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[SPIEL\'19]「7th Sea」や「クトゥルフの呼び声」の最新サプリメントについて,Chaosiumに話を聞いた
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印刷2019/11/02 20:40

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[SPIEL'19]「7th Sea」や「クトゥルフの呼び声」の最新サプリメントについて,Chaosiumに話を聞いた

 日本では「クトゥルフの呼び声」の開発・出版元として名高いChaosiumは,今年もエッセンの「SPIEL'19」に大規模なブースを出展していた。
 中でも目立っていたのは同社が新たに開発および出版の権利を取得したテーブルトップRPGの「7th Sea」と,「クトゥルフの呼び声」の最新サプリメント「Berlin: the Wicked City」だ。これらの作品について,Chaosiumの副社長を務めるJeff Richard氏に話を聞いた。

Jeff Richard氏
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「Chaosium」公式サイト



「7th Sea」を引き受けた理由


4Gamer:
 まず最初に,歴史あるTRPG「Legend of the Five Rings」や「7th Sea」のデザイナー,John Wick氏がChaosiumに加わり,「7th Sea」をChaosiumが出版することになったわけですが,狙いについて教えてください。

Jeff Richard氏(以下Richard氏):
 ゴールとしているのは,「7th Sea」がKickstarterで再始動したときになされた約束を完遂することです。また,新規に出版する本のクオリティも向上させます。Chaosiumが発行している「クトゥルフの呼び声」や「ルーンクエスト」と同じくらいの出来ばえになると考えてください。

4Gamer:
 在庫をすべて引き取ったということですが,新規展開としてはどのようなことを考えていますか。

Richard氏:
 スターターキットを筆頭に,コンベンションでのサポートやゲームプレイそのものに対する支援などを充実させていく予定です。
 我々が「7th Sea」を継続していくことに対して,既存の「7th Sea」コミュニティからどのような意見が出てくるのかも知りたいとも思っています。我々とコミュニティの間での相互作用によって何が起こるのか,そこには私も大きな期待を寄せています。ともあれ,「7th Sea」が素晴らしいゲームであることは論を待ちませんし,我々がこのゲームのサポートを続けていけることを嬉しく思っています。

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4Gamer:
 ご自身,ずいぶん「7th Sea」に入れ込んでいるようですね。

Richard氏:
 私は学生時代にフェンシングを練習していたので,スワッシュバックラー達が主人公になるゲームが大好きなんです。また「7th Sea」のデザイナーであるJohn Wick氏はすばらしい人物で,「ルーンクエスト」「クトゥルフの呼び声」「ペンドラゴン」にもシナリオを寄稿してくれました。そういう縁があったのも,「7th Sea」の出版を引き受けた背景にありますね。

4Gamer:
 残念ながら「7th Sea」は日本ではそれほど有名なタイトルとは言えません。ほかのChaosium作品と「7th Sea」はここが違う,というポイントがあれば,教えてください。

Richard氏:
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 「7th Sea」はとてもルールが軽く,またシネマティックな展開のゲームです。スワッシュバックラーが登場する映画の主役になるような感じですね。スピーディな展開に加えて,「正義のヒーローが悪漢を退治する」という爽快な物語が楽しめます。
 これが例えば「ルーンクエスト」なら,世界の構造はもっと複雑ですし,キャラクターは映画の主人公のようには振る舞いません。また「クトゥルフの呼び声」なら,キャラクターはある意味,映画の主人公のような活躍をしますが,爽快なハッピーエンドを求めるのは,なかなか大変です。
 「ペンドラゴン」ではアーサー王時代の騎士となって英雄的な探索を行えますが,プレイヤーはあくまでアーサー王時代に活躍した名もなき騎士の1人であり,その時代の主人公というわけではありません。
 一方,「7th Sea」のキャラクターは「三銃士」のような作品の主人公で,悪漢を倒して囚われた姫を救出するヒーローです。この点が,もっとも大きな違いでしょうね。

4Gamer:
 殺しても死ななさそうな英雄達による活劇というわけですね。

Richard氏:
 そうです。実際,ルール的にも「7th Sea」のキャラクターはプレイヤーが「キャラクターの死」を望まない限り死にません。スリルとサスペンスあふれる冒険を,大胆不敵に楽しめるわけです。

4Gamer:
 スワッシュバックラーが活躍する物語ということですが,キャラクターに職業のようなものはあるのでしょうか。

Richard氏:
 キャラクターには出身文化と職業が設定されます。例えば「イタリア文化出身の,Fate Witch(宿命の魔女)」といった感じですね。職業の種類は多く,それぞれの職業ごとに特殊な能力もあります。とはいえ「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のクラスほどはっきりと職業が別れているわけではなく,イメージとしては「D&Dとルーンクエストの中間くらい」だと思ってください。

4Gamer:
 なるほど。ところで,日本語版が出る予定はありますか。

Richard氏:
 残念ながらまだそういう話はありません。今後に期待しています(笑)。

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「私が作ってきたもののなかで一番好きな一冊」


4Gamer:
 続いて「クトゥルフの呼び声」の最新サプリメント「Berlin: the Wicked City」(以下Berlin)についてお話を聞きたいと思います。

Richard氏:
 (待ってましたと)このサプリメントはね! すごいですよ! 本当にすごい!

4Gamer:
 そんなにすごいんですか。

Richard氏:
大量に持ち込まれたにもかかわらず,イベント2日目にして完売した「Berlin: the Wicked City」
画像集 No.005のサムネイル画像 / [SPIEL'19]「7th Sea」や「クトゥルフの呼び声」の最新サプリメントについて,Chaosiumに話を聞いた
 私が作ってきたものの中で,一番好きな一冊と言っていいくらいにすごい本です。
 このサプリメントは戦間期のベルリンを扱っていますが,ご存知のとおり1920年代のベルリンは狂気の都でした。ベルリンの街そのものがキャラクターだと言っていいくらい,個性の強い都市だったんです。
 これを踏まえて,Berlinでは3つのシナリオを用意しました。最初のシナリオは第一次大戦直後で,最後のシナリオはナチスによる「乗っ取り」(Machtergreifung)直前となっています。

4Gamer:
 それは絶対に面白いヤツですね!

Richard氏:
 間違いなく,最も狂ったシナリオです。このシナリオのテストプレイには私も参加していますが,プレイ直後はとにかく……何と言っていいのか言葉にならなかったくらいでした。当時のベルリンがどれほどすさまじい都市だったのか,シナリオを通じて理解できると思います。

4Gamer:
 シナリオ以外にも,当時のベルリンに関する資料も付属しているわけですよね。

Richard氏:
 もちろんです。さまざまなロケーションについて解説していますし,キャバレーをランダム生成するジェネレーターといったものも用意しています。
 1920年代のベルリンは,セックスとドラッグと腐敗が支配する都市でした。またLGBTQも多くて,自由に活動していました。第一次大戦とその敗北によって,それまでのドイツを支配していた文化のタガが外された状態になっていたわけです。ある意味,1960年代のサンフランシスコに似ているとも言えますね。結果的に1920年代のベルリンは,世界のほかのどの都市とも違う都市になりました。これは本書にも反映されていて,本当にエキサイティングなサプリメントになったと自負しています。

4Gamer:
 とはいえ日本ですと,戦間期のベルリンはちょっとなじみがないという人も多いと思います。私の世代だと,戦間期ベルリンといえばマレーネ・ディートリッヒを筆頭にさまざまな映像作品や芸術作品を思い浮かべるのですが,そういった参考資料はありますか。

Richard氏:
 これもまたもちろん。Berlinにはドイツ映画セレクションのコーナーを設けています。「嘆きの天使」「カリガリ博士」といったメジャーどころから,あまり知られていない実験的作品まで,当時のベルリンの空気を感じられる映画をたくさんリストアップしました。
 それからもう1つ,本書で強調したいのは,「とてもヨーロピアンなサプリメントだ」ということです。これまで「クトゥルフの呼び声」の舞台はアメリカか,あるいはイギリスが中心でした。Berlinは1920年代のヨーロッパ本土を舞台とした,初めてのサプリメントでもあるんです。

4Gamer:
 大変に興味深いサプリメントなのですが,資料のリサーチが大変ではありませんでしたか。

Richard氏:
 リサーチには4年かけています。それから,執筆陣は基本的にアメリカ人を起用しました。ドイツ人の作家に依頼することも考えたのですが,TRPGのサプリメントとして作るとなると,ドイツ人作家ではちょっと距離が近すぎるんです。

4Gamer:
 なるほど。ドイツ人プレイヤーにとってはそのほうがいいかもしれませんが,「ドイツ人にとって常識」なことが省略されてしまったりすると困りますね。

Richard氏:
 もちろん,現地取材もちゃんとしていますよ。私の妻はドイツ人なのですが,Berlinの草稿を読んだ彼女がその内容に大いに感激して,執筆陣を連れてベルリンの重要なスポットを案内して回ったこともあります。

4Gamer:
 それはまた期待が膨らみます。日本語版にも大いに楽しみにしたいと思います。

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アナログとデジタルを行き来するゲーム


4Gamer:
 最後の質問です。今年ついに「クトゥルフの呼び声」のオフィシャルゲーム「Call of Cthulhu: The Official Video Game」が発売されましたが,この作品について教えてください。

Richard氏:
 (それについても話したいことが多すぎるという顔で)素晴らしいゲームだと思います。私は原作側の責任者として開発中にいろいろなバージョンをプレイしましたが,大いに楽しませてもらいました。とにかくシナリオがいいし,ゲームシステムもTRPGを感じさせて申し分ありません。可能であれば第2弾も作りたいと思っています。デベロッパであるCyanideと一緒に仕事ができて本当に嬉しかったですね。
 もちろん,私の耳にも「ちょっとボリュームが少ないんじゃないか」という批判の声は届いています。長く遊んで20時間くらいでクリアできてしまう,と。ですが私の場合,1日1時間ずつ,だいたい1か月くらいかけて最後までプレイしたということもあって,そこまでボリューム不足とは感じませんでした。コアゲーマーとは違う遊び方だと思いますし,そういう人達にとってはボリュームが少なく感じるだろうというのも理解できるんですがね(笑)。

4Gamer:
 Richard氏は今回,TRPGをPCゲームにするというプロジェクトにおいて監修的な立場で制作に関わられました。もしご自分がPCゲームを原作としてTRPGをデザインするとしたら,どんな方針で挑みますか。

Richard氏:
 それはエキサイティングな質問ですね。そうだな……まずは,世界の設定をより立体的なものにすることから着手します。
 私の目から見ると,コンピュータゲームは「チート」しているように思える部分があるんです。というのも,コンピュータゲームでは精密で繊細なグラフィックがふんだんに使えるじゃないですか。これは,ビジュアルでゲームをサポートしているわけです。でもTRPGでは,事実上すべてが言葉で表現されます。このため,プレイヤーに世界をリアルだと感じてもらうには,万事において描写や解説が必要になるんです。

4Gamer:
 なるほど。

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Richard氏:
 それから,サンドボックスをデザインすることを意識します。とくに背景設定を作り込みますね。コンピュータゲームも最近は複雑化していますが,TRPGが持つ可能性に比べればストーリーは一本道です。
 私はPCゲームの開発者と話をすることもありますが,彼らはよく「コンピュータゲームでは不可能なことが,TRPGなら可能だ」とか,「TRPGではプレイヤーが無限にパッチを発行するようになっているのがうらやましい」と口にします。
 それほどの可能性を担保するには,どんなストーリーが織られようとも,どんな視点で物語が進もうとも,その物語の登場人物にスポットライトがあたるようなデザインが欠かせません。このために最も有効なのは,ストーリーではなく,背景設定を作り込むことなんです。

4Gamer:
 そんな面白そうな話を聞くと,Richard氏が作った「Skyrim TRPG」のようなタイトルを期待してしまいます(笑)。

Richard氏:
 ともあれ,SPIEL会場を見てもアナログとデジタルの垣根が下がり,両方のフィールドを作品が行き来するのを目にすることが増えました。
 例えば「Cyberpunk2.0.2.0.」はTRPGとしてスタートし,「Cyberpunk 2077」としてコンピュータゲームになり,そして今,「Cyberpunk 2077」をベースにしたカードゲームが制作されようとしています。こうした事例は今後どんどん増えていくのではないかと感じています。
 ただ,アナログゲームとデジタルゲームの垣根が下がったとはいえ,この2つが異なるメディアであるとことは変わりません。アナログにせよデジタルにせよ,「なぜこのゲームが面白いゲームとして成立しているのか?」を考えることがとても重要だと思います。

4Gamer:
 たくさんの質問に答えていただき,本日はありがとうございました。

CMONブースに展示されていた「Cyberpunk 2077: Afterlife」
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「Chaosium」公式サイト

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