
プレイレポート
[GDC 2025]“Tの字”で生きるティーンを描く,切ないけれどあったかい不思議なゲーム。高橋慶太氏の新作「to a T」試遊レポート&インタビュー
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「to a T」は,なぜか体がTの姿勢のまま固まっている10代のティーンが主人公の3Dアドベンチャーゲームだ。発売は2025年5月29日を予定しており,Xbox Series X|SのほかPC,PS5向けに配信される。Xbox Game Passにも対応予定だ。
試遊をスタートすると,まず意表を突かれるのがオープニング曲っぽい歌だ。明るいような,切ないような,不思議な気持ちに包まれる。デモはティーンのいつもの1日と言った感じで,ベッドから起き,犬を撫で,トイレに行って朝ごはんを食べ,着替え支度をして学校に行くという日常的な工程だ。
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しかしティーンはTである。手が横にピンと張ったままなので,ドアノブを回してドアを開閉するのも,朝ごはんのシリアルに牛乳を注ぐのも一苦労だ。
操作は決して難しくなく,うまくできなくても何かしらのマイナスがあるわけではないが,ちょっとした角度で牛乳を机にこぼしたりしたときの「わわわっ」という本作なりの緊張感もあれば,「まあしょうがない」と思えるようなゆるい雰囲気もある。
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制服に着替えて,重たい足取りでとぼとぼと学校へ。先導するように前を歩く犬がかわいい。いつも寄り添ってくれているのかな……ティーンのとぼとぼ歩きを止めると,「どうしたの?」というように見てくる。かわいい。
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学校へ向かう途中,町には人間以外の存在もいて,キリンが店をやっていたりする。街の雰囲気は温かみあるグラフィックスと少し不思議な感じだが,ティーンの心情はすごくリアルに刺さるものがある。学校に着くと案の定,Tポーズのことでクラスメイトにからかわれてしまった。悩むその姿がもうほんとに……子どもがいる自分としては,余計にズシンとくるものがあった。
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帰り道,人の家の前で犬がうんちをしてしまって「うわ,やばい」となったそのとき,なかなかの驚きの展開が。と言っても「緊張感!」というものではない。その後は,エンディング曲もかかって「笑えてシュールでまた来週」な感じでデモは終了した。
プレイ自体は短いが,心に残るなにかがある。うまく言葉にできないが「あー,面白かった!」とは違う,何かを引きずるようなものがある。
そしてふとしたときに,「あれはなんだったんだっけ」と思い出すような,そんな魅力があるゲームだった。
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ゲームってまだいろいろなことができるのを見せたい。高橋慶太氏にインタビュー
プレビューイベントの2日後,高橋氏にインタビューをする機会を得た。試遊で分かったこと,疑問に思ったことなどを聞いたので読み進めてほしい。
4Gamer:
先日はありがとうございました。「to a T」ってどんなゲームですか? とお聞きする前に,まず最初にそのXboxのプレビューイベントについて聞きたいです。初めてのプレビューだったと思うのですが,反応はどうでしたか?
高橋氏:
あー,そうですね。けっこう好印象で,みなさん「よかったです」って言ってくれました。でもメディアの人って面と向かって「ここはダメ」とは言わないから,どこまで信じていいのかなあ,といった感じです。
4Gamer:
(笑)。
高橋氏:
やってみてどうでした? 横で見ていたけど,すごく難しい顔をしながらプレイしていましたよね。すごく怪訝な顔で歯磨きなんかやってて。
4Gamer:
興味深いゲームで楽しいなあっていうのと同時に,もう1つ,ティーンのことがなんかこう胸にきてしまったというのがあったんです。
ティーンは身体がTの姿勢で固まったまま暮らしているわけじゃないですか。小学校で直接的にいじめられているシーンもありましたが,やはり奇異な目で見られちゃうと思うんです。私はこの春から小学校に上がる子どもがいるもので,余計にティーン気持ちになるというか。
高橋氏:
なるほど,そうなんですね。ティーンは生まれてすぐにもうTの姿勢なんですが,やっぱり真似されると思うんですよ。直接言ったりやったりもだけど,こう,なんかすれ違いざまにTの姿勢を真似する,みたいなのは。
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4Gamer:
なんかそういうのがリアルで。あとお母さんがけっこうドライというか,「学校行きたくないなあ」っていうティーンをあまり気にかけていない感じとかも。
高橋氏:
ああ,あのお母さん,いいでしょう。
4Gamer:
そうですね。いまの親の子との接し方のような考え方だと,「えっ」って思うところもあるんですが,「ああでも,そんなもんだったりするんだよな……」という。ティーンの家はそれが日常で,それはいいとか悪いとかではなく,考えちゃうものがあるというか。
そういうのがあるだけに,犬がとにかく可愛くて。通学路をトボトボ歩くティーンを先導するように歩いていて,ティーンが止まると「だいじょうぶかな」という感じで,気にかけるように見てくれるのが愛おしかったです。
高橋氏:
ええ,犬がかわいいんですよ。
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4Gamer:
寄り添ってくれてるなあ(しみじみ)って思ってたら,よその家の玄関前にうんちをしちゃって。そこからの急展開もあって,頭の中はめちゃくちゃになりましたが(笑)。
その急展開はゲームが出てから多くの人に見てほしいところなんですが,このゲームの町ってどういうイメージで作られたのでしょう。町の雰囲気は外国っぽくあるけど,セーラー服や学生服が制服としてあって,それを着ていく学校は日本っぽい。家では靴を脱いで暮らしているけど,朝食のシリアルの感じはこれまた外国っぽいというか。
高橋氏:
なんか,自分の中にあるものを出したらそうだったというか。学校を描きたいってなったとき,僕は日本で育った人間だから,学校での話を書くとなると,やっぱり外国のって感じではないんですね。でも,それで町まで全部日本だったら日本の話になるし,それはいやだなあって。
4Gamer:
それこそいじめみたいなセンシティブなものも描いているぶん,実際に吸ってきた学校の空気感みたいなのは大事になりそうです。
制服を選べるのと,あと靴を履くとき,ぴょんっと両足ジャンプして履くのが面白かったです。
高橋氏:
制服を着るという行為は,家と学校のスイッチの切り替えみたいな,そういうのを見せたいというのがあって入れましたね。
靴は,これを見て外国の人たちにも家では靴を脱ぐ暮らしを薦めたいっていうのがあります。外国で暮らし始めてもう十何年にもなりますけど,家では靴を脱ごうと言って回りたいって思っています。
4Gamer:
それの啓発的な(笑)。たしかにベッドに靴を履いたままゴロン,みたいなのは慣れないです。
あとは人間だけじゃない世界なんだなというのもありました。キリンが普通に話しかけてきた,みたいな。
高橋氏:
あれが入っているのは,動物と話がしたかったからです。あとは,現実にもいるじゃないですか。身長が高くて首も長めな人をキリンみたいとか,どっしりとされていてちょっとカバみたいな人とか。そういう意味で寓話みたいな感じはあるかなと思います。
4Gamer:
続いて気になったところの話なのですが,このデモ版にはオープニング曲とエンディング曲がありましたよね。これって,全何話みたいなエピソード式で話が進むのでしょうか。
高橋氏:
そうですね。全8話の予定です。
4Gamer:
なるほど。なんかそのあたり,ちょっとサザエさんやドラえもんみたいな,夕方やっているアニメみたいだなと感じました。
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高橋氏:
そういう夕方にやっていたような30分のアニメとか,NHKのアニメとかのフォーマットみたいなのが好きなんですよ。オープニング曲で始まって,お話があって,エンディング曲でおしまいという。ときどきあるような,CM明けで何気ない日常風景みたいなところで始まるのとか,ああいうのすごく大事なものの気がするんです。
4Gamer:
分かります。
あとこれ,避けられない質問ですが,なぜUでもFでもOでもなく,Tだったんですか?
高橋氏:
コントローラのスティックって真っ直ぐですよね,それを使った遊びだから手もまっすぐ。そうなると必然的にTなんですよ。
4Gamer:
たしかに。いまYはどうだろうかと思ったんですが,手を挙げる角度が人それぞれだから,フラットになるTだな,やっぱりと。
高橋氏:
そう。最初は本当に,なんか軽いゲームを作りたいと思ったんです。それでキャラクターの両腕をスティックで操作し,何かを掴んだり投げたりするような簡単なゲームを考えたんですが,これが試しに作ったら面白くなかったんですよ。何があったら面白いかと思ったとき,身体が何かの文字みたいに固定されたらどうだろうと。
それでできたのがTで,操作としてもこれが自然ですよね。実際に動かしてみたら面白くて。CGモデルを作るときの基本にTポーズがありますが,やっぱりTがいいなあと思いました。
4Gamer:
なるほど。いろいろな考えと気持ちが集まったゲームなんですね。
高橋氏:
いやー,いろいろお話ししましたけど,そんなに深い考えはないですよ(笑)。自分の中でこういうのが好きだなとか,こういうのを入れたら面白いだろうなとか。思ったことを入れてみたら,わりとスポッとハマっていったみたいな感じで。なんか今,難しくないことを難しくしちゃっているというか,そういう世の中でこういうゲームもいいだろうと。
4Gamer:
最後に定番な感じですが,日本のゲームファンにメッセージをお願いします。
高橋氏:
え,いや,ないです。買ってください。サポートしてください,かなあ。
4Gamer:
(笑)。
高橋氏:
ああ,そうだなあ。でも,ゲームってまだいろいろなことができるものだよというのを,自分なりに今のゲームを作っている人たちに見せなきゃというのはありますね。アクションだとかRPGだとか,シューティングだとか,そういうジャンルって言われるものにとらわれないで,自分が作りたいものを作ればいいよって。
もう50(歳)だけど,なんでこんなやってるんだとか,これをゲームって呼んでいいのかなとか思いながら。日本の人にこれ,伝わります?
4Gamer:
これはゲームに限らずなんですが,私はけっこう「モヤモヤしたい」じゃないですけど,「あー面白かった」で終われるものではなく「あれなんだったんだろうな」みたいな,自分に持ち帰れる作品が好きなんですね。
変な体験がしたいみたいなものがあって,そういう意味で「to a T」はまさにそんなゲームでした。同じような人もきっといるんじゃないかと思います。
高橋氏:
なるほど。持ち帰るっていうのはいいなあ。そういうふうに見てもらうのも,いいかもしれない。
4Gamer:
本日はGDC 2025の期間で忙しい中,ありがとうございました!
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