開発背景――3つのエンジンとチーム拡大
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Stokalski氏はまず,「Frostpunk 2」の開発がいかに複雑な過程だったかを説明した。
同作は「3つのエンジンを経たゲーム」として開発されたそうだ。当初,前作「Frostpunk」で使用された自社開発の「Liquid Engine」の拡張版でスタートしたが,複数の社内プロジェクトを同時にサポートするには限界があることが判明。その後,開発チームは最初のデモ版をUnityで制作し,最終的には会社全体の決断としてUnreal Engine 4への移行を選択したという。
チーム規模についても大きな変化があった。「Frostpunk」がコア開発者約30名とツール開発者10数名によって制作されたのに対し,「Frostpunk 2」ではピーク時に85名の開発者が関わった。Stokalski氏が「デザイン領域」の責任者として監督する範囲も拡大し,ゲームプレイデザイナー,ナラティブデザイナー,システムデザイナーなど,より専門的な役割分担が必要になった。
氏は「これは自然な流れです。コミュニケーションを管理し,責任を分担し,より多くの課題に取り組む必要があるからです」と説明しつつも,専門化によって全体的な視点が失われるリスクも指摘した。「魔法は領域間の扱いにくい場所で起こるのです」と氏は表現した。
「This War of Mine」から続く開発哲学
Stokalski氏は,11 bit studiosの開発哲学が「This War of Mine」から続いていることを強調した。「ゲーム独自の言語を使って,心を動かし,記憶に残る意味のある物語を伝えたい」という思いが,同スタジオにはあるのだという。
この哲学は「Frostpunk」シリーズでも貫かれている。氏によれば,両作品とも「システム駆動型ストラテジーゲーム」だが,その独自性は特定のメカニクスではなく,ムードとナラティブにある。「Frostpunk」は名前のあるNPCが一人もいないにもかかわらずGDC Awardsでナラティブ部門にノミネートされ,「Frostpunk 2」はThe Game Awardsでストラテジーゲーム賞を受賞した。
これらは,同シリーズがジャンルの典型的な枠組みを越えていることの証だと氏は語った。
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開発チームの拡大に伴い,物語とゲームプレイを担当するチーム間の調整が課題となった。
Stokalski氏は具体的な事例として,ナラティブデザイナーが素晴らしいストーリーアーク(物語の展開や起伏)を考案しても,プレイテスト段階ではプレイヤーがそれを「クリックして飛ばす」状況が発生したことに言及した。また,ゲームプレイデザイナーが数学的に完璧なバランスを追求した結果,「人口の半分が同時に死亡する」といった,ストーリーとして不自然な状況が生まれることもあった。
こうした課題に対処するため,同スタジオは「ゲームプレイはナラティブであり,ナラティブはゲームプレイである」という原則を打ち立てた。
Stokalski氏は,「心理学的に見れば,これらに区別はありません。主観的な心理的体験は1つしかないのです」と説明する。人間の脳は「意味を作り出す機械」であり,それをオフにすることはできないという。書籍を読むときやゲームをプレイするときに別々の分析を行うのではなく,提供される情報を一貫した全体像として認識するのだ。
「Frostpunk 2」のコンセプト――「世界の終わりのあと」の物語
Stokalski氏は,「Frostpunk 2」を前作の単なる拡大版ではなく,物語の自然な継続として位置づけていることを強調した。11 bit studiosのクリエイティブな特性として「同じことを繰り返さない」姿勢があり,続編においても新たな視点を模索したという。
「Frostpunk」が「世界の終わりを生き延びること」をテーマにしていたのに対し,「Frostpunk 2」は「世界の終わりを生き延びたあとに何が起きるのか」を探求している。
統一的な恐怖が去ったあと,人々は外を見渡し,野心を抱き,より良い未来やユートピアを夢見るようになる。しかし,その過程で「抑制されていなかった野心」や「イデオロギー」といった「古い悪魔」が頭をもたげ,最終的に最大の敵は自然ではなく「人間の本性」であることが明らかになる。
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Stokalski氏は,ゲームがどのように意味を生成するかを理解するため,M-D-A(Mechanics-Dynamics-Aesthetics)枠組みを応用して説明した。
仮想的なゲームを例に挙げると……
- メカニクス:2Dレベルをジャンプして移動し,別の城にいるプリンセスを見つける
- ダイナミクス:目標を達成する
- 意味(Aesthetics):達成感を味わう
「Frostpunk 2」を同様の枠組みで分析すると……
- メカニクス:建設,探索,研究,交渉,法律制定など
- ダイナミクス:住民の対立する野心から都市を守る
- 意味:自然ではなく「人間の本性」が我々を滅ぼす可能性があるという気づき
氏はこの比較から,「Frostpunk 2」のような抽象的テーマを持つゲームでは,プレイ可能なゲーム要素に変換する作業がより複雑になることを指摘した。
「Frostpunk 2」の開発初期段階で,チームは従来的なゲームの柱(都市建設,生存,社会管理,越境探索と拡張)を定義することもできたが,代わりに以下のような概念的な柱を設定した。
1. 未来を構築するが,誰のための未来なのか(都市建設,研究,大規模社会)
2. 野心が古い悪魔を呼び覚ます(イデオロギー的動機と結果)
3. 人間の本性が永遠の敵(内なる対立)
Stokalski氏は,これらの抽象的な概念をゲームメカニクスに変換する過程を詳細に説明した。
例えば,「未来を構築する」というテーマを実現するため,前作の1.5か月というゲーム内時間では短すぎると判断。「Frostpunk 2」では数年にわたる社会の進化を描くため,個別の建物ではなく地区単位の建設システムを採用し,社会そのものをプレイ可能な要素として設計した。
「Frostpunk 2」の核心的要素として,Stokalski氏は「Zeitgeist System」の設計過程を詳細に説明した。開発チームは人類の歴史における異なる集団のイデオロギー形成を研究し,それをゲームシステムの基盤として活用したそうだ。
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このシステムでは,社会が3つの価値軸(アフィニティ)に沿って分類される。
1. 環境軸:技術と進歩(マシニスト)vs. 適応と節約(フォレジャー)
2. 経済軸:平等性重視 vs. 功績主義
3. 社会軸:伝統的価値観 vs. 社会実験
各コミュニティは,いずれかの軸の一方の極に位置づけられる。例えば「マシニスト」は大嵐を発電機の力で生き延びた経験から技術を重視し,「フォレジャー」は発電機に頼らず個人の犠牲によって生き延びたため適応性を重視するものだ。
さらに,すべての軸で明確な立場を持つ「ファクション」も存在する。例えば「フェイスキーパー」は,環境軸では技術重視(発電機を神聖視して崇拝する),経済軸では平等性重視(社会を「羊の群れ」と見なし全員が平等であるべきと考える),社会軸では伝統的価値観重視(宗教的な価値観を社会の基盤とする)という立場を取るといった具合だ。
Stokalski氏は,これらのコミュニティやファクションが単なる背景設定ではなく,ゲームシステムの相互作用可能な要素として機能することの重要性を強調した。
プレイヤーの価値観をゲームシステムに組み込む
Stokalski氏は,「Frostpunk 2」のもう1つの革新的側面として,プレイヤーの道徳観や価値観をゲームバランスの要素として取り入れる手法を紹介した。
一般的なゲームデザインでは,「少ないコストで小さな報酬」vs.「大きなコストで大きな報酬」といったリスク/リワードのバランスで選択肢を設計する。しかし「Frostpunk 2」では,選択の結果が単なる数学的バランスではなく,プレイヤーが持つ既存の価値観に触れるよう設計されているのだという。
具体例として,氏は犯罪者への不妊手術や犯罪者の子ども(講演では“bad seed”と表現)への対応といった選択肢を挙げた。
あるプレイヤーの反応として,「人道的だと思っていたのに,知らぬ間にあらゆる倫理的境界を踏み越えていた」というコメントを紹介し,こうした道徳的ジレンマがゲーム体験の重要な部分であることを説明した。
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「プレイヤーの価値観はゲームバランスの要素になりうる」とStokalski氏は述べた。プレイヤーの価値観への挑戦が強ければ強いほど,選択の数学的バランスにおいても重みが増す。これにより,プレイヤーは数学的に最適ではない選択肢でも,自分の価値観に合致するものを選ぶわけだ。
ファクション戦争――社会的嵐との対峙
「Frostpunk」の終盤の大嵐(マイナス150度)に相当する「Frostpunk 2」の最終危機として,Stokalski氏は「ファクション戦争」を設計した。これは都市のファクションが過激化し,イデオロギー的熱狂から互いに,そしてプレイヤーに戦いを挑む状況だ。
政治的暗殺から始まり,都市内で暴動や暴力が発生するこの危機に対して,プレイヤーは3つの主要な対応策からいずれかを選ぶことになる。
1. 反対派の追放:反対勢力を都市から追い出す(空の植民地に移住させるか,単に荒野に放り出すか)
2. 和解の模索:暴力を抑制し,中間点を見つけて交渉する
3. 秩序の強制:「キャプテン」として独裁的支配を確立し,対立するグループを強制的に分離する
Stokalski氏は,各地域のプレイヤーの選択パターンに関する興味深いデータを紹介した。ロシア・CIS地域では比較的均等な分布(反対派追放31%,キャプテンになる30%)が見られたのに対し,西ヨーロッパと北米では権威主義的解決策が予想外に好まれたという。「これが何を意味するのか,深読みはしないようにしています」と氏は言及した。
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選択に感情的重みを持たせる具体化
抽象的な選択に感情的な重みを与えるため,「Frostpunk 2」ではゲーム開始時に,発電機が初めて稼働した瞬間に生まれた子ども「リリー・メイ」を通じて,プレイヤーの決断の結果を物語る工夫を施した。
ゲーム内時間で14年が経過したのち,プレイヤーがファクション戦争をどのように解決したかによって,彼女の人生がどう変化したかが示される。
Stokalski氏が例として挙げたのは,プレイヤーが「フェイスキーパー」に肩入れして反対派を追放した場合の結末だ。
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「多くの点で『Frostpunk 2』は『Frostpunk』より暗いです」と氏は認めつつも,「単なる暗さのための暗さを選ぶことはしません。常に狭くとも道が残されています」と強調した。プレイスタイルによっては平和的解決も可能だが,プレイ中の選択との一貫性が重要だという。
ゲーム体験のループ構造
Stokalski氏は,ゲーム体験を複数の「ループ」として捉える考え方を紹介した。もっとも基本的な短期ループ(ゲームシステムのマスタリー→サバイバル課題→より困難なチャレンジ→さらなるマスタリー)から,戦術的・戦略的なループを経て,もっとも外側にある「文化的会話のループ」――プレイ後に起こる議論や内省までの構造だ。
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「私たちが『意味のあるゲーム』というとき,それはこのもっとも外側のループを持つゲームのことです」と氏は説明した。ゲームプレイ後も残る文化的会話を促進することが,11 bit studiosの目標だという。
講演の最後にStokalski氏は,ゲームが意味を生成する方法に関する概念的枠組みを提示した。氏は「意味の注入量」と「可能性空間の大きさ」という2つの軸で分析を試みた。
- 低い意味の注入 + 小さな可能性空間:パズルゲームなど,認知的挑戦として機能するゲーム
- 低い意味の注入 + 大きな可能性空間:「Dwarf Fortress」「War Room」「Battlefield」など,優れた逸話生成器として機能するゲーム
- 高い意味の注入 + 小さな可能性空間:映画的体験を提供するゲーム
- 高い意味の注入 + 大きな可能性空間:創発的ナラティブの領域。「十分に具体的かつ一貫性のある枠組み」が重要
Stokalski氏は,「Frostpunk 2」がこの最後の領域を目指し,人間の本性に関するゲーム,すべてのユートピアが誰かのディストピアになりうるという複雑なテーマを探求しながらも,プレイ可能なゲームとして機能していることを誇りに思うと述べた。
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「ゲームで語れる物語,より正確には『プレイできる物語』に本当に限界はありません」という言葉で,氏は講演を締めくくった。これは哲学的な社会シミュレータだけを作るべきだという主張ではなく,クリエイターとして「望むならそれができる」ことの励みになるという。
Stokalski氏の講演は,ゲームにおけるシステムとナラティブの融合という挑戦に対する11 bit studiosの独自のアプローチを浮き彫りにした。「Frostpunk 2」の開発過程は,技術的課題とチーム拡大による組織的課題を乗り越えながら,抽象的な高コンセプトを具体的なゲームシステムへと変換する試みであったと言える。
「人間の本性こそが最大の敵である」という哲学を核に,プレイヤーの価値観そのものをゲームシステムの一部として組み込む革新的なデザインは,ゲームという媒体の可能性を拡張するものになりそうだ。

















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