プレイレポート
「マフィア III」をレビュー。アメリカ南部の裏社会で起きた1人の男の復讐劇を,1960年代ヒット曲をBGMにオープンワールドの世界で体験
「マフィア III」公式サイト(要年齢認証)
4Gamerでは9月26日,「マフィア III」のメディア向けハンズオンにおける,比較的長めのプレイレポートをお届けしているが,今回は発売済みの製品版をエンディングまでプレイしてのレビューになる。ハンズオンでは体験できなかった部分も含め,たくさんの魅力を紹介していきたい。なお,ゲームの内容を掘り下げるため,若干のネタバレを含んでいることをあらかじめご了承いただきたい。使用したのはPlayStation 4版で,コントローラの表記などはそちらに準じている。
1960年代のアメリカの闇を追体験
ベトナム帰還兵のリンカーン・クレイは,ドミニカ出身の黒人である母親と,イタリア系の白人の父親の間に生まれ,すぐに孤児になったという,シリーズ従来作の中では異色の経歴を持っている。身寄りのない彼を「家族」として迎えたのは,黒人を中心としたサミー・ロビンソンのファミリーだったが,「ニューボルドー」を牛耳るイタリアンマフィアのボス,サル・マルカーノの裏切りに遭い,リンカーン本人は辛くも生き延びたものの,サミーら仲間達は皆殺しにされてしまう。
ここまではチュートリアルを兼ねたプロローグなので,簡単に内容をまとめたが,実際のゲームでは,過去のシーンなどを交えて,2時間程度のプレイになる。展開は起伏に富んでおり,結末は衝撃的だ。
この行為に対する復讐への渇望がリンカーンを駆り立てる動機になるわけだが,彼の執念は,マフィアに劣らずすさまじい。彼は,サルに関連するマフィアを根こそぎ排除することで,サルを追い詰めようというのだ。
リンカーンの戦友で協力者でもあるジョン・ドノヴァンには,「大ボスを倒したいなら,そいつの幹部や手下,基盤をつぶして反撃する力を奪う。気づいたときには丸裸というわけさ」というセリフがある。サルに直接挑むのではなく,足元から崩していくというゲリラ戦法は,リンカーンがベトナムで学んだものらしいが,街をまるごと支配するほどの強大な組織を相手に,(たとえ協力者がいるとはいえ)単身で挑もうというわけだ。
サルへの復讐を果たすために動き出すリンカーン。プレイヤーは復讐の過程で,1960年代のアメリカが抱える闇を体験していくことになる。これもまた,本作のこだわりの部分であり,簡単に「クライムアクション」というジャンルにはくくれない深みを物語に与えているように思える。
例えば,現在まで続くアメリカの「人種差別」の問題もその1つで,リンカーンの出自の複雑さや,黒人ファミリーが白人ファミリーに皆殺しにされるという展開,そしてゲーム中にリンカーンが受ける迫害などが演出として取り入れられている。
街角の店舗(本作に店で買い物をする要素はないが,アイテムの置いてある店がある)に足を踏み入れると,黒人は出入り禁止で,長居すると通報される。白人だけの集まりの中でうろうろしていると,必要以上に視線を向けられる。多様な文化と人種が入り乱れるアメリカ南部のこの街では,依然として人種の対立が深刻だ。
ゲーム中盤では,マスクをかぶった差別主義者の集団が人身売買を行っていたりして,描き方は徹底している。ファーストネームとラストネームの違いこそあるものの,主人公の名前が奴隷解放宣言をしたアメリカ16代大統領と同じ「リンカーン」なのも偶然ではないだろう。
ゲームなので誇張されているかもしれないが,わずか50年ほど前のアメリカがこうした社会であったことを,プレイヤーはゲームをとおして知ることができるのだ。
寡黙なリンカーンを取り巻く魅力的なキャラクター達
「マフィア III」では,敵味方問わず,登場するキャラクター達がいろんな意味で非常に魅力的に描かれている。
復讐という目的のためには手段を選ばず,見せしめのために容赦のない制裁を加えていく非情な男として描かれるリンカーンだが,時折,優しさや義理堅い性格を見せる。日本人プレイヤーにも好まれそうなキャラクターだろう。「マフィア」シリーズ最新作の主人公でありながら,終始一貫してマフィアの構成員ではない点にも,興味を惹かれる。
比較的まっすぐな性格のリンカーンに対して,彼の腹心(ゲームでは,「協力者」と「腹心」という2つの呼び方をしているが,本稿では後者で統一する)となる3人は,全員が腹に一物抱えた人物として描かれているのも対照的で面白い。
ハイチ人ギャングのリーダーで謎の多い女カサンドラ,前作「Mafia II」の主人公で,ニューボルドーに流れついてサルの飼い犬となったヴィト,そしてサミーのファミリーもろとも息子を殺されてしまう飲んだくれのアイリッシュギャング,バーク。性格も境遇もまったく異なる3人だが,いずれもリンカーンの仲間として,重要な役割を果たす。
とくに,ミッションによって手に入れたシマを誰が受け持つのかという会合は,後述する「シットダウン」としてシステムに組み込まれており,その場面で3人がお互いに牽制し合う様子も,ストーリーを深く楽しむうえで見逃せない。
この3人とは別に,サルのファミリーに関する情報収集を受け持つ協力者として登場するのが,前述のドノヴァンだ。CIAのエージェントである彼は,リンカーンの数少ない理解者でもあり,ストーリーを進めるうえで狂言回し的な役割を演じるなど,存在感が際立っている。飄々として,ある意味,つかみどころのないキャラクターとして描かれているが,ときおり,合衆国上院情報問題特別調査委員会で証言をするシーンがインサートされ,そこで,彼の意外な発言や行動を見ることができる。彼もまた注目のキャラクターだ。
筆者が感心したのが,カットシーンなどで見られるフェイシャルアニメーションだ。アップになったときの表情は,顔の筋肉の動きからそのキャラクターの心情までが読み取れるほどで,どのシーンも説得力がある。
派手な銃撃戦に持ち込むもよし
ステルスで静かに敵を倒すもまたよし
ニューオーリンズをモチーフにした街,ニューボルドーは,さまざまなロケーションを持つオープンワールドとして作られており,プレイヤーはそこを自由に行き来できる。とはいえ,ゲーム序盤で行くべきところは多くなく,ストーリーミッションを順を追って進めていくことで,新たな地域のミッションがアンロックされるという仕組みだ。
目的のはっきりしたストーリーだけに,お遊び的なアクティビティは基本的に存在しないが,そのぶん,ストーリーミッションの数は非常に多い。これはつまり,サルのもとにはなかなかたどり着けない,ということでもあるのだが。
ターゲットを破壊したり,幹部を始末したりするときには,ほとんどの場合,敵のシマへ足を踏み入れる必要がある。当然ながら,リンカーンは歓迎されておらず,敵に見つかると警告が出て,次いで総攻撃が始まる。
こうなる前に,敵に気づかれないよう静かに1人ずつ始末していくステルスキルが,ミッション攻略時の選択肢の1つだ。敵の視界に入らないように,[R3]でしゃがんで遮蔽物の背後に回り,方向キーの[←]で「口笛」を吹き,なんだろうと接近してきた敵を[○]ボタンで一撃のもとに倒す。これを繰り返すわけだ。
基本的には,カバーアクションをメインとしたTPSとしてデザインされているようで,リンカーンの能力を高めたり,武器を強化したりして,正面から撃ち合ったほうがゲームのテンポがいい。また,わりと出血量も多いので,爽快感も高そうだ。とはいえ,これは好き好きで。
腹心にビジネスを任せると,上納金が定期的に入ってくると同時に,ボーナスとして特別なアップグレードが得られる。その内容は,任せた腹心によって異なり,カサンドラは武器関連,ヴィトはステータス関連,バークは車と警察関連のアップグレードがもらえる。
支配地区が増えるゲーム後半には,彼らに地区を「シマ」として割り当てる前述の「シットダウン」が出てくるわけだが,3人均等に任せるか,特定の人物に優先してシマを与えるかは,プレイヤー次第だ。
シマを均等に割り当てた場合,全員が納得するのでとくに問題は起こらないが,リンカーンが得られるアップグレードが最高レベルに達しない。その一方,誰か1人に偏って割り当てれば,その人物からのアップグレードは最高になるが,ほかの腹心のアップグレードは得られず,忠誠心が下がる。
筆者は今回,3人にシマを均等に割り当てて結末を迎えたため,「忠誠心の下がった腹心が裏切る」という場面を見ることはなかった。どうしても体験しなくてはならないものでもないが,一度選んでしまうとやり直しは利かないようなので,よく考えて決断してほしい。
1960年代アメリカ南部の情景を
懐かしのヒット曲をBGMに疾走する気持ちよさ
筆者が本作でとくに心を奪われたのが,高密度に作り込まれた1968年のニューボルドーの街並みと,BGMとして流れる当時のヒット曲だ。
ニューボルドーには,バルコニーのある建物が建ち並ぶ「フランス街」(フレンチ・クォーターがモチーフ)や,天災によって地区の一部が水に沈んだ黒人街「デルレイ ホロウ」(ロウワー・ナインス・ワードがモチーフ),そして,街の南側のほとんどを占める湿地帯「バイユー ファントム」など,10の地区がある。
いずれも,ただ散策するだけでも楽しく,ミッションでは行く必要がない建物や,迷路のような地下水路の奥まできっちり作り込まれていることに驚かされる。
それに加えて,1968年という時代設定にグッとくる人も多いはずだ。公式サイトの年表からも分かるように,それはアメリカにとって激動の年であり,ベトナム戦争の激化やキング牧師暗殺,ロバート・ケネディ暗殺といった事件の影響が,ゲーム本編にも演出としてちりばめられている。
これらは,筆者が生まれる少し前の出来事であり,あまり知る機会なかったこの頃のアメリカの風景に入っていけるのは,疑似体験としても興味深い。
スマホどころか,PCもインターネットもない時代,街を歩く人々のファッションや,家の中にある家具,路上を行き交う車,コレクションアイテムとしていろいろなところに落ちている雑誌など,見るものすべてが新鮮だ。
ステッペンウルフの「ワイルドでいこう」,クリームの「ホワイト・ルーム」,バリー・マクガイアの「明日なき世界」,ジェームス・ブラウンの「アイ・ガット・ユー」,サム・クックの「ワンダフル・ワールド」,クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の「バッド・ムーン・ライジング」,そしてデル・シャノン「悲しき街角」など,筆者のぐらいのアラフォー〜アラフィフの世代にとっては本当に懐かしい曲ばかり。公式サイトの楽曲紹介ページで,タイトルがすべて邦題になっているのもいい感じだ。
ちなみに,この手の楽曲は権利関係のため,基本的にプロモーションムービーで使われることはなく,まさにゲームを購入した人だけの特権なのだ。
生まれが1968年に近い人にこそ,プレイしてほしい
各ミッションの内容はどうしても似通ったものが多くなる印象だが,プレイ中にはあまりそう感じることはない。それはやはり,重厚なストーリーと緻密に作られたニューボルドーの街並み,そして名曲の数々が,筆者のモチベーションをぐっと高めてくれたからだろう。
贅沢を言うなら,「Grand Theft Auto」シリーズのように,この街でもっといろいろ遊びたかったという気持ちがある。とはいえ,それではストーリーを重視する本作の趣旨とは異なる方向性になってしまうので,ゲームデザインとしてはこれが正解なのだろう。
もう一つ気になったのは,シットダウンがかなり後半で発生するため,それによって得られるリンカーンのアップデートがあまり意味を成さないという点だ。これもストーリーの流れ上,仕方ないのだが,シットダウンが発生する頃にはすでにゲームに慣れ,資金も潤沢になっているはずなので,腹心の誰かを捨ててまでアップデートを望む理由は少ないのだ。シットダウンは,あくまでゲームのスパイス的な要素として捉えるのがいいだろう。
プレイ時間は正確には分からないものの,体感的には40〜50時間といったところ。おそらくトゥルーエンドだとは思うのだが,エピローグを見たときに出たのは,涙でも笑いでもなく,深いため息だった。その理由はここでは明かせないので,ぜひ自分で確認してほしい。
CEROのレーティング的に,「18歳以上のみ対象」となる本作だが,生まれた年が1968年に近い人のほうが,よりゲームに感情移入できるのではないかと個人的には思っている。残酷な描写もあり,テーマも重いので,人を選んでしまう部分は確かにあるが,筆者と同世代の40代から50代のプレイヤーと,ぜひこの体験を分かち合いたい。
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