インタビュー
「ディビジョン」の元開発者たちが手がける脱出シューター「Exoborne」プレビュー&インタビュー:敵だけでなく自然災害にも挑む
本稿では,イベントで紹介されたゲーム概要とプレイフィールに加え,クリエイティブディレクターのPetter Mannerfelt氏と,アートディレクターのRodrigo Cortes氏へのインタビュー内容もお伝えする。
本作の舞台は近未来の地球で,気候変動による人類の危機を背景に物語が始まる。世界各国は気候災害の脅威に直面し,Rebirthと呼ばれる企業が提示した解決策に望みを託す。それは,巨大なSTRATOSタワーによる気候制御計画だ。テクノロジーの発展は加速し,人類は救済を確信したが,それは破滅への序曲に過ぎなかった。
プロジェクトを指揮していたTarにより,Rebirthの非道な実態が明らかになる。企業は人々を強制的にExo-rigと呼ばれる特殊装備(外骨格)の実験台として利用し,反抗する者たちを容赦なく弾圧していたのだ。Tarの指揮下で反乱が始まるが,追い詰められたRebirthはSTRATOSタワーを兵器として起動させる。制御不能となったタワーは崩壊し,地球の気候は完全な混沌に陥った。人類の大半が犠牲となる中,Exo-rigを装備した生存者たちによる新たな戦いの時代が幕を開ける。
3つの個性が交錯する戦場
本作の核となるのが,3種類のExo-rigだ。高機動の「Kestrel」は圧縮空気の放射や空中停止能力を持ち,索敵と戦場制圧を得意とする。バランス型の「Viper」は強力な近接攻撃と自己回復能力を備え,単独行動にも対応。高耐久の「Kodiak」は広範囲攻撃と優れた装甲性能で,チームの盾となる。
これらは単なるクラス分けではない。ゲームの進行に応じて独自のカスタマイズが可能となり,プラットフォーム固有のモジュールによって個性がより際立つようになっているのだ。自然災害との相性も考慮された設計で,例えばKestrelは竜巻を利用した機動力を,Kodiakは重量を活かした安定性を発揮する。
ゲームのキモとなるのは,気象システムだ。竜巻,雷雨,霧,雨といった自然現象は,単なる演出ではない。竜巻に巻き込まれた敵を狙い撃ちにしたり,雨天時に足音が減衰するのを利用して潜入を図ったりと,戦術的な要素として機能する。今回のプレイでも,さまざまな自然現象を体験できており,およそ考えられる自然現象はすべて入っていそうだった。異常気象の全部盛り,風マシマシといった具合だ。
舞台となるColton Countyは,3つのマップで構成される。初心者向けの「Maynard」は,制限なく探索できる広大なエリアだ。農地,森林,湿地が広がり,放棄された石油掘削施設など特徴的なランドマークが点在する。中級者向けの「Agnesville」は,装備レベルによる制限があり,かつて栄えた町が災害救援センターへと姿を変えた都市部での戦闘が展開される。上級者向けの「Sinkhole」は最も厳格な制限を持ち,崩壊したSTRATOSタワーの跡地で垂直方向の戦闘が繰り広げられる。
戦闘を支える装備も充実している。広範囲のスキャンが可能なScanner Dart,焼夷弾攻撃のNapalm Bombardment,毒ガスによるToxic Gas Strike,即座の回復を可能にするRejuvenation Shot,遠距離から連鎖雷撃を放つLightning Javelinなど,状況に応じた選択肢が用意されている。
基本装備に加え,特殊モジュールによる能力強化も可能だ。雷撃の効果範囲を拡大するToaster,ホバリング性能を強化するHangman,瀕死時に自動的に煙幕を展開するLast Smokeなど,戦術の幅を広げるアイテムが揃う。
本作は,いわゆるエクストラクション(抽出)シューターとなっており,見つけた装備やアイテムは,無事に脱出地点まで持ち帰る必要がある。より価値の高いアイテムを求めて探索を続けるか,それとも早期の撤退を選ぶか,その判断が生死を分けるわけだ。
チームメイトによる蘇生や自己回復キットは存在するものの,死亡時には持ち物を失うリスクが常に付きまとう。高価な装備を持ち込めば戦いを有利に進められるかもしれないが,死亡時に失うものは大きくなる。この緊張感が,プレイヤーの意思決定をより慎重にさせる要因となっている。
今回の取材では,3人のメディアでチームを組んでのプレイも体験できた。初対面となると好き勝手にプレイしがちだが,リーダー役を買ってくれた人がおり,それぞれが異なるExo-rigを選択し,Maynardマップでの探索任務に挑戦した。
筆者はKestrelで高所からの索敵を担当し,チームメイトはViperとKodiakという編成となった。よほど特殊な戦術を取らない限り,1チームに3種類のExo-rigを入れておいたほうがいいだろう。
任務開始直後に遭遇した雷雨は,予想外の好機となった。Kodiakの装甲性能を活かして前線で敵の注意を引きつけ,その隙にViperが側面から急襲,筆者は後方にある建物の屋上から支援射撃を行うという連携が実現。Maynardマップは初心者向けということもあり,それほど危ない展開になることもなく,無事に脱出できた。
脱出後はマップ内から持ち帰ったものを売ったり,新たなアイテムを購入したりして,装備を調えて次の戦いに備える。筆者は死にたくない一心でリペアキットなどを大量にバックパックに詰め込んだが,そうなるとバックパックのスペースがなくなり,マップ内で見つけたアイテムを持ち帰りづらくなる。
また,持ち込む武器や防具もより高価なものにすれば性能が上がり,戦闘で有利になれる。だが,うっかり死んでしまうと,その高価な装備品を失ってしまう。今回は体験会ということでお金や装備品のロストは気にならなかったが,実際に自分が育てているキャラクターとなれば話は違う。高い装備品を持ち込んだときは,いつもよりも慎重に行動しそうだ。
プレイしているとさまざまな気象現象が発生するが,印象的だったのは風だ。風がまったく吹いていないとグライダーを地上で使っても滑空できないが,強風だと空高く一気に舞い上がれる。上空から地上を見ると,敵と味方の位置関係をつかみやすく作戦も立てやすい。そして,移動したい方向と風向きがあっていればかなりの高速移動も可能だ。もちろん,逆風だとそうはいかないが。
ただ,滑空時は攻撃ができない(できる装備もあるかもしれないが)ので,敵に見つかるといい的となる。敵の死角をつきつつタイミングをみて滑空したほうがいいだろう。
Kestrelの能力を使って敵の位置を特定し,Viperが敵を竜巻に追い込み,Kodiakが制圧するという流れは,まさに本作ならではの戦術だった。各Exo-rigの特性を理解し,自然環境を活用した戦術を展開できたことで,短時間ながら本作の持つポテンシャルを十分に感じ取ることができた。
クリエイティブディレクター・Petter Mannerfelt氏インタビュー
4Gamer:
Exoborneの開発が始まったとき,最初に描いていた理想像はどのようなものでしたか。
プレイヤーが「自然の脅威」と真剣に向き合うゲームを作りたいと考えていました。従来のシューターでは,敵プレイヤーやAIとの対峙が主体でしたが,私たちは「予測不能な第三の勢力」としての自然災害を導入することで,まったく新しい体験を生み出せると確信していました。
4Gamer:
エクストラクションシューターとして設計するうえで,他ジャンルから影響を受けた点があれば教えてください。
Mannerfelt氏:
サバイバルゲームからの影響は大きいですね。ただし,私たちは一時的な生存だけでなく,自然の脅威を活用して優位に立つという要素を加えたかったです。また,従来のバトルロイヤルとは異なり,プレイヤーが自身のペースで撤退を選択できる設計にこだわりました。
4Gamer:
自然災害をプレイヤー体験に統合する際の課題は,どのようなものでしたか。
Mannerfelt氏:
最大の課題は「予測不能さ」と「公平性」のバランスでした。自然災害は予測不能であるべきですが,完全にランダムだとプレイヤーのスキルや戦略が意味を持ちません。その解決策として,気象変化の前兆システムを実装し,熟練プレイヤーほど自然災害に上手く対応できる仕組みを作りました。さらに,各Exo-rigが異なる方法で自然現象に対処できるよう設計することで,戦術の多様性も確保しています。
4Gamer:
マップデザインでのストーリーテリングについて,特に工夫した点を教えてください。
Mannerfelt氏:
各マップには明確な物語性を持たせています。例えば,Agnesvilleは災害救援センターとして機能していた街が,どのように崩壊していったのかを環境で語ります。Sinkholeでは,STRATOSタワーの崩壊跡を通じて人類の傲慢さとその帰結を表現しています。プレイヤーは探索を重ねるごとに,この世界で何が起きたのかを断片的に理解できるようになっています。
4Gamer:
プレイヤー同士の競争と協力のバランスは,どのように設計しましたか。
Mannerfelt氏:
自然災害という「共通の脅威」が,プレイヤー間の関係性を複雑にすると考えました。例えば,激しい嵐の中では敵プレイヤーと一時的に休戦することが最適解となるかもしれません。そういった状況依存の判断が,本作ならではの深い駆け引きを生み出すと期待しています。また,生存に必要な装備の希少性を調整することで,プレイヤー間の競争と協力の機会を自然な形で生み出せるよう工夫しています。
4Gamer:
Massive Entertainment時代の経験は,どのようにいかされたと思いますか。
Mannerfelt氏:
The Divisionでのダークゾーン開発の経験は,非常に参考になりました。特にプレイヤー間の緊張関係の作り方や,リスクとリワードのバランス設計については,多くの学びがあります。ただし,本作ではそこに自然災害という新しい要素を加えることで,より複雑で予測不能な状況を生み出すことができました。また,大規模なオープンワールドの管理手法や,継続的なコンテンツ提供の経験も,大いに役立っています。
アートディレクター・Rodrigo Cortes氏インタビュー
4Gamer:
Exoborneのビジュアルデザインの方向性を決定する際,最も重視したポイントは何でしょう?
「破壊」と「適応」が同時に存在する世界の表現を目指しました。気候変動による壊滅的な被害を受けた環境の中で,人々が新たな生き方を見出していく。その緊張関係を視覚的に表現することに注力しました。例えば,崩壊したSTRATOSタワーの周辺には,その瓦礫を利用して作られた居住地があり,破壊と再生が交錯する様子を表現しています。
4Gamer:
キャラクターやExo-rigのデザインは,どのようなインスピレーションから生まれましたか。
Cortes氏:
実用性とアイデンティティの両立を目指しました。各Exo-rigには「自然の力を制御し,時には利用する」というコンセプトを視覚的に表現しています。例えばKestrelは風を操る鳥のようなシルエットを持ち,Kodiakは大地の強さを体現するような重厚なデザインにしました。また,装備の一つ一つに物語性を持たせることで,この世界で生き抜くための進化の過程が感じられるよう心がけました。
4Gamer:
マルチプレイ環境での視認性を確保するために,どのように工夫したかを教えてください。
Cortes氏:
これは非常に重要な課題でした。激しい気象変化の中でも,プレイヤーが的確な判断を下せるよう,各Exo-rigのシルエットを明確に区別できるデザインにこだわりました。また,環境エフェクトが視認性を著しく損なわないよう,微妙なバランス調整を何度も重ねています。特に竜巻や霧の表現では,スペクタクル性と実用性の両立に苦心しました。
4Gamer:
最新の技術やツールをどのように活用しましたか。
Cortes氏:
Unreal Engine 5の機能,特にLumenを活用することで,動的な環境変化における光と影の表現を極限まで追求しました。例えば,竜巻が街を襲う際の影の変化や,雷撃による瞬間的な光の演出など,リアルタイムの環境変化がもたらすドラマ性を最大限に引き出せるよう工夫しています。また,破壊された建造物のスキャンデータを活用することで,よりリアルな崩壊表現も実現しています。
4Gamer:
アートチームが直面した最大の課題はなんでしょう?
Cortes氏:
自然災害の「美しさ」と「脅威」のバランスを取ることでした。例えば竜巻は,見た目の迫力を追求すると戦略的な要素が失われ,逆に機能性を重視すると没入感が損なわれます。この相反する要素のバランスを取るため,アートチームとゲームプレイチームで何度も議論を重ねました。最終的に,自然現象に異なる段階を設け,状況に応じて視覚的な強度を変化させることで解決しました。
4Gamer:
ゲーム内での色彩の使い方に,特にこだわった部分を教えてください。
Cortes氏:
色彩は情報伝達の重要な要素として機能させています。例えば,天候の変化に伴う色調の変化は,プレイヤーに迫り来る危険を直感的に伝えます。また,各マップには独自のカラーパレットを設定し,場所ごとの個性を際立たせています。Maynardの自然な緑色から,Sinkholeの工業的な色調まで,それぞれが異なる物語を語るように設計しています。
4Gamer:
The Divisionでのブランドアートディレクターの経験は,どのようにいかされていますか。
Cortes氏:
The Divisionで培った「環境ストーリーテリング」の手法は,本作でも重要な役割を果たしています。崩壊した都市の中に人々の生活の痕跡を残し,プレイヤーに「ここで何が起きたのか」を想像させる。その手法を,気候変動という新しいテーマに適用することで,より説得力のある世界観を構築できたと考えています。
4Gamer:
プレイヤーが最初に目にするシーンについて,特に意識した演出があれば教えてください。
Cortes氏:
最初のマップであるMaynardでは,プレイヤーが徐々に世界の状況を理解できるよう,視覚的な情報を慎重にレイヤリングしています。遠くに見えるSTRATOSタワーの残骸,荒廃した農地,そして突如として現れる自然災害。これらの要素を通じて,プレイヤーが世界の深刻さを段階的に理解できるよう設計しました。
4Gamer:
ありがとうございました。
「Exoborne」は,当初発表されていたPC版以外に,PlayStation 5,Xbox Series X/Sで2025年内に発売される予定だ。発売後も継続的なライブサービスとコンテンツアップデートが予定されている。また,Steamではプレイテストが,日本時間2月12日22:00から17日22:00まで行われる。自然の脅威と戦うという新しいコンセプト,そしてThe Division開発の中核を担ったスタッフ達の経験が融合した本作を,いち早く体験したい人はプレイしてみよう。