
インタビュー
[インタビュー]「グランド・セフト・オート」や「レミングス」が生まれたスコットランドの政府ビジネス担当大臣に聞く,ゲーム産業の強みと日本との協力について
![]() |
![]() |
スコットランドのゲーム産業の歴史は,現在のロックスター・ノース社の前身となる「DMA Design」が1988年に設立されたことに始まる。
同スタジオは1990年に世界的ヒット作「レミングス」を生み出し,その後1997年に「グランド・セフト・オート」シリーズの第1作を開発。2001年の「グランド・セフト・オートIII」の成功を経て,シリーズは世界的な人気フランチャイズへと成長した。
特に,2013年に発売された「グランド・セフト・オートV」は,発売から10年以上経っているにもかかわらず,いまなお根強い人気を持つ歴史的名作と言っても過言ではないだろう。
人口約550万人のスコットランド※には,なんと約300社ものゲーム関連企業があり,50億ポンド(約9550億円)ほどの市場を生み出している。
そんなゲーム産業をより成長させるため,スコットランド政府は2024年に英国初となるゲーム国家戦略(Scotland's National Games Strategy)の策定を発足し,ゲーム・エコシステムを強化する取り組みを進めている。
※大体フィンランドと同じぐらい。日本で言うなら,福岡県や兵庫県とほぼ同じぐらいの人口規模になる
![]() |
人材育成の観点からは,教育にも注力している。ダンディーのアバーティ・ダンディ大学(以下,アバーティ大学)が,1997年に世界初のゲーム学位プログラムを開設。同大学はプリンストン・レビューにより,国際的なゲームデザイン学校でトップに選ばれる名門校として知られている。
現在では,スコットランド全土で16の大学で175以上のゲーム関連コースが提供されており,かなりの本気度合いで一つの産業として向き合っていることが伝わってくる。
そんな中2025年4月17日に,大阪・関西万博の英国パビリオンでは「Scotland's Gaming Showcase」が開催され,スコットランド政府ビジネス担当大臣,リチャード・ロクヘッド(Richard Lochhead)氏が,同国のゲーム企業を率いて来日した。
今回,とても忙しい氏の時間をわずか30分ほどではあるがもらうことができたので,ゲームがスコットランドでどんな立ち位置にあり,政府がこの産業をどう認識し期待しているのかについて話を聞いてみた。
![]() |
4Gamer:
本日お時間いただきありがとうございます。スコットランドの人らしく天気の話題からいきますが,今日は朝からとてもいい天気ですね。
ロクヘッド氏:
スコットランドと同じように,すごく晴れていますね(笑)。※
※実際スコットランドは「一日の中に全ての気候がある」と言われるほど,雨が多く変わりやすい気候で知られている。ただ晴れた日には緑豊かな景色が格別に美しく見えるから,日本の皆さんにもぜひ来てほしい気持ちを込めて……とのことだろう
4Gamer:
そんな快晴の日本での旅はいかがでしょうか。
ロクヘッド氏:
すごく魅力的な国ですね。至るところで温かく迎えていただきました。今回の訪問がきっと,日本とスコットランドの貿易と,これからの協力関係をより深く結びつける良い機会になるでしょう。
4Gamer:
本日はゲームをテーマにしてイベントを実施していますが,今回の日本訪問の重点も,ゲーム産業にあるということでしょうか。
ロクヘッド氏:
今回の日本訪問では,ゲームを含むさまざまな分野の企業と面会してきましたが,今日は2025大阪・関西万博初の「スコットランド・デー」であり,私は英国パビリオンでイベントを主催する最初の大臣となりました。そして,万博での最初のテーマイベントとしてゲームを選びました。
これは日本に対して,ゲームにおける将来的な協力をスコットランドが非常に重視していること,そして大きな機会があると考えていることを示す重要なシグナルです。
実際,今日のイベントで日本側の会社と会ってみて明らかになったのは,パネルディスカッションでも話し合われたように,お互いに一緒にできる機会が多くあると感じていることです。
4Gamer:
なるほど。しかし正直な話,日本であれば「ゲーム」や「アニメ」はお家芸的に世界でも捉えられていると思いますし,いろいろなIPが思い付くのですが,スコットランドのゲーム……といっても多くのゲーマーは咄嗟に作品が浮かばないかもしれません。
もちろん「グランド・セフト・オート」や「レミングス」といったゲームは,その名前は世界的に認知されています。ただ,それらがスコットランドで生まれたことを知っている人はそう多くないと思うのです。
大臣がここにいらっしゃるということは,ゲームが非常に重要な国家の産業として見られていることを示していると思いますが,スコットランドのゲーム産業がグローバルなプレゼンスを高めるためには,今後何が必要だとお考えですか?
ロクヘッド氏:
「グランド・セフト・オート」や「レミングス」,そしてコンソール向けに移植された「マインクラフト」が,スコットランド発祥だと聞くと確かに驚くかもしれませんね。
「グランド・セフト・オート」は恐らく史上最大の売り上げを誇るゲームの一つで,おっしゃるようにあまり知られていませんが,私たちはゲームにおいて素晴らしい実績を持っています。
今回の訪問を通じて,これらの世界的成功を見せながら,スコットランドのゲーム産業について認識を高める重要な役割を果たしていこうと思います。
4Gamer:
日本では80年代や90年代に優れたゲームがたくさん生まれましたが,とても長い間,ゲームは単なる子供の娯楽や時間つぶしでしかないと思われてきました。スコットランドでのゲームの社会的位置づけはどのような感じですか。
![]() |
スコットランドではゲームを非常に魅力的な産業と見ていますが,ゲーム産業を促進するための仕事もあります。先ほど言ったように,スコットランドには「グランド・セフト・オート」や「マインクラフト」などをプレイする何千何万ものゲーマーがいますが,自分の国との関連性を認識していない人も多いことでしょう。
私たちは認知度を高める必要があり,それが今ゲーム産業により多くの焦点を当てている理由です。経済的に見ても非常に価値の高い分野であり,多くのお金をもたらしてくれます。
またゲームそのものは高い技術力で構成されており,ほかの分野にもその技術を提供できます。単なるエンターテイメントではありません。だからこそ,今後このセクターにより大きな焦点を当てているのです。
4Gamer:
大きな焦点は,具体的にはどのようなプロジェクトに結びついているんでしょうか。
ロクヘッド氏:
今後,ゲーム産業支援に向けて多くの計画があります。スコットランド初のゲーム国家戦略の準備に取り組んでおり,その完成が近づいているのです。これは業界主導のものですが,私たちは密接に協力しています。
またスタートアップ企業の規模拡大を支援するプロジェクトである「Techscaler」イニシアチブの一環として,スコットランドゲーム企業が7社来日して,この1,2週間の滞在で日本にある会社を訪問する予定です。
既に様々な施策が進行中ですが,より多くのことができると思います。そして,さきほど触れたゲーム国家戦略が可決され発行されれば,前進するための強固な基盤がきっと得られるでしょう。
4Gamer:
なるほど。スコットランドがゲーム国家戦略に着手するのを最初に見かけたのは,昨年の年初ぐらいのことでした。そこからの進捗はいかがですか?
ロクヘッド氏:
今度の国家戦略は業界主導なわけですが,業界が協力して,政府に業界の将来に関する提案計画を提示することが重要だと私達は考えました。それにより産業の地位が向上し,経済戦略の一部としてより大きな焦点が当てられるでしょう。
一般的には,ゲームはエンターテインメント目的とされていますが,先ほども述べたようにそれだけではありません。ほかの分野においてもゲーム技術を活用する余地はあり,ビジネスチャンスがあるでしょう。
スコットランドのゲーム業界は,スコットランド国内だけでなく世界でも注目されています。ダンディーを発祥とするゲーム会社が多いですが,そこだけに限らず,スコットランド全土で約300社のゲーム会社があります。これからゲーム業界は激動の時代を迎えると思いますし,新たな章を開くことになると思います。
4Gamer:
ゲームはエンターテインメントだけではありませんというのは,まさに私も同意するところですが,ではスコットランドでは,ゲーム由来のテクノロジーをほかでどのように利用されていますか?
ロクヘッド氏:
国内のゲーム企業を見ると,銀行アプリに取り組んでいたり,外科医と協力して手術のトレーニングを行うことに使ってみたり,さらに病院と協力していたり,トレーニング目的でゲーム技術を使用している軍とも協力していたりします。
ゲームが果たせる役割は明らかに大きく,それに対しての教育がまだまだ必要になってくるでしょうね。
![]() |
4Gamer:
なるほど。ゲームの周辺テクノロジーという意味でよく目にするのは,AI,AR,VRといった技術だと思います。スコットランドでは,どの側面を最も重視されていますか? あるいは,これらの要素間で統合的なアプローチを取っていますか?
ロクヘッド氏:
現在開発中の国家戦略に対して,業界が何を望むかを見守りたいと思います。しかし,AIなどスコットランドのハイテクセクターとの相互交流に大きな機会があることも明らかです。
実は,スコットランドはAIにおける先進国なのです。エディンバラ大学はAIの60周年を祝ったばかりで,昨年のノーベル物理学賞受賞者は,深層学習の基礎開発の功績により賞を獲得しましたが,彼はエディンバラ大学の卒業生です。※
AIセクターには,多くの刺激的な企業があります。私たちのAI専門知識とゲーム産業の間の相互交流は,将来に向けて大きな可能性を秘めていると思います。日本と同様に,私たちもゲーム技術の最先端にいたいと考えています。これもスコットランドと日本の間の協力において実り多い分野の一つになる可能性があります。両国がゲーム技術の最先端を目指しているからです。
※ジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton):1978年にエディンバラ大学で,人工知能の研究によりPh.D.を取得した
4Gamer:
実は今日初めて知ったのですが,スコットランドでは,ほぼすべての主要大学にゲームデザインと開発のコースがあるとのことで,すごく感銘を受けました。大学教育にゲーム開発を統合することのメリットを,どのようにお考えですか。そしてそれは,どのように産業に影響していますか。
ロクヘッド氏:
大学や多くの専門学校は,スコットランドのゲーム成功の基盤です。例えば,ダンディーのアバティー大学はその先駆けとなり,1990年代からゲームコースを提供しています。
世界中のゲーム企業で働く人々の中には,アバティー大学の資格を持つ人が多くいます。スコットランド出身者が世界中のゲーム業界で働き,その後スコットランドに戻ってスコットランドのゲーム企業で働くケースもあります。
アバティー大学はプリンストン・レビューにより,国際的なゲームデザイン学校のナンバーワンに選ばれたばかりです。ゲーム教育に関するほぼすべての調査でアバティー大学はトップ10に入り,中には世界最高と評価するものもあります。アバティー大学はスコットランドにとって非常に大きな資産です。
現在,7つの大学と11の専門学校がコースを教えています。この人材のパイプラインは,スコットランドのゲームセクターの将来の発展にとって非常に重要だと思います。
4Gamer:
スコットランドのゲームの将来……と聞いて思いだしたんですが,スコットランドの企業が日本のIPである「サイレントヒル」の新作を手がけていると聞いています。
ゲームにおいてはIPを生み出すことが非常に重要な要素を占めていると思いますが,スコットランド独自のIPを生み出すことと,スコットランドの優れた開発者や技術力を活かして他社/他国と連携して新しいゲームを作ることと,どちらに重点を置いて取り組まれますか。
サイレントヒルシリーズ新作「SILENT HILL: Townfall」の予告映像が公開に。開発はNo CodeとAnnapurna Interactive

KONAMIは本日,ホラーゲーム「サイレントヒル(SILENT HILL)」シリーズの最新情報を発表する番組「SILENT HILL Transmission」を配信し,新作タイトル「SILENT HILL: Townfall」の予告映像を公開した。SILENT HILL: Townfallの開発は,No CodeとAnnapurna Interactiveが行う。
ロクヘッド氏:
今週の日本訪問を通じて,スコットランド企業が日本企業と協力し,文化的な相互交流を行う大きな機会があることが明らかになりました。例えば日本のIPとゲームを,ヨーロッパの顧客や市場向けに適応させるのを手伝うことができます。
同様に,スコットランドのゲーム企業も自社のIPを日本のパートナーと協力して日本市場やより広くアジア市場で促進することができればと期待しています。それが大阪の2025年万博のこのイベントへと出てきた理由の一つです。
4Gamer:
ではスコットランドと日本の間で,どのような関係になることを期待していますか。また将来に向けて,ゲーム産業の成長を維持するために政府は何をする計画ですか。
ロクヘッド氏:
この訪問は素晴らしい成果を上げており,日本とスコットランドの両国が今後より緊密に協力する意欲を持っていることが明らかになりました。そして私たちは皆,その機会について視野を広げることができました。
スコットランドでは,“まだ知られざる英雄”とも言えるゲーム産業を,経済戦略の中心に据えたいと考えています。単にエンターテイメントとしてだけでなく,非常に先進的なテクノロジー産業として認識されるべきです。そして,私たちの経済にさらに大きく貢献する可能性を秘めています。
その状況での日本との連携は,学生の交換プログラムからゲーム企業間の合弁事業まで,あるいは単にほかの共同プロジェクトや互いの文化から学び,互いの市場に進出するための助けにもなるでしょう。様々な機会があると思います。政府大臣として,私は両国の産業と協力して最良の方法を見出したいと考えています。
![]() |
4Gamer:
なるほど,“知られざる英雄”はとても良い表現だと思います。では今後両国の間で,エンターテインメントに限らず,より広く展開する協力関係が結ばれることを期待しています。本日はありがとうございました。
ロクヘッド氏:
ありがとうございました。
―――2025年4月17日収録
- この記事のURL: