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「完成度至上主義」はなぜ通用しなくなったのか。中国ゲームの海外進出が直面する「マーケットフィット」という壁
とはいえ,多くの中国開発チームが長らく拠り所としてきたのが,完璧主義的かつ品質優先の発想だ。細部まで作り込み,最高の完成度に到達したゲームであれば,市場でも自然と評価されるという国内市場での成功体験が,思考の土台になってきた。
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しかし,2025年12月17日から19日にかけて開催された「中国ゲーム産業年会2025」で,G-bits主催の「ゲームグローバル化研究フォーラム」会場にて,Lilith Gamesの戦略研究のエキスパートである文 遠(Wen・Yuan)氏は,「海外ユーザーを巡るローカライズ研究の洞察手法」と題した講演の中で,この発想自体が海外市場では判断を誤る要因になり得ると指摘した。
自国市場で通用した価値観や成功パターンをいかに相対化し,ライフスタイルや文化,社会構造によって形づくられた,各市場固有の「明文化されていないルール」を理解できるか。文氏は,ここに海外進出の最初の壁があると語った。
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米国市場を例に挙げると,文氏はロサンゼルスの中心部と郊外に赴き,実際に比較した調査結果を紹介した。郊外型の居住スタイルが一般的な米国では,居住スペースに余裕があり,家庭内におけるコンソールやPCの設置環境が整っている。
加えて,屋外での細切れ時間が相対的に少ないことや,地域によるネットワークインフラ格差の存在もあり,家庭内シーンにおいては,モバイルゲームが必ずしも優位に立てるとは限らない構造があるという。
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一方で,東南アジアや中南米といった新興市場では,中国メーカーならではの強みと同時に,固有の制約も浮き彫りになる。決済環境に目を向けると,中国国内で高度に統合された「Alipay」や「WeChat Pay」とは異なり,東南アジアでは第三者決済の利用比率が非常に高い。
言い換えれば,ユーザーが「課金までたどり着けない」状況が珍しくないということなので,中国のゲーム開発者にとって最初の課題は,「面白いゲームを作ること」以前に,「ユーザーが支払いやすい,整った環境をどう構築するか」にあると文氏は述べた。
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さらに,より根本的な要因として挙げられたのが,ハードウェアコストの問題だ。高いコストパフォーマンスを誇る中国市場のスマートフォンと比較すると,中南米では関税や治安といった事情から,スマートフォンが耐久消費財ではなく,消耗品として扱われるケースが多い。そのため,低スペック端末への最適化が求められるが,これは技術力の不足ではなく,現地の購買力や製品ライフサイクルを前提とした,合理的な市場適応だと整理される。
これらの事例が示しているのは,海外市場における競争力が,単純な完成度や技術力の高さだけでは成立しないという現実だ。ユーザーがどのような環境でゲームを遊び,どのデバイスが主流で,ゲームに何を求めているのか。そうした市場全体のエコシステムを理解し,適応していく視点が不可欠となる。
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文氏は,社内での閉じた検証や資料更新だけでは限界があり,現地の生活習慣や文化,インフラ条件に踏み込むことで初めて,ゲームコンテンツの本当の強みや機会が見えてくると強調した。
たとえば米国では,モバイルゲームのユーザーが「ミニゲーム的な体験」を求める層として捉えられることがあり,中国市場で一般的とされる「深みや完成度を重視するモバイルユーザー像」とは必ずしも一致しないという。
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こうした認識のズレを受け入れ,戦略に反映できるかどうか。それが,出海タイトルが単なる「グローバル展開」にとどまらず,真の意味でのローカライズを実現できるかを左右すると,文氏は講演を締めくくった。
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