黒川さん,飯田さん,なんでこんなことやってるんですか?――ベテランゲーム開発者がインディーズゲーム&クラウドファンディングに挑む理由
僕らはある意味で“穢れ”かも
4Gamer:
しかし,そういう意味ですと,昨今のインディーズゲームの隆盛や,あるいはアマチュアが活躍する場の盛り上がり――例えば,ニコニコ動画あたりはどう捉えているんですか?
黒川氏:
そういったところから,新しい何かが生まれてくる時代で,かつ環境が整ったと捉えています。中村さんや納口さんの言うような,昔のモノ作りの時代に戻っているかのようにも見えますが,実はまったく新しいモノ作りの時代の夜明けなんじゃないかと。僕もお金にこそなりませんが,自分をメディアにしていろいろ発信していますしね。
とくにゲームは,テクノロジーの問題でこれまでできなかったことが,Unityとかが出てきたことで可能になりました。昔は一人で,あるいはフリーでゲームを作るって凄く難しかったんだけど,それが比較的簡単にできるようになったわけですよね。より自由に作れて,かつ発表の場があるって流れの中では,そうした「場」は今後もっと大きく盛り上がるんじゃないでしょうか。
飯田氏:
その意味では,クリエイターの気質もなんか変わってきてますね。例えば,以前,とある有名ボーカロイドプロデューサーに会ったんですけれど,その時に「今,初音ミクのCDとかすごい売れてるけど,あなたもCDを出さないんですか」って聞いたら,「なんでCD出す必要があるんですか?」って言われましたからね。「YouTubeとかニコ動で曲を配信すれば,100万人が聞いてくれるのに,それをわざわざ1万枚とか2万枚しか売れないものにする理由が全然分かんない」と。
4Gamer:
ああ。
飯田氏:
僕らプロからすると,これは逆に「うおー」って感じなんですよね。そう来るかと(笑)。
4Gamer:
それってある意味で,アマチュアならではの視点ですからねぇ。
飯田氏:
そうそう。その人は,あくまで匿名でやっていて,音楽で生計を立ててるわけじゃないから,それでなんら問題ないんですね。ただ,それでも下手なプロよりもう全然凄い影響力を持っていて。そうなると,もはやプロとアマチュアの境界線なんかない。プロだから偉いみたいなことも,まったく言えなくなっちゃっているわけじゃないですか。
中村氏:
でも,それはそれで「賢いやり方」ですよね。
飯田氏:
うん,賢い賢い。クリエイティブな生き方って観点で考えれば,楽しくやってる奴,元気な奴が偉いわけですからね。だから,そういう意味じゃ,僕らはむしろ,本当にダメですよね(苦笑)。
黒川氏:
ある意味で“穢れ”てますよね……。
飯田氏:
キタナイ大人です。
一同:
(爆笑)。
飯田氏:
だから,ちゃんとインディーズで頑張ってる人達からすると,「お前らみたいなのはインディーズじゃねぇ」とかも言われるわけですよ。だって穢れてるから。
黒川氏:
そういう側面はあるかもしれないですね。
中村氏:
まぁただ,どんな世界でも,プロフェッショナルであればあるほど,自由が利かなくなるし,オーダーされたものをキチンと作らなければいけないっていう部分はありますよね。僕は,もうずっとゲームの音楽を作る仕事をやってきましたけれど,プロだからこそ割り切りが必要な局面ってのは多いのかなと思います。
飯田氏:
それを分かってるから,成功しているアマチュアはプロに行かないんだよね。だって自由がないのはつまんないから。
中村氏:
でも,僕らはゲームを仕事にしちゃいましたからね。
飯田氏:
うん。僕らはゲームで飯を食っていくしかないから。「ゲームを作りながら,ゲームを作る」しかない(笑)。
4Gamer:
ふうむ。
飯田氏:
ただ,「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄さんとか,「Fate/stay night」の奈須きのこさんみたいに,同人やエロゲーからスタートして商業の世界で大成功している人も出てきているわけじゃないですか。
最近だと,ニコニコ動画なんかもそうだと思うんですが,世の中への表れ方が本当に多種多様になったなとは思いますよね。やっぱりエネルギーのある人達って,いつの時代でも変わらずにいて,その噴出先が,インディーズゲームだったり,エロゲーだったり,あるいはニコニコ動画だったりに変わってるだけなんだと思います。
4Gamer:
そうかもしれません。
飯田氏:
僕もね,これでもゲーム業界に入って,最初の3年くらいは下積みをしてるんですけどね。ドット絵を朝から晩まで描いてて,「つまんない仕事だなー」って思いながら続けていた時代があった。そう考えると,今は昔から比べると,「その気になればすぐに一番面白いところにアクセスできる状況」になってきてると思うし,それは凄く良いことだなと思います。
ゲームに人生を救われて
4Gamer:
ちょっと話が脱線してしまうんですが,そもそも飯田さんらがゲーム業界を志した動機ってなんだったんですか?
飯田氏:
んん。僕の場合は,若い頃――1990年前後――は,大学で油絵を描いていたんですが,当時の講義やセッションは,現代美術だポストモダンだと,禅問答のようなやり取りばかりだったんですよ。普通に絵を描いているヤツなんて一人もいない。その種の人達だけの知的遊戯みたいな状況になってて,僕はそれは少し残念だなって思ってたんですね。
4Gamer:
どの分野の学会でも,内輪なノリなところってありますしね。
飯田氏:
うん。まぁ,それはそれで楽しくはあったんですけど,僕は,自分達の作ったものがもっと人の目に触れて,ちゃんと評価されるようなシーンがどこかにないかなって思った。
4Gamer:
それがゲームだったんですか?
飯田氏:
芸術活動を続けていくフィールドとして考えると,例えば,さっき言った「現代美術」みたいなカテゴリもあるわけだけど,そこには,村上 隆さんとか会田 誠さんみたいな人がいて。彼らは,僕が学生だった時代から「絵がうまい学生がいる」って評判だったんですね。
4Gamer:
へえ。
飯田氏:
芸大に入るような人達ってさ,その町,その学校で一番絵がうまいみたいな人達だから,そこで「噂されるほどのうまさ」って半端ないんですよ。しかも,彼らは「10年に一人くらいの凄い奴」みたいに言われていて。あれから20年経って振り返ってみると,やっぱりその二人は凄かったわけですよ。……まぁ,純粋な絵のうまさでは評価されてないのかもしれないけど(笑)。
4Gamer:
とても興味深いお話です。
そうした一方で,何もない自分というかね。プロ野球選手にも,Jリーガーにもなれない自分は「どうしたらいいんだ」みたいに思うわけです。まぁ,完全に中二病なんだけどさ(苦笑)。
一同:
(笑)。
飯田氏:
そういう思春期の,いろいろ混乱して,不安になって,ノイローゼになりそうな時期に,僕は「ゲーム」というものと出会うんだよね。
中村氏:
うんうん。
飯田氏:
で,そこで「すごい夢を見た」っていうかね。いい思いをしたんですよ。
中村氏:
あぁ,わかりますよ。
飯田氏:
今日は「ゼビウス」で1000万点に近づけたから,ちょっとテンション上がったみたいなね(笑)。つまり,苦悩から開放されて,大げさに言うと,そこで人生が救われたみたいなところがある。これはゲームに限らず,あらゆるエンターテイメントにはそういう良さがあってさ。映画を見るのもそうだよね。
納口氏:
そうですよね!
4Gamer:
それでゲーム業界に?
飯田氏:
そうです。それに僕が学生だった当時は,ちょうどスーパーファミコンが登場して,ゲームの周辺で回転拡大縮小とか,ビジュアルにまつわる機能がクローズアップされていたんです。だから,僕の中には「ゲームがアートのプラットフォームの一つになるだろう」って予測もあった。
4Gamer:
なるほど。
飯田氏:
それにあの時代って,話題の業界人がゲームにコミットすることも多かったですよね。要するに,ゲームってものにコミットすることが“おしゃれ”というか,“イケてる”ってイメージもあったじゃないですか
4Gamer:
ああ,糸井重里さんとか高城 剛さんみたいな?
飯田氏:
そうそう。まあ,なかでも糸井さんはとくに本気だったというか,今でもゲームに携わっていますけど。とにかく,あの時のゲームって,いろんな人から注目を集める場所でもあって。最初はなんか,「今,ゲーム業界にコミットすると,イケてるんじゃないかな」みたいな気もしてた(笑)。
4Gamer:
あはは(笑)
飯田氏:
まあ,実際に業界に入ってみたら,そんな甘いもんじゃなかったんだけどね(笑)。それでも,ゲームを1本作ってみたら,本当に楽しくて辞められなくなっちゃった。
4Gamer:
具体的には,どういうところが楽しかったんですか?
飯田氏:
作る過程もそうですが,世界をもう一つ作り出すのが楽しいんですよね。神になった気分というか,難しいゲームをクリアしたときの何とも言えない満足感に近いというか。これ,体験した人にしか分からない高揚感かもしれませんけど,一度味わうと忘れられないんですよ。だから僕の場合は,その感覚を求めて,今もゲーム作りにこだわっているんですけど。
4Gamer:
皆さんにも,飯田さんのような感覚/経験ってあるんでしょうか?
中村氏:
ありますねぇ。作り終えたときの気持ちよさはすごく大きいです。
僕はもともとミュージシャンになりたかったのですが,現実問題として,それは無理でした。そこで大学を卒業して就職しなくちゃとなったときに,ゲーム業界で「ゲームの音楽の仕事」ってものがあると知ったんです。それまでは,たまにゲームセンターに行ったり,ファミコンで普通に遊んだりするくらいだったんですが,そのタイミングから猛烈にゲームをプレイするようになりましたね。
ゲーム業界に入った動機は,おそらく,僕が一番不純ですね(笑)。
僕は,大学を卒業してから,一度普通の職に就いたんですが,貯めたお金でもう一度絵を勉強しようと大学に入り直したんです。ところが予想以上に学費の工面が大変で,アルバイトをする必要に迫られました。そこで「どうせやるなら絵の勉強ができるほうがいいだろう」といろいろ探したところ,当時,ゲームのグラフィッカーがめちゃくちゃ高待遇だったんですよ。例えば,「出社は1日1秒でOK」みたいな広告があったくらいで。
4Gamer:
なんか,とてもバブリーな雰囲気ですね(笑)。
納口氏:
はい(笑)。で,完全に待遇に釣られて,僕はテクモにバイトとして入ったんですが,ゲーム作りに取られる時間が増えていくうちに,まともに大学に通えなくなってしまった。
4Gamer:
手段と目的が逆転したと。
納口氏:
でも僕自身も,自分の描いた絵がコンバートされ,当時のPlayStation上で3Dモデルとして動くのを見たら,面白くてたまらなくなったんですよ。そこから「ゲームって面白い業界なんだ」と思うようになり,今に至るわけです。
「作る楽しさ」を求めて
4Gamer:
話をまとめると,みなさん,そうした「作る楽しさ」を求めて,新しいチャレンジに踏み切ったってことなんですかね?
飯田氏:
うん。やっぱりね。この手の話って,できる人とできない人がいるんですよ。同じゲーム業界であっても,この話ができない人っていっぱいいて。
黒川氏:
いますね。
飯田氏:
そいつらとは,もう口も聞きたくない(笑)。
一同:
(爆笑)。
黒川氏:
ちょっと飯田さん。それはマズイ(苦笑)。
4Gamer:
飯田さんと黒川さんは,最初はもっと「対極にいる人同士」かと思っていましたが……。今日お話を聞いていて,飯田さんがモンケンに参加した理由がなんか分かった気がしました。
飯田氏:
「モンケン」もそうですけれど,僕は,ピンと来たものにはとにかく乗ってみるんですよ。
4Gamer:
ピンと来る基準は何でしょう。
飯田氏:
基本的に,僕は一度は全部受け入れるんです。もちろん,明らかにくだらないものは別ですけれど,回転寿司で流れてくるものは全部食べてみる。でもプリンはいいや,みたいな感じで(笑)。実際,なんでも経験してみるのはいいことだと思いますよ。
4Gamer:
ふーむ。ところで黒川塾にしろモンケンにしろ,黒川さんの最近の活動って,そもそも誰に向けたものなんですか?
黒川氏:
誰に向けてというよりは,自分が納得できることや,自分がやりたいことを素直にやっている感じですね。結局,これまでやってきたことの振り返りと,これから何ができるかということに集約されていると思います。
中村氏:
強いて言うなら,やっぱりゲーム業界に向けて発信している側面が強いんじゃないですか?
黒川氏:
そうですね。僕が疑問に思っていることは,多少なりとも業界の皆さんも疑問に思っていることでしょうし。そこで僕ができることは,いろんな人を黒川塾に呼んで何か話してもらうことだと考えています。
中村氏:
「モンケン」も,まず「何だコレ?」と思うのは業界の人ですからね。一般の人に届くのは,もう少し時間がかかるでしょう。
4Gamer:
なるほど。それでは,将来的に,日本のゲーム業界も,今の日本映画やアニメのような厳しい状況になるんじゃないかという意見に関してはどうお考えですか? そうなると,受け手として,ワクワクするようなゲームが生まれるのかどうかという不安が生じますよね。
黒川氏:
今,僕のやっていることは,そういった不安に対する自然防衛反応のようなものかもしれません。こうやって仕事もなく,明日も分からない状態では,実力のある人達と一緒にやっていくほかない。それは本能や防衛反応から来る行動じゃないでしょうか。
納口氏:
このプロジェクトでゲーム業界に新しい道を示せたら,日本映画やアニメとは違うところに行けるかもしれませんよね。
4Gamer:
ちなみに,同世代のゲーム業界人で,皆さんと同じような思いを抱いている人は多いと思いますか?
飯田氏:
あんまりいないんじゃないかな……。
中村氏:
でもビット・サミット(※)では,過去に一緒に仕事をした人達もたくさん来ていましたからね。志を同じくする人は少なからずいると思いますよ。
※2013年3月に京都で行われた,インディーズゲームのイベント。日本のインディーゲームを海外に紹介することを目的としたイベントで,多くの関係者が集まった
納口氏:
同年代で危機感を抱いている人は多いと思います。今,ゲーム業界は縮小再生産化して,どんどんパイが小さくなっている感覚がありますから。
中村氏:
スマートフォンのゲームまで含めると,むしろゲームユーザーは増えているはずなんですけどね。
4Gamer:
分かりました。それでは最後に,あらためて「モンケン」のプロジェクトに関する意気込みをお願いできますか。
黒川氏:
まだまだ始まったばかりのプロジェクトですから,次はまた違った形のご案内ができるよう準備しています。このプロジェクトが成功すれば,個人が集まって,どうやってゲームを作っていくのかを,僕らが身をもって示せるでしょう。もし失敗したとしても,何もやらないよりはいいんじゃないか,何か道を残せるんじゃないかと考えています。すでにインディーズとしてそうした活動をしている方もいますが,僕らはさらに一人でも多くの人に向けて,世界に向けて発信することを目指しています。
中村氏:
僕は純粋にモノを作ることが好きなのですが,今はそれだけでは活動できません。自分をいかにマネジメントし,表現していくかを同時に考えないと,誰にも見てもらえません。インディーズを選択したということも含めて,そこにチャレンジしたのがこのプロジェクトです。今後,さらにいろいろな手段を試していきます。
納口氏:
このプロジェクトの目標の一つは,これで生計を立てられるようになることです。海外では,同じようなスタンスで生活しているクリエイターも少なからずいますから,僕自身がその道の日本におけるパイオニアになれたら最高ですね。
飯田氏:
皆,この場では謙虚ですけれど,きっと1年後には,利益の分配をめぐって大喧嘩して裁判沙汰になっていますよ(笑)。
黒川氏:
弁護士を挟まないと,お互いコメントできないような関係に……(笑)。
飯田氏:
その状況を乗り越え,和解して再結成するところまでを見せるというのが,このプロジェクトの目標です。そうした人間ドラマを駆け足で見せていきますので,請うご期待ということで!
4Gamer:
業界に活気をもたらす展開を期待しております。本日はありがとうございました。
変化の激しい業界のなかにあって,どう生き残っていくのか。
これは,どんな分野のクリエイターも抱える,創作活動を続けていくうえでの命題の一つだとは思うが,今回のインタビューでは,ベテランながらも(あるいは,ベテランだからこそ)そんな命題に正面から向き合う,彼らの姿勢がうかがえたのはとても印象的であった。
彼らと同じ年齢になったとき,果たして自分も同じように仕事のあり方にこだわりを持てるだろうか。新しいことにチャレンジする気概を持てるだろうか?――そんなことを考えさせられた取材であったようにも思う。
飯田氏のような著名なクリエイターが,商業ゲームではなくインディーズという舞台を選択したこと,そして資金集めの手法としてクラウドファンディングという手法を取り入れたこと――この二つには大きな意味がある。これまで培われて来た商業的なゲーム制作の流れとは別の,また違うあり方を模索するという意味で,今後の日本のゲーム業界に足跡を残すかもしれないからだ。
ただ一方では,だからこそ,もっと「商業では絶対にあり得ないような企画」でもよかったのではないか? とも思う。とくに「ディシプリン*帝国の誕生」のようなゲームを商業ベースで生み出してきた飯田氏,納口氏らならば,もっと誰も見たこともないような「ユニークなゲーム」を生み出せるのではないか。ファンが彼らに――,あるいはクラウドファンディングという手法で期待するのは,そういったことのような気がするのだ。
正直な話をすれば,取材前の時点では,この「モンケン」プロジェクトや,黒川氏が主催する「黒川塾」は,何を目的としているのかがいまいち分からなくて,いぶかしく思っていた。とくに黒川氏のようなビジネスマンが取り組む試みとしては,どこかに“おかしな空気感”があったからだ。
しかし,いろいろな話を聞くにつれ,黒川氏がロジック(論理)よりパッション(情熱)で動いていることが分かり,「あれ,こんな人だったんだ」と感じさせられたあたりに,飯田氏らが賛同を示した理由もあるのではないかと思える。
モンケンプロジェクトでは「人間ドラマを見せる」という飯田氏。このプロジェクトが帰結する先に何があるのか。実に興味深い。