お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名

LINEで4Gamerアカウントを登録
[インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2025/12/05 16:30

インタビュー

[インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

 4Gamerの読者の皆さんには今さらだが,ゲームにおける“エポックメイク”は10年ごとに塗り替えられてきた。

 PC(その当時は「マイコン」という呼び名だが),コンソール,オンライン,スマホ……そして次はブロックチェーン? それともAI? その未来を,ずっと追いかけているのが,NEXUSのCEOであるHenry Chang(ヘンリー・チャン)氏だ。
 1996年,大学生の頃からネクソンで働き「新しい技術がゲームを素晴らしいものにしていく瞬間」を見続けてきた氏にとって,ゲームのブロックチェーン化は「いつか必ず浸透する。問題はそれがいつなのか」だという。

NEXUS CEO
Henry Chang(ヘンリー・チャン)氏
画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

 2年ぶりにお会いできたG-STAR会場で話を聞いたのが以下のインタビューだが,突如解雇されたばかりか起訴された苦しみの2024年を超えて氏が出した結論は,業界からの撤退ではなくて「さらなる前進」だった。「ブロックチェーンとゲームの融合こそ自分の使命」として再び起業し,最前線に戻ってきたというわけだ。

※氏は資本市場法違反の疑いで起訴されたが,一審,二審共に無罪となった。二審の無罪判決はつい先日,11月27日のことなので,本インタビュー時にはまだ判決は出ていない状態だったわけだ。


関連記事

WEMIX流通量操作の容疑で,元Wemade代表チャン・ヒョングク氏に一審は無罪判決

WEMIX流通量操作の容疑で,元Wemade代表チャン・ヒョングク氏に一審は無罪判決

 ブロックチェーンゲーム「MIR4」の大ヒットで知られるWemadeの元代表チャン・ヒョングク氏が,仮想通貨「WEMIX」の流通量操作容疑で起訴されていた事件で,ソウル南部地裁は7月15日,同氏とWemade法人に対して一審無罪判決を言い渡した。

[2025/07/22 12:00]

 ブロックチェーンゲームが主流になれない理由を冷静に挙げ,それらを1つ1つ潰していく。ゼロからWeb3専用タイトルを作るよりも,まずは面白さが証明されたゲームを“Web3へトランスフォーム”するという現実路線を取るのも,業界歴の長いチャン氏らしいやり方だ。

 その鍵となるのは,ウォレットをユーザーの視界から消す「CROSS」だ。メッセージアプリのアカウントなどとウォレットを裏で紐付け,DiscordやLINEなど既存のツールでトークンをやり取りできる“Web3メッセージング”を狙う。
 その開発に110人を使うのも,ブロックチェーンは下火と言われる今を「むしろチャンス」と捉えるチャン氏らしさだ。さらにAIボット「ARA」でオンボーディングや取引を支援し,いずれはユーザーの面倒まで肩代わりしてくれるようだ。

古代韓国語で「ARA」は海を意味しており,現代韓国語においては「私は知っている」と発音が近い。「CROSS ARA」で,「海を越えて」というビジョン通りの名前になっているというわけだ(LinkedInのポストより
画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

 チャン氏が第一号投資者として支援している,AIプロンプトでゲームを作れるUGCプラットフォーム「Verse8」にも,制作したゲームをWeb3化・トークン化する機能が追加されるという。β開始後,MAUが20万→100万→300万と右肩上がりで伸びているその勢いは,ブロックチェーンの次に来ると思われていた“AIの波”までが目前に見えているかのようだ。
 日本ではもう完全に下火になってしまっているが,これからのブロックチェーンゲームが越えるべき壁と,その先の景色をチャン氏に語ってもらおう。

画像ギャラリー No.004のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
4Gamer:
 お時間ありがとうございます。
 お久しぶりで……確か,2年前のG-STARでお会いして以来ですよね。

Chang氏:
 はい,そうですね。私は去年参加しなかったので,G-STARそのものが実に2年ぶりです。

4Gamer:
 お元気かなとちょっと心配だったんですが,とてもお元気そうで安心しました。

Chang氏:
 ありがとうございます(笑)。
 2年前にお会いした時に,「来年リリースするゲームが大成功して,Web3の大きなモメンタムを迎えることになる」とお話したと思うんですが,その時お話ししたタイトルが「NIGHT CROWS」で,昨年3月12日にリリースし,大変成功を収めました。

4Gamer:
 そうですね。リリースのときに「あーこれのことだったのか」と思いました。あんまりWeb3感が強くなかったのもよいと思います。

Chang氏:
 ところがまぁ,おそらくご存じのように,ちょうどNIGHT CROWSのリリース前日である3月11日の月曜日に,私は突如解雇されまして。去年は苦しみの中で過ごした1年間でした。それでG-STARにも参加できなかったんです。

画像ギャラリー No.005のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

関連記事

グローバル版「NIGHT CROWS」の収益がサービス開始から3日間で1000万ドル(約15億円)を突破。Wemadeのタイトルで最高の実績

グローバル版「NIGHT CROWS」の収益がサービス開始から3日間で1000万ドル(約15億円)を突破。Wemadeのタイトルで最高の実績

 Wemadeは本日,グローバル版「NIGHT CROWS」の収益が,3月12日のサービス開始から3日間で1000万ドル(約15億円)を突破したと発表した。この売上推移は,Wemadeがこれまで運営してきたゲームの中で最高の実績であり,グローバル版「MIR4」10倍にあたるとのこと。

[2024/03/15 17:34]

4Gamer:
 あ,前日だったんですね……。

Chang氏:
 そんなわけで,しばらくは苦痛の時間を過ごしました。
 しかし正気に戻って冷静になって,これから何をしようかと考えた時,やはりブロックチェーンとゲームを融合させることが,自分が最も自信を持てる仕事だということに気づきました。そしてマーケットを,世の中を見渡してみたところ,ゲームとブロックチェーンの融合が持つポテンシャル,可能性を私以上に信じている人はいませんでした。
 ということで,「これが私の一生の使命だ」と思い,新しく会社を立ち上げることにしました。その会社がこのNEXUSです。

4Gamer:
 あなたが,少なくとも韓国でのブロックチェーンの第一人者であるということは僕もそう思います。
 しかしいまだからこそすごく正直な話をすると,最初にお会いしてブロックチェーンの話をした時は,ただのお金持ちの社長が道楽と山っ気でやってるんだろうなと思ってたんですよ。すみませんでした。

Chang氏:
 ハハハ,なるほど(笑)。

4Gamer:
 でも実際は,全然そんなことはなかったし,事実こうやってブロックチェーンゲームそのものが下火になっている今であっても,新しいことを挑戦しようとしています。本当に誤解してました。すみません。
 しかしこうやって,多くの人がもうあまり注意を向けないジャンルに真剣に取り組んでますが,そのモチベーションは一体どこから来ているんですか?

Chang氏:
 そうですね……1996年の話なので,大体30年くらい前でしょうか。そのときに私は大学4年生で,すでにネクソンで働いてました。
 当時はまだ,金正宙(キム・ジョンジュ)さんがネクソンを創業して1年ちょっとしか経ってないころで,そんな昔からずっと,新しい技術がゲームをさらに素敵なものにしていくことを見てきました。

4Gamer:
 そうですよね。私ももうだいぶ長く見ているので,それは分かります。コンピュータゲームというエンタメは,テクノロジーが強化していくんですよね。

2017年のビットコインのグラフはこちら。ソースはBBCだ(→記事はこちら)。11月29日の記事なので,その年の最高値は表示されていない
画像ギャラリー No.006のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
Chang氏:
 韓国ではネクソンが,インターネットを使ったオンラインゲームという市場を最初に開いて,そして2010年にはiPhoneが登場して,スマートフォンがまたゲーム市場を変えました。
 まぁ実はブロックチェーンに関しては,最初はほかの人と同じようにあまり興味はありませんでした。興味を持ったきっかけは,2017年にビットコインの価格が急騰した時です。

4Gamer:
 あれ,比較的最近なんですね。

Chang氏:
 ええ。最初はネガティブな印象でしたが,知れば知るほど,ブロックチェーンのトークン化という技術がゲームと非常に相性が良いという確信を持つようになりました。というより,これはもう定められた未来なので,いつ,どうやって,誰が実現するのかだけが問題であるという状況です。
 それならば,私が諦めずに続ければ,いつかは大きな成果を出せるだろうという確信を持ってやってきて,もう8年ほどになります。

4Gamer:
 8年間挑戦し続けているのは,この業界においては相当すごいと思います。

“最も長くサービスされているオンラインゲーム”としてギネスブックに登録された「風の王国」関連記事
画像ギャラリー No.008のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
Chang氏:
 あなたもたぶん知ってると思いますが,1996年1月に「風の王国」というオンラインゲームが初めてネクソンからリリースされた時,市場は「オンラインゲームなんて誰がやるの? もっとクオリティの高いPCゲームやスタンドアロンゲームをプレイするでしょ」と言ってたものです。でも今はどうでしょう。
 モバイルゲームも同様です。「携帯電話でゲームなんか誰がやるの? コンソールやPCゲームをプレイするでしょ」と言われていましたが,今やユーザー数や売上はモバイルゲームの方が圧倒的です。

4Gamer:
 歴史は繰り返すんですよ。

Chang氏:
 そう。同じように,ブロックチェーン技術はすべてのゲームに適用できるわけで,すべてのゲームの重要な資産をオンチェーンに移行してトークン化する流れは,いつかすべてのゲームに浸透すると思います。いつそうなるかが問題なだけで。

4Gamer:
 いまおっしゃってたように,確かにゲーム業界は10年おきにエポックメイクな出来事が起こっています。
 1990年あたりからコンソールゲームが大ブレイクして次世代機に以降しましたし,2000年にはオンラインゲームがブレイクしました。そして2010年ぐらいには,いまも話題に出ましたがスマホのゲームがブレイクしました。
 なので2020年はブロックチェーンの出番じゃないかと思っていたんですが,まだ来ません。来ませんというか,正直なところい日本ではちょっと終わった感さえあります。一体何が足りないと思いますか?

Chang氏:
 3つあると思います。
 まず1つ目は,ブロックチェーン技術自体が分散型であるため,ユーザーエクスペリエンスが難しいことです。ウォレットのインストールやウォレットアドレスが長く複雑であることなど,ユーザーに馴染みにくい部分がありますよね。

4Gamer:
 ウォレットの概念はホントうんざりするし,なくなるべきですよあれ。

Chang氏:
 2つ目は,これは誰も意図したことではなくて,良いのか悪いのかの判断も難しいですが,ブロックチェーンゲームで初めて成功したのが「Axie Infinity」であるということです。成功はしましたが,あれはゲームとしてあまり面白くないんです。
 なので,ゲーマーの感覚としては「ブロックチェーンゲームは面白くない」「ただのギャンブル」といった印象が残ったと思います。

画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

4Gamer:
 まぁ……正直ゲームとして遊びたくなるか,と問われると,そうでもないですね。

Chang氏:
 そして3つ目は,先ほどもお話に出たゲームの歴史を見れば分かるように,初回の試みがすぐに成功するわけではありません。初期段階の試みは,技術面やゲーム性における弱点を抱えており,それを解消したゲームが出て,そこから市場が形成されるというのを,オンラインゲームの時も,モバイルゲームの時も見てきました。
 例えばモバイルゲームは,それまでも様々なチャレンジがありましたが,「パズル&ドラゴンズ」が登場してようやく大きな成長を始めました。ブロックチェーンゲームにも成功事例はありますが,まだメインストリームになっていないのは,解決すべき問題が残っているからだと思います。

4Gamer:
 いまだ残る「解決すべき問題」はどのあたりを想定してますか?

Chang氏:
 一番重要であろう技術的な面で言うなら,以前に比べてかなり簡単になりましたよね。
 もちろんさらに簡単になる必要がありますが,今はユーザーがブロックチェーンを使っていることを意識させないレベルのユーザーエクスペリエンスが可能になる技術的成果が出ています。
 また,私が試みているのは,新しいWeb3ゲームを作るのではなく,既にリリースされた面白いゲームにブロックチェーン技術を適用してWeb3ゲームにトランスフォームすることです。これまでオンラインゲームやモバイルゲーム市場がそうして成長してきたように,ブロックチェーンがゲーム市場のデフォルトオプションになる日が必ず来ると思います。

ラグナロクやROHANなど,元々人気のあったゲームをCROSSに乗せ続けている
画像ギャラリー No.010のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

4Gamer:
 でもここまでの日本がそうだったですけど,ブロックチェーンをちゃんとゲームに組み込もうとして,ゼロから作って,ほぼほぼ失敗してしまっているわけなんです。
 ゼロから作ってもうまく馴染まないことが多いのに,今チャンさんが言ってたように,既存のものにあとからくっつけるのは,ゲームシステムとして無理が生じたりはしないんですか。

Chang氏:
 現実と理想の差という点で問題は多いですが,今はまだ市場の初期段階ですし,ゲームにブロックチェーンを適用したトークノミクスもまだまだ発展が必要です。
 これまでは,経済が複雑なMMORPGがブロックチェーンテクノロジーの対象として適していましたが,今はほかのジャンルもブロックチェーンとよく合うと思いますね。

4Gamer:
 どんなものを流通させる方向で考えてるんでしょうか。

Chang氏:
 例えば,日本で人気のサブカルチャージャンルのゲームは,ブロックチェーンとは合わないという話があります。なぜなら,キャラクターは自分の分身のように大切なので,キャラクター自体を売買することがそもそも成立しない,と。
 なので今,私たちがサブカルチャーゲームを作るパートナー企業と話しているのは,キャラクターは売らなくて良いということです。しかし,キャラクターが装備している服やアクセサリーなどのアイテムを取引するのは十分可能なので,アイテムをNFT化することがよいと思います。

4Gamer:
 どうしても売買に結びつかないとダメですか?

Chang氏:
 いや,ブロックチェーン技術は必ずしも取引に繋がる必要はないと思いますよ。
 例えば,自分がとあるキャラクターをとても気に入っていても,ゲームがサービス終了するとそのキャラクターは消えてしまいますし,自分が所有していた事実もなくなります。しかし,そのキャラクターをNFT化すれば,それはゲームの外でもずっと,なんならゲームがサービス終了しても,キャラクターは生き残ります。
 さらに,そのシリーズの次のゲームが出るとして,そのキャラクターを持ち込んでプレイできるようにすれば,それもまたブロックチェーンとゲームの成功的な融合例と言えます。

4Gamer:
 それ,ブロックチェーンゲーム界隈の人はみんな口を揃えて言うんですが,まだちゃんとやった人はいないですよね。ぜひチャンさんがやってください。

Chang氏:
 ぜひ期待していてください。

4Gamer:
 あとさっきMMORPGの話をしましたが,MMORPGのキャラクターって基本的にはレンタルじゃないですか。それをNFTとして持たせるところに,なにかリーガル上の問題が発生したりしないんでしょうか。

Chang氏:
 そこはゲーム会社のポリシーの問題だと思います。NFTを適用しなかったゲームの場合は,おっしゃる通りキャラクターはゲーム会社の資産です。
 しかし,ゲーム会社がNFTを受け入れると決めた瞬間,ユーザーに一部譲渡するという選択をすることになります。ユーザーにとって所有することはメリットなので,もし私たちのような勇気あるデベロッパーがこういうサービスを始めれば,ユーザーは他のゲーム会社にも「なんでこのゲームはキャラクターのNFT化ができないの?」と要求するようになり,マーケット全体に変化が起きると思います。

インタビュー直前の11月12日には,リズムゲームスタジオENTIENTによる新作「SHOUT!」をオンボーディングしたNEXUS
画像ギャラリー No.013のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
4Gamer:
 なるほど。そういうマーケット全体の変化が起きるのはもちろん良い傾向だと思いますが,そこに至るまでにはそれなりの“距離”があると思うんです。そこまでのプロセスをどのように考えていますか?
 つい最近はENTIENTとの提携を発表したし,Redlab Gamesとも提携を発表してましたよね。あとNEXUS自身が,そもそも元がAction Squareなのでゲームを作る会社ですし,この先の動きがそれなりに激しそうなんです。
 今言えるレベルの話でいいんですが,来年以降はこういうマイルストーンを引いているという部分で,何か聞けることはありますか?

Chang氏:
 まず,今年私たちが行ったことをまとめると,ブロックチェーンプラットフォーム1.0を完成させました。メインネットを構築し,コインを発行し,ゲームトークンの分散型取引所も作り,NFTマーケットも作り,ゲームリリースも続けているので,プラットフォームを一通り作ったと言えます。

4Gamer:
 次のアクションはなんでしょう?

Chang氏:
 プラットフォームだけでは何もできないので,2つの方向性を持ってプラットフォームの発展を図ります。良いコンテンツを追求するわけですが,ゲーム面では既に成功した韓国のMMORPGのラインナップを増やすことと,ジャンルを拡張することです。
 今,ジャンル拡張で最も力を入れているのは,中国のSLGゲーム,ストラテジーゲームです。例えば「ホワイトアウト・サバイバル」や「ラストウォー:サバイバル」のようなやつです。実はああいうゲームは経済が複雑なので,ブロックチェーンと相性が良いです。

リソースを使いこなしてコロニーを拡張していくSLG「ホワイトアウト・サバイバル」(左),「ラストウォー:サバイバル」(右)。日本でも大人気だ
画像ギャラリー No.014のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景 画像ギャラリー No.015のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

4Gamer:
 タイトルが充実してプラットフォームがより良いものになる……だけだと,いままでとあまり変わらない気がするんですが。

Chang氏:
 そうですね。面白いゲームの数を増やしてプラットフォームが大きくなるのと同時に,プラットフォーム自体の高度化も必要です。この高度化のキーワードはAIです。

4Gamer:
 お,ここでAIが。

Chang氏:
 今年私たちが作った「ARA(アラ)」というAIボットがあります。このAIボットは,現在,開発者が私たちのプラットフォームにオンボーディングする際のサポート,プラットフォームのユーザーがゲームで獲得したトークンの取引をサポートしています。
 これがもっともっと進化してAIエージェントとして発展するのが,プラットフォーム自体を高度化する方向だとも言えます。

4Gamer:
 ブロックチェーンゲームのプラットホームって,経験者でそこそこ知識がある人でもすごく複雑で面倒で,細かいことをあれこれAIボットが教えてくれたらすごく楽でいいなぁ,と思います。

Chang氏:
 あぁまさにそんな感じですね。ARAは,チャットで「どこでそのトークンを買える?」といった問いにも対応しますし,もっと発展したら「このトークンをいい値で取引したい」といった要望も,この子が処理するようになります。

4Gamer:
 おお,それはいいですね。でもそこまでやってるなら,その諸悪の根源には手をつけないんでしょうか。とにかくもうウォレットの存在が悪だと思うんですよね,ブロックチェーンは。

画像ギャラリー No.016のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
Chang氏:
 確かにウォレットは,技術的に解決が難しい部分の1つですね。
 今,ブロックチェーンではチェーンアブストラクション(抽象化)という技術がありまして,これはユーザーがアイテムを取引する時,実際にはブロックチェーンを使っているのに,ユーザーがその事実を意識しなくなるというものです。ユーザーが,ウォレットを使うか使わないかをユーザー体験として見せないようにする技術なわけです。
 現段階ではウォレットの使い方を簡単にするレベルですが,これがもっと発展すればウォレット自体を抽象化して,ウォレットの存在をユーザーが知らないレベルまで進化できると思います。

4Gamer:
 その技術は,ユーザーのUI/UX的に見るとアドレスを何でラッピングするんですか?

Chang氏:
 長くて複雑なあのアドレスの代わりに,ユーザーがログインする際のアカウント,例えばGoogleアカウントやApple ID,あるいはLINEやTelegramのようなメッセージアプリのアカウントをウォレットアドレスに紐付ければ,ユーザーが経済活動をするために複雑なアドレスを覚える必要はなくなります。

4Gamer:
 おお,なるほど。
 個人的には,ブロックチェーンのデータのやり取りをDiscordみたいなもので出来ればいいのにと思ってたんですけど,そんなようなものを想像しておけばいいんですね? Discordに限りませんが,LINE上でトークンを送るとか,コインを売買するとか。

Chang氏:
 そうですね。今,実際に様々なメッセージアプリがウォレットを追加していて,LINEの場合は既に送金機能がありますが,法律的な制約や規制が緩和されれば,コインの転送も可能になるはずです。
 私たちが新しく進めているプロジェクト「CROSS」は,おそらく来年お見せできると思いますが,Web3メッセージアプリです。トークンの転送などのやり取りに最適化したもので,ウォレットなしで,自分の友達やコミュニティを対象にトークンをやり取りできます。

4Gamer:
 新しいツールを作る方向にしたんですね。

Chang氏:
 先ほどおっしゃったように,ユーザーがウォレットを意識せずに経済活動ができるようになるためには,Discordのような既にあるコミュニケーションツールと連携する必要があると思って,その方向にアプローチしています。
 LINEやTelegramのようなメッセージアプリも試みており,ブロックチェーンゲームの大きな障害だと思っている技術の難しさやユーザーが馴染みにくい部分はかなり解消されており,もう少しすれば完全に解消できると思ってますよ。

NEXUS公式サイトより。世界をブロックチェーンで繋ぐ
画像ギャラリー No.017のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

4Gamer:
 あれ,いま「既にあるツールと連携する」とおっしゃっていたので,新しいアプリが作られるわけではない?

Chang氏:
 はい。「CROSS」で進めているコミュニティ「CROSS Play」は,別途アプリがあるわけではなく,各メッセージアプリと連携します。

4Gamer:
 それで「LINEも試みています」という表現になってたんですね。

Chang氏:
 そうですね(笑)。
 コミュニティの中にウォレットを入れれば,メッセージアプリにもウォレットがインストールされ,それを活用すればユーザーのウォレットアドレスなしにコインの取引や配布が可能です。まさにDiscordに関して先ほどおっしゃってたような内容なわけです。
 特にDiscordの場合はコミュニティ形成が非常に優れているので,コミュニティ全体を対象としたAirDropや,ランキングを決めるときなどにおいて最適化したプラットフォームです。そのDiscordを活用する際,ウォレットアドレスが不要になるようなことがどんどん可能になっています。

4Gamer:
 トークンというものは,そもそもベースにコミュニティがあったほうが色々やりやすいので相性がいいだろうなと思ったけど,まさか作るとは思ってなかったです。

Chang氏:
 こう見えて私は作る側の人間なので,アイデアがあればすぐに作るのが私のやり方ですね。

4Gamer:
 内製ですか?

Chang氏:
 そうですね,内製です。今年の1月1日から始めたのですが,その時,上場会社を買収しました。そこに元々いたメンバーは関係会社に送り,新しく人を採用して,今110人ほどがプロジェクトに関わっています。

4Gamer:
 おお,結構いますね。
 ……しかし今日は,ブロックチェーンの第一人者として,またもや新しいプロジェクトを始めて,グローバル的にはやや下火であることが否めないブロックチェーンゲーム業界で,このあと何をしていくんですか? と聞こうと思ってたんですが,もう十分答えがいただけました。

Chang氏:
 それならよかったです(笑)。しかし多くの人が興味を持ってブームとなったら,それはそれで良いんですが,その場合は競争が激しくなりますね。
 つまり,Web3ブロックチェーンゲームに対する興味が少し冷めている今のこの状況が,私にとってはとても大事な時間でもあります。私たちのようなスタートアップベンチャーは,実力面でほかのゲーム会社に遅れているかもしれませんが,迅速に追いつき,自分が構想しているプラットフォームとコミュニティを構築できる時間を稼げているからです。むしろ大いなるチャンスですね。

画像ギャラリー No.018のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

4Gamer:
 チャンさんもかつてネクソンだったとのことで,ネクソンつながりで話しますが,遠い昔ネクソンジャパン社長のDavidと話した時に,彼は「オンラインゲームが儲かるってことを記事にしないで! 僕らがもっと力をつけて,誰も追いつけなくなるようになるまで時間を稼いでほしい」と言ってました。
 なんとなく似てますね,言ってることが(笑)。

Chang氏:
 ハハハ。でも私は全然記事にしてOKですよ。ぜひ書いてください(笑)。
 人が多ければ多いときの長所がありますし,なければないときの長所があるものです。

4Gamer:
 分かりました。
 ……と言って終わろうかと思ったんですが,最後に1つだけ。実は「Verse8」がすごく気になってるんですが,あれは今おっしゃっていたCROSSプロジェクトに今後絡んでいくんですか?

Chang氏:
 おお,Verse8。いい話題です(笑)。
 あれは私が前の会社で投資した開発チームで,とても仲が良いです。今年の春,初めてVerse8に関する話を聞いて,積極的にサポートしており,第一号の投資者になりました。

4Gamer:
 第一号だったんですね。

AIでゲームを作る時代は,たぶん多くの人の想像よりは遥かに早くやってくる気がする
画像ギャラリー No.019のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景
Chang氏:
 AI技術やプロンプト,それらを活用して創作するクリエイターのクリエイティビティも発展していくので,私はVerse8がゲーム制作におけるスタンダードとしての位置付けになると思います。
 「風の王国」や「リネージュ」を作ったソン・ジェギョン氏が弊社の顧問なんですが,彼も「5年以内に私もこれでゲームを作ると思います」と言ってました。なので,私はVerse8がゲームの未来だと思っていますので,投資もして戦略的なパートナーにもなっています。

4Gamer:
 彼にそこまで言わせるとは。

Chang氏:
 Verse8と提携して,プロンプトを使ってゲームを作り上げた後,Web3ゲームへの転換やトークン化をサポートする機能をちょうど先週追加したところです。
 ユーザーは,普通のゲーム制作だけではなくて,ブロックチェーンゲームの制作もプロンプトで作る時代が来ているわけです。とても斬新なアイデアのブロックチェーンゲームが,Verse8から生まれると私は信じていますよ。

4Gamer:
 Verse8で作られたタイトルは,ほかのプラットホームで販売したりできるんですか?

Chang氏:
 可能です。今はウェブサイトでサービスをしていて,もうちょっとしたらモバイルアプリがリリースされます。そうすれば,ユーザーはストアでアプリをダウンロードして,アプリの中でウェブゲームをプレイする形になります。
 Steamも同様で,作られたゲームを個別に公開するのではなく,ゲーム全体を入れる「器」を配信して,そこにゲームを追加していく形でサービスするつもりです。

4Gamer:
 あぁそういう形になるんですね。
 ……ということはそれを逆手に取ると,Verse8で作ったタイトルを置いておくためのメタバースを作れば,韓国でも余裕でサービスできますね。

※韓国では「ゲームに暗号資産の要素を入れてはいけない」というルールがあるので,業界内の冗談で「メタバースならいいんだぜ!」みたいに語られている。Chang氏もそれを分かっていて「そうですね(笑)」と同意しているが,むろん問題はそんなにシンプルではなく,当局によってかなり中身に立ち入った実態調査がされるので,ゲームなら×,メタバースなら○というわけではないのだ。

Chang氏:
 そうなりますね(笑)。
 Verse8からとても斬新なゲームがたくさん出ると思うので,そういうのを集めておく場所……個人的にはゲームのYouTubeモーメントを作るという考えでいます。
 YouTubeの初期段階は,個人が自分で撮った動画をアップするプラットフォームでしたが,今は様々な動画が上がってきて,専門的なコンテンツも入っています。Verse8も同じ方向に発展していくと思います。なので,多くのトラフィックが発生する,どんなゲームをするか探してプレイするプラットフォームにもなると思っています。

現時点ですでになかなかにぎやか。300万人は伊達ではなさそうだ
画像ギャラリー No.020のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

4Gamer:
 確かにうまくいった場合,そういう発展を遂げていく気はします。
 しかし日本だとまだあまり知られてないサービスだと思うんですが,いまどんな状況なんでしょう。

Chang氏:
 この8月にβサービスを開始して,その時のMAUが20万人,そして9月は100万人,10月には300万人を記録しました。多くのユーザーが集まっていて,AIでゲームを作るサービスの中ではVerse8がグローバルで1位です。

4Gamer:
 もうそんなにいるんですね。
 UGCというとやはりまだ「Roblox」ですが,Robloxの中のゲームの多くは,ゲーム業界的には「ゲームと呼べないようなもの」ですよね。でもすごくたくさんの人が楽しんでいる。
 そして一方では,ごく一部とはいえAAAみたいなタイトルもあるわけで,きっとVerse8も人が増えてきたら,そうやって両極端に発展していくんだろうなと思うし,ちょっと楽しさがありますね。

Chang氏:
 Robloxは,Robloxというフレームの中にいることで長所も短所もあると思います。長所としてはそのフレームの中で簡単にゲームを作れること。短所としては,そのフレームに囚われてしまうこと。

4Gamer:
 確かにRobloxの枠からは出られませんね。

Chang氏:
 Verse8はその足枷となる「フレーム」がないので,とてもクリエイティブなゲームが生まれると思いますよ。
 あとVerse8は,IPとの提携もしています。Robloxの場合は,提携したIPがRobloxで具現化するとご存じのようにレゴみたいな形になって,元の形からは“少し”変わってしまいます。でもVerse8はそういうことがなく,そのままの形で具現できますね。

4Gamer:
 新世代のUGCというわけですね。
 実はVerse8は個人的に結構注目してまして,それで最後に……最後といって長くなっちゃいましたが,最後に聞いてみた次第です。

Chang氏:
 さっき10年ごとのエポックメイクの話をしましたが,コンソールゲームからオンラインゲーム,次はモバイルゲーム,その次がブロックチェーンで,その次はAIになると思いますね。

4Gamer:
 僕もそう思います。割とAI信奉者なので余計に。でもまぁクリエイティブ界隈では嫌われることも多いので,もしかしたら結構少数派なのかもしれません。

Chang氏:
 革新は少数派から生まれるものですよ。

4Gamer:
 心に留めておきます(笑)。
 では今度こそ最後の質問です。話してるうちに思い出しちゃいました。つい先日日本の開発者と提携してましたけど,ああいう動きはこの後も続けていく予定ですか?

Chang氏:
 そうですね。これからも日本の会社ともパートナーシップを拡大していくつもりです。
 昨日は矢野慶一さんがいらっしゃって,私に打ち合わせさせていただきましたし,会見で一緒に発表もしました。矢野さんが日本のWeb3ゲーム時代を開く役割をしてくださると期待しています。

4Gamer:
 どんなレイヤーでの提携を主に考えてますか? 例えば投資であったり,M&Aであったり,プロジェクトファイナンスであったり。色々あると思うんですけど,どれが1番望ましいです?

Chang氏:
 全部可能です。矢野さんとはプロジェクトファイナンスで,ただし持分にも転換できるという契約の形をしていますし,韓国の小さい会社の場合はM&Aをし,それなりの規模の会社の場合は単純な契約関係で動いています。それぞれのパートナーの状況や望む形に合わせて交渉しています。

4Gamer:
 そこは幅広く融通が利くんですね。
 では次にお会いするときには,何かプロジェクトの話を持って伺います。ありがとうございました。

Chang氏:
 期待しています(笑)。

画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]「NIGHT CROWS」のローンチ前日に解雇──それでもHenry Chang氏がWeb3にこだわるその背景

―――2025年11月14日収録
  • 関連タイトル:

    展示会/見本市

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:12月04日〜12月05日