インタビュー
欧米の人が日本のゲームを作るとサムライや忍者ばかり。でも日本はそんなもんじゃないでしょう?―――「昭和米国物語」のプロデューサーの経歴から探る,中国でいまB級コンソールゲームを作るということ
彼らがこの20年どういう道を辿って,どういうものを目指して,どういう考えを持っていて,どういう方向に行こうとしているのか,毎年毎年変化していくのをすごく楽しく興味深く見ているし,今の日本のゲーム業界にはないものをたくさん持っている彼らを,ちょっと眩しく,かつちょっと羨ましく思い,“追われる側”にいる立場の人間として,じっと観察して勉強させてもらっている。
なので,中国ゲーム業界で誰がどんな発言をしていても,どんな作品を作っていても,比較的納得できる(≒その背景が分かる)つもりでいたのだが,この「昭和米国物語」(PC / PS5)の羅(ロウ)さんは,なんかちょっと違う。いままで話してきた「かなりイケてる中国の開発者の皆さん」の要素を万遍なく持ちつつも,違う空気を持っている。「日本かぶれ」とか「欧米かぶれ」とかそういう感じでもない,ほかとはちょっと違う何かがある。これは一体なんだろう?
大事MANブラザーズバンドの「それが大事」のフレーズに乗って繰り広げられる,意味不明でカオスなPVが大変話題になった「昭和米国物語」は,いろんなところでそのPVの内容や作品の背景などについて語られている。
なので今回はちょっと方向を変えて,プロデューサーである羅氏そのものの話や,会社設立について聞いてみたい。実は中国の開発会社でPC/コンソールを中心に据えるというのは結構珍しいので,そのあたりの経緯や意図も,いろいろ突っ込んでみたい。
4Gamer:
わざわざお越しいただいてありがとうございます。
こんなタイミング※なのでこの話題からはじめたいんですが,TGA観ました?
※インタビューしたのは,2024年12月16日。12月13日が「The Game Awards(TGA)」だった。
羅氏:
観ましたよ。
4Gamer:
どうでした?
羅氏:
個人的な感想では,TGAは徐々にメジャー寄りのショーに近づいていると思いますね。ちょっとアカデミー賞に近づいてきていそうな。
ただ正直言うなら,自分が理想としているゲームのショウとはちょっと異なってます。ゲームはすべてのエンタメの集大成として,ゲームの大型イベントは他の業界とは違うものであることを期待しています。
4Gamer:
メジャー寄りにというのは,まさにそうですね。元々テレビショーだったというのもあると思いますが。
羅氏:
主催側としてきっと「ゲームはメジャーに認められたエンタメですよ」という感じを打ち出したいんだろうとは理解してます。僕としては,今後はもうちょっと異なっている方式……ゲームならではの何かを見せてくれたらなと期待しています。
2つめの感想としては,ショウの規模が大きくなっていくに連れて,例えば設置されている賞に関しては「ん?」と思うところがあります。どういう目的や意図で設置されているのが理解できない賞もあったりして。
4Gamer:
あぁ……すごく理解できます。
羅氏:
例えばインパクト賞がそうですが,ここまでの数年のTGAを見てみても,この賞を作った意図がさっぱり分からないです。
あと多くの賞は,実はあなたがたメディアによる選抜で,自分の感覚で言うなら,賞の選定において不合理なところがあるんじゃないかなと。
4Gamer:
なるほど,いいですね。とてもいい感想です(笑)。
羅氏:
すごく誠実に述べました(笑)。
4Gamer:
最初に言ってたアカデミー賞っぽいっていうのは,納得しつつもちょっと僕は違う方向で思っていて,どのアワードがどのタイトルに与えられるかを見たいのに,なんかゲームのCMをたくさん見せられるのがちょっとなんか違うなぁと思ってます。アカデミー賞の授賞式で,映画の予告編を延々と流したりしないと思うんですよね。
まあでも,おっしゃるように良くも悪くもどんどん商業に寄っていってるんだろうし,ある程度は諦めますけど。観てるのは面白いですしね(笑)。
羅氏:
なるほどゲームのCMは確かにそうですね。
4Gamer:
賞もそうです。なんか,賞をあげるために賞を作ってる感じがしますよね。全体が巨大化して商業に寄っていくというのは,そういうことなのかもしれません。
羅氏:
そうそう,本当にそういう気がしますね。
4Gamer:
でも逆に,ちょっとインディーっぽいタイトルにも光を当てようみたい意図も感じられるし,うまくいけば来年はノミネートされるかもしれないですよ!
羅氏:
期待しています。(微笑み)
4Gamer:
ふふふ。そんな「昭和米国物語」なんですけど,タイトルの中身や好評されたPVについてあなたに聞いたり探求したりしてる記事はたくさんあるんですけど,あなた本人とか会社について聞いてる記事はあんまりないので,今日はそのあたりを聞きたいなと思ってお時間もらいました。
羅氏:
そんなインタビューだと聞いてたので,すごく期待してますよ。
4Gamer:
変なプレッシャーかけないでください……。
黄金の85年世代は,中国人としては珍しく,すべてのコンソール機を通ってきたコアゲーマー
さてじゃあまず最初に……今おいくつなんですか。
羅氏:
1983年生まれです。(日本語で)ヨンジュイチ。
4Gamer:
41歳。お,僕が勝手に呼んでる「85年世代」ですね。
羅氏:
なんですかそれ。
4Gamer:
1985年前後の生まれの中国の人たちは優秀な人が多くて,グローバル化された思考と,それでいてナショナリズムが根強く残っているというバランス感覚で前へ前へ進んでいく感じがあります。中国の産業で詳しいのはゲーム業界だけですが,いま一線で活躍してる人は結構この世代が多いんですよね。
羅さんは,どういう経緯でゲーム業界に入ったんですか?
羅氏:
なるほど,1985年前後というのはなんか分かる気がします。
自分の場合はすごく早い段階で,小学生になる前からファミコンをプレイしてゲームに触れてました。コンソールの世代交代に連れて,発売とともにほぼ全部遊んできました。なのでゲームに対してはすごく深い感情を持っています。
4Gamer:
全部って全部?
羅氏:
はい,ほぼ全部。
加えて,子供の時からゲーム雑誌を買って読んでました。雑誌の中に,業界に関する紹介だったり,ゲームプロデューサーの紹介だったりそういうものが書かれていて。それを読むと,自分が大きくなったらそのようなプロデューサーになりたいな,という素朴な理想を持つに至りました。
4Gamer:
子供のころはみんな多かれ少なかれそういうことを思うものですけど,実際に成し遂げてるのがすごいですね。
羅氏:
なので,雑誌を読んでそう思ってから,どうやってそういう業界に入れるかを聞き回ったり自分なりに研究したりしてました。
中学生になると,パソコンのテクノロジーや,アート,ゲームデザインにまつわることを独学で学んで,本当は普通の授業にかけるべき時間を全部ゲームにかけていました。ゲーム開発の知識を学んで,そして大量にゲームをプレイすることで成長していました。
そういう経験があるから,かなり早い段階で(ゲーム業界入りの)目標を立ててたんです。
4Gamer:
すごいなぁ。
しかし,その頃ゲーム雑誌に載ってるプロデューサーって例えば誰ですか? たぶんほとんど日本人ですよね。
羅氏:
ほぼ日本人でしたね。例えば……鈴木裕さん,中裕司さん,あと昔好きだった「NINJA GAIDEN」の……ええと……板垣伴信さんなど,ほぼみなさん日本のプロデューサーでした。
4Gamer:
そういう人達の活躍を見てゲーム業界に入ろうと思っていた子供だったんですね。
しかしファミコンからって簡単に言いますけど,中国の人ってファミコンからずっとコンソールを遊ぶのって普通のことですか?
羅氏:
中国で僕の世代だと,ファミコンのパチモンを触れる人が非常に多いんですけど,多くの人はファミコン以降ゲームを引き続いてプレイすることはないですね。僕は続けていたというだけです。
4Gamer:
ファミコンっていうか小覇王。※
羅氏:
はい(笑)。よくご存じで。
※1989年3月,ファミコン互換機の事業に進出して業績が急拡大。「小霸王」は中国トップのゲーム機・パソコン・電子機器メーカーにのし上がった。1999年,小霸王学習機の売り上げがピークに達する
4Gamer:
ファミコンからその後はどんなものを?
羅氏:
(指折り数えながら)スーファミ,メガドライブ,ゲームギア,セガサターン,プレステ,PS2……。
4Gamer:
ほぼ全部じゃん!
何十台ものコンソールがありました(笑)。あ,あとSNKのNEOGEOも。
4Gamer:
いやいやちょっと待ってください。
さっき自分でもおっしゃってましたけど,中国の人ってファミコンとかゲームボーイとかでパタりとコンソールゲーム歴が止まる人が多いんですよ。で,次はプレステとかになりがちで,普通はその間が抜け落ちるんです。
だから,中国の人とはスーファミとかメガドラの話が通じないことがよくあるんですけど,あなたみたいな人初めてですよ。
羅氏:
メガドライブは僕がすごく好きなコンソールの1つです。なので子供の時から,最初の最初から,今まで,一番好きなメーカーはやっぱりセガですね。
4Gamer:
セガの人でしたか。
でも確かに「昭和米国物語」って,なんかどことなくセガぽい気も……?
そうですか?(笑)
あぁでもメガドライブとかスーファミについては,子供時代の環境にも関係があると思いますね。
ファミコン以降,多くのコンソールに触れられる場所として,当時は時間貸しのチャータールームがあったんです。
4Gamer:
今で言うネットカフェみたいなものですか?
羅氏:
似てるけど結構違いますね。本当になんていうか……コンソール機のゲーセンみたいな。
その時はなかなか高価で,90年代初期の中国で,1時間で5元ぐらい※取ってました。親は当時普通の会社員でしたが,国資企業の社員でわりと余裕のある生活だったので,もらえるお小遣いが多くてゲームが出来たんだと思います。
※調べたところ1990年代初期の中国では,平均月給が500〜600元ぐらい。つまり1か月の給料を全部使えば,毎日3,4時間ゲームがプレイできた感じだ。例えば円換算で月収30万くらいとしてざっくり計算すると,プレイ1時間につき3000円ぐらい。高い!
4Gamer:
いや当時の5元って結構高いでしょう……? 子供がほいほい遊ぶものではなかったような。恵まれてましたねえ。
羅氏:
それ(チャータールーム)を経験して,そのあとは試験の成績と交換で親からもらうボーナスで,自分のコンソール機を買ってました。
4Gamer:
それ以降は比較的健全でした(笑)。
よその会社にはやりたいプロジェクトがないので,やっぱり自分で会社を作るしかない
4Gamer:
でもそうやって子供のころは時間貸しでゲームをして,学校の成績がよかったらコンソール機を買ってもらって……順調にゲーム遍歴を重ねてますけど,どういうタイミングで業界に足を踏み入れたんですか。
なにか特別なきっかけがないと,その当時の中国でゲーム業界に入るというのは結構難しいでしょう。
正式に業界に入ったのが,大学3年生の時です。通常は大学4年まであるので,大体みんな4年の時にインターン先を探して就業活動をするんですけども,自分はゲーム業界に入ることを待っていられなかったので,3年生の時から色々探し回ってました。
その甲斐あって,大学3年生のときにインターンとしてUbisoftの上海支社に入れたんです。
4Gamer:
おおUbiでしたか。そのころ日本のゲーム会社の支社とかなかったですか?
羅氏:
たくさんの日本メーカーの中国支社をターゲットにして就活をしていたのですが,「中国のゲームデザイナーは募集してません」とあっさり断られました。チャンスをくれたのはUbiだけだったんです。
4Gamer:
Ubiすごいな。
でもゲームデザイナーですよね。大学3年というと20歳とかですよね。20歳でゲームデザイナーをやりたいんだというその欲求は,当時割と普通ではないと思うんですよ中国では。その自信はどこから来たんですか。
羅氏:
うーん……やっぱり色々な知識を蓄えていたと思っていたし,独学でスキルを学んできたし,ゲームもたくさんプレイしているし,ゲームのディテールに関する分析もちゃんとできます。なので自信があったんです。
あと実は,高校の時からすでにゲーム業界に入っている人と連絡をとっていて,どうやって業界に入れるのかを聞いてました。僕は当時,もう高卒ですぐゲーム業界に入りたいと思ってたんですけど,その人のアドバイスは「中国の環境においては,やはり大学を卒業しておいたほうがいい」とのことで,素直に従いました。
4Gamer:
確かにロングスパンで見たら,そのほうが「正解」に近い気はしますね。ちなみに無事に入ったUbiでは,どんなことを?
羅氏:
当時の僕はUnreal Engine 2のエディタを使えて,ちょっと複雑なステージのデザインもできるようになってました。それこそが,自分がUbiに入れた理由でもあるんですが,僕の最初の仕事はレベルデザイナーでした。
4Gamer:
どの作品の?
羅氏:
「スプリンターセル パンドラトゥモロー」です。
4Gamer連載「スプリンターセル パンドラトゥモロー サムおじさんのスパイ教室」
4Gamer:
うお,最初から割と大きいタイトルをやってましたね。
羅氏:
当時このゲームのPC版は,Ubi上海が開発してました。完全に上海支社が独立して進めていたプロジェクトだったので,僕にとっても大変いいチャンスでしたね。
4Gamer:
確かにラッキーですよね。本家が管轄したら,そこまでのことはたぶんできなかったでしょうしね。
羅氏:
ええ。今となっては,支社が何かの独自のプロジェクトを進めるなんて,もうとても無理ですね。
4Gamer:
それでその後,自分の会社を作るまでの間には何があったんですか。
羅氏:
次はPandemic Studiosの中国支社に入りました。ここはアメリカのゲーム会社で,たぶん皆さんご存じの「デストロイ オール ヒューマンズ!(Destroy All Humans!)」を開発したところです。「The Lord of the Rings: Conquest」など,ニンテンドーDSのゲームもありました。
あぁそういえばMMOもありましたね。Biowareと一緒に開発して,EAが発売した「Star Wars: The Old Republic」です。
4Gamer:
うーん,それだけの大作に絡んで順当に経歴を重ねて,あえて聞くんですけどわざわざ辞める必要ありました?
そのままいれば,結構大きいタイトルも担当したりできたはずでは,と。
そうなんですけど,それも偶然の重なりで,2つの理由がありました。
まず当時Pandemicにいる頃,自分の同僚や上司から「独立したほうがいいんじゃない」となぜか猛烈に勧められました。これが一つ目の理由です。
二つ目の理由として,当時PandemicがEAによって買収されたことが挙げられます。買収されたことで組織内部の変動が多く,離れた人がいっぱいいました。この二つの相互作用で,僕も離れることを決めました。
辞めることは決まったんですけど,ほかに中国国内の環境を調べたり,ほかの中国内のゲーム会社をいっぱい見た感じでは,彼らのプロジェクトは自分がやりたいものではないなと思って。引き続きコンソールゲームを開発していこうと思ったら,やっぱり自分の会社を作るしかないなと。
Access Accepted第146回:Electronic Artsによる大買収劇の裏表
去る10月11日に,発表されたElectronic ArtsによるVG Holdingsの買収。VG Holdingsは,BioWareとPandemic Studiosという有名デベロッパを傘下に持っており,EAは一気に両社を獲得したことになる。これは,10年間守り続けてきたゲームの売り上げNo1.の座を,Activisionに奪われてしまったEAの,逆襲の一手と取れる買収劇だが,どうやらそれだけではないようだ。
- キーワード:
- PC
- ライター:奥谷海人
- 奥谷海人のAccess Accepted
- 連載
- 業界動向
4Gamer:
会社設立って何年でしたっけ。
羅氏:
2011年です。
4Gamer:
2011年の中国は,コンソールなんか誰も作ってないし,そもそも人もいなかったでしょう?
羅氏:
なので自分でやるしかなかったんです。
4Gamer:
しかしお話聞いてて気づいたんですけど,中国のゲーム開発者として,コンソールしか通ってない人は珍しいですね。
羅氏:
はい,独立前に自分でもそう思ってました。僕の理想は「ゲームプロデューサーをやりたい」であって,自分で独立して会社開いて社長をやりたいわけではないんです。
4Gamer:
すごく分かります……。
羅氏:
当時もし,どこかの会社が自分の希望と折り合えたら,きっとその会社に入社してたと思います。でもなかったんですよね。
4Gamer:
そうですよねえ。
羅氏:
なので最初に会社を立ち上げた時に,どうやってこのあとやっていくのかもさっぱり分からなくて,人も足りないし,お金もないし,会社ってどうやって進めるのかな? ということですごく困ってました。
4Gamer:
分かります……(笑)。
僕も,編集長としてメディアを作りたかったのであって,社長がやりたかったわけじゃないんです。やらざるを得なかったらからやっただけで。同じく最初何も分からなくて……。経理なんて分からないし見たこともないし,バランスシートって何? 粗利って? みたいな感じで,どうすんだこれ,って。たぶん僕もあなたも同じ悩みを抱えてたんですね(笑)。
本当にそうですよ。さっぱりです。僕もチームの人も,会社を立ち上げるということを簡単に考えすぎました。とてもいい経歴を持っている優秀な人材の集まりだったし,融資なんかすぐもらえるんじゃないかなって思ってました。
4Gamer:
ははは(笑)。
いずれこの先のゲーム業界は,AAAとインディーだけになって,真ん中が空くと思ったんです
4Gamer:
でも,僕は4Gamerを何年か運営したあとで,あとから会社になったから,ビジネスとしてやっていく予想図は描けたわけです。
でもあなたの場合は完全にゼロから作ったわけでしょう? 2011年の中国で,コンソールゲームを作る開発会社をゼロから起こすというのは,一体どんな勝算があってやったんですか。
羅氏:
やっぱりコンソールをやるという方向が正しいと思っていて,その先にはすごく開けた景色があると当時から判断してました。ただ,そのターニングポイントが一体いつになるのかは,まったくの未知数でしたけど。
それでなぜ方向性に対してそう判断したかというと,自分がいた会社を見ても,ほかの大手メーカーを見ても,どこも間違いなく全部そうなんですけども,会社のマネジメントをしている上層部……決裁を行っている偉い人たちは,ほとんどゲームをプレイしていません。
実際のプレイヤーとはすごく距離があって,その間には大きなギャップがあるけれど,なぜか彼らにプロジェクトを生かすか殺すかの決断が任せられています。ゲーム制作の方向を握っているわけです。これは当時から,業界に広く存在する大きな問題点だと思ってました。
4Gamer:
もしかしたら,今でもあんまり変わらなかったりするのかも?
羅氏:
まぁそうですね(笑)。
まぁ理由もなんとなく分かりますし,これはなかなか変えられない長期的なトレンドなんだと思います。でももし自分の会社を立ち上げて,僕がボスになれば,少なくとも僕はそういう人ではないので,僕が決裁をすれば,ほかのメーカーと比べて明らかにアドバンテージがあると思ったんです。
4Gamer:
その揺らがない自信が,すがすがしくてとてもいいです。
ふふ,ありがとうございます(笑)。
あと2つ目の理由としては,PS2時代の後半からPS3時代に転換するまでに,開発コストがすごく速いスピードで跳ね上がっているということを感じました。跳ね上がることで,ROI(投資利益率)が理想的な数値になれなくなってくるわけです。投入しているコストと,手に入れる利益が比例しないことが多いですから。
当時僕は,このトレンド(コスト増加)は,将来にもなかなか変わらないだろうと判断しました。これは海外の,伝統的な大手メーカーがみんな直面する問題だと思います。もし僕たちのように中国の開発会社でプロジェクトを進めるのであれば,ゲームの開発コストを,PS2黄金期だったころのコストに,大幅に抑えることができます。シングルゲーム黄金期のROIを実現することができるわけです。
4Gamer:
なるほど,意外とドライに見てましたね。
羅氏:
待ってください。まだ3つ目を言ってません(笑)。
3つ目は,多くのゲーム開発がAAAに寄っていってるということです。AAAを開発するには,開発人員の需要が大変大きく膨らみます。実際問題として,業界にいる開発人材の数は,需要に対して全然足りていないわけです。こういう状況がどんな結果をもたらすかというと,過去にあったゲームジャンルだったり,伝統的なゲームだったりを作る人がいなくなります。
ゲーム業界全体のリソースが,過度に“商業ゲーム”に傾いていく現象が見えます。昔ながらの中規模の,光るひらめきがあってアイデア中心のゲームを作る人がなくなりました。
4Gamer:
まぁ「全員に売れないとならない」のがAAAの宿命ですから,そうなりますよね。
羅氏:
コンソール市場で新入りが一席を奪うことはなかなか難しいと思われがちですが,当時の僕は,このトレンド(=AAAへの傾倒)が続くようであれば,隙間に市場の空白が生まれて,僕たちのようなデベロッパーが足を付いて立てる場所が出来るんじゃないかなぁと思ってました。
ただ,そのコンソール市場が明らかに両極端(AAAとインディ)に分裂するのがいつなのかは,当時の僕はまだはっきり見えてませんでしたけど。
4Gamer:
2011年時点であなたが立てたその予想は,大体10年ぐらいで当たりましたね。もうみんな,AAAを作ってるか,そうでなかったらインディを作ってるか。
羅氏:
そうですね。その間の市場が,すごく大きく開いてます。
4Gamer:
割とがら空きですもんね。
その予測は聞けば聞くほど,素晴らしいものだと思うんですが,何年耐えるつもりだったんですか。
羅氏:
大体のトレンドしか読めなかったですからねえ。
当時の僕は,コストをちゃんとコントロールして,できるだけ長めに生きられるようにしたいと思ってました。でもすごく正直に言うと,10年かかるとは思わなかったです(笑)。
4Gamer:
でも,あの頃にそれを考えてる人はほとんどいなかったのでは。
羅氏:
まぁ正直に言うと,会社を作る前に全部考えていたわけではありません。
チームを引っ張って会社をやらないとならないので,自分がこれをやりたいとは思っていますし,どう進めていくかとか,せめて自分の中で「理屈」を作ることが必要でした。どう進めれば成功できそうなのか,どれぐらいの勝算があるのか。
4Gamer:
自分の中での理由付けは分かります。“一番上”がブレないようにする効果もありますし。
羅氏:
そう。なので今話してたようなことは,2011年に会社設立したあとに,後付けしたものもあります。
でもはっきりと一本の筋が通ったら,これならいけそうだという見立てができるようになって,このような考えがあるとスタッフにも話して,これでみんな前を見て,堅実に進めるようになりました。
4Gamer:
でも会社設立から,最初のエンジェル資金調達まで4年かかってますよね。この4年間何もお金が入ってきていないということは,ずっと自己資金で動いてたということですか?
羅氏:
そう,自腹です。僕も含めて,多くのスタッフが過去に欧米の大手ゲーム会社で働いていたので,割といけてる待遇をもらっていたというわけです(ニヤリ)。ちょっとぐらい資金に余裕がありました。
4Gamer:
なるほどそういう事情。
羅氏:
続けましょう。まだ終わってなくて,最後の1点があります。全部で4つの理由があったんです。
4つ目としては,自分はやはり日本のゲームや日本のプロデューサーが大好きだということです。日本のゲーム業界の特徴として,コンテンツの方向性だったり,ゲームシステムだったり,少数のプロデューサーもしくはディレクターが決めていると思います。これは,欧米の細分化作業や,集団の中での役割分担で進めることとは違います。
欧米のゲームメーカーが,マーケットの主導的な立場/シェアを取ったことによって,ゲーム開発の分業体制がどんどん細かくなっていきました。ゲーム工業化の進行とともに,分業時代が到来しています。一つのゲームデザインに,多くの人が入って共同で創作活動を行うようになっています。これは,僕の中の理想のゲーム工業化発展とは全然異なっています。
4Gamer:
どんな工業化の方向性を望んでるんですか?
羅氏:
ゲームも映画のように,工業レベルがどんなに上がっても,監督と脚本家と少数の人がプロジェクトを制御して,作品全体の雰囲気を握るのがよいと思います。僕の理想はそれです。
ゲームにおいて今のような工業化が進むことによって,映画と比べると創作的な劣位性が出てきたと思います。個性的な表現が出づらくなって,どんどん取り柄がない凡庸な作品になっていきます。このネックも,僕らで突破しようと思った部分です。
4Gamer:
それに関しては僕もちょっと同じようなことを考えていて,AAAの作品というのは,莫大なお金をかけて,莫大な数のユーザーに向けて売るものだから,とにかく大勢の人の好みに合わなきゃいけない。となると,そのためにいろんな要素が入ってきて,それによってどんどん均一化してしまって,なんか同じようなものが出来上がっていくというわけです。
羅氏:
うん,なるほど。
4Gamer:
みんなが望むものを,みんながみんな全部入れたら,そりゃまぁ同じものが出来上がりますよね。なんかこういうの非常に良くないなぁ……と最近感じてます。
ポリコレとかもそうだけど,そうやっていろんな人の好みに,いろんな人の思想に合うようにしていくと,結局最後は,全部均一化された同じようなものがいっぱい出てくるだけになっちゃい兼ねないのが,最近のゲーム業界の悪い方向性じゃないかなぁ,と。
羅氏:
はい,全く同意です。
今すでに,ゲーム市場の規模がだいぶ大きくなっているので,個性の強い作品でもそれなりに商業的な利益が回収できるようになってるはずだと思います。
4Gamer:
確かに。でも,そうやってコンソールはまだいけるとか,将来はAAAばっかりになるから真ん中がなくなるとか,あなたが14年前に考えてたことなのに,例えば未だにいろんな人がモバイルゲームでゲームを作って,いろんな会社がAAAを作るわけです。
羅氏:
それは,さっき僕が言ったことが証明していると思います(笑)。決断をする偉い人が,プレイヤーとの間に深刻な乖離があります。プレイヤーたちは何を欲しているかが全く分かってないんです。
4Gamer:
本当にそうなんですかねえ……。
羅氏:
重要なことは,工業化が進むことによって多くの人にゲームを売りたくなるという発想は理解できますが,それは,個性的な作品や新しい創造力を込めた作品と,根本的な対立はしないということです。
偉い人達はただ単に数字から,もしくは彼らの過去の経験から,「こういうもの出しておけばいいだろう」と思い込んでいるだけだと思います。事実は全然違うと思うんですけどね(笑)。
4Gamer:
でも,過去のものを参考にして今のものを決めたら,それはただの「縮小再生産」ですよね。なんていうか「IIIがこれだけ売れたからIVはこれくらい売れるだろう」みたいな。それだと絶対に前のものを超えられない。
羅氏:
そういうことです。
欧米の人が日本のゲームを作るとサムライや忍者ばかり。でも日本文化にはそれ以上のものがあるはず
しかしまぁ,そんなちゃんとした考えを持って十何年頑張ってきて,でも今まで作ったのは,小ぶりな作品3本くらいですよね。
羅氏:
そうですね。
4Gamer:
それが急に「昭和米国物語」ですよ。
羅氏:
それこそが,我々の本当の目標です(笑)。
4Gamer:
タイトルのことはそんなに聞かないでおこうと思ってたんですけど,ちょっとだけ。あれは,なんでわざわざあんなテーマなんですか。
羅氏:
僕は,個性的表現がありつつ,広くプレイヤーに受け入れられ,市場に受け入れられる作品を作りたいと思ってます。その作品に,ちょっとした中国開発者の特色があればなおさらいいですね。
プロジェクトが立ちあがった2016年時点では,中国のゲーム市場がこんなに大きく,プレイヤーがこんなに多くなると思わなかったです。当時の中国国内のコンソールゲーム市場はとても小さく,PCのシングルゲーム市場も今のような大規模なものではなかったです。そのため,プロジェクト発足初期は,海外市場をターゲットにしていました。
4Gamer:
当然そうならざるを得ないですよね。
羅氏:
海外市場をターゲットにして調査を進めていくにつれ,日本の同業者たちにすごく啓発されました。
多くの日本のゲームは,欧米を舞台にしたりテーマにしたりしているわけですが,それでも濃厚な日本ゲームの雰囲気を出しています。絵柄もそうですし,ストーリーも,スタイルも,キャラクターの性格も,パッと見ただけで「これはジャパンの作品だ」と分かります。
一方で中国のゲームは,世界市場に向けて,このような特色が欠けています。いっときの中国ゲームは,中国の伝統文化をテーマにしたり,武侠ものを作ったりしてましたが,こういう明らかな“中国モノ”は,世界でもちょっと理解できるのが日本のプレイヤーくらいしかいないと思います。欧米のプレイヤーにはさっぱり分からないのでは。
4Gamer:
ちょうどこの前,別な中国の人と同じような話をしてて,武侠も,日本の時代劇もアメリカ人には理解できないですよねって。
なのであなたがWukong(黒神話:悟空)のように“中国カルチャーの輸出”に進まないで,そういう……B級? 楽しそうなB級テーマに行ったのがちょっと独特で面白いですよね。日本とアメリカをテーマにしたゲームを中国人が作ってるっていう,このシュールな感じがとても楽しいです。
羅氏:
ほかの中国ゲーム開発者たちがこういうテーマを採用してないから,僕たちに作るチャンスがもらえました(笑)。
4Gamer:
僕もまだムービーしか観てないですけど,海外の人が考える日本とか,海外での日本のイメージとか,そういうものを持ってきてゲーム内にまず置いてみて,形を整えて輸出してるみたいな,なんだかよく分かんない構図がすごくいいです。
中世のファンタジーを輸入して,なんでもかんでも全部日本風に変えて輸出してる,みたいなのに近い感じを受けました。
羅氏:
うん,そうですね。
僕が子供の時に遊んでた「三國志」や「幻想水滸伝」なんかは,日本の開発者が中国文化をテーマにして作ってますしね。
4Gamer:
確かに。まぁ日本もそういうのは得意中の得意ですから(笑)。
はい(笑)。こういう日本の作品や,同業者からの啓発で作られている作品が,「昭和米国物語」です。
日本の伝統的なもの……例えば侍,忍者,または和風の何かは,欧米にはある程度認知されています。漫画なんかもそうですね。それでも日本のゲーム開発者達は,そういうテーマに執着して,それだけを開発するということはしません。代わりに,世界各国のテーマを取り扱って再構築して外に出しているのが,素晴らしいと思います。
中国の伝統ものは日本と比べてまだ全然欧米に浸透していないのだから,よりターゲットを広くして,世界に馴染みのあるテーマを作ってみなきゃダメだと思います。
4Gamer:
そういうカルチャーの理解度的なところも「なるほどな」と思わされますが,もう一つ勝手に「なるほどな」と思ってるのが,過去のことをテーマにしてる部分ですね。すごくクレバーだなぁと思いました。この先絶対に変わらないし,腐らない。
羅氏:
価値観の変化がないという意味で,おっしゃるとおり腐らないんですよね。
4Gamer:
そうですね,将来の流行に左右されないというか。
羅氏:
僕ももちろん,欧米が作る日本テーマのゲームをいくつか見てきたんですけど,やっぱり欧米の人が作ると,サムライや忍者ばかりなんですよ。欧米の人の目に映る日本って,こんなもんなのかな,日本文化はそれ以上あるはずだとずっと思ってました。
そういう考えがあるから,身の程知らずにも「昭和米国物語」のようなゲームに挑戦してみようと思ったんです。
4Gamer:
繰り返しですが日本人じゃなくて中国人が作ってるというのがいいですね(笑)。しかもさっきの話で言うなら,全然「工業製品感」がない。
羅氏:
はい。それこそが,僕らが期待している発展方向になっています。
4Gamer:
ご自分でもさっき言ってたけど,分業と工業化はしてないわけですよね。あなたがきっと全体の方向性を決めて,テーマを決めて,雰囲気を決めて,下に投げるわけでしょう。
羅氏:
そうですね。
4Gamer:
うん,いいですね。
一番最初のTGAの話で言うなら,そういう風に……なんていうか,一人の変な人が全てを決めて作ってるんだろうな,と思えるような楽しさを持ったタイトルがそんなに見当たらないんですよね。
羅氏:
うん,本当にそうですね。それも,僕がプレイヤーとしての立場で,ちょっと失望したところです。
4Gamer:
こういう流行りに乗ってるんだろうな,こういう人達に売りたいんだろうな,っていうのがまぁまぁ分かりやすいタイトルが結構目立つ気がします。
そういうものを作らないから,僕は上田さんが大好きなんです。
羅氏:
分かります,僕も大好きです。上田さんの「ICO」は,僕の中のゲームトップテンに入ります。
4Gamer:
「ICO」いいですよね! ……ちなみにほかのトップテンにはどんなものが?
羅氏:
「スーパーマリオギャラクシー」
4Gamer:
わ,全然方向性が違うのが来ましたね(笑)。
羅氏:
このゲームの素晴らしいところは,すごく贅沢にゲームプレイを運用しているということろです。ゲームの中の数ステージのプレイを取り出してみると,ほかであれば単独に一つのゲームとして成り立つくらいです。最初に見たときにすごく驚きました。
「スーパーマリオギャラクシー」をプレイしたとき,僕もプロとしてゲーム開発を数年経験したタイミングでした。自分自身にそれなりに経験が積まれただろうと思いきや,このゲームに触れて大きな衝撃を感じました。
4Gamer:
そんなにですか。
羅氏:
素晴らしい理念を持ちつつ,莫大なリソースをかけて運用できるのが,すごくうらやましく思いました。当時の僕にはこんなゲームを絶対に作れないと,距離を感じました。
ほかにも「シェンムー」と「スーパーロボット大戦」も,とても好きなタイトルです。
4Gamer:
見事にジャンルがバラバラですね(笑)。
羅氏:
いろんなゲームをプレイしている雑食系なんです(笑)。
4Gamer:
いや,素晴らしいと思います。やっぱり人には好みがありますし,やっぱり似たようなジャンルになりがちなんですよねこういう質問は。ここまでバラバラなのが出てきたのは久しぶりです。
でもそれは,それだけいろんなゲームを見て,いろんなゲームをプレイして,いろんなゲームの良いところも悪いところも見てきているわけじゃないですか。プロデューサーとしてすごくいいと思います。
羅氏:
はい。おっしゃるように,自分の成長に対して大きく作用したと思います。
各ジャンルのゲームが,それぞれ多くのプレイヤーに支持される理由に対して興味を持っています。特定のジャンル,もしくは特定のタイトルを好んでプレイしているプレイヤーを見かけたら,話を聞いてみることにしています。プレイヤーとコミュニケーションを取ることによって,そのジャンルまたはゲームの魅力となるところを,僕も理解できるようになりたいです。
4Gamer:
なんていうか,すごく「真面目」なんですね。いや「真摯」というほうがいいのかな。
羅氏:
そんな経験と思考方式に加えて,自分自身も積極的にいろんなゲームを遊んでいるので,結果として僕の興味もどんどん広がっていきました。ほかの人が感じるゲームの魅力を知って,僕も一緒になってそこに溺れるといいますか。
4Gamer:
なんかゲームメディアっぽいですね。
羅氏:
そうですか?(笑)
4Gamer:
当然僕らも,それぞれのスタッフには得意分野とか好きなものがあるわけですよ。例えば僕だったら,MMOとか数値管理系は好きだけど,アクションゲームはほぼやらないとか。
でもメディアとして,ある程度全体を俯瞰する必要があるわけで,いろんなゲームをやってみて,スタッフとかから話を聞いてみて「なるほど,そこが面白いわけね」とかやってるんですけど,同じようなことをやってる感じだなぁと思いました。
羅氏:
そうかもしれません。あとそうやって自分の興味を広げるときは,すごくメディアに助けてもらいますね。
僕は通常,このゲームをプレイすると決めたら,プレイ予定のゲームが最初に情報を公開するときから,メディアにお披露目されたものをできるだけ時間順で辿ることにしています。そのシリーズのプレイヤーと同じように,順序立てて読むことによって,このゲームに対する期待を膨らませるわけです。
4Gamer:
そう読んでほしいという読まれ方で嬉しいですね(笑)。
羅氏:
発売前の最後の記事を読み終わったときには,そのゲームのプレイヤーと同じように期待値MAXで,フルテンションです。その状態で発売日に臨みます。そんな気持ちでゲームをプレイすると,体験できるものも全然異なってきますからね。
人の言うことなんか気にせず,ただ単に自分が思い浮かべた,作りたい作品を作るというだけのことです
4Gamer:
そうやって努力していろんなものを見てきたあなたの感覚が,きっと「昭和米国物語」に生かされてるわけですよね。
羅氏:
はい。
4Gamer:
あのPVは妙に話題になりましたけど,その評判はどうですか。予想通り? それとも思ったより低かったとか,なんか感想的なものはありますか。
羅氏:
話題のされ度合いに対しては,ほぼ予想通りです。ただ,プレイヤーの皆さんがくれる高い評価は,僕の想定よりだいぶ高いです。
4Gamer:
お,そうなんですね。
羅氏:
普通はどんなゲームでも,好きな人も嫌いな人もいるわけです。だからたぶん,批判するプレイヤーもたくさんいるだろうな,とは思ってました。
4Gamer:
でも実際は違った。
羅氏:
いくらなんでもちょっとおかしいので,実は批判するプレイヤーさんは,まだこのゲームを叱るポイントが見えてないだけなのかな,と思わなくもないです。ある日突然それが分かって,一斉に否定されるかもしれません。
(一同笑)
4Gamer:
まあでも,100人いて100人が好きなゲームなんて普通はないので
羅氏:
はい,そうです。僕も創作において,同じような考えを持っています。人の言うことなんか気にせず,ただ単に自分が思い浮かべた,作りたい作品を作るというだけのことです。
全員を満足させるようなゲームはないので,きっと批判する人がいますが,僕も批判を恐れずに,このゲームを作っています。でもいざ情報をお披露目してみたら,そこまで批判がなくて,自分の予想に反していて逆に恐縮してしまいます……。
4Gamer:
確かになんか不安にさえなってきますね。
羅氏:
そうなんです(笑)。ちょっとだけ不安です。
4Gamer:
プレッシャー感じます?
羅氏:
プレッシャー大きいですね。でもプレッシャーを感じるたびに,僕と僕のチームに言います。「プレッシャーに負けずに,僕らが元々どう作りたいかを忘れず,思うがままに前に進めばよい」と。
4Gamer:
いいと思います。最近はネットの評判とかすごく気にしますし,ローンチしたらしたでKPI重視とか言い出しますし。
冒頭であなたが言ってたように,ゲームって,映像とストーリー,音楽がまとまった,1つの完結されたエンタメとしてかなり制作難度が高いものだと思うんです。そうやって考えて作ってくれる人がいるのはすごく心強いですね。
羅氏:
そういう人が多かったはずの,近年の日本ゲーム業界が抱えていた苦境が少し心配だったんですが,ここ最近の状況を見ると,だいぶ緩和されていますね。
4Gamer:
どの辺が緩和されてます?
まずは,中規模のメーカーがまた頭角を表してきていますね。いわゆる“大手”でないところです。こういう中小メーカーもそれなりの作品を作って,商業的にも評判的にも評価できるような成果が出せます。
あとは,欧米のTGAのような大型イベントにも,数年連続で日本のゲームが複数本ノミネートされていて,大賞ももらっています。そして日本は,個性的なプロデューサーがいまでもいて,欧米の商業的作品とは異なるゲームを開発し続けています。
この3つですね緩和されてる理由は。僕もそういうのが見えてとても嬉しいです。
4Gamer:
確かに,ようやく日本も巨艦主義の呪縛から逃れて,少しずついい面が出てくるようになってきてるなというのは確かに同じ意見です。なんていうか,100億円かけて200億円売らなきゃみたいなことから,うまく逃げはじめてきた気がします。
羅氏:
あとはやっぱり,日本はすごく多くの優秀なゲームデザイナーの人材を持っています。これは中国のゲーム開発者としてはすごくうらやましく思います。
中国のゲーム発展過程において,成長のスピードは確かに速かったんですが,海外メーカーの下請けとして登り詰めてきたので,その過程で育成できたほとんどは技術系の人材であって,ゲームを制作(製造)する側の人材です。
4Gamer:
なるほど。優秀なオペレーターはたくさんいるけど,その上が不足していると。
羅氏:
ええ。本当に自分自身でプロジェクトやゲームデザインをコントロールし,引っ張って進められる人は,やはり少ないです。中国のゲーム業界は,いまでもそのような人材が不足しているわけで,レベルが高いゲーム作品を作るのがすごく難しくなっています。まだまだ多くの,やらねばならない挑戦が残っていると言えますね。
4Gamer:
逆に言うと,今までいろんなタイトルの下積みの期間がすごく長かったので,技術的な面ではもう世界のトップレベルにいるわけじゃないですか,中国のゲーム開発って。なので,そのハンドリングできる人がいれば,割とすぐかなりのものが作れるんじゃないかな? と。
そうなんですけど,経験のあるプロデューサーとかデザイナーを育成するには,なかなか長い道のりがあると思いますよ。
僕の会社もそれを重心にやっていますけど。
4Gamer:
お。まさに今,それを言おうと思ったんですよね。「だからあなたの責任は重大ですよ」って(笑)。
じゃあそのプロデューサーを育てるのが,たぶんあなたの直近での最重要のミッションですね。頑張ってください。ありがとうございました!
羅氏:
謝謝。
4Gamer:
……って終わったあとで聞くのもアレなんですけど,すぐ中国に帰るんですか?
羅氏:
いや,日本の会社と何か提携関係やパートナーシップを結びたいと思って回る予定です。
4Gamer:
お,いいですね。記事に書いてもいいですか?
羅氏:
もちろんOKです。
4Gamer:
日本のプロデューサーが,中国の技術力を使って作ればバッチリだと思うんですけどねえ。
羅氏:
まったく同意です。
4Gamer:
でもそれ何年も前から言われてるんだけど,あんまりうまくいかないんですよね。
羅氏:
そうなんですね。じゃあ僕たちも,いくつかのプロジェクトを試してみますよ。
4Gamer:
おお,素晴らしい。ぜひお願いします。結果も待ってます(笑)。
羅氏:
了解です!
―――2024年12月16日収録
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