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AI規制及び振興がゲーム産業に及ぼす影響について,韓国ゲーム産業の新年討論会で語られる
下記の記事は,GAMEVU(→リンク)に掲載された記事を,許可を得て翻訳したものです。可能な限りオリジナルのまま翻訳することに注力していますが,一部日本の読者の理解を深めるために,注釈の追記や,本文や画面写真の追加・変更をしている箇所もあります。(→元記事)
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そこで行われた,嘉泉大学校経営学科のチョン・ソンミン教授による「AI規制および振興がゲーム産業に及ぼす影響」というテーマの発表を,ここでは紹介したい。
ゲーム産業は,生成AIの猛烈な進撃を前に大きな岐路に立たされている。すでに開発現場で広く導入されているAI技術が生産性を飛躍的に高める一方で,世界各国の規制はそれぞれ異なる方向に進んでいるためだ。
チョン教授によれば,ゲーム業界におけるAI活用はすでに浸透している。ゲーム開発職の新人が入社した際,膨大なゲームコードをAIに学習させておけば,質問するだけでオンボーディング期間を大幅に短縮できるという。
キャラクターデザインも同様だ。かつては企画者が意図を言葉で説明し,デザイナーが描いては修正するという工程を繰り返す必要があったが,今では生成AIにプロンプトを入力するだけで,短時間で複数のデザイン案を得られる。
3DモデリングやNPCのセリフ作成,プロトタイプ開発といった分野でも生産性の向上が見られる。チョン教授の調査によると,世界中の多くのゲーム会社が生成AIをすでに導入しているか,導入に向けた実験を進めているという。
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それにもかかわらず,ゲーム会社がAI活用を公言しない理由がある。
1つは社会的なイメージの問題だ。AIを多用することが,人員削減と結びつけられかねないという心理的事情がある。
もう1つは消費者の反発である。ウェブトゥーンをはじめとする創作コンテンツでは,AI活用に対する不買運動がすでに起きており,ゲームでも同様の事態が起こりうる。そのためゲーム会社は,AI活用の事実を明かさないまま競争力を高めるという戦略を取っているのが実情だ。
世界の規制環境は地域によって大きく異なる。
EUは「AI法」でリスクに応じてAIを5段階に分類し※,リスクベースの規制を導入している。個人の医療情報など機密性の高い情報は最上位リスクに分類され,AI活用が制限される。AIで制作されたコンテンツには必ず「これはAIで制作されました」というラベル表示が義務づけられ,IT大手への課徴金も極めて重い。しかしこれは戦略的な判断でもあり,GoogleやAmazonといったアメリカのIT大手の勢力拡大を抑える狙いも強い。
※「EU AI Act」は2024年5月21日に欧州理事会により採択され,同年8月1日に発効された行政法規。「禁止されるリスク」「ハイリスク」「限定的なリスク」「最小限リスク」の4段階に加え,「汎用目的型AI(GPAI)モデルのシステムリスク」を独立して重大な事故や悪用を引き起こす可能性がある場合,追加の管理責任が課される。
アメリカのアプローチはまた異なる。トランプ政権の登場により連邦レベルの規制は緩い方だが,カリフォルニアのような州政府レベルでは保守的な行政命令を施行している。そしてこれは,連邦政府と州政府間の微妙な葛藤を引き起こすことになる。※
※米国では2025年1月,トランプ政権がバイデン前政権のAI大統領令を撤回した。同年7月の「America's AI Action Plan」(PDF)で州レベルの規制を「断片化(fragmentation)」として批判し,統一的な連邦基準を主張した。さらに同年12月には「Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence」(whitehouse.gov)と題する大統領令に署名し,コロラド州のAI規制法などを名指しで批判し,厳格なAI規制を持つ州への連邦補助金制限を表明するなど,州政府との対立が深まっている。
さらにアメリカは自国のIT企業を守るため,他国の規制政策に直接介入している。韓国の「オンラインプラットフォーム公正化法」をめぐる議論では,アメリカ商工会議所と通商代表部が直接意見を表明したことが象徴的だ。※
中国は政治的リスクを除き,AI技術の開発と産業育成には積極的な姿勢を示している。
※EUのデジタル市場法をモデルに,韓国が推進した「オンラインプラットフォーム公正化法」に対し,アメリカ商工会議所は2024年3月に「外国企業を恣意的に標的にしている」と批判した。アメリカ通商代表部も「差別的」として警告し,通商法301条に基づく対抗措置の可能性を示唆した。アメリカ議会も2024年7月に韓国公正取引委員会に懸念を表明するなど,韓国の規制に圧力をかけた。
韓国は今年1月22日に,「人工知能の発展と信頼基盤の構築等に関する基本法」(Framework Act on the Development of AI and Establishment of Trust Foundation,以下「AI基本法」)を施行した。ヨーロッパのAI法を大いに参考にしているが,同時に「振興と規制の両面性」を持つ。
ゲーム産業の観点では,高リスクAI(医療・安全情報)との関連は薄いが,ユーザー保護や過度な没入の防止,青少年保護に関する条項は,韓国ゲーム物管理委員会(GRAC)※を通じて厳格に適用される可能性が高い。
※韓国の文化体育観光部に所属する公的倫理審査機関で,ゲームのレーティングや不正行為の監視・管理を行う,強力な法的拘束力を持つ組織(関連記事)
またAIで生成したすべてのコンテンツにはウォーターマーク表示が義務づけられ,未表示の場合は最大3000万ウォン(約300万円)の過怠料が科される。極端な例だが,小学生がフラッシュゲームを作ってオンラインに公開しただけでも,過怠料の対象になりうるということだ。
| 区分 | EU | US | 中国 | 韓国 |
|---|---|---|---|---|
| 核心法案 | EU AI Act | 行政命令(EO) 州法案 |
生成型AIサービス管理方法 | AI基本法 |
| 政策基調 | 人権中心の倫理 ビッグテック牽制 |
市場中心のイノベーション 州政府の規制 |
国家安全保障および思想統制 | 産業振興と倫理規制の並行 |
| 産業影響 | 透明性義務 コンテンツAI表示義務化 |
著作権登録不可 訴訟リスク↑ |
コンテンツ検閲 政治的安定性の確保 |
高リスクAIの分類指定 青少年保護を重視 |
| 罰則 | 売上の最大7%または3500万ユーロの罰金 | 州ごとに異なる 集団訴訟の対象に |
サービス提供停止 標準認証の取得不可 |
過怠料 是正命令 等級分類への影響 |
チョン教授が指摘する矛盾は鋭い。韓国政府は「AIを国家戦略産業として育成する」と掲げながら,実際にはAI導入で最も先行しているゲーム産業に対し,明確な支援策を何ら示せていないという点だ。
韓国のKコンテンツ輸出の60〜70%をゲームが占めるにもかかわらず,Kコンテンツ50兆ウォン輸出という目標を掲げる一方で,ゲーム産業への振興政策は「様子見」の状態だという指摘がある。保護者の票を意識してゲーム産業支援を打ち出しにくいという政治的事情が,産業政策を歪めてはならないということだ。
一方,法的リスクも小さくない。
AIを活用すれば著作権侵害のリスクが高まる一方,人間の創造性が関与していない純粋なAI生成物は著作権保護の対象外となる。そのため開発過程で「人間がどの程度関与したか」の判断基準が曖昧で,グレーゾーンが広がっている。ゲーム開発においてプロンプトで詳細に指定した場合と,「漫画風に描いて」といった抽象的な指示の間で,どこに線引きするかが不明確だということだ。
ゲームがリリースされた後,各シーンの著作権をすべて追跡するのは事実上不可能だが,ひとたび法的紛争になればゲーム会社は対応せざるを得ない。大企業はコンプライアンス部門で備えられるが,インディーの開発会社にはそうした余裕がなく,業界内の格差が深刻化する懸念がある。
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コンプライアンスコストも課題だ。チョン教授はAI時代にゲーム会社が直面する新たなコスト負担を挙げる。ウォーターマーク技術の実装,法的紛争への備え,内部監査システムの運用,Steamなどのプラットフォームが求めるAI使用の開示義務への対応などだ。
Steamは2024年から,AI生成やリアルタイムAI生成の有無を開示するよう義務づける方針を打ち出した。消費者もAI活用の有無への関心を高めており,ウェブトゥーン市場で起きたAI使用作品へのボイコットが,ゲーム市場にも波及する可能性は十分にある。
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ただしチョン教授は,新たな機会も示唆する。インディーゲーム開発会社にとっては「AIを使わないゲーム」がマーケティングの武器になりうるという見方だ。手作りのトンカツが工場生産品と差別化されるように,人の手で丁寧に作られたゲームを前面に押し出す戦略が,新たな顧客層を獲得できるという考えだ。
また政策当局に対しては,AI基本法を硬直的に運用せず,「規制サンドボックス」ではなく「規制ビーチ」のように幅広い実験を認めるべきだと訴える。ゲーム物管理委員会の等級審査制度もAI時代に即して見直す必要があり,インディー開発会社向けのAIバウチャーや技術支援プログラムも求められる,と結論をつけ発表を締めくくった。
(著者:パク・サンボム)
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