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「モンスターハンターワイルズ」のグローバル同時接続者数100万人以上をサポートしたAWS(アマゾン ウェブ サービス)の舞台裏
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「モンスターハンターワイルズ」公式サイト
「モンスターハンターワイルズ」がAWSを採用した背景
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クロスプラットフォームを実現するには,全プラットフォームのユーザーがカプコンのサーバーにアクセスすることになる。また「モンスターハンターワイルズ」は,全プラットフォームの世界同時発売が当初から決まっていた。
つまり,サーバーの負荷が過去作よりも高くなることが予想できたというわけである。そのため,発売後の運用を考慮に入れて,マネージドサービスとして実績のあるAWSを採用することに決めたそうだ。
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「モンスターハンターワイルズ」はリアルタイムで動くアクションゲームなので,通信の遅延はユーザー体験を著しく損なう原因となる。
たとえば4人でモンスターを狩る際,遅延により1人だけ動きが固まっていたら,仲間と協力するという本作の根幹が揺らいでしまう。そのため,レイテンシーを限りなく低くすることにこだわったと井上氏は説明する。
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当然,ほかのクラウド事業者の通信速度や,それに伴う各ソリューションの組み合わせなどの検証も行った。その中で最もカプコンの要求に沿ったパフォーマンスを発揮できるのが,世界の各リージョンにある「エッジロケーション」(データセンター)のうち,ユーザーに最も近いところからコンテンツを配信できるサービス「CloudFront」などを提供しているAWSだったという。
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「モンスターハンターワイルズ」はカプコンの社運をかけた一大プロジェクトだったが,開発は堅実なステップを踏んで,少しずついいものにしていくという形にはならなかった。その一例がクローズドβテストを行わなかったこと。これはギリギリまで開発を続けるためだったという。
井上氏は「ネットワークはそうじゃないんだけど」と思いつつも,開発チームの「面白いものを届けたい」という気持ちを汲んで渋々了承した。
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そこでAWSと相談したところ,通常よりも内部テストを徹底することになった。テストを重ねるうちに,AWSのソリューションは負荷が一定以上にならないように,内部クウォータ(制限)が設定されていることが多いと気付いたそうだ。それをAWSのサービス「Countdown Premium」の専任エンジニアと相談しながら緩和していった。
なおAWSを利用した理由として,専任エンジニアがいることから,発売後のトラブルを最速で復旧するにあたって,速やかに内部ログへアクセスし原因を切り分けられると考えたこともあったようだ。
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開発中はトラブル続きでどうなることかと思っていたが,1つずつ解決していった結果,発売後は大きな問題が発生することなく,今回の取り組みには満足していると井上氏は語る。しかし,カプコンでは「もっと面白くできるはずだ」「もっと時間が欲しい」といった,「もっと」を求める傾向にあるという。
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そこで予算と納期を変えることなく,クリエイティブに集中するべく採用したのがAIである。カプコンではゲーム開発のさまざまな面でAIを活用しており,動作テストにも使われているそうだ。
とくにPC用ゲームは,ハードウェアの仕様が無数にあるため,障害の原因を突き止めることが難しい。そのため,障害が起きた場合のログをAIによって整理し,「これが原因ではないか」といったトレンドを示している。
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過度な光のエフェクトを発生させると,光刺激耐性が低い人が光過敏性発作を起こしかねない。当然,開発者も配慮しているが,特定の条件が重なると意図せぬエフェクトになってしまうこともある。そうした状況を避けるため,AIを使ってエフェクトの組み合わせの全パターンを検証している。
また地形のテクスチャがズレていないかに関しても,AIを活用しているそうだ。
最近では,実際にゲームをプレイするAIの開発に注力している。ビデオセンサーでゲーム画面を認識し,ゲームの内容を理解したうえでテストプレイを進めていくというものだが,自然言語を使って指示を出し,大量の即時テストができるようなAIも動き始めているという。井上氏によると,この事例は近日公開予定だ。
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一方で,井上氏はクリエイティブの領域に生成AIを使わないというカプコンのポリシーを紹介する。生成AIで絵を描くといったことはなく,あくまでも人間がやると面倒だったり,単純作業の繰り返しになったりする部分をAIに任せて,人間はクリエイティブに集中するというわけだ。
井上氏はカプコンにおけるAI活用について,現時点では費用の最適化にフォーカスしており,間接的に価値の最大化にもつながっていると述べた。AIによって生まれる利益の多くは時間であり,その時間は面白いものを考えたり,作ったりすることに再投資していく。
単に予算を削減するだけでは最適化とは不十分であり,より良いゲームを作り,売上を伸ばすことによって,ようやく生産性が上がったといえるのではないかとまとめていた。
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ゲームの今と未来を支えるAWSのテクノロジー
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AWSでゲームサーバーを稼働させるメリットとして4点を挙げる。
1つめは「用途ごとに専用に設計されたマネージドサービス」だ。「モンスターハンターワイルズ」のようにマネージドサービスを活用することで,ゼロから仕組みを作る場合と比較して速やかに開発を進められる。
また,運用も基本的にはAWSが担当するので,限られた人材を開発や大きな価値を提供する部分に集中できる。
2つめのメリットは「グローバルなインフラストラクチャ」。全世界向けにゲームのサービスを提供するには,さまざまなサービスが利用できて,かつグローバルに同じ使い方ができることが必要だが,AWSはそれらを備えている。
3つめのメリットは「ゲーム業界の顧客からの信頼」。ゲームは同時接続数が多く,負荷が高くなるケースが多いため,インフラにも高い要求が求められる。その点,AWSは実績を積み重ねており,それを信頼してAWSを選ぶ顧客も多いそうだ。
最後のメリットは「広範で高機能なネットワーク接続サービス群」である。たとえばオンラインゲームの体験を提供するために必要なパーツを多数用意しているが,それらは高い信頼性やセキュリティ機能などが充実しているとアピールした。
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AWSが提供するゲームサーバーのホスティングは主に2種類ある。1つは独自構築するもので,「モンスターハンターワイルズ」はこれを採用している。
もう1つはホスティング自体もマネージドでやるというオプションだ。
高度にカスタマイズをしたい,あるいは要件にこだわりがあるといったケースでは,独自の仕組みを構築することによって,その用途に100%フィットしたゲームサーバーを実現できる。
一方,マネージドサービスは「GameLift」を利用することにより,ゲームを速やかにリリースしたり,運用の負荷を下げたりできる。
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ゲームサーバーを独自構築するパターンを支えるのは,「EC2」と呼ばれる仮想サーバーコンピューティングのサービスだ。さまざまなスペックのラインナップを用意しているが,AWS独自のGraviton プロセッサの活用により,コストパフォーマンスおよび電力消費効率を高めて,より大きな価値を提供できるものも含まれる。
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コンテナの運用管理と自動化を行うために,オープンソースシステム「Kubernetes」をAWSによるマネージドで利用できるようにしたサービスが「EKS」である。クラスターのマネジメントなど,さまざまな管理関係のタスクをAWSに任せることで,顧客は注力すべきところに時間を割けるようになる。
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「Karpenter」は,どのコンピューティングリソースをどれくらい利用するかを,適切なタイミングで柔軟に管理するためのツールだ。さまざまなオプションが用意されており,組み合わせによってコスト効率の高いゲームサーバーを実現できるという。
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「モンスターハンターワイルズ」のゲームサーバーは,さまざまなマイクロサービスを組み合わせて構築されている。実際にゲームサービスを展開するうえで,サービスAとサービスBは通信が必須だが,サービスCとサービスDには通信の必要がないといったときには,その相互関係をインフラにどうやって反映させるかという課題が生ずる。
それを解決するサービスが「VPC Lattice」だ。サービス間の通信が必要な部分とそうでない部分を指定すると,AWS側のシステムがそれに合わせて構成するため,管理の手間を省いて,開発の効率化につながるというわけである。
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「Countdown Premium」は井上氏が紹介したとおり,AWSのエキスパートチームから選ばれた専任エンジニアが包括的にサポートするサービスだ。顧客と事前にディスカッションを行い,想定リスクやインフラの改善点などの議論を重ねて準備を進め,円滑なリリースや,リリース後のトラブルにも迅速に対応する。
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現在,AWSが注力している生成AIも紹介された。生成AIに関しては,顧客からのフィードバックに基づくさまざまなユースケースを収集し,ナレッジを積み上げているという。ゲーム業界向けには,すぐに使えるAIソリューションがあり,またAWSの仕組みを利用して容易にAIソリューションを作ることもできるそうだ。
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ユースケースは顧客によって異なるが,AWSでは取り組みに合わせて3段階の生成AIスタックを用意している。1つは生成AI自体を開発するためのインフラを提供する「SageMaker AI」だ。
2つめは,すでに公開されているAIモデルをAPIで簡単に活用できるようにする「Bedrock」。そして,3つめはユーザーが直接AIに触れるアプリの形で提供する「Q Business」となる。
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このうち,最も多くの顧客が利用している,あるいは関心を持っているのが「Bedrock」だ。選択可能な生成AIモデルにはAmazonのテキスト生成AI「Titan」,画像・動画生成AI「Nova」も含まれている。
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日本の新時代を牽引するゲーム産業の成長に向けて
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恒松氏は,近年のゲーム業界ではクラスプラットフォームやマルチプレイ,ライブサービスの対応,さらにグローバル対応が求められていると指摘する。必然的に開発・運用が複雑化し,開発期間の長期化,開発費の高騰,チートやボットの対策といった高度な要件を求められるようになる。
こうした状況下ではコストの最適化や慢性的な人手不足の解消に取り組みつつ,高度かつ安定した運用を実現する必要がある。またグローバルのユーザーエンゲージメントの維持と強化を通じて,ユーザーコミュニティの形成も必要だ。
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現状を踏まえて,「AWS for Games」では3つのソリューションを展開している。
そのうち,「Build」はゲームの開発フェーズにクラウドリソースの活用による迅速な開発基盤を提供し,クロスプレイや多言語対応,開発の効率化をサポートしている。そのなかには生成AIによる業務効率改善,テストプレイ用のシナリオ生成なども含まれる。
2つめの「Run」は,ゲームの運用フェーズを支えるソリューションだ。クロスプレイやグローバルインフラにおける低遅延で安定した柔軟性の高いアーキテクチャに対応しつつ,さらに運用負荷を軽減するようなフルマネージドサービスを提供する。
また,インフラの自動スケーリングによるコスト最適化やセキュリティを含む包括的なソリューションとなっている。
そして3つめの「Grow」は,ゲームの成長フェーズを支えるソリューションである。AIやサービスセンターの技術を駆使したコードの分析手法を活用することにより,効率的なユーザーのエンゲージを実現し,コミュニティ形成をサポート。さらなるプレイヤーの獲得,新しい技術の開発,ビジネスの成長に貢献していく。
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現在,世界では毎月7億5000万人がAWSで稼働しているゲームを楽しんでいる。恒松氏はゲーム業界の多くの顧客がAWSを評価していることに感謝し,その責任に身が引き締まると語った。
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恒松氏は世界のエンターテインメント業界では,4つの変化が訪れていることにも言及した。その1つは「プレイヤー・視聴者行動の変化」で,とくにZ世代が牽引するメディアへのアクセスの変化は非常に大きな影響があるという。
2つめは「テクノロジーの融合・統合」だ。クラウドコンピューティング,データ生成,AIなどが相乗効果によって推進され,かつてないスピードで新しいコンテンツの体験を市場に提示することが可能になってきている。
こうした体験には,3つめの変化である「没入型・パーソナライズされた体験」が含まれるとのことだ。
最後は「知的財産(IP)の拡張」である。ゲームやストリーミング,音楽やポッドキャスト,あるいはテーマパークやライブイベントに至るまで,各企業が自社のデータの知見を最大限に活用し,相互に連携し,データ主導型のファン体験を創造している。
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恒松氏はこうした変化を課題であると同時に,大きなビジネスチャンスであると述べた。AWSではゲームを開発,運用,成長させるためのテクノロジーのみならず,グローバルの経験やAmazonのショッピングサービスなどを支えてきた知見を生かしながら,日本のゲーム業界の顧客を支援していきたいと展望をまとめていた。
アマゾン ウェブ サービス 公式サイト
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