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復旦大学教授・葛剣雄氏が示す,中国ゲーム産業出海の別解。「中国要素」へのこだわりを捨て,普遍的モチーフを中国流に再構築
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講演の冒頭で同氏が強調したのは,文化の交流や融合は現代のグローバル化に特有の現象ではなく,人類文明の成立以来,一貫して続いてきた常態であるという点だ。古代においても,異なる文明圏のあいだでは,技術や芸術の相互学習が緩やかに行われており,現代との違いは,その速度と規模に過ぎない。この「文化の流動性」を前提とする視点は,今日のゲームIP創作や海外展開を考えるうえで,重要な基盤になると述べた。
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三星堆遺跡もまた,外来技術を基盤としつつ,古蜀の人々が独自の想像力を加えることで,世界的にも類を見ない造形を生み出した文明だと説明した。こうした事例は,中国文明の象徴とされる成果の多くが,早期の文化流入とローカライズの結果であることを示しているという。
この歴史的視座を踏まえ,葛氏は議論を現代のゲームIP創作と海外展開へと展開する。中国ゲーム産業の黎明期では,世界に対する理解が限られていたこともあり,開発者は主として自国の伝統文化や歴史から着想を得てきた。それは当時として合理的な選択だったが,現在のグローバル環境においては,より広い視野で世界各地の文化的リソースに目を向け,それらを創造的に転換し,中国流に再構築することで,新たな中国IPを生み出すことが可能だと指摘する。
このアプローチには,2つの利点がある。ひとつは,神話や伝承,共通する物語構造といった人類普遍のモチーフが,文化的な壁を越えて理解されやすい点だ。もうひとつは,中国の開発者が独自の美意識や価値観,ゲームデザインを付与することで,新たな文化的価値を創出し,現代的な「中国の創造」へと昇華できる点にあるという。
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一方で,中国国内では,孫悟空のようなキャラクターの成功を,「中国的であること」によって単純化して説明する傾向があると同氏は指摘する。しかし,孫悟空の原型や造形要素が,インド叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する神猴ハヌマーンと深い関連を持つことは,学術的にも指摘されてきた。葛氏は,強い生命力と拡散力を持つ文化記号ほど,もともと交流と融合の土壌から生まれていると強調した。
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また,中国の文化環境においては,歴史的背景から,ゲームを含むエンターテインメント産業が長らく軽視されてきた側面があるという。近年,ゲーム産業が大きな経済効果をもたらしたことで風評は改善したが,その反動として,伝統文化の普及や教育的役割を過度に期待する声も高まっている。
これに対し葛氏は,ゲームの本質を見誤ってはならないと警鐘を鳴らす。ゲームというのはあくまでインタラクティブエンターテイメントであり,文化伝達は副次的な効果に過ぎず,教育の役割を担わせるのは機能の取り違えだと述べた。
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中国ゲーム産業はいま,かつてないほど開かれた環境のもと,海外展開という大きな機会を迎えている。葛氏はこの局面において,ゲームの本質に立ち返りつつ,文化リソースを柔軟に統合し,創造的に再編していく姿勢が求められると結論づけた。
中国的要素を生かすことは重要だが,世界共通のモチーフを中国的手法で深く再創造することこそが,現代における「中国文化の世界進出」を実効的なものにすると語り,講演を締めくくった。
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