
連載
マーベラス・高木氏が明かす「閃乱カグラ」の裏側――鉄拳・原田Pの不定期連載「原田が斬る!」。第4回は爆乳プロデューサーがその半生と,これからの10年を語る
アクションからシューターへ。快感を追い求め続ける「閃乱カグラ」
原田氏:
「閃乱カグラ」が生まれた経緯は,これまでの話で概ね分かったような気がするんですけど,社内的にはどうだったんですか。取締役とかから止められませんでした?
高木氏:
いや,むしろ応援されてましたよ。編成会議ってのがあって,そこで偉い人達が話し合ったみたいなんですけど,「いいじゃんいいじゃん,面白いじゃん」みたいな感じだったらしくて。
原田氏:
おおらかな社風なんですね。収益が守らればOKってことなのかな?
高木氏:
そのあたりは,いちおう気を付けながらやってます。真面目な話をすると,コストはメチャクチャ抑えてましたし,その前に作った「一騎当千」シリーズが,幸運にも3本ともしっかり黒字だった。だから,同じような方向性のこれなら大損はしないだろうってことで,アホな企画も通ったのかなって思います。
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一騎当千 XROSS IMPACT |
原田氏:
僕は第1作の3DS版のトレイラーを見て,ギャルゲーなのかなって思ったんですよ。でも実はアクションで,しかもかなり軽快に遊べるカジュアルアクションだった。「閃乱カグラ」シリーズのいいところはここですよね。格闘ゲームもそうだけど,アクションゲームって下手な人がプレイしてると,つまらなそうに見えるですよ。
4Gamer:
反対に,うまい人がプレイしてると,すごく面白そうに見える。
原田氏:
そうそう。「閃乱カグラ」がすごいのは,誰がプレイしても面白そうに見える――つまり,誰がやってもうまく見える。ちょっと俺にもやらせてって言いたくなる。それがすごいと思ったんです。
高木氏:
根っことして,誰にでも分かりやすく,悩まないゲームにしようというのは,すごく意識してますね。
原田氏:
ただ,最初はベルトスクロールアクションで,それが3Dアクションになったと思ったら,次はリズムゲーム。で,今度はシューターだって言うじゃないですか。なんでこんなにジャンルを変えていくのか,ちょっと不思議ではあります。
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高木氏:
それはやっぱり,僕自身がいろいろなことをやりたいからですね。プロデューサーと言いつつ,結局僕は自分をプランナーだと思っているので,新しい芽の根っこを作りたい。アクションの根っこは作ったし,リズムゲームの流れも作った。あとは後ろに続く人が,それを使って広げていってくれればいい。僕は新しいのをどんどんやっていくからって。
原田氏:
ああ,やっぱり「閃乱カグラ」って,ゲーム発のオリジナル作品だけど,それ自体がもうIPになってると考えたほうがいいんですね。ファンも「閃乱カグラ」だからアクションにしろとか,思ってないってことですか。
高木氏:
「閃乱カグラ」のコアの部分って,僕はジャンルではないと思ってるんですよ。例えば……アーケードだと,いかに短時間でゲームオーバーにさせつつ満足してもらうか,みたいな考え方があるじゃないですか。ゲームデザイン論でも緊張と緩和とか言いますよね。だけどあれ,僕は要らないと思ってるんです。とくにコンシューマゲームだったら,快感に次ぐ快感でいい。常に気持ちよくて,イキ続けるみたいな(笑)。それが「閃乱カグラ」なんです。
原田氏:
常にクライマックスなのが「閃乱カグラ」らしさなんだ。
高木氏:
「閃乱カグラ」って,けっこう適当に操作してても,死にそうで死なないんですよ。コンシューマゲーム――というか買い切り型のコンテンツであるなら,それが正しいんじゃないかって,僕は思っているんです。
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原田氏:
なるほど。じゃあもう一つ,「閃乱カグラ」で僕が不思議に思ったことなんですけど,アクションの部分は今言ったみたいにカジュアルで軽快なんだけど,ストーリーを追っかけていくと,命の儚さであるとか“忍びの掟”みたいな,ちょっと重い話がちょくちょく出てくる。かと思ったら,次の瞬間にはおっぱいとかお尻がアップでドーンって。あれはどこまでマジメにやってるんですか?
高木氏:
いや,すごく真面目にやってますよ。
原田氏:
じゃあ,忍者にすごいこだわりがあるとか?
高木氏:
忍者……というか,キャラクターが単純なポルノコンテンツにならないように,キャラクターをきちんと立たせたいってことなんです。セクシャルな部分っていうのはどうしても強調されがちですけど,そういうものとのギャップを作ってあげることで,キャラクターがより魅力的になるんじゃないかと。
4Gamer:
そんな狙いがあったとは……。
原田氏:
なるほどねぇ。僕はてっきり,日本人のDNA的に何かあるんじゃないかって疑ってたんですよ。だって「DEAD OR ALIVE」もそうじゃないですか。それで最終的には水着になって,皆ビーチに行き着くっていう(笑)。
4Gamer:
あっ,言われてみれば(苦笑)。
原田氏:
でしょ? あれもくノ一でストイックなアクションやってるわけじゃないですか。はっきり言って,ほかの国だとあり得ないですよね。こういうことやるのは絶対日本人だけですよ。
高木氏:
「DEAD OR ALIVE」を意識したワケじゃないですけど,DNA的な何かはあると思います(笑)。週刊少年ジャンプでも,昔からちょっとエッチな忍者ものとか,ちょいちょいあるじゃないですか。
4Gamer:
ああ,「変幻戦忍アスカ」とか!
高木氏:
そうそう,あの辺は僕も大好きなんで。あと,ちょっと変な和風テイストってのも,僕は昔から好きなんです。餓狼伝説のギースとかね。
原田氏:
でも,最後はやっぱりビーチなんですよね?
高木氏:
僕は「DEAD OR ALIVE」の大ファンでもありますから。意識はしてないですけど,影響は受けたのかも(笑)。
原田氏:
そうかそうか。ちなみに,「鉄拳」にも飛鳥ってキャラクターがいるんですけど,あれは奈良の僕の実家近くにあった飛鳥川から取った名前なんです。「閃乱カグラ」の飛鳥はどうなんですか?
高木氏:
僕もそうですよ。飛鳥とか,斑鳩とか。古い地名ですよね。
原田氏:
日本風で,妙に硬派な名前だなって思ってたんですよ。そういうニュアンスは,欧米の人にはなかなか理解してもらえないでしょうね。ただエロいだけって思われちゃう。
高木氏:
1作目のときは,海外はまったく気にしていませんでした。国内で収支が整うものを作ろうっていう意識しかなかった。それが結果的にうまくいって,海外でも少しづつ広がっていった印象です。それに,こういうちょっと笑えるお色気ものって,僕はある意味,日本の伝統芸能なんじゃないかって気持ちもちょっとあって。それが海外でも広がっていくのは,純粋に嬉しいですね。
原田氏:
アジアまでは通じるんだけど,欧米に行ったときにルールが変わるんですよね。ただ「閃乱カグラ」の場合は,それがかえって良かったんでしょう。変にリミッターを掛けないではじけたから,ここまで大きく広がったわけで。
4Gamer:
ちなみにこの最新作「閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH」って,どんなゲームなんでしょうか。ヘッドショットとかあるんですか?
※インタビュー収録時は,まだ同作は発売前だった。
![]() 「閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH」 |
高木氏:
ヘッドショットならぬ,パイショットとかヒップショットは考えたんですけどね。でもプレイ中にそんなの狙えないですし,認識できないのであきらめました。いずれやりたいですけど。
原田氏:
3Dアクションの次にリズムゲームときて,今回三人称視点のシューターを選んだことには,何か理由があるんですか?
高木氏:
もともとシューターは好きでよく遊びますし,ずっとやりたいとは思ってたんです。それにPS4とかXbox Oneが出てグラフィックスがさらに向上したら,とくに海外では戦争ものとか,残酷なものが増えていくに違いない。そんな中に,一つくらい気の抜けたシューターがあってもいいんじゃないか,というのが発端ですね。
原田氏:
「スプラトゥーン」と同じ路線の,でもまたちょっと違うアプローチみたいな感じですね。
4Gamer:
ちなみに,「スプラトゥーン」は頭の中にありました?
高木氏:
なかったですね。あれが大ヒットしたときには,すでに制作に入っていましたし。まあ,“スケベトゥーン”とか言われてますけど,中身は全然違うので(笑)。
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原田氏:
ほんとゲーマーって,そういうネーミングセンスは優れてますよね。なんだろう,その才能の無駄遣いはっていう(笑)。
4Gamer:
ウリとしては,これはやっぱりマルチプレイなんですか?
高木氏:
今まで以上に華やかで,賑やかなゲームになっているので,ワイワイとマルチプレイを楽しんでいただければと。もちろん,シングルのストーリーモードもちゃんとあるんですけど。
原田氏:
ポスターにも10人対戦ってありますけど,ここに書いてあるってことは,やっぱりマルチプレイがウリってことですよね。どんなルールなんですか?
高木氏:
最大は5対5ですけど,少ない場合は3対3や1対1でも遊べます。モードは普通の「チームバトル」と,「モミネーション」っていう占領戦モードですね。これは発売後にも,いろいろ増やしていくつもりです(関連記事)。
4Gamer:
マルチプレイとなると,けっこうハードルの高さを感じる人もいるんじゃないかと思うんですが。
高木氏:
誰がいつ,どのボタンを押しても気持ちよく遊べるってくらい分かりやすく作っているので,そこは安心してほしいです。チーム戦なので,そこまでシビアでもないですし。
4Gamer:
気軽に楽しんで欲しいってことですね。
高木氏:
ええ。シリーズ第1作を作ったときに,「俺らギャルゲーファンに,アクションをさせようっていうのか」「アドベンチャーゲームのフラグ管理しかできないんだけど」って,すごく言われたんですよ。このポリシーはそれ以来,ずっと心がけていることなんです。
原田氏:
そこは一貫したテーマですよね。僕もこのポスターを最初に見たとき,「この絵すごくいい,このゲーム欲しい」って思いましたよ。だけど,よくよく考えたらその時はゲームのジャンルなんて見てなかった。でも,それでいいってことなんですね。
高木氏:
「女の子かわいい」っていう,それだけの動機で遊べるゲームなんだってところは,常に意識しています。とにかくここは,絶対外しちゃいけないポイントなんだと。そもそも気軽に遊べなかったら,いくらおっぱいがどうこう言っても,楽しめないですから。
原田氏:
それはすごくいいテーマですよね。「シューターとはこうあるべき!」みたいなゲームとは違う緩さというか。……んで今気付きましたけど,これジャンルの「爆乳ウォーターバトル」って,こんなの言い出したらなんでもアリじゃないですか! そんなジャンルはないですよ(笑)。
高木氏:
いつもは爆乳ハイパーバトルって言ってるので,まあ何となく(笑)。ジャンルについても,素直にシューターとか書くんじゃなく,ちょっと変なことをしたいっていつも思ってます。
4Gamer:
まあ,ジャンル名についてはバンダイナムコもどっこいですけれどね(苦笑)。これCEROは……Cですか?
原田氏:
いや,DだよD! こんなのCで収まるわけないじゃん。俺はDでも疑問なのに(笑)だいたい世界中を見渡しても,モード名に「更衣室」があるのって,このシリーズだけですからね。ここは明確にクレイジーなポイントですよ。これ,いわゆるカスタマイズモードなんですよね? 欧米だったらこのモード名だけでアウトです(笑)。
高木氏:
元々は,ただ衣装を変更するだけのモードだったんですけど,今はジオラマモードで撮影もできちゃいます。あと,発売後のアップデートで,VRにも対応予定ですので,お楽しみに。
4Gamer:
えっ,VR対応って更衣室のことなんですか?
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高木氏:
そうです。ファンだって,まさかシューターをVRで遊びたいとは思わないでしょうし。あとCEROのDって意外と許容範囲が広いんですよ。ポイントは恥ずかしがらないことですね。ちょっとでも恥ずかしそうにしちゃうと,途端に卑猥な感じになっちゃいますから。こうカラッと「おっぱい!」みたいに,楽しく言い切る!
原田氏:
カラっと(笑)。でもそれは,高木さんを見ていても思いますね。ステージとかに出てきても,ジメジメした感じがないですし。プロデューサーの中でも珍しく,実際とパブリックなイメージが一致している方だなって。あと高木さんがライバルだと思っているタイトルって,あるんですか? 「あっ,こいつマネしやがった!」みたいなのとか。
高木氏:
ないですね。似たようなタイトルはいっぱい出てきてますけど。僕はそれを見て,「そうじゃないんだよな〜」って,いつも思ってます。それだと2万本で止まっちゃうのに,なんで変えないんだろうって。
原田氏:
勘所はちゃんと掴んでいると。ちゃんと同じ道を辿って,追っかけてきてる相手はいないんですね。「DEAD OR ALIVE」はどうなんですか? ライバルというか,良きパートナーみたいな感じでなんすかね。
高木氏:
ええ。僕は右乳と左乳だって言ってるんですけど(笑)。あと「DEAD OR ALIVE」からは,マリーやほのか,あやねも参戦しますので,こちらもご期待ください(関連記事)。
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海外で戦う「閃乱カグラ」
原田氏:
さっき海外の話が出たので,そこをもうちょっと広げたいんですけど,海外の反応っていかがですか。今はSteam版もありますし,海外のプレイヤーも手に取りやすいわけですよね。僕はよく海外にも行くので,コアなファンが付いてることは知ってるんですが,そうじゃない――要は叩きにくる人っているわけでしょう?
高木氏:
来ます来ます。とくに2年くらい前が一番キツかったですね。最初はそうでもなかったんですけど,シリーズが続いて目立つようになった頃,E3とかに行くと……。
原田氏:
破廉恥プロデューサー,みたいなことを言われたりとか?
高木氏:
「お前は女性をどう思ってるんだ」みたいな,ちょっとキツイ感じのインタビューを受けたりとか。差別というか,女性蔑視じゃないかって反応です。もちろん,そんなつもりは一切ないんですけど。
原田氏:
価値観とか見え方とか,アプローチも全部,国や地域で全然違いますからね。日本では許容されてることが,ある国に行くと信じられないくらい許されないとか,普通にあるので。逆もまたしかりですから,そこはもうしょうがないんですけど。
高木氏:
ええ。でも,向こうのスタッフとかコミュニティが,いろんなところでディスカッションしてくれて,だんだん収まってきましたね。
4Gamer:
ちなみにSteam版って,何がしかの規制は入ってるんですか?
高木氏:
ないです。規制されるくらいだったら出さないって,常に言ってますから。
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原田氏:
強いなあ。俺もそれ言ってみたい(笑)。
4Gamer:
じゃあ,最新作である「閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH」も,いずれはSteamでも販売される?
高木氏:
Steam版も追って出すつもりでいます。まあ,やらない手はないですからね。
原田氏:
僕はPCゲーマーなんで,もちろんSteam版が出たらそっちを買うんだけど。僕,以前とあるゲームを買いにわざわざ横浜までいったんですが,店員さんに「原田さんじゃないですか」って話しかけられて。……そうなったら,レジに持っていくのはちょっと硬派なタイトルに変更せざるを得ないでしょ?
4Gamer:
同意を求められても困りますけど,気持ちは分かります(笑)。そういう意味で,PC版やダウンロード版に期待してる人は少なくないんじゃないかってことですね。
高木氏:
いや,分かりますよ(笑)。でも僕は,そうやってパッケージを手に入れるか考えるところから,すでにゲームは始まってると思うんですよ。「ここなら友達に遭遇しないはず」とか,「この本の下に挟んで,おばあさんの店員に出したら買えるんじゃないか」とか。だから個人的には,そこも含めてぜひ楽しんでいただきたい。
原田氏:
中学生みたいですね。確かにそう考えると,ダウンロード版は安易というか,チート感があります。
高木氏:
パッケージとかも,それを考えてカッコ良くしてあるんで。女の子のイラストではあるけど,いかにも美少女ゲームっていう感じではないでしょう?
原田氏:
ああ,確かに裏を見ない限りは。でも,店員さんは知ってますからね?
高木氏:
そういうときは,「いやー,俺今回はちょっと変わったTPSやりたいんだけど」とか,「やっぱアクションいいなって思ってたんだよね」みたいな感じで切り抜けていただきたい! 言い訳は常に用意できるよう,心がけていますので。
原田氏:
じゃあ僕はあえてレジに友達と並びつつ,「マジで対戦楽しみだね!」って店員さんに聞こえるように言いながら買うことにします(笑)。
おっぱい物理の理想と現実
原田氏:
で,ここからがある意味,本題というか,核心だと思うんだけど「閃乱カグラ」における,いわゆる胸の表現って,あれはデフォルメ……されてますよね。もしくは,高木さんの目には常にああ見えてるとか?
高木氏:
デフォルメというか,こうあってほしい。おっぱいってこう揺れてほしいっていう願望ですよね。僕は“理想現実”って言ってるんですけど。
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原田氏:
そうそう,あれはこう揺れてほしいって動きなんですよ。そこはスタッフ全員で共有されているわけですか。意外と個人の主義主張が出やすい部分だと思えるんですが。
高木氏:
共有できてる……と,思います,たぶん。あまりリアルにやっちゃうと,なんかちょっと残念なことになるときもありますから。
原田氏:
僕が遊んでみて,ちょっと疑問に感じたのは……この娘達,忍なんですよね。だけど,ただ立ってるだけだったり会話している時でも,やたらと大振りに,いろんなところが動くじゃないですか。それでつい,「お前忍なんだから,もうちょっと忍ぼうよ」って思っちゃうわけなんだけど,あれはわざとですよね。
高木氏:
そうですね。そこはじっとされていても,まあなんですからね。
原田氏:
ここら辺の話って,「やわらかエンジン」のチームと話したことあります? 「DEAD OR ALIVE」の。
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ありますあります。やわらかエンジンって,なんか名前がちょっとズルいですよね(笑)。
原田氏:
そうそう,名前がすごくズルいんだよ! あれ発表された当時,コーエーテクモゲームスの早矢仕くん(「Team NINJA」チームリーダー 早矢仕洋介氏)を問い詰めたんだよね。「早矢仕くん! あれエンジンじゃなくて,普通に書いた物理シミュレーションプログラムの一部分でしょ?」って(笑)。
4Gamer:
あ,やっぱりそうなんですか(笑)。
原田氏:
そうだよ! それをさも,汎用的なもののように言いやがって(笑)。「じゃあ,そのエンジン,ウチにライセンスしてくれたら導入できるようになってんの? 絶対違うよね?」って聞いたら「はい,使えるわけではないです」って。それ,エンジンじゃないじゃん! チクショー!
高木氏:
うまいことやられちゃいましたね。僕はそれに対抗して,「閃乱カグラ ESTIVAL VERSUS」(PC / PS4 / PS vita)で,「ぷるぷるフィニッシュ」っていうのを作ったんですけど(笑)。
原田氏:
いや,それはもう全然ベクトルが違うじゃないですか。単に名前で対抗しちゃっただけですよね(笑)。
高木氏:
そうです。だってエンジンて,ズルいでしょ(笑)。
原田氏:
あれはズルいですよ。というか,あっちは100%ネタで言ってるつもりだろうし,マーケティング的には大成功だろうけど,一般のファンの人達は,わりと本気でエンジンだと思ってる節があるじゃないですか。それは違うんだってことを,声を大にして言いたい! ほっとくと,あいつらそのうち「やわらかプラグイン」とか「やわらかAPI」とか次々と言いだしかねないですから!
高木氏:
僕もよく聞かれて困ってるんですよ。いつやわらかエンジンを導入するのか,って。
原田氏:
でしょ? 僕もたまに聞かれますからね。だから導入とかじゃないんですって。普通に自分らで物理シミュレーションプログラム書いてますよって話で。でもまあなんだ,Team NINJAのことだから,きっとそのパラメータの部分に,秘伝のタレみたいなレシピがあるのかもしれないけどさあ。しかしズルい……っていうか巧いよなあ,早矢仕くんは!
4Gamer:
早矢仕さんへメッセージはそのくらいで,今は閃乱カグラの話に戻りましょう(笑)。
原田氏:
あ,いかんいかん(笑)。興奮してちょっと脱線しちゃいましたけども,つまり高木さんとしては,今のあの揺れが理想の完成形なんですか?
高木氏:
いやいや,まだまだですよ。やりたいこと,いっぱいありますから。
4Gamer:
現状では,なにが足かせになってるんでしょう。マシンパワーとか?
高木氏:
マシンパワーもそうですし,「閃乱カグラ」ってキャラが多いんで,どうしても幾つかのパターンで対処せざるをえない部分があるんです。本来は個々の重さと硬さ,乳房のサイズやそれが衣服とどう干渉しあうかで,全然違ったものになるはずなんだけど。
原田氏:
それはもう,物理演算の世界ですね。
4Gamer:
今は物理演算は使ってないわけですよね。
高木氏:
使っている部分もありますが,目立つ部分は基本手ごねです。じゃないと綺麗に見えないので。
原田氏:
見た感じだと,普通の重力だけを設定して,あとは手付けなんじゃないかな。
高木氏:
オートだと,現状はまだ厳しいですね。叢(むらくも)ってキャラクターがいるんですけど,彼女は普通の服じゃなく,甲冑を着ているんです。で,胸の下半分を甲冑で押さえているので,本当は北半球だけ,こう……表面張力みたいに揺れなきゃおかしい。今はまだできないんですけど,いつかはやりたいって思ってます。だからそういう意味で,まだまだこれからです。
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原田氏:
……この前,Ubisoftで「フォーオナー」(PC / PS4 / Xbox One)とか「ゴーストリコン」(PC / PS4 / Xbox One)を作ってるチームのリーダーと対談したんですけど。そこで話した内容と,今の話題のギャップがすごくてヤバいですね(笑)。ハードの処理能力をどこに注ぎ込むかってところまでは同じなのに,作品ごとにパワーを向けるベクトルがここまで違うっていう。ゲーム業界って,ホント広いですよ。
4Gamer:
ちなみに,鉄拳チームは“揺れ”禁止なんですよね。
原田氏:
ずっと禁止令を出してたんですよ。これ,話すと長くなるんだけど,鉄拳シリーズって,いろんなコンテンツからいいところを学んで吸収しつつ,新しい発見を重ねて作ってきたシリーズなんです。だからキャラクターなんかも,その時々のアニメや漫画,映画の影響を多分に受けている部分がある。
4Gamer:
とくに初期のキャラクターは,その傾向が強いですね。
原田氏:
だけど,初期の「ソウルキャリバー」はそうじゃなかった。あれは鉄拳の価値観を否定しようという側面が,少なからずあったから。鉄拳でやれることは鉄拳でやればいい。俺達は鉄拳じゃないものをやるんだって。
4Gamer:
確かにソウルキャリバーは,当時から結構“揺れていた”気がします。
原田氏:
そう,“鉄拳にないもの”だから,こだわってたんだよね。互いにライバルとして反発しあうプロジェクトが社内にあって,それと同時に,某社のIさんからも睨まれてたから,社内と社外の二方面から攻撃を受けててね(笑)。それで意地になり,「おお分かった,そこまで言うならじゃあ俺はお前らのことは絶対リスペクトしないし,絶対影響もされないから」ってなって――まぁそれが全てじゃないにせよ,僕らもポリシーを持って硬派にやっていこうということになり,それが禁止令になったんです。
4Gamer:
ははあ,そういう経緯が……。
原田氏:
ただね,グラフィックス技術と演算能力が向上し,モデリングやスキニングが進化してくると,逆に不自然なところが出てくる。“揺れ”がどうとかではなく,ただ必然として。例えば,本物の女性格闘家とかに構えをとってもらうと,格闘技によっては腋をしっかり締めるから,腕が体に干渉するわけだ。そうすると,胸の形は変わるんです。これを考慮しないとどうなるかというと,腕のポリゴンが体に埋まっちゃう。
4Gamer:
あ,なるほど。
原田氏:
それは困るので,モデルの二の腕とかわき腹の部分にヒット判定をつけはじめるんだけど,そうするとあらゆるところにボーンが入ってパラメータが付くようになる。そして,「やった,腋を閉めた構えで腰からぐるっと回しても,二の腕が体に埋まらず自然に動きます」ってなったところで,今度はキャラクターが着地したときに感じちゃうんですよ。「うーん,慣性や重力どこいった? モデルがカッチカチじゃん」って。
高木氏:
逆に違和感がありますよね。
原田氏:
それでも原田さんは頑なに「揺らすな」という。だけど自然な物理演算を導入したいプログラマーと,人間らしいモデリングを実現したいデザイナーは揺らしたい。で,シリーズのあるタイミングでプログラマーとデザイナーが結託して,終ROMの最後の最後で,こっそり“揺れ”を入れちゃった。なんか,俺の知らないうちにフラグ一つでON/OFFできるように仕込んでたみたいで。
4Gamer:
完全に確信犯ですね(笑)。
原田氏:
で,承認も全部通ったあとのROMで遊んでみたら,「あれっ!?」みたいな(笑)。一度世に出しちゃったものを削るわけにはいかなくて,しかも,そこからシリーズを追うごとに,自然な物理演算にも磨きがかかってしまった。それで僕も「もういいや」ってなっちゃった。これが真相なんだよね。
爆乳プロデューサーの次の10年
4Gamer:
そろそろお時間なんですが,原田さん,これだけは聞いておきたいこととか,あったりしますか?
原田氏:
あっ,そうだ。娘さんって今,何か月なんですか?
高木氏:
今,3か月ですね。
原田氏:
3か月だとまだだと思いますけど,いずれ物心がつく歳になったら,なんでもネットで検索するようになりますよね。そうしたら,いつか「お父さんって爆乳プロデューサーなの?」って質問される日が来ると思うんですよ。
高木氏:
まあ,あと十数年すれば,「なんかうちの親父,爆乳プロデューサーとか言っちゃってんだけど,キモくね?」とかって,言うようになるでしょうね(笑)。
原田氏:
いや,それは育て方次第だと思いますけど(笑)。
高木氏:
言い方はともかくとして,いずれそういう時が来るだろうことは,もう覚悟しています。だから,作風はちょっと変えようかな,なんて考えることもある。まあ,意識して変えようとしなくても,毎年変わってるんですけどね。
原田氏:
そうですよね。「閃乱カグラ」シリーズにしても,やってることは毎回違うわけで。
高木氏:
昔作った「勇者30」も,当時は自分にとってあれが自然だったんですけど,今遊んでみたら,ちょっとゲームスピードが速すぎるなって感じるんです。自分の中でもいろいろなものが変化していますし,20代,30代でしかできなかったことがあれば,これからの40代だからこそ,できることもある。その変化を楽しみたいと思っています。
……あと,娘対策に関して言えば,早いとこ「プリキュア」みたいなものを作っておこうって思いますね(笑)。
原田氏:
やっぱそういうの,思っちゃいますよね。「お父さんがこれ作ったんだよ」って言えるものを作りたい。
高木氏:
そうですね。「閃乱カグラ」に僕は誇りを持っていますし,娘にもいずれ理解してもらえるとは思うんですけど。でも,「高木さんのお父さん,ゲーム作ってるみたいだけど,何作ってるの?」って聞かれたときに,誤解なく自然に答えられるようなものが,1本ぐらいはあってもいいんじゃないかって。
原田氏:
理解してもらうには,たぶんあと25年くらい必要だと思いますけど(笑)。
高木氏:
ええ,まだまだ先のことですし,大変な誤解を受ける時期もあると思う。
原田氏:
でもそう考えると,やっぱりゲームクリエイターにとって,家族の影響は少なくないですよね。新しい価値観をもたらしてくれるというか。
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高木氏:
そう思います。アンパンマンとかの子供向け番組を見る機会も増えましたし。
原田氏:
僕は20代の頃に,親に暴力的なゲームを作ってるってどうしても言えなかったんですよ。厳しい人だったし,そもそもゲーム業界に入ることには猛反対でしたから。親に「最近何作ってるんだ」と聞かれても,「太鼓の達人」だって言い張ってました(笑)。
高木氏:
それ,すぐにバレません?(笑)。
原田氏:
10年後くらいにバレました。今はネットで調べたら出てきちゃうんで。
高木氏:
僕も,最初はやっぱり,自分の母親とかに言いにくい部分がありました。ちょっと恥ずかしいなぁとか,思った時期もありましたね。
原田氏:
いずれ絶対バレますからね。息子の名前で検索したら,真っ先に出てくるわけで。
高木氏:
ええ。今はもう,息子は頑張ってるって思ってくれてるみたいです。地元岡山のゲームショップとかに,ポスターも貼られるようになったりして。それを指さして,「これ俺のだよ」って言ってみたりね(苦笑)。
原田氏:
やっぱり,そういう時は誇らしい気持ちになりますね。いや,僕はこれまでのお話で,クリエイターとしての高木さんのことが,ちょっと分かってきた気がします。「閃乱カグラ」という“箱”はあっても,中身はいろいろ違うものを作ってたりとか,ゲームの奥行きというよりは,手触りを重視してるところとか。そう考えると,いつでも低年齢層向けのゲームは作れる気がしますね。というか,むしろ向いてるんじゃないかな。
高木氏:
僕も20代の頃は,奥の奥を作り込んだようなものを作ってたんですよ。最初に作ったゲームなんかはまさにそんな感じで,でも結局理解されなかったですね。やり込んだら面白いんだけど,そもそもその手前がやり込めるほど面白くなかった。
原田氏:
入口が広くて奥が深いのが一番なのだけど。でも難しいんですよね。
高木氏:
あのときは,2年半くらいかけたゲームが売れないし,評判だってよろしくない。ほんと,どうしようかって悩んでたんです。でも,その後マーベラスに入って東京ゲームショウで試遊台のアテンドをしていて気付いたんです。最初の手触りで伝わらないと,お客さんは離れてっちゃうんだって。もう,ものの10秒も経たないうちに。
原田氏:
東京ゲームショウのような場所だと,説明しても「分かんないからもういいです」ってなっちゃうんだよね。
高木氏:
ええ。それが僕はすごく寂しくて。とにかく一瞬で理解できて,さらに面白そうに見える何か。グラフィックスなのかテキストなのかはともかく,とにかくそれを作らないと,入口にすら立ってもらえない。分かりやすさとか,間口の広さを追い求めるようになったのは,それからです。
原田氏:
本当は,試遊すらせずPVだけで内容が伝わって,買ってもらえるのが一番いいんだけど。僕はどうしても,全体をシンプルにまとめるみたいな方向には思考がいかなくて,アウトプットのすごく尖った部分にこだわってしまう。そういうタチなので,高木さんとは違うタイプですね。
4Gamer:
原田さんは細部を作ってから,全体に広げていくということですか?
原田氏:
細部というか,飛び抜けて気持ちいい瞬間にまずこだわる感じかな。全体はその後から決めていくような。
高木氏:
それは確かに違いますね。僕は全体から入るので。
原田氏:
アーケードゲームの開発ツールだと,どうしてもコアな部分を固めたくなるんですよね。全体から入れないタイプなので,だから正直,それができちゃう高木さんを羨ましく思いますよ。
4Gamer:
残念ながら,今日はここまでのようです。最後に高木さんから,「閃乱カグラ」ファンに向けて何かメッセージをいただけますか。
高木氏:
そうですね。「閃乱カグラ」チームとしては新しいチャレンジのタイトルではありますが,これまでどおり,ちょっと変わってて面白いタイトルになったと思います。シューターだからといって恐れずに,ぜひ触っていただけたら嬉しいですね。
4Gamer:
はい。本日はありがとうございました。
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対談企画「原田が斬る!」の第4回目は,いかがだったろうか。今回のゲストである高木氏は,イベントステージや動画配信などに出演した際のイメージから,飄々とした人物像を思い描いていた。しかしながら,今回の対談を通して感じたのは,そうした先入観とはまた違った,ゲームに対する深い愛情と,ゲーム開発への真摯な姿だったように思う。
折しも先日,Nintendo Switch向けの最新作となる「シノビリフレ -閃乱カグラ- (仮称)」が発表され,今後の展開にも期待が高まる同シリーズ。いかにもギャルゲー然とした外見から敬遠していたという人も,この機会に一度手に取ってみてはいかがだろうか。また氏の発想から今後どんな新作が生まれてくるのか,閃乱カグラシリーズのみならず,今後の活躍から目が離せないクリエイターの一人である。
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「閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH」公式サイト
「鉄拳7」公式サイト
サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム(基本ゲームパック)公式サイト
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閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH
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