
プレイレポート
[プレイレポ]トリテ×ウォーゲームな新作「Arcs」を先行体験。奇妙で深いジレンマを制して“野望”の完遂を目指す,新感覚ボードゲーム
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Leder Gamesは,4人全員が異なるルールで戦う戦略シム「ルート 〜はるけき森のどうぶつ戦記〜」をはじめ,クセの強いマニアックな作品で知られるボードゲームメーカーだ。今回の「Arcs」も例に漏れず,いわゆるトリックテイキング※の要素を取り入れたウォーゲームという,非常に珍しいコンセプトのタイトルとなっている。
※トリックテイキング:プレイヤーが1枚ずつカードを出し,その中から1人の勝者(=次の親)を決めるサイクルを繰り返す,カードゲームの1ジャンル。代表的なものにトランプの「ハーツ」などがある。
とはいえ,すでに発売されている海外での評価は非常に高く,ボードゲームコミュニティサイト「BoardGameGeek」では最大で8.1(10段階評価)を獲得。日本国内でも,コアなファンのあいだで話題になっていた作品でもある。今回はこの海外版を元にしたプレイレポートをクラウドファンディングに先駆けてお届けしていく。
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リードの奪い合いを中核とする,悩ましすぎるアクション選択
Arcsの舞台となるのは,多数の星系がゲートを通じてぶつかり合う「Reach」と呼ばれる宇宙空間だ。プレイヤーはReachの惑星や資源を狙う宇宙文明の1つを率い,入植や戦闘を通じて勝利点を獲得していく。
Reachの星々は放射状に並んだマスで表現されており,各プレイヤーはうちいくつかの拠点(宇宙港と街)と,宇宙船を所持した状態からゲームを開始する。ここから移動や建築といったアクションを駆使して版図を広げていき,対戦相手よりも強力な文明を作り上げることを目指していく。
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とはいえ,手番が来たからといって行動を好きに決められるわけでもない。
各プレイヤーには「アクションカード」がランダムに配られるので,ターンごとのアクションは,ここから1枚を選択して決定しなくてはならない。こうして毎ターン,カードを1枚消費していき、使い切ったらChapter(章)が終了。次のChapterでカードが配り直され,全部で5つのChapterを終えところでゲームが終了となる。
またアクションカードを出すにあたって重要になるのが,先述したトリックテイキングの仕組みだ。アクションカードには「実行可能なアクション」と「アクション数」に加え,カード自体の強度を示す数字と,カードの性質を示すスートが設定されている。それらを使った,“メイフォロー”※のトリックテイキングによって,各プレイヤーが実行できるアクションはさらに制限されることになる。
※メイフォロー……リード(親)プレイヤーが出した最初のカードによって,以降のプレイヤーの出すカードに制限がかかる仕組みのこと。可能な限り制限に従わなければならないのを“マストフォロー”,必ずしも従わずともよい(が,何かしらのペナルティがある)ものを“メイフォロー”という。
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アクションはカードを出した時点で実行されるので,最初の1枚を出すリード(親)プレイヤーは,カードに書かれたとおりのアクションが実行できる。一方で,後手番には“縛り”が発生し,メイフォローゆえ縛りから外れたカードを出せなくはないが,実行できるアクションは大幅に弱体化してしまう。
すべての処理を終えた時点で,リードプレイヤーと同じスート,かつ最も大きな数字を持つカードを出していたプレイヤーが勝者となり,次のリードプレイヤーとなる仕組みだ。これを繰り返し,手札がなくなるまでアクションを実行していく。これが本作の基本の流れである。
●2番手以降のアクション制限
条件 | 効果 |
---|---|
リードカードと同じスート,かつリードカードよりも大きな数字を持つカード | 制限なし。実行可能なアクションを,カードに示されたアクション数だけ実行できる |
リードカードと異なるスートのカード | 実行可能なアクションのうち1つを,1回だけ実行できる |
カードの内容を問わず,裏向きでプレイする | リードカードに記載されたアクションのうち1つを,1回だけ実行できる |
ルールだけ聞いてもピンと来ないかもしれないが,各カードに書かれた数値と合わせると,このシステムが生み出すジレンマがはっきり見えてくる。
まず,自由にアクションを実行できるリードプレイヤーは圧倒的に有利なので,可能な限りその権利を得たいところだろう。しかし,数字が大きいカードほどアクション数は少なく設定されているので,リードを得るには“弱い行動”を選ぶ必要がある。
ならリードを取ったあとにアクション数の多いカードを使えばいいと思うかもしれない。しかし,そうするとせっかく手に入れたリードをすぐに手放すことになりかねない。
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そのうえで,盤上で展開される戦闘や建設もしっかりこなす必要があるわけで,アクションを実行するタイミングも考える必要がある。
例えば,目前に疲弊した敵艦隊があるならぜひとも全力で攻撃したいところだが,スートや数字の噛み合いが悪ければ攻撃自体,行えないかもしれない。逆に言えば,リードプレイヤーになっていれば,盤面がピンチでも相手のアクションをコントロールして回避することも不可能ではないということだ。
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こうしたアクションの決定にまつわるゲームシステムは,アクションの効率を優先すべきか,盤上のタイミングを優先すべきかというジレンマを強調し,カードの選択を毎回悩ましいものにする。うまく噛み合えば,1回の行動でゲーム全体を動かしているかのような感覚が得られるのも,本作ならではといえる。
●アクション内容
アクション名 | 効果 |
---|---|
Move(移動) | マップ上の自身の艦隊(同じマス内にいる自身の宇宙船をまとめて艦隊とする)を隣接するマスに動かす |
Influence(影響力) | マーケットに置かれたカードに,エージェントを1つ配置する |
Secure(確保) | 自身のエージェントが最も多く置かれているカード1枚をマーケットから獲得する |
Build(建造・建築) | 宇宙港,または街を空いている枠に1つ建設する。あるいは,宇宙港が存在するマスで1つの宇宙船を建設する |
Repair(修理) | 損傷した1隻の宇宙船を非損傷状態にする |
Battle(戦闘) | 自身の艦隊で,同じマスにいる別プレイヤーの艦隊を攻撃する |
「AMBITIONS」(野望)がもたらす,奇妙で楽しい不思議なプレイフィール
こうした読み合いをさらに奥深いものにしているのが,勝利点の獲得方法である「AMBITIONS」(野望)の概念だ。
AMBITIONSとは,Chapterごとに更新される共有の達成目標のことであり,この目標で上位を獲得したプレイヤーは,Chapter終了時に勝利点を獲得できるようになっている。目標はChapter開始時点では内容が決まっておらず,早いもの勝ちで(最大3つまで)設定できるので,自分が達成しやすいものをいち早く枠に入れるのが重要となる。
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一方で,悩ましいのがAMBITIONSの設定方法だ。新たなAMBITIONSを設定する権利を得るには,まずリードプレイヤーを獲得したうえで,出したカードの数字を「0」に変更しなければならない。
ゆえに自分に都合のいいAMBITIONSを設定できれば有利にはなるが,リードは確実に失うことになる。そのリスクを飲んでもAMBITIONSを設定するか,誰かのAMBITIONSに“乗っかる”形で達成を目指すかは,なかなか難しい判断になるだろう。
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なかなか曲者なルールだが,このAMBITIONSが,本作な独特なプレイフィールを生み出しているのも確かだ。
本作はかなり攻撃的なゲームで,直接的な破壊やリソースの奪い合いがけっこうな頻度で発生するが,それによる喪失感はあまり大きくない。なぜならどれだけ敵船を撃破しようとも,あるいは資源を溜め込もうとも,AMBITIONSの達成に寄与しなければ勝利点にはつながらないからだ。
そして本作には,「AMBITIONSの達成」以外で勝利点を獲得する手段は,ほぼ存在していない。各種リソースの保持上限も少なく,建設などに使う量も限られているので,失われたとしてもすぐに回復できてしまう。盤上で熾烈な戦いが起こっていても,自分の計画を着実に進めていくのが重要なのである。
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本作はややマニア向けではあるものの,ルールに複雑な部分はなく,トリックテイキングの仕組みを取り入れたことで,ウォーゲームとしてはかなりコンパクトなタイトルに仕上がっている。
このシナジーから生まれるゲーム体験は特異ではあるものの,組み込まれたジレンマはかなり濃密で,それが本作をユニークなものにしている。ほかのプレイヤーを直接攻撃する要素を組み込みつつも,それ自体が勝敗に直結しないところも,このジャンルの初心者が入りやすい部分といえるかもしれない。
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今回のクラウドファンディングでは,基本セットのみの「ベースゲーム」,3部構成のキャンペーンを収録した拡張「ブライテッド・リーチ」,宇宙船などのミニチュアセット「ミニチュアパック」,これらすべてを収録した「オール・イン」の,3つのプランが選択可能だ。
さらに支援額が目標金額を超えた場合は,ミニ拡張セット「リーダーズ&ロアパック」が付属する予定とのことである。
名称 | 価格 |
---|---|
ベースゲーム | 8250円 |
ブライテッド・リーチ | 1万4850円 |
ミニチュアパック | 5500円 |
オール・イン | 2万4200円 |
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さらに本作は5月17日と18日に開催される「ゲームマーケット2025春」への出展も予定されている。海外版の公式サイトでは,ルールブック(英語)と収録カードリストも公開されているので,興味がある人はこちらも参考にするといいだろう。
CMON JAPAN「ARCS」日本語版クラウドファンディングキャンペーン
さらに「ゲームマーケット2025春」では,新作「キャプテン・フリップ」「ノヴァ・エラ」の販売も行われる。いずれもボードゲームファンの間で話題を呼んだ,注目度の高いタイトルとなっている。会場に足を運ぶ予定の人は,こちらも要チェックだ。
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CMON Japan「ゲームマーケット2025年春」出展情報
- 関連タイトル:
Arcs
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(C) 2025, CMONJAPAN