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「京都シリアスゲームサミット」3日目レポート。「研修とゲーム」をテーマに,組織教育にシリアスゲームを活用する可能性を探る
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印刷2025/08/15 07:00

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「京都シリアスゲームサミット」3日目レポート。「研修とゲーム」をテーマに,組織教育にシリアスゲームを活用する可能性を探る

 IGDA日本 SIG Growthは,立命館大学ゲーム研究センター,ホテル アンテルーム 京都と共同で,イベント「京都シリアスゲームサミット」を2025年7月29日から31日にかけて開催した。
 最終日となる7月31日,ホテル アンテルーム 京都では「研修とゲーム」をテーマにしたセッションが行われた。
 
 

日本のボードゲームの変遷とシリアスゲームの立ち位置

 
 3日目のキーノートでは,ルートイレブンの代表取締役を務める野村紹夫氏「日本のボードゲームの変遷とシリアスゲームの立ち位置」と題して講演を行った。
 同氏は,1984年にボードゲーム制作を始め,「パーティジョイ」シリーズ(関連記事)や,「ドンジャラ」シリーズを手がけてきた人物だ。

ルートイレブン 代表取締役 野村紹夫氏
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 野村氏はまず,1970年代までの日本について「ゲームという言葉を発することが,ほとんどなかった時代」と振り返る。当時のゲームはすごろくや麻雀などで,日常的にゲームを楽しむ習慣はなかったという。
 
 転機は1983年だった。「東京ディズニーランドの開園,ファミリーコンピュータの発売,パーティジョイの登場と,日本の遊びや娯楽が大きく変わる年でした」と野村氏。
 ファミコンは「スーパーマリオブラザーズ」の発売で大人も巻き込んだブームとなり,「テレビを自分で操作する」という新しい体験を提供した。
 一方,パーティジョイは1000円という手頃な価格で毎月2本ずつ新作を投入し,ボードゲーム市場に新風を吹き込んだ。

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 しかし1990年代に入ると,紙代の高騰によって価格を維持するために内容を削減せざるを得なくなり,パーティジョイは終焉を迎える。
 代わって「遊戯王オフィシャルカードゲーム」や「ポケモンカードゲーム」などのトレーディングカードゲームが台頭した。
 
 2000年代以降はオンデマンド印刷の普及により,個人でも小ロットでゲームを制作できるようになり,アナログゲームの即売会「ゲームマーケット」が誕生した。
 野村氏は現在の市場を「同人ゲーム」「商業ゲーム」「シリアスゲーム」の3つに分類し,「ボードゲームブームと言われますが,企業が参入しては撤退する状況が続いています」と現状を説明した。
 紙製ゲームのコスト高騰や,そもそも新作を出し続けて制作費を回収できるのかなど,業界が抱える課題についても言及された。

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 最後に野村氏は,ゲーム研究家の草場 純氏が中心となって進めている「アナログゲームミュージアム」外部リンク)を紹介し,経年劣化しやすいアナログゲームをデータベース化することの重要性を訴えた。
 また,研修ゲームも一覧化すれば,企業が使いやすくなると提言した。
 
 

研修ゲームの活用事例

 
 続くパネルディスカッションでは,広瀬眞之介氏(遭遇設計)をモデレーターに,坪谷邦生氏(壺中天),中土井 僚氏(オーセンティックワークス)が「研修ゲームの活用事例」について語った。

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遭遇設計 代表取締役 広瀬眞之介氏
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 広瀬氏は冒頭で「個人をゲームで育てることが可能なら,組織をゲームで育てることは可能でしょうか?」と問いかけた。

 遭遇設計では,心を患った同僚のサポートを疑似体験する「ウツ会議」外部リンク)など,約30種類のビジネス用ボードゲームを取り扱っている。
 
 ゲームの定義について,広瀬氏は「世界と人間の縮図であり,体験を再現するもの」と説明。
 中土井氏が手掛ける「SOUNDカード」は対話ツールだが,広義のゲームに含まれるとした。

壺中天 代表取締役 坪谷邦生氏
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 坪谷氏は25年間の人事経験を持ち,「図解 目標管理入門」などの著書で知られる。
 同氏は「本で知識を届けても,いい目標管理を体験したことがない人には伝わらない」という課題に直面し,疑似体験を通じて学べる「目標管理ボードゲーム」を制作した。
 
 このゲームでは,体験カードを獲得して自分の四象限(夢,強み,使命,業績)を磨き,目標の達成を目指す。特徴的なのは「代理体験」というアクションで,ほかのプレイヤーが持っているカードについてエピソードを聞き,共感することで両者がキューブを得られる仕組みだ。
 坪谷氏は「試作品ながら約150人が体験し,共通体験から共通見解が生まれる流れを実感しています」と効果を語った。

オーセンティックワークス CEO 中土井 僚氏
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 中土井氏は,C・オットー・シャーマー氏が提唱するU理論の専門家として知られる。
 SOUNDカードは,対話が深まった場を再現するために作られたツールで,「現状認識の共有」「ビジョンの策定」「課題の深掘り」「懸念事項の確認」「具体策の策定」という5つのステップで構成される。
 
 「腹を割って話すのは難しいので,時代に合わせたやり方が必要です」と中土井氏は語る。SOUNDカードは自分が話しやすいことから始められるため,心理的安全性を確保しやすいという。
 現在,企業だけでなく地方自治体でも活用が進んでおり,「地域の垣根を超えた連携が生まれています」と成果を報告した。

 ディスカッションでは,なぜ書籍ではなくゲームなのかが議論された。坪谷氏は「経験から学ぶことの重要性」を強調し,「いい上司に恵まれなかった6〜7割の人たちは,疑似体験から学ぶしかないです」と説明。中土井氏も「知識が1人だけにつくと浮いてしまうので,頭でっかちに賢くなることには限界があります」と,集団で変わることの必要性を指摘した。

 また,両氏はゲームの「中間物」としての価値を強調した。坪谷氏は「カードに書いてあったからと言えば,本音と客観のバランスが取れます」と説明し,中土井氏は「どのゲームを使うかよりも,それを使って何をしたいのかが重要です」と応じた。

 最後に広瀬氏は「組織はゲームで育てられます。そして,使い手の魂が乗っかっていることが大切です」と結論付けた。

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坪谷氏の「目標管理ボードゲーム」
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中土井氏の「SOUNDカード」
 
 

研修ゲーム開発シーン,全国の事例と連携

 
 2つ目のパネルディスカッションでは,石神康秀氏(ゲーミフィ・クリエイティブマネジメンツ)と朝戸一聖氏(タンサン)が「研修ゲーム開発シーン,全国の事例と連携」について語った。

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ゲーミフィ・クリエイティブマネジメンツ 代表 石神康秀氏
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 石神氏は,ボードゲームの編集者であり,「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」関連記事)などで知られる。

 日々の情報収集から研修ゲームのリスト外部リンク)を作成し,掲載数は500タイトルを超えたが,「掲載できていないものも多く,研修ゲームの全貌を把握している人はいないでしょう」と現状を説明した。
 SDGsや防災は人気のあるテーマで,それぞれ50タイトル以上が存在するが,制作者同士の横のつながりはほとんどないとのこと。

 ボードゲームは誰でも作れるが,作り方を学ぶ専門学校があるわけではない。また,普段エンタメゲームを作っている人が研修ゲームを作るパターンよりも,大学教授など,自分の専門領域を持った人が,それをボードゲームで表現するパターンが多いため,体系化されていないという。

タンサン 代表取締役 朝戸一聖氏
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 一方で,ゲームデザイナー/アートディレクターの朝戸氏は,ゲームを作ってみたいという相談を受けることがあるそうだ。
 「研修ゲームは,すごろくのような優れたメカニクスのガワを変えるパターンと,実際にやらせたい体験をもとにメカニクスを設計するパターンがあります」と朝戸氏は分析する。相談に来る人は後者のパターンで,その難しさを実感したからだという。

 また,朝戸氏はルールを作ることで人の行動が変わり,それを意識的にできることがボードゲームの良さだと強調する。
 石神氏は,「こうしなさい」とあからさまに書かなくても,ルールデザインによってプレイヤーに「こうしたほうがいい」と考えさせることは可能だとし,これは洗脳に近いと指摘した。
 これを受けて朝戸氏は,「これはゲームなのか?展」に出展した「デロス島のゲーム」のエピソードを披露。ルールを守ると終わらないババ抜きで,悪意の込められたルールを盲目的に守ることの怖さを訴えたという。

セッション終了後は,石神氏を講師としてシリアスゲーム制作のワークショップが実施された
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[2019/02/21 12:00]
 
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 ゲームが持つ力を活用し,どう社会に実装していくか。参加者それぞれが新たな視点を得て,今後の活動につなげていくことが期待される。

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[2025/08/14 07:00]

「京都シリアスゲームサミット」公式サイト

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