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本作は,「ドーナツをどこまで食べたら穴はなくなりますか?」といった,こたえのない問いにこたえていくゲーム。2024年にゲームジャム「Unity1Week」(正式名称:Unity1週間ゲームジャム)で発表され,2026年9月時点で約28万回プレイされている。
ほかのプレイヤーの回答割合も確認できるが,アンケートや性格診断のようなものではない。その不思議なプレイ感が,本作独特の魅力だ。
本作を手がける宮村あつき氏にインタビューし,開発のきっかけや目指すところを聞いたので,その模様をお届けしよう。
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4Gamer:
よろしくお願いします。「ドーナツの穴」は,2024年にゲームジャムのUnity1Weekで開発されましたが,「こたえのない問いにこたえる」という発想はどこから来たのでしょうか。
宮村氏:
そのUnity1Weekのお題は,「ない」だったんです。どう解釈するかは自由で,「無い」でも,「内」でもいいんですけれど。
そこで私は「ある・ない」から,「ドーナツの穴があるかないかの話が面白かったな」と思って,それをテーマに決めました。それで,よく分からないことを,よく分からない空間でこたえていくと面白いんじゃないかと思って。
4Gamer:
その時点で原型みたいなものはできていたんですね。
宮村氏:
はい。2Dグラフィックスでもできるんですけど,私はゲーム会社で3Dの背景モデラーをしていることもあって,3Dグラフィックスで作り,ドアを開けて進んでいく形にするとよさそうだと思ったんです。
4Gamer:
そのドーナツの穴の話は,以前から宮村さんのなかにあったんですか。
宮村氏:
そうですね。5〜6年くらい前,私が結構落ち込んでいた時期に友人に電話で相談したことがあったんです。その最後に,友人が話題を変えて「ドーナツの穴ってあると思う? ないと思う?」って言ってくれて。
「そういえばどっちなんだろう」って,それまでの悩みをいったん忘れてそっちを考えだしたら,気持ちがリフレッシュされたんです。それが心の隅に残っていたのかな。
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4Gamer:
ちなみに宮村さんは,ドーナツの穴はどのあたりまでだと思いますか。
宮村氏:
言ってもいいのかな? 公式見解みたいになりませんか(笑)。
4Gamer:
あくまでも個人として。
宮村氏:
はい。私はどこまでということではなく,そもそも穴はないと思っています。みなさんに「どこまで?」って聞いておいて申し訳ないのですが。
4Gamer:
確かにちょっと意外でしたが,なぜそう考えるのでしょうか。
宮村氏:
私は3Dモデラーなので,モデリングツールでドーナツを作る工程を考えるんですね。そのとき,丸い形を作ってから穴を開けるのではなく,最初からトーラスという形として作るんです。
4Gamer:
なるほど。穴を開けたわけではないから,そもそも穴はない。
宮村氏:
そうなんです。この問いって,その人が「穴」をどう捉えているかでこたえが変わると思うんです。人によって穴の定義が違うのが面白いところで。例えば木を彫って,表面とは別のテクスチャ,質感が出てきた部分を“穴”だと私は捉えているので,まだかじっていないドーナツにはそもそも穴はない,という感覚です。もちろん3Dモデラーがみんなそう考えているわけではなくて,あくまで私個人の考えですけど。
4Gamer:
論理的ですね。Unity1Week版の「ドーナツの穴」は現在(2026年9月時点)で約28万回プレイされていますが,そこまで人を引きつけた理由を,宮村さんご自身はどう考えていますか。
宮村氏:
やっぱり,みんなこたえのない問いにこたえることが楽しかったんですかね……。あと,人の考えを知りたいとか,友達がやったらどういうこたえになるかなって,ほかの人におすすめしてくださる方が多かったと思います。
4Gamer:
確かに,ほかの人にすすめやすいゲームですね。
宮村氏:
配信者さんもすごくプレイしてくださって。大手Vtuber事務所のファンの方が作った非公式Wikiみたいなページに「ドーナツの穴」の項目があって,みなさんのこたえがズラッと並んでいるんですよ。
4Gamer:
同じ質問に対して,この人はこういう感じでこたえたみたいな。
宮村氏:
そうなんです。それが一覧表になってて,「この人はこうこたえたけど,この人はこうこたえてて,この人とこの人の考えは近いな,違うな」みたいに楽しんでいただいているようで。「じゃあ自分もやってみよう」みたいな感じでプレイした方が多いのかなって思ってます。
4Gamer:
ほかのプレイヤーの回答割合が分かる仕様は,Unity1Weekのときからですか。
宮村氏:
はい,もともとあったものです。回答割合を見て「自分は少数派だった」「多数派だった」「みんなはこう考えてるんだな」って思ったときに,自分と他人の考えに思いを巡らせて,能動的に自分の考えを振り返るようなことができればいいと思いました。
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4Gamer:
ほかの人の考えを知って,それを自分にフィードバックするみたいな。
宮村氏:
性格診断のようにゲーム側からプレイヤーのこたえの解釈を提示することも考えたのですが,このゲームでは違うものを作りたかったんです。
4Gamer:
そこが本作らしさにつながっていると思います。ところで,開発ではこたえのない問いを作るのがなかなか大変じゃないかと思うのですが,どうやって思いつくのですか。
宮村氏:
私が誰かに聞きたいことを,素直に聞いているというか。
4Gamer:
普段から聞きたいことが結構ある。
宮村氏:
多分そうなんだと思います。でも日常のなかで,いきなりああいう質問をしたら変じゃないですか。それが「ドーナツの穴」ではたくさん聞けますし,しかもみんなが「自分はこうこたえた」ってSNSや配信で言ってくれるから,すごく嬉しいです。
今回のTGS版には入っていませんが,Unity1Week版には,「これが許せるか?」みたいな問いも入れていました。人によっては許せないことが,他の人にとっては気に留めたこともないことだった,ということが面白いんです。「何を許せないと思うか」が人によって違って,かなり個性がでる問いだと思っています。
4Gamer:
作った問いのなかで,お気に入りのものってありますか。
宮村氏:
全部お気に入りなんですけど,やっぱり悩んでいただけると嬉しいですね。配信などで,ほかの問いには2分くらいでこたえているなか,20分くらい使っていただいて,その人ならではの考えが聞けた問いは,さらにお気に入りになります。
4Gamer:
プレイ画面に時間は表示されていませんが,開発のほうでは回答にかかった時間も把握できるのでしょうか。
宮村氏:
そうですね。個人を特定しない形で,各問いにかかった時間を全体として集計しています。このデータはいまのところ公開予定はありません。今後の開発に生かしていく予定です。
4Gamer:
悩む時間が長いものって,どういう傾向がありますか。
宮村氏:
本当に人それぞれです。特にUnity1Week版は,ゲームを進めるなかで,徐々に“重たい”問いになっていくんですけど,そこでどんどん長くなっていく人もいれば,最初の「これから,魚と肉のどちらかしか食べられないとしたら?」みたいな問いが一番長い人もいました。
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4Gamer:
そういったデータでも,試遊している様子でもいいのですが,開発するうえで,プレイヤーさんのどのあたりが気になりますか。
宮村氏:
操作に困っていないかがすごく気になってます。あとは不具合が発生していないか。
4Gamer:
不具合はもちろんそうだと思いますが,「ドーナツの穴」の操作で悩むところってありますか。かなりシンプルだと思いますが。
宮村氏:
去年のTGSでは,コントローラの右スティックで視点を操作できることを説明していなかったので,周りを見たりせずにそのまま移動してドアを開ける方が多かったんです。配信を見て気になったとかで,普段こういったゲームをプレイしない方も多くいらっしゃるので。
4Gamer:
やっぱりプレイヤー層はほかのゲームとかなり違うんですね。そういった人のなかには,本作の世界観が気になっている人も多いと思います。去年と今年のTGS版は,ずっと暗い部屋で問いにこたえていく感じでしたが,何か世界設定はあるのでしょうか。
宮村氏:
実はUnity1Week版だと,そこに少し触れているんです。このキャラクターはある世界に閉じ込められているみたいな。正式リリース版では,そのあたりがもう少し詳しく明かされるかもしれないので,確かめていただきたいです。
4Gamer:
ストーリー的なものがある,ということでしょうか。
宮村氏:
どう答えればいいかな……。ふんわり分かるかもしれないみたいな。もちろんメインとしては問いにこたえるゲームですけど,設定はあって,それをどうお伝えするかを練り直しているところです。
なので今は確定的なことが言えないのですが,それを考察する楽しみも味わってほしいと思っています。
4Gamer:
実際に試遊してみて,こちらのこたえを踏まえた問いが出てくるのが印象的でした。あれは偶然ではなくて,そういう作りになっているんですよね。
宮村氏:
はい。「あなたはこうこたえるんですね。ということは,これについてはどう思いますか?」みたいな感じにできるといいなと思っています。
4Gamer:
こたえからつながる問いを作って,そのこたえをまた問いにつなげる……という作業は大変そうです。
宮村氏:
本当に細かいところまで突き詰めるのは難しいので,いい塩梅を探しながらという感じです。それでも大変ですけど,楽しいですね。
会話って,事前に用意した定型文を聞くんじゃなくて,「あなたがそう思うなら,じゃあこれも聞いてみたい。その考えってじゃあこういうこと?」みたいな感じで話が広がっていくのが楽しいと思うので,そういう体験を作りたいです。
4Gamer:
正式リリース版だと,問いの数はかなりのものになりそうですね。
宮村氏:
そうですね。数百問ぐらいになります。
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4Gamer:
一般的なアドベンチャーゲームだと,2周目以降で選択肢が表示されるとき,「こっちはもう見ました」みたいなアイコンが出たりするじゃないですか。でも「ドーナツの穴」の場合は,そういった要素は入らないんじゃないかと思っているのですが,いかがですか。
宮村氏:
それはちょっと違うと思っていますが,体験した問いを確認できるリストのようなものを作る予定です。問いに対するその人の回答と,ほかの人の回答割合などをあとからでも確認できます。まだ見ていない問いがあることも,そこで分かります。並び順から,「このあたりで何かすると,この問いが出てきそうだな」くらいの推測ができるかもしれません。
4Gamer:
一般的なアドベンチャーゲームとはかなり違うので,開発の進め方も気になるのですが,どういうところに時間をかけていますか。
宮村氏:
今は,問いと世界設定,考察のバランスが難しいなと思っていて,そこに時間をかけています。「問いにこたえるのが楽しい」という方と,「この子のことをもっと知りたい」って思ってくださる方がいるので,その調整ですね。
あと,Unity1Week版やTGS版は15分ぐらいの体験ですが,それをずっと同じ感じで続けるのが楽しいのかは,ちょっと分からないと思っています。梅干しを1個食べるとおいしいけど,10個連続では食べたくないじゃないですか。
4Gamer:
それはそうです。
宮村氏:
なので,ごはんと一緒にしようか,卵焼きをつけようか,みたいな感じで,長時間遊んでいただく正式リリース版の体験をどうするか探っています。
4Gamer:
正式リリース版に加わるのが新しい要素なのか,遊び方なのかはまだ決まっていないものの,そういったものが入る可能性はあるということですね。
ゲームに登場する「わたし」は,布をかぶったような姿で,花冠がクルクル回っていますよね。今回の試遊ブースでも,ブースの上部で花冠が回っていますが,こだわりのポイントなんでしょうか。
宮村氏:
はい,好きなポイントです! ただ,Unity1Week版の開発は時間が限られていたので,「これは何時間で作る」ってスケジュールを組んでみると,実はキャラクターにかけられるのは3〜4時間ぐらいしかなかったんです。
そのなかで,ゲーム全体として,思索に没頭できる美術館や博物館のようなグラフィックにしたくて,西洋絵画でよく描かれている布や花の見た目のキャラクターにしました。
短時間での制作ですが,だからこそ自分が好きなもの,デザインの引き出しの一番上に入っていたものをさっと取り出してキャラクターにできたんだと思っています。
4Gamer:
「ドーナツの穴」のテーマに即したキャラクターなんですね。
宮村氏:
はい。ゲーム内の世界も,美術館とか博物館を歩くみたいな感じの体験にしたいなと思っています。置かれている物が少ない部屋で,展示を見るという。
4Gamer:
そのあたりの落ち着いた雰囲気が気に入っている人も多いでしょうね。
これは偏った見方になるかもしれませんが,今のSNSなどを見ると,こたえのない事柄について,自分の考えが正しいと信じて疑わないような人が目立つように思います。そういう状況のなかで「ドーナツの穴」が出てきたのがとても印象的だったのですが,そのあたりについて何か思うことがあれば聞かせてください。
宮村氏:
配信を見ていると,「みんな絶対こっちを選ぶでしょ」みたいな感じで進んで,回答割合を見たら自分が少数派だった,みたいな体験をする方が結構いらっしゃるんです。そうすると立ち止まって,「俺が少数派なの? ほかの人は何でそっちを選んだの? 前提がこうだからかな?」みたいに考え直す方もいて。
そのように,回答割合を見ただけで,反対側の意見について考えたり,推測したりする方がいらっしゃるのは,すごく興味深く,素敵だと思っています。
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4Gamer:
宮村さん自身が「これはこっちが多いよね」,もしくは「こっちは少ないだろうな」と思っていたのに,予想と違った問いはありますか。
宮村氏:
「もしあなたの人生すべてが水槽の脳の中での出来事,つまりずっとVRゲームを遊んでいるように誰かに作られただけのデータだったら,あなたの人生の価値は?」という問いで,「価値は上がる」「価値は下がる」「価値は変わらない」という選択肢がありました。
そのなかで「価値は上がる」の選択肢を18%の方が選んでくださったようで,思ったより多くてびっくりしました。どうしてそうこたえてくださったのか,お1人お1人がそれを選んだ理由がとても気になっています。
4Gamer:
リリース時期は2027年とのことですが,本作を楽しみにしている人たちに向けて,意気込みやアピールなどを聞かせてください。
宮村氏:
「頑張ります」しかないですね。頑張ります,頑張ってます。Unity1Weekでたくさん遊んでくださった方とか,配信してくださった方,その配信を見てくださった方のおかげで完全版を作るお話になったので,まずそのことにとても感謝しています。ありがとうございます。
そこからかなり間が空いてしまって申し訳ありませんが,待っててよかったと思っていただけるものになるよう頑張りますので,これからも見守っていただけると嬉しいです。
4Gamer:
ありがとうございました。

























