「ウルティマ オンライン」「EverQuest」と順当にMMO廃人の道を歩んだ筆者は,(今だから正直に言うが)まぁ当時イケイケだった洋ゲーMMORPGに比べたらそこまでのものでもないだろう,と思ってリネIIに参加したものだ。まぁ「そこまでのもの」だったことは,連日の徹夜という形ですぐに証明されたわけだが。
そして毎日毎日トゥレックオークを倒していたあのころ,寝不足の頭で出社しながら,こんなものを設計したのは誰だ。仕事が進まないのをどうしてくれるんだ,と思ったものだったが,その設計者こそが,今回の主役であるJames Bae(ペ・ジェヒョン)氏だ。
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「リネージュII」でMMORPGの一つの完成形を示し,「ブレイドアンドソウル」ではMMOの世界に格闘ゲームのようなプレイ感を持ち込んだ,韓国ゲーム産業を代表するプログラマー出身の開発者である。
かつて「ゲームの決定は民主的には行われない。独善的な決断もあるんだ」と言い放った人物でもあり,穏やかな物腰の奥に過激思想を持った頑固オヤジである。
もっとも今回の取材で氏は,その伝説的な(?)発言を自ら回収した。独断で決めた難度設定が「見事に失敗」してめちゃくちゃ叩かれた話,グローバルで開設したDiscordチャンネルに自ら張り付き,プレイヤーの反応をリアルタイムで眺めながら,テスト期間中1日単位でパッチを当て続けた話……。
20年という歳月と,開発者とプレイヤーの距離を一気に縮めたテクノロジーは,ゲーム作り全体をそこまで変えるのかと,話を聞きながらしみじみしてしまった。
[インタビュー]「今この瞬間ではなく,未来を見据えるべき」――リネージュIIをフル3Dにした男が,50代で挑む新境地。NCSOFTのペ・ジェヒョン氏に聞く
リネージュIIを作り,ブレソを作り,いまは「CINDER CITY」を作っているのが,NCSOFTの顔ともいえる開発者ペ・ジェヒョン氏だ。MMOの最先端に居続ける彼に,思想のあれこれを語ってもらおう。
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- 編集長:Kazuhisa
そんなBae氏がいま作っているのは「CINDER CITY」(シンダーシティ)である。
2022年に「Project LLL」のコードネームで発表され,2025年8月に正式タイトルが公開された本作は,23世紀の未来技術が21世紀と交錯する歴史改変SFを下敷きに,現実の三成洞(サムソンドン)や論峴洞(ノンヒョンドン)をモデルとした崩壊後のソウルを描く,オープンワールドMMOタクティカルシューターだ。
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対応プラットフォームはPCおよびコンソール。エンジンにはUnreal Engine 5を採用しつつ,AI NPCを動かすサーバーは自社開発という力の入れようで,MMOシューターなのに物語の軸に据えられているのは,崩壊したソウルで娘を捜す父の姿だ。
2026年8月には,北米で約7000人規模で3日間のプレアルファテストが実施され,年末には対象地域を北米・欧州・アジアへと広げたアルファテストが予定されている。そう,この「アジア」には日本も含まれるのだ。
正直に言うと,最初に「Baeさんがシューターを作るらしい」と聞いたとき,筆者はまるでピンとこなかった。MMORPGの人が,なぜいまシューターなのか。その市場には,すでにあまたの強豪が,所狭しとひしめいているではないか,と。
だがその答えは前回のインタビューですでに氏の口から出ていて,今回はさらに具体的な形で語られることになった。曰く「欠けているものがあるから作る」。その中身は,ぜひ記事で確認してほしい。
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今回のインタビューは,「東京ゲームショウに行くから会いませんか」という氏のオファーから始まっている。「CINDER CITY」が出展しないことは知っていたので,視察がてら来日してお茶でもしようという話なのかと思ったら,がっつりインタビューが組まれていた。
前回ソウルのNC本社でお会いしたときは,あまりにもゲームの話をしなかった結果,同席していた広報担当に大変渋い顔をされてしまったので,今回はちゃんとゲームの話をしている。
プレアルファテストの生々しい結果と難度設計の見直し,プレイヤーに気づかれないことをゴールとするAI NPC,初公開時から行方不明のままのビザンティン帝国,そしてクロスプレイへの本音―――と,今回はみっちりである。
妻に「洞窟」と呼ばれる地下室に籠もって,いまだに毎日ゲームを遊び続けている男。その男が何度か口にした,後悔と達成感の無限ループの話は,何かを作る仕事をしているすべての人に刺さるはずだ。Bae氏ほどの人であってもそのループを喰らっているのかと思うと,ちょっと自信とやる気(?)が湧いてくるというものだ。
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4Gamer:
「東京に行ったら連絡するよ」という約束を守っていただけてありがとうございます。しかしインタビューと会食になるとは思わなかったですが(笑)。
Bae氏:
ふふふ。自分のタイトルの出展もないのに来ました。
4Gamer:
Baeさんくらいのクラスになれば視察で来るんでしょうけど,最近のゲーム業界をどう見てます?
Bae氏:
うーん……まだちゃんと見ているわけではないですが,日本のゲーム会社が,再び飛び立とうとしている気がするんですよね。もちろん今までだってずっと良い仕事をしてきたわけですが,最近何社かを見ていてとくにそう思います。
4Gamer:
日本に限らず,アジア全体としてなんとなく流れが来てる感じありませんか? 僕がアジア圏ばっかり見てるせい?
Bae氏:
いや,こういうのって流れがあると思いますよ。それはぐるぐると,国ごとに回っていきます。その勢いのようなものが,いま確かに韓中日のほうに来ている気はしますね。そして相対的に,反対側―――アメリカやヨーロッパは少し抜けてしまった感じで。
4Gamer:
インドネシアとかマレーシアとかもどんどん伸びてきてますし,中東のあたりまで含めて「アジア圏」と捉えると,人口ボーナスも相まって相当に強力なエリアだと思います。
Bae氏:
そうですね。東アジアの代表的な3国だけで考えてみても,再び力を蓄えてきた日本の会社,ゲーム機市場に打って出た韓国の会社,そして人と資本の物量で迫る中国の会社と,立場はそれぞれ違いますが,この3か国がいまかなり強くなっていると思います。
4Gamer:
「再び飛び立とうとしている」日本のゲーム会社で目をつけているのはどこです?
Bae氏:
これは「業界人」としてではなく,一人のゲーマーとして考えて,最近出たゲームでいちばん面白かったのは日本の2社のゲームですよ間違いなく。カプコンとフロム・ソフトウェアです。
4Gamer:
あぁ……それは誰であっても肯定の意を示すと思います。
でもTGSの会場は,きっとまだ見られてないんですよね。
Bae氏:
ええ,見られてないです。カプコンブースを見たいのに。
今年個人的にいちばん期待しているのは「バイオハザード RE:ベロニカ」(PlayStation 5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch 2 / PC)なので,カプコンには頑張ってほしいです。プレイヤーとして期待してます。
4Gamer:
意外とねっとりしたゲームが好きですね。しかしそういうゲームをする時間,あるんですか?
Bae氏:
実は外向的な性格ではないので,大体ずっと家にいるんです。家には,妻が「洞窟」と呼んでいる地下室があって,そこには大型スクリーンや数々のゲーム機,ゲーミングPCがずらっと並んでいて,大体そこで遊んでいます。
4Gamer:
洞窟って(笑)。
Bae氏:
クマが住んでる洞窟みたいな(笑)。まあでも,それくらいゲームが好きだから,今までゲームを作り続けられるんだと思います。
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4Gamer:
この間の話ですよね。気づいたらこんなに長くやってるっていう。
Bae氏:
逆に,あなたは今回の東京ゲームショウをご覧になってどうでした?
4Gamer:
僕もまだ会場に行けてないんですよ……。ずっとここでミーティングを。
Bae氏:
あぁ,似てますね(笑)。ショウがあっても会場の中には入れなくて,ただ周りをぐるぐる回っているだけ。
4Gamer:
そうです,そうです。ホテルの中で,ミーティング,インタビュー,会食。ミーティング,インタビュー,会食。ミーティング,インタビュー,会食……。
Bae氏:
まったく同じです(笑)。
4Gamer:
今年こそゆっくり見たかったんですが。
Bae氏:
最近は,各国の市場がどう動いているのかを面白く見ていますよ。我々も,自分たちのゲームをとうとう世に出さなければならない立場なので。
4Gamer:
そうですよね。前回はあまりにもゲームの話をしなくて,広報担当の人に横ですごい渋い顔をされたので,今日はちゃんとゲームの話からしましょう。
「CINDER CITY」はちょうどテストが終わりましたよね。どんな感じでした?
北米7000人のプレアルファテスト。「射撃感とサウンドとストーリー」は好評,難度は失敗
Bae氏:
北米で約7000人を対象に実施したんですが,結果は悪くなかったですよ。良い点も悪い点もありましたが,いちばんポジティブだったのは,シューティングの手応えです。シューターを作るときに最も怖いのは,欧米の,基準がとても高いシューターファンの目ですから。
銃を撃つ感覚,とくにサウンド周り,それからナラティブ……ストーリーコンテンツへの評価が良かったですね。逆に悪かったのは「序盤が難しすぎる」という点です。
ゲーム内では弾薬を自分で確保する必要があるんですが,そのバランスへの不満,最適化不足,一部システムの粗さも指摘されました。
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4Gamer:
自分でも言ってるように,目の肥えた北米のシューターファンに向けて出したんだから,最初からやや難しめに設定しちゃったのでは?
Bae氏:
いやあ……ずっとゲームを作ってると,開発者はゲームの難しさが分からなくなるほど上手くなってしまうんです。そんなわけで難度設定で失敗したのは確かです。
これらを修正してコンテンツも追加したうえで,次のテストを行います。前回がプレアルファで,次がアルファテストです。
4Gamer:
プレアルファは,7000人のシューターが1つのワールドに同居していたわけで,その中での難度設計はすごく難しいと思うんです。何を基準にして決めているんですか。
Bae氏:
そこは7000人が1つのワールドに入るわけではなく,複数のワールドに分かれてます。多いところで2000人,少ないところで1000人超えくらい。舞台は開けたソウルの空間なので,そこは難度をもっと下げるべきだと考えています。
一方で,4人ずつで入る空間や建物の中は難しめ。屋外は易しめで,屋内やインスタンス空間は難度を維持しする方向で調整します。
4Gamer:
でも,例えばいままであなたがやってきたようなMMORPGであれば,重要なことはレベルや装備の差で,極論すれば個人のプレイスキルではあまりゲーム進行が変わりませんよね。
でもシューターにおいて生存を決めるのはほぼプレイヤースキルだけです。MMOにおいてその難度設計は大変だろうなぁ,と。
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Bae氏:
本当にそのとおりで,難しいんですよ……。
今回のテストは3日間でしたが,上手いグループは,2日目にはテスト想定区間を走破して,ワールドを回って装備を集め,フィールドボスまで討伐していました。一方でカジュアルなグループは,序盤でつまずいてしまっています。プレイヤースキルの差があまりに大きいんです。
上手いグループは開発者より上手いし,ルートシューターをカジュアルに遊んでいた層はもっと低い難度を求めます。ゲーム開発においてバランシングは常に難しいものですが,このゲームはとくに難しいと思います。
4Gamer:
それはどうやって解決するんですか?
Bae氏:
先ほども言ったように,方針を大きく変えました。
序盤や,みんなが一緒に遊ぶ屋外区間は難度を下げる。ダンジョンや建物内などのインスタンス空間は,プレイヤーが難度を選択できるようにする。もちろん,難度に応じて報酬は変わりますが。
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「ゲームの決定は民主的には行われない」と言った男が,Discordに張り付いて毎日パッチを当てている
4Gamer:
直してほしいと言われたことは直すよ,弾が少ないと言われたら増やすよとおっしゃってますけど,随分昔―――2008年か2009年頃,あなたは確か「ゲームの決定は民主的には行われない。独善的な決断もあるんだ」と言っていて(ここでBae氏はニヤリとした),「そうだそうだ!」と思ったものです。
あれから20年近くが経って,考えが変わったんでしょうか。
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いえいえ。今回の難度は私が独断で決めて,見事に失敗しました。めちゃくちゃ叩かれました(笑)。
そんな中とても面白かったのは,今回グローバルでDiscordのチャンネルを開いたことです。そこでテスト参加者を集めてアカウントを発行し,みんながそこに書き込み,会話する。それをリアルタイムで見ながらのテストで,申し訳ない気持ちと,面白い気持ちが同居していました。
初日にパッチを当て,2日目も直し,3日目も直し―――1日単位で修正し続けたんです。
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4Gamer:
そういうのって,最近では珍しくはないですが,あなたが「リネージュII」を作って僕が喜々として毎日遊んでいたあの時代には,考えられないシステムですよね。
ユーザーの声が,生で,リアルタイムに聞ける。でも,あまりにたくさん声が聞こえてくると,作りづらくはないですか。どこで線引きするんです?
Bae氏:
昔もユーザーの声は聞いていましたが,掲示板の書き込みを運営がまとめてくれたり,テスト組織がレポートにしてくれたりと,一段階挟んで私のところに届いていました。
いまはDiscordに上がってくるものを,意見を収集するクローリングツールで開発者が直接回して見られます。速くていいですね。それにこれは集合知なので,数千人も集まれば正しい結論が出ます。
4Gamer:
僕は基本的にあんまり「集合知」を信じていないんですが,確かに同じ目的を持った人がそれだけ集まったら集合知になりそうです。
Bae氏:
もうひとつ興味深かったのは,言語の壁が消えていたことです。
SteamとDiscordをプラットフォームに使いましたが,最近は自動翻訳の精度が高いでしょう。AIツールでもブラウザでもリアルタイムに翻訳される。だから国も地域も関係ない。私が韓国語でどこかのインタビューに答えれば即座に各国のコミュニティに広がるし,きっと今日のこのインタビューが日本で公開されたら,すぐ世界に広がるはずです。
ゲーマー達と,素早く直接コミュニケーションできる時代です。今回のテストは本当に意味があったし,楽しかったですよ。
4Gamer:
まぁ僕らのやり取りのメールも,今や日本語ですもんね。
Bae氏:
本当に(笑)。技術の発展で,壁はこの先もっとなくなるでしょうね。オンラインゲーム内のチャットやボイスも自動翻訳できるようになる。いまはコストの問題がありますが,それもすぐ解決すると思います。
4Gamer:
あなたは「職業開発者」―――サラリーマンとしての開発者ではなくて,自分自身がコアプレイヤーであるうえでゲーム開発をやっている人なので,譲れないところがいっぱいあるんじゃないかと思ってたんです。
聞こえてくる声に「そうじゃないよ!」と思うことがあるんじゃないかと思っていたんですが,そういう感じじゃなさそうですね。
Bae氏:
もちろん作っているときは,こだわりがありますよ。ただ,数百人を集めてテストをすると,2時間で考えが変わるんです(笑)。
事前に社内で散々会議して,あらゆるこだわりと闘って決めたのに,テストを開けてDiscordの反応を見た瞬間,すべての答え合わせが終わります。何が正しくて,何が間違っていて,何を我々が知らなかったのか,即座に分かってしまうんです。
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4Gamer:
そう考えると,ちょっと怖いです。
……いや,サイトのリニューアルなんかも似たようなものか。「そこが気になるのか」と気付かされることばかりです。
Bae氏:
昔からそうでしたが,テストが始まると,私自身もずっとゲームをプレイし続けます。プレイしながら会議をして,直して,またプレイして。今回もテスト期間中,ずっと遊んでいましたよ。
「父と娘の物語」と「MMO」は矛盾しないのか
4Gamer:
話が少し戻るんですが,ストーリーの評判が良かったとさっき言ってましたよね。
それを聞いた瞬間は「ほうほう」と思って聞いてたんですけど,よく考えたら,本作は父と娘の物語ですよね。父の想いという極めてパーソナルなナラティブな部分とMMOシューターというジャンルが,僕の中ではどうしても一致しないんです。
パッと考えると相性が悪いはずなんですが,その矛盾をどう解決しているんですか。
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「シンダーシティ」gamescom最新映像が公開。陰謀と科学的災害がうずまく,オープンワールドTPSの世界観を垣間見る
gamescom Opening Night Live 2026で,NCはPC向け新作タイトル「シンダーシティ(CINDER CITY)」の最新映像を公開した。本作は近未来の韓国・ソウルを舞台に,スーパーソルジャー“シンダーナイツ”となって戦うTPSだ。
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Bae氏:
言わんとしていることは分かりますが,シューターのプレイヤーは,ストーリーコンテンツを求めているんです。でも,誰も上手く作れていない。費用がかかるし,なにより難しいから,だんだん作られなくなりました。
だから我々のストーリーが素晴らしかったというより,ストーリーコンテンツがきちんと入っていること自体に満足してもらえたんだと思います。
4Gamer:
でも,入っているストーリーをプレイヤーが余すところなく体験できて「いい話だった」と思ったからこそ,その評価なわけじゃないですか。その時点で矛盾は解決できていると思うんです。何か気をつけたことがあるんですか。
Bae氏:
いや,繰り返しですが「あるから喜ばれた」んですよきっと(笑)。それはそれでありがたいことですが。
ストーリーコンテンツが作りにくい理由はこうです。みんな映画やドラマを観ますよね。それも大抵は良くできたものを。でも映画は2時間です。
ゲームは,どんなに短くても20時間,30時間ぶんのストーリーを入れなければならない。とくに「CINDER CITY」のようなプレイタイムの長いゲームは,もっとです。
4Gamer:
うんそうですね。確かに2時間どころではない。
Bae氏:
長いプレイタイムにストーリーを入れようとすると,時間とコストが無限に膨らんでいくんです。開発リソースは有限ですから,最近のシューターでストーリーが作られない理由はそこにあります。
ただ我々は,それを求める人たちをターゲットにすると決めたので,方法を探して,いろいろやっているわけです。
4Gamer:
意外と地味な……といっては失礼ですが,地味な努力の結果なんですね。
Bae氏:
そうですよ。でも気をつけているのは,実感の湧かない世界観を注入するのではなく,その中にいるキャラクターたちの個人的な物語を入れることですね。
人が共感するのは,人の話です。世界のほうは雰囲気で十分伝わるし,プレイしていれば分かるようにするのが正しい。
4Gamer:
ちょうどその部分の話も聞こうと思ってました。先日お会いした2月だか3月に「荒廃したソウル」の話をされていましたが,書き始めた頃の想定よりはるかに現実が先を行ってしまったわけですよね。
あれから数か月でさらに現実は先に進みつつありますが,その部分をディストピア世界にもう一度組み込んで書き直したりしてるのかなとちょっと思ったんですけど,そうでもなさそうですね。
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Bae氏:
そうですね。あくまでも,その中にいる人々の物語です。ある者は娘を探さなければならず,ある者は過去の事件を解決しなければならない。
ローンチ時点でプレイアブルキャラクターは5人いて,プレイ中いつでも交代できます。ローンチまでに5人全員の個人ストーリーを入れることはできませんが,何人かには,ワールド共通のストーリーとは別に,自分自身の物語があります。全員に戦う理由があるんです。
できるだけ多く入れて,ローンチに間に合わなかったキャラクターのストーリーは,ライブ運営の中でチャプター単位で更新していくつもりです。新キャラクターを追加するときは,できるだけストーリーコンテンツと一緒に入れます。
4Gamer:
そこだけ聞いてると,なんかスマホゲームみたいですね。
Bae氏:
似ているところはあると思いますよ(笑)。プラットフォームは違えどライブゲームですから,継続的なアップデートをどういう形でやるかを考えるうえで,モバイルゲームの影響は受けていると思います。
4Gamer:
それらのキャラクターは相互に絡み合ったりしてるんですか?
Bae氏:
そういう絡みはありません。キャラクターたちが集まる場所があって,そこの装置で別のキャラクターに交代できます。
オープンワールドですから,SF設定として「ボディを乗り換える」ような概念にしています。プレイヤーは何も混乱しませんよ。ゲームを始めれば,キャラクターを選んで,あとは自然に遊べますから。
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ビザンティン帝国はどこへ行った? そして「CINDER」の意味
4Gamer:
世界観の話のついでに,ずっと気になっていることがあるので聞いてもいいですか。
2021年か22年の初公開のときに世界観の説明で「崩壊したソウル」「23世紀」,そして「ビザンツ帝国」とあったんですが,ビザンツ帝国だけはまだ影も形も見たことがありません。これは本当にあるのか,あるとして,どういう形でストーリーに絡んでくるんですか。
Bae氏:
10世紀のビザンティンですね。
本作の基本的な世界観は,タイムマシンによる時間移動が可能だという設定から始まっています。未来の人間が21世紀に来て21世紀が変わり,そこからさらに過去へ行って,変わってしまった10世紀をプレイする―――というものでした。
4Gamer:
おお,そこで登場するんですね。
Bae氏:
10世紀のビザンティンも作っていたんですが,いまは後回しにして,ゲーム全体の世界観のうち序盤部分を扱っています。
4Gamer:
残念。いつか必ずプレイヤーの前に姿を現しますよね?
Bae氏:
私も絶対に作りたいんですよ! よく映画監督がインタビューで「成功したらシリーズ化して全部作りたい」とか言うじゃないですか。「アバター」とか。100%あの心境です(笑)。
ゲームが成功して,ライブ運営を長く続けて,最初に考えた構成を全部作りたい。
4Gamer:
「CINDER CITY」のシンダー(灰)という言葉とビザンティンとくると,カッパドキアかな? ソウルの地下を通っていくとカッパドキアに出るとか,そういう設定なのかな? とか勝手に思ってました。
Bae氏:
深読みさせてすみません(笑)。破壊されてディストピアと化した大都市が舞台なので,それをテーマとして名前に込めたかったんですよ。
候補はいろいろありました。「exist」を使ったものとか,完全に灰になったcityとか。でも,希望があるという,少しポジティブなニュアンスを入れたかった。それで選んだのがシンダー(燃え殻)です。シンダーということは,すでに火は消えてはいるけど―――。
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4Gamer:
小さな火が,まだくすぶって残っているような?
Bae氏:
そうそう,そういうイメージのほうがいいと思って選びました。
正直に言うと,開発初期には設定から何から,途方もなく大きく風呂敷を広げたんですよ。広げすぎだろ,っていうくらい。それを実際に開発しながらなんとか消化しようとして,いまはその設定とストーリーの一部分をやっている,というところです。
「良いAIほど,プレイヤーに気づかれない」―――自社開発サーバーで動くNPC
4Gamer:
あとはNPCも気になります。NPCがAIを使って空間認識をして動く,みたいな資料があったと思うんですけど,あれはすごく端的に言うと「超優秀なbot」ってことですか?
Bae氏:
そうです。そのために,サーバーはUnrealのものを使わず,自前で一生懸命作りました。スクリプトベースの固定された行動ではなく,3Dで構成された世界をNPCが見て,判断できるようにしています。
4Gamer:
「AIで動いてるbotだよ」というのは,プレイヤーに分かるものなんですか?
Bae氏:
プレイヤーはまったく気にならないと思います。逆に「気になった」ということは,何かがおかしいと認知したということです。同じパターンを繰り返しているとか。
あるいは例えば,こちらが壁の裏に回り込んだら,壁の向こうのNPCからは見えないはずなのに,見えているかのように追ってくるとか。その瞬間,プレイヤーは「この世界は嘘だ」と気づいて,没入感が壊れます。上手く作れば作るほど,プレイヤーは何も気にしなくなるんです。
視界の外に隠れれば見失うし,見つければ追ってくる。それが分かった瞬間,プレイヤーはすぐ適応して,よくできたAIであることを意識しなくなると思うし,それこそが望んでいる結果なんです。
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4Gamer:
僕個人的にそういうの大好きなんですが,なんていうかほぼ「見えない部分」ですよね。でもそこに至るまでにかなりの努力が必要になるという。
Bae氏:
ものを作る人間はみんな同じだと思うんですが,料理でも絵でも本でも,必死の努力を注ぎ込んで作ったのに,食べる側は「美味しいね」の一言じゃないですか(笑)。
それと同じで,少しでも変なら「あれ?」で終わりです。過程は誰も気にしない。オンラインのオープンワールドでこれをやろうとしたら,技術的な壁が山ほどあったわけですが,プレイヤーはそこを気にしない。好きでわざわざ苦労しに行っているようなものですが,結果が出るととても嬉しいです。
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4Gamer:
まぁオープンワールドで大人数のシューティングをグローバルでやって,そこに超優秀なAIボットを入れること自体が,ちょっと正気じゃないですよ。
Bae氏:
人間が1000人,3000人と入ると,NPCはその2倍,多ければ5倍必要になるんですよね。しかもスポーンして同じ行動をするのではなく,プレイヤーの動きに反応して動くようにする。やることが多いんです(笑)。
開発は簡単ではなかったですが,結果が出て,テストで楽しんで遊んでもらえた部分もあります。私はその過程も好きなので,ゲームを作り続けているんでしょうね。
4Gamer:
ストーリーやシューティングの部分で楽しんでもらえた,と冒頭言ってましたよね。
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Bae氏:
ええ。今回のプレアルファで手応えを感じたのは,ストーリーやシューティングについてです。
でもそれは,Discordに「素晴らしい」と書き込みがあったからではないんです。不満があれば必ず書かれます。絶対にです。でも,そこに関する不満の話は出ませんでした。
4Gamer:
プレイログなんかも見てますよね当然。
Bae氏:
もちろんプレイデータも全部見ていますから,何が楽しく遊ばれていて,何が足りないのかはすぐ分かります。「ああ,ここは大丈夫なんだな」と。
4Gamer:
確かにゲーム業界においては,大体の場合「意見がない」は肯定ですね(笑)。
Bae氏:
社内テストや小規模テストもやりますが,一般ユーザーを集めるパブリックテストがいちばん得るものが多くて,面白い。だから実は,いちばん怖いんですけどね。
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4Gamer:
でも社内テストのほうが,得てしてネガティブじゃないですか? 意見が厳しいというか。
Bae氏:
そうですね。社内テストは,たいていビルドの完成度がいちばん低い時期にやるうえに,参加するのが社内のいちばん目の肥えた,口うるさい人たちですから(笑)。
私がパブリックテストを好きな理由はいくつかあって,まず,プレアルファやアルファといえども,パブリックに出せる水準まで完成させたという大きな意味があります。そして数百人,数千人に遊んでもらえば,何がうまくいって何を見落としたかがすぐ分かります。大好きだし,いちばん緊張します。
アルファテストは第4四半期に。日本語対応で,日本からもテスター募集予定
4Gamer:
次のアルファテストの話は?
Bae氏:
プレアルファは北米のみでしたが,アルファテストでは地域を拡大します。北米,欧州,そしてアジア。世界中からテスターを集める形です。
4Gamer:
……その「アジア」って,日本を含みます?
Bae氏:
日本も含みます。
4Gamer:
おお,ついに。さすがに全グローバル共通サーバーじゃないですよね。
Bae氏:
FPS系はlatency(ping time)が重要ですから,おそらく北米サーバー,欧州サーバー,アジアサーバーとリージョンを分けることになるでしょう。韓国と日本,それにアジアの主要国から平均的にいちばんping timeが良くなるサーバーの設置場所を,いま探しているところです。
ゲームには日本語も入りますし,日本を対象にテスター募集もかける予定ですよ。
4Gamer:
どれぐらいの数を予定してますか?
Bae氏:
いまは3リージョンの合計人数だけ決めていて,地域別の配分はまだなんです。募集を開始して,集まり具合を見ながら決めることになると思います。
まぁ計画はいつも立てるんですが,始めると必ず変わるものですし(笑)。
4Gamer:
そのあたりは融通が利くんですね。
Bae氏:
いま開発チームは,私も含めて第4四半期のアルファテストだけに集中しています。
実は今年のTGSでも,NCのブースに「CINDER CITY」も一緒に出せないかという話があったんですが,断りました。ショウやイベントに参加しようとすると,どうしても時間を取られてスケジュールが崩れます。それよりもゲームの完成度を上げてアルファテストに全力を注ぐべきだと考えて,今回は出展しないことにしました。
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4Gamer:
そうやってアルファテストに向けて完成度を高めようとしてるタイミングで聞くことじゃないかもしれませんが,クロスプレイについてはどう考えてます?
Bae氏:
PCとコンソールの,ですよね。正直に言って,少しネガティブです。
パッド対応はやりますよ。いまはPCでもパッドで遊ぶ人が多いですし,私自身もほぼパッドです。ただコンソールまでとなると,ライブ運営上のハードルが高いです。コンソールのアップデートスケジュールに合わせないとPC側のアップデートができなくなってしまうので,運営面でネガティブなんです。
4Gamer:
なるほど運営面の問題なんですね。入力デバイスの問題もそれなりに大きいのかなと思っていたけど,そこではないんですね。
Bae氏:
アルファ版でもパッド対応はしますよ。プレアルファでも「パッドでプレイできるが不便すぎる」という評価をもらったので,そこも直しているところです。
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4Gamer:
韓国は元々コンソールの国じゃないので,メーカーはもちろん,インディーでもほとんどパッドに対応してくれないんですよね。
Bae氏:
開発者なら分かると思いますが,パッド対応は,最初から考慮して作らないと後から入れるのが大変で,思ったより時間も工数もかかるんですよ。
4Gamer:
あとから足せるようなものじゃないんですね。無知ですみません……。
Bae氏:
小さいチーム……とくに韓国の開発会社はパッド対応の経験が少ないですし,韓国のユーザーの大半はキーボード&マウスに慣れきっていますから。
市場に「欠けているもの」の正体
4Gamer:
実はそろそろ時間なので,最後にもう一つ。
前回のインタビューで,いま市場にあるシューティング×オープンワールド×協力プレイの作品を見たとき,「欠けているものがあるから僕は作るんだ」と言ってましたよね。欠けているものって,結局何ですか?
Bae氏:
まさにその組み合わせです。「全部が合わさっているもの」がないんです。
オープンワールドで,オンラインで,MMO要素があって,シューティングが一定の水準にあって,Co-opができる。これが全部入ったものは,いまだに存在しません。
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4Gamer:
なるほど,文字どおり「ない」から作ってるわけですね。
正直,最初は僕もピンとこなかった。前回聞いちゃいましたけど「え,今なぜわざわざシューティング作るの?」って。でも確かに言われてみれば,全部が入ったものはないのか。
Bae氏:
その分大変ですけど,頑張ってます(笑)。
4Gamer:
「リネージュII」然り,「ブレイドアンドソウル」然り,あなたはいつも「そのときにないもの」を作ってますよね。
Bae氏:
そこまでのものではないですよ(笑)。私はプログラマー出身なので,「こういう形でゲームが構成されたらカッコいいだろうな」で始めてしまうんです。それで時間が経つと後悔します。「なんであんなことを始めちゃったんだろう」って(笑)。
4Gamer:
すごく人間的です(笑)。
Bae氏:
「リネージュII」なら,数千人が同じ世界にいて,城をめぐって攻城戦をして,巨大なドラゴンを500人で狩りに行ったら面白いんじゃないか? と思ったし,「ブレイドアンドソウル」はMMO環境で格闘ゲームに近いプレイを作りたかった。
今回はオープンワールドです。物理的原理的には可能な話なんですが,始めてから能力の限界を痛感しているので,もうとにかく終わらせるしかありません。一生懸命やるしかないんですよ。
4Gamer:
しばらく後悔してるんですかね。
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もうずっと後悔してますよ(笑)。映画の「インターステラー」で,未来から過去の自分に「やるな」って言うじゃないですか。できるなら過去の自分に「やめろ」と言いたい。
4Gamer:
もし言ったらやめます?
Bae氏:
いや,やめないでしょうね(笑)。ただ,過程が大変なぶん,こうしてプレイヤーに遊んでもらって,その姿を見ると,ものすごくやりがいを感じるんです。
あなたも出版出身だから,きっと似てると思いますよ。「こんな書籍,なんで始めちゃったんだろう」「こんな企画やるなんて言わなきゃよかった」と思うことがあったでしょう? でも,それを好きな人が読んでくれると報われて,結果を見ると「また作ろうかな」となるんです。
4Gamer:
なりますねえ……なんなら最近もよくなってます。なんでこれやるって言っちゃったんだろう?
Bae氏:
ね?(笑) 二度とやらないと自分に誓ったのに,記憶が少し薄れるとまた始めるんです。
他人には,どんな過程があって,どんな感情を経て,どんな結果を受け取るのか分からない。でも本人には分かりますから。
4Gamer:
いやもう納得しかありません……。
とりあえず僕たち日本のプレイヤーは,12月のアルファテストを待てばいいということで,だいぶ進捗がいいことが分かりました。本日もありがとうございました!
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―――2026年9月18日収録



















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