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印刷2026/04/30 17:00

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健康のために遊ぶのではなく,遊んでいたら健康につながることを目指して。ゲームのヘルスケア活用の可能性と課題

 2026年4月17日に東京都内で開催された「東京シリアスゲームサミット2026」で,クロストーク「ゲームのヘルスケア分野活用の実例」が行われた。

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 シリアスゲームサミットは,教育,医療,企業研修,社会課題など,さまざまな分野の課題解決に活用される「シリアスゲーム」をテーマにしたIGDA日本主催のイベントだ。
 本セッションに登壇したのは,ゲームメディアの運営やゲームパブリッシング/開発支援などに従事する加藤賢治氏と,医師であり,経営者やクリエイターとしても活動する石井洋介氏である。

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加藤賢治氏
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石井洋介氏

 印象的だったのは,ゲームで健康課題を解決するという直球の話に終始しなかったことだ。
 むしろ中心にあったのは,人は健康のためだけではなかなか動かないという現実と,だからこそ“面白いから触ってしまう”というゲームの設計が,結果として行動変容につながるのではないかという視点だった。

 冒頭では石井氏が,医師としての問題意識から自身の「日本うんこ学会」の活動を説明した。
 大腸がんは症状が進むまで気づかれにくく,しかも初期の異変は排便に表れやすい。だが,多くの人はそこに意識を向けない。そうした「当事者になるまで関心を持てない」状態をどう超えるかが,ゲーム活用の出発点だったという。

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 そうして始まったのが「日本うんこ学会」の活動と,排便報告をゲーム化した「うんコレ」だ。

 石井氏は,「うんこを見たらガチャが回せる」という発想で,健康啓発に関心のない層にもまず一歩踏み出してもらおうとしたと語る。
 腸内細菌を擬人化したキャラクターやコレクション要素を盛り込み,単なる啓発アプリではなく,ゲームとして成立するところまで作り込んだ。さらにポリープを連想させる敵キャラクターや,ハルトマンのように大腸がん手術由来の名前を持つキャラクターなど,遊んでいるうちに自然と医療情報に触れるような仕掛けも込められている。

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 さらに,「うんコレ」は便の状態に応じて受診を促す設計になっており,実際にそれがきっかけで腸炎や大腸がんの発見につながったという声がプレイヤーから寄せられたという。「異常が出た“その瞬間”にプッシュできることが価値だった」という石井氏の話は,いかにも医師らしい視点だ。
 啓発は,正しいことをただ伝えれば届くわけではない。必要なタイミングで届いて初めて意味を持つ。その難しさと可能性が,「うんコレ」の話には詰まっていた。

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 面白かったのは,このアプリをきっかけにコミュニティまで生まれたことだ。
 石井氏は「腸内会」と呼んでいたが,匿名の空間では便の悩みが意外なほど共有されやすく,そこからゲームのアップデートを支える人が現れ,声優参加やフルボイス化にまでつながったという。
 健康課題の共有からコミュニティが育ち,そこがまたゲームの推進力になる。かなりユニークだが,ヘルスケア系のゲームが“続いていく”形の1つとして印象に残った。

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 「うんコレ」は,発表時から話題を呼んだタイトルでもある。4Gamerでも,発表時のイベントレポートや,リリース後のデータを取り上げた記事を掲載してきた。ただし現在は,継続運用の壁にぶつかっているという。

 もともと非営利の有志ベースで作られたアプリであり,iOSやUnityの更新速度にボランティアに近い体制では追いつきにくくなっているのが大きな理由だ。
 加藤氏も,社会的意義の高いゲームは「作ったあとどう続けるか」が大きな課題だと応じていた。これはヘルスケアに限らず,シリアスゲーム全般につきまとう問題でもあるだろう。

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 日本デジタルゲーム学会ゲーム教育SIGは2019年4月15日,セミナー「ゲーミファイ・ネットワーク 第5回勉強会」を東京都内で開催した。セミナーでは,日本うんこ学会 会長の石井洋介氏が,ヘルスケアにゲーミフィケーションを取り入れたスマートフォンゲーム「うんコレ」の試みを紹介するセッションを行った。

[2019/04/16 17:17]
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 日本うんこ学会のうんコレ制作委員会は,2020年11月15日(いいうんこの日)にリリースしたスマホ向けアプリ「うんコレ」のリリース報告会を,2020年11月29日にオンラインで開催した。その内容をレポートしよう。

[2020/11/30 15:02]

 続いて紹介されたのが,ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を題材にした「エンディングゲーム」だ。いわゆる“人生会議”をテーマにしたもので,自分の終末期をどう迎えたいか,どんな医療を望むのかといった重いテーマを扱っている。

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 こうした話題は重要である一方,どうしても真正面からは広めにくい。そこで石井氏は,他人の人生を追体験するゲームとして設計し,自分ごとすぎて向き合いにくいテーマを,少し距離を置いた形で考えられるようにしたという。さらに“優勝者が出る”ゲーム性を入れることで,場がしっかり盛り上がる構造も作ったそうだ。

 この取り組みでは,前後比較で「自分の将来像をイメージできる」と答えた人が,体験前の1割未満から,体験後には8割程度まで伸びたという結果も紹介された。
 興味深かったのは,もともと当事者を想定していたところ,実際には家族の介護を担う40〜50代の主介護者層に強く刺さったという点だ。当事者は“他人の人生”として受け止めにくく,むしろ感情的な負荷が強く出ることもあったそうで,石井氏はそこにゲームの持つ侵襲性のようなものも感じたと語っていた。
 ゲームは柔らかく届くが,テーマによっては思った以上に深く刺さる。その繊細さもまた,ヘルスケア分野でゲームを扱う難しさなのだろう。

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 また石井氏は,高齢者向けに調整した「ぷよぷよ」の取り組みも紹介した。
 色数やスピード,ルールの複雑さを調整することで,高齢者でも楽しみやすい形にしたもので,高齢者施設に向けた展開も進められている。

 加藤氏がここで触れたのが,もともとの「ぷよぷよ」が持っていたアクセシビリティの思想だった。顔の違いで識別できるように作られており,色覚特性があっても遊びやすい。この設計が,福祉やケアの現場へつながっていく流れには,たしかにうなずかされるものがある。
 エンタメの中に最初から埋め込まれていた要素が,結果としてヘルスケアの現場でも意味を持つ。これはゲームならではの面白い広がり方だと感じた。

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 そこから話題は,「ヘルスケアから生まれたゲーム」だけでなく,“医療目的ではないのに結果として健康に寄与しているゲーム”へと広がっていく。
 石井氏は,「Pokémon GO」「ドラゴンクエストウォーク」のように,歩くことを行動変容として取り込んだ作品を挙げ,「健康のために作られたわけではないが,遊んでいるうちに健康に近づいていく“エンターテインメントファースト”の形は理想的」だと語った。

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 加藤氏も,日常の移動や散歩の中に楽しみを埋め込む構造の強さを指摘し,「Pokémon Sleep」についても,睡眠を可視化し,自分の生活習慣のクセに気づかせる仕組みが優れていると評価していた。石井氏も,見える化そのものが健康行動の第一歩になると応じている。

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 また石井氏は,「Wii Fit」のような存在についても,医療者から見ると“新しい薬を作られたようなもの”だと感じると語っていた。ここまで運動を習慣化させたインパクトは,やはり大きいということだろう。

 重要なのは,「健康のためだから遊ぶ」ではなく,「面白いから遊んでいたら,結果として歩いていた,眠れていた,体を動かしていた」という順番なのだ。ゲームらしさを失わず,それでいて行動変容につながる。この順序こそが,このセッションの核だったように思う。

 加藤氏が紹介した海外事例も興味深かった。
 仮設住宅の暮らしをVRで追体験する作品や,不安傾向のある子どもに対して脳波とゲームを組み合わせる研究など,ゲーム的な体験を通じて他者理解やメンタルケアにつなげる試みだ。
 石井氏も,没入感の高いシミュレーションには,“実際には経験しないほうがいいこと”を安全に追体験させる価値があるとコメントしていた。

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 さらに加藤氏は,「Robot Hospice」「With My Past」「ダレカレ」「限界OL海へ行く」といったタイトルも挙げた。
 いずれも治療や啓発を直接の目的にした作品ではないが,それぞれの作品には個人の身近な問題につながるテーマが含まれており,結果としてメンタルケアや当事者理解につながりうると石井氏は述べていた。
 良質なエンターテインメントが,結果として人の人生を変えることもある。その考え方は,このセッション全体を通じて一貫していた。

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 そして,このクロストークを象徴する言葉として強く残ったのが,石井氏の「魔法の杖は存在しない」というひとことだ。
 ゲームは確かに,ある局面では鮮やかに課題を解く。しかし,医療や福祉の問題は複雑で,ゲーム1本ですべてを変えられるわけではない。医療の真面目なアプローチもある。SNSもある。地域活動や制度設計もある。その中の1つとして,ゲームが強く機能する領域がある。
 こうした「魔法の杖ではない」という整理は,先日掲載した近藤慶太氏のセッションレポートにも通じるものだった。サミット全体を通して,こうした現実的な視点が共有されていたのは印象的で,この分野が少しずつ成熟してきていることも感じさせた。

 終盤の質疑では,加藤氏が紹介した4タイトルのように,直接は医療や啓発を目的としていない作品を,社会的なテーマに接続する形で取り上げることの是非について質問が出た。
 そうした作品は理解や関心の入口になりうる一方で,内容や表現によっては誤解や先入観を強めてしまう可能性もある。これはゲームに限った話ではなく,社会的なテーマを内包したり,そう感じさせたりするエンターテインメント作品では,たびたび議論になるところでもある。

 これに対し加藤氏は,明らかに誤っていることを“正しい”ものとして示してしまうのは問題だとしつつも,一つの解釈や個人的な物語として描かれた作品を,社会的なテーマを考える入口として紹介することには意義がありうる,と応じた。

 石井氏はそうしたテーマを内包した作品について,正しいことをそのまま並べるだけでは,人にはなかなか届かない場面があると話す。
 医療を扱う以上,医学的な正確さをきちんと押さえておかなければならない。一方で,表現を万人向けに整えすぎれば,今度は誰にも届かないこともある。だからこそ作品としてエモーショナルに伝える必要もあり,そこに表現や発信の難しさが生まれるというわけだ。

 医学的な正確さと,エンターテインメントとしての尖り。そのバランスをどう取るかは簡単ではないが,まさにそうした難しさに向き合うことが,ヘルスケア×ゲームの最前線にあるのだと感じさせる回答だった。

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 「健康のためにゲームをやってください」と真正面から呼びかけても,それだけではなかなか広がっていかない。面白そうだから興味を持つ。楽しいから触る。面白いから続ける。そうしたゲームならではの流れの先に,歩く,眠る,考える,気づく,向き合うといった行動が生まれていく。そんな順番のほうが,たしかにゲームらしいし,人も動きやすいのだろう。

 “楽しいから触る”が,健康につながることもある。加藤氏と石井氏の対話は,ヘルスケア分野におけるゲーム活用の広がりだけでなく,情報の正しさと表現のバランス,利益を主目的としないシリアスゲームをどう継続していくかといった難しさも含めて,この分野の可能性と課題を分かりやすく示してくれるセッションだった。

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