インタビュー
[インタビュー]みんなで作ろうカジュアルゲーム。MUTANとアメザリひらい氏による共同ゲーム開発企画「Project休日返上」について聞いた
「Project休日返上」とは「グーニャモンスター」(PC / PlayStation 5 / Nintendo Switch)の開発・販売で知られるMUTAN(ミュータン)と,お笑い芸人であるアメリカザリガニひらい氏が,YouTube Liveをメインに活動してきたゲーム開発企画だ。
参加者達がカジュアルゲーム作りのアイデアを出し合う様子を配信し,視聴者のコメントも取り入れながら(ゲーム以外も含む)何かしらを形作っていくというもので,すでに十数回の配信が行われている。
ここで作られたゲームはすでに開発が完了し,「スラッグのシスターディフェンス」と「クリオネのボムボムスイーパー」という2タイトルが,昨年(2024年)12月4日より,Steamでアーリーアクセスがスタートしている。
本稿では,この企画に至るまでの経緯と,プロジェクトの意図を主要メンバーに聞いてみた。
アメリカザリガニひらい氏 漫才コンビ・アメリカザリガニの声が低いほう。マンガやアニメ,ゲームに詳しく,過去にもゲーム制作の経験がある。【アメザリひらい Virtual】として個人の配信活動も行っている |
渡邊弘之氏 MUTAN代表取締役。「Project休日返上」ではプロデューサーを務め,企画全体を形作る役割を務める |
梅澤友香氏 MUTAN宣伝・広報担当。入社するまでほぼゲームをプレイしたことがなく,一般消費者に近い視点でプロジェクトをコーディネートする |
ちなみに“休日返上”とは「休日を返上するくらいの意気込み」を意味するもので,実際に休日を潰して開発を行っているわけではないそうなので,誤解なきよう。
「スラッグのシスターディフェンス」公式サイト
「クリオネのボムボムスイーパー」公式サイト
着地点を定めずに企画がスタート
視聴者のアイデアが正式タイトル名に
4Gamer:
よろしくお願いします。
まずは「プロジェクト休日返上」がスタートした経緯を教えてください。
アメリカザリガニひらい氏(以下,ひらい氏):
最初は一緒にご飯を食べながら,ゲームを盛り上げたいですよね,何か一緒にやってみたいですね,という話をしたところから,オンラインで定例会(配信)をやりましょうということになったんです。
4Gamer:
一緒にゲームを作りましょうということではなく,ふわっとした形で?
ひらい氏:
はい。その定例会の中で,あえてゴールを明確にしないで,ゲームをテーマにした何かしらを作っていけるんじゃないか? よし,これでいきましょうとなりました。
そして,その過程も配信していくのも面白いそうだな,と。
4Gamer:
MUTANさんは,こうした提案をどのように受け止めたのでしょう。
渡邊弘之氏(以下,渡邊氏):
私としても,ぜひ一緒に何かしたいなとはずっと思っていたんです。ただ,ひらいさんもおっしゃったように,最初は完成形を定めずに,もっとふわっと「一緒に何か作りましょうね」と,手探り状態だったんですね。それでもお互いの考えを共有していくうちに,着地点が見えてきました。
ひらい氏:
振り返ってみると,ゲームを作る過程を見せていくことのほうが,ゲームを作ることそのものより,テーマとしては大きかったかもしれないですね。「ゲームデベロッパは,こうやってゲームを開発するんだ」っていうのを知ってほしかった部分はあります。
4Gamer:
配信された番組を見ると,ブレスト的なことをされたり,視聴者からアイデアを募ったりしていましたね。
ゲームを作りましょうとなってから,印象的な出来事があれば教えてください。
ひらい氏:
ビジュアルができると途端にゲームらしくなるってことが印象的でしたね。
僕らが打ち合わせをしているときは,言葉やテキストでのやり取りなんですけど,開発が進んでビジュアルを見せられるようになると,視聴者のテンションが途端に上がって,「ゲームっぽい!」というコメントが来たんですよ。ゲームを作る過程を見てもらっていたはずなのに(笑)。でも,その変化の部分を見せられたのは良かったです。
渡邊氏:
昔「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」という番組に「何を作っているのでしょうか?」というクイズコーナーがあったんですが,それを思い出しました。工場でモノを作る過程を見せて,何を作っているのかが分かったところで早押しをするクイズなんですけど,それのゲーム版ができたように思います。
4Gamer:
視聴参加型ならではの出来事はありましたか?
ひらい氏:
ええ。ゲームのタイトルを決めるときのことは,よく覚えていますね。コメントも活発で,ちょっと大喜利みたいなイメージもあって。
皆さんがラフな感じで見てくれているのと,内側ではなく外から考えてくれているという,2つの条件が合致したんです。今後こういった企画をやっていくうえで,この条件を満たすことは重要だと気付かされるぐらいに大きな出来事でした。
梅澤友香氏(以下,梅澤氏):
実際に「スラッグのシスターディフェンス」は視聴者さんが出してくださったアイデアがバチッとハマって,最終的にそのままタイトル名として採用しました。スタッフ案も含めていろいろと検討したんですけど,これ以上の案が出なかったんです。「グーニャモンスター」の世界観を引き継ぐという背景までを汲んでいただいたうえで,いい名前をつけていただきました。
4Gamer:
やはり視聴者は「グーニャモンスター」やひらいさんのファンが多かったのでしょうか。
梅澤氏:
ええ。それもあって,ゲームに対しての知識や熱量のある方が多かったように思います。
渡邊氏:
僕が一番印象的だったのは,リスナーさんからのコメントをきっかけに,ゲームを2本作ることに決めた配信ですね。僕の中では「タイトルを1本に絞るぞ」という考えしかなかったので,自分にその貪欲さがなかったことを悔しく思いました。そういう意味で視聴者さんに助けられた形になりますね。
4Gamer:
視聴者からの声が決定打になることもあったんですね。
ひらい氏:
そうですね。実際の開発を行うのはMUTANさんなんですけど,企画検討の場は例えるなら,みんなでサッカーボールを追いかけ回すような感覚でした。ボールを蹴り合っていたら,ゲーム作りというゴールに到達していたよ,と。
ゲーム作りの過程を見せられたことに意義
完成した2タイトルの見どころは?
4Gamer:
ゲームが完成した今,プロジェクトを振り返ってみていかがでしょうか。
渡邊氏:
ゲームを作ることに関しては,この企画以外でも自分達がやりたいことを日々やれているという実感は得られています。
でもこの企画では,情報発信をしながらというのが新鮮でしたし,パブリッシャとしてはまだまだ経験値不足であることを痛感しました。
そういった意味では,ひらいさんという情報発信のプロとご一緒できたのは,とてもいい経験になりました。
ひらい氏:
やっぱり最前線でゲーム開発に携わられている方々とのものづくりって,スピード感もあって,とても刺激的でした。
4Gamer:
48時間でゲームを完成させるという配信もありました。
ひらい氏:
ありましたね。漠然と完成に向かうのではなく(その先に起こるであろうことを)想定しながら進んでいく姿勢というのが,「みんなでざっくり作ってみよう」と言ってる人達とは思えない(笑)。
MUTANさんは「ここを見せればいいだろう」「こういう要素が必要だろう」というのを,これまでの経験に基づいて具体的かつていねいに仕上げてくれるので,すごく安心感がありました。
一同:
(笑)。
ひらい氏:
結局こういうことって,実際に作ってみないと分からないんですよね。机上で学ぶより,この48時間を1回経験したほうが,2年分ぐらいの経験値になった気がします。
4Gamer:
では,今回リリースした2タイトルの注目ポイントを教えてください。
渡邊氏:
「スラッグのシスターディフェンス」はタワーディフェンスとアクションが融合した遊びです。
一般的に,別々のジャンルのゲームシステムを1本のゲームで採用すると,バランス調整が難しくなりますが,今回はうまくまとまったと思っています。2つの遊びが融合した,新しい感覚を楽しんでいただきたいですね。
4Gamer:
もう一方の「クリオネのボムボムスイーパー」も,別々のジャンルをまとめているタイトルですよね。
渡邊氏:
ええ。「クリオネのボムボムスイーパー」は,かつてWindowsにプリインストールされていた「マインスイーパー」というパズルゲームのアクション版です。古くからWindowsを触っていた人にとっては懐かしく思えるものになっています。
爆弾の入っているブロックを回避するという基本ルールは同じですが,アイテムが出現したり,時間とともにブロックが迫ってきたりとアクション性が強くなっています。ブロックを一掃できる武器もあり,爽快感のある仕上がりになっています。
梅澤氏:
いずれのタイトルも,中毒性があるものに仕上がったと思います。カジュアルゲームとして短時間で楽しんでもらうことを想定していたのですが,ひらいさんが“ぜんため”イベントで30分くらい続けてプレイしてくださったり,試遊してくださったお客さんも何度も繰り返しプレイしてくださったりしました。
ひらい氏:
楽しかったですね〜。めちゃくちゃ分かりやすくて何度も繰り返し遊べるので,実際に「もうそろそろ……」と止められるまで遊び続けちゃいました(笑)。
梅澤氏:
「スラッグのシスターディフェンス」は現在アーリーアクセス中です。今後やりたいこととして,別プラットフォームへの移植,ランキングにおいても複数プラットフォーム共通にできるとさらに盛り上がるのではないかと感じています。そのあたりも楽しみにしていただけるとうれしいです。
4Gamer:
ちなみに,完成したゲームは当初描いていたイメージどおりのものになりましたか?
渡邊氏:
僕はかなりイメージどおりのものになったと思っています。今回はプロデューサーという立場だったので,開発にべったりというわけではなかったんですが,若いスタッフが想像以上に頑張ってくれました。
ひらい氏;
自分がイメージしたものじゃない部分も含めて,形になっていくのが楽しかったですね。実際のところゲーム作りって,自分のイメージに100%忠実に近付けるたにワンマンスタイルでいくか,アイデアを出し合いながら作っていくかで違いはあると思うんです。
でも今回は,「チームワークでゲームを作る面白さ」を「外」に向けて見せられたのが,すごく楽しかったんですよ。
梅澤氏:
開発過程でどうしようと思ったことを視聴者さんに投げかけて,一緒に解決していくといったフローもあって,とても楽しかったですね。
渡邊氏:
弊社としては,若手の開発スタッフが力を合わせて,ちょっと無理をしつつ頑張ってくれたのもうれしかったです。それこそプロジェクト名でもある,「休日返上」するくらいの精神でした。もちろん,休日は返上させませんでしたが(笑)。
4Gamer:
今後もこうした試みは継続していくのでしょうか?
渡邊氏:
はい。またやってみたいと思っています。こんなに楽しいことはそうそうないので,もっと多くの皆さんにこの輪に加わっていただきたいです。
ひらい氏:
引き続きやりたいですね。こういう形でどんどんゲームを作っていけたら,とても楽しいと思いますから。
4Gamer:
ありがとうございます。
ちなみに,ひらいさんはゲームに限らず新しいテクノロジーにもいろいろとアンテナを張っていらっしゃると思いますが,最近はどんな分野に興味をお持ちですか?
ひらい氏:
そうですね。情報をどう手に入れるかみたいなところが気にななっています。とくに,目じゃなくて耳から入る情報について興味をもっています。
視覚情報と比べて入ってくる情報量が少ない分,いろいろやりようがあるんじゃないかと思うんです。例えば,昔あったゲームブックの音響版みたいものだとか,スマホで音を聴きながら外に出て遊べるようなものだとか。そんなことを考えたりはしています。
4Gamer:
いろんな構想をお持ちなんですね。それらが実現する日を楽しみにしています。
ゲーム開発というとハードルが高く感じる人も多いかと思うが,このプロジェクトのように,誰もが気軽に参加できる試みは貴重なケースだろう。視聴者を含め,関わった人達が楽しみながら作り上げたゲームが気になった人は,ぜひSteamを覗いてみてほしい。
「スラッグのシスターディフェンス」公式サイト
「クリオネのボムボムスイーパー」公式サイト
- 関連タイトル:
スラッグのシスターディフェンス
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クリオネのボムボムスイーパー
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