企画記事
4Gamerの年末恒例企画「ゲーム業界著名人コメント集」。166名が振り返る2024年と新年への抱負を語る
カバー
プロデューサー
大岡祐輝
代表作:ホロアース「7 Days to Die」
アーリーアクセス公開から12年が経ち、ついに正式リリースされた7DTDですが、ある種の感慨深さと同時に、開発陣の粘り強さやファンからの支持の根強さに改めて感銘を受けました。
はたして「ゲームという作品が完成する」とは実のところ何を指すのか?「正式」の定義とは何か?
アーリーアクセス開始当時、緩やかに起こり始めていた、コンテンツのライブサービス化、ライブプロダクション化ともいえる時代変化の兆し、そのような変化の波をかき分けて、正式リリースまでたどり着いた本作には、とても大きなリスペクトを感じます。
まあ細かいことは置いておいて……12年経ってもまだまだ面白い!7DTD素晴らしい作品だと思います!
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」
自分は年齢的にめちゃくちゃ「SEED世代」なのですが、私と同世代でリアタイしていた人たち、あるいはそれ以外の人たちも、本作が「しっかり話題になること」自体は想像していたと思います。
けれどもまさかこれほどまでに時代や世代を超えて、大きな熱量を生むと自分は思っていなかった。
作品の熱量がデジタル世界、インターネットを介して永続化され蓄積し、後に初公開当初よりも大きなブームとなって巻き起こる、本作で起こったような現象を見る機会は、昨今、より増えてきているように思います。
デジタル、インターネットの力によって、エンタメのブームのセオリーがそのように形を変えてきているなかでも、時代や世代を飛び越えて「圧倒的なパワー」として存在しつづける、僕らの「ガンダム」の姿をスクリーンで見れて終始ニヤニヤしていました(笑)
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
「渋沢栄一」
諭吉から栄一へ…10年20年先のひとたちは、1万円札のことを諭吉ではなく栄一と言ってるのだろうか…
新一万円札の顔の人です、Wikipediaにも書いてますが、明治維新後の日本の経済や産業の根っこを作った人、でかい主語は全然誇張ではなく、まじで全方位でやったすごい人です。
実績ひとつひとつもすごいですが、ジャンルの広さがやばい。
リアル国づくりシミュレーションゲームかっていうくらいマジで色んなことやってます。
我々が作っている「ホロアース」も、サンドボックスゲーム的な部分がありながら、バーチャルライブを視聴できたり、それ以外にもさまざまなスタイルのバーチャルライフを楽しめるサービスを目指しています。
ゲームでありながらインフラのようなもの…
つまり我々も、やることが!おおい!!助けて栄一!
そんな目標の山、いや山脈を踏破していくために最も必要なのは「バイタリティ」だと思います。
もちろん現代にも、世界に名だたる実業家の方々や、ゲーム業界人の大先輩方にも、オバケバイタリティの持ち主が山のようにいらっしゃいますが、
多分今年日本人が一番顔見た人なんじゃないかな?っていう理由で、渋沢栄一先生を推したいと思います。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
昨年に続き、今年もこの企画への参加の機会をいただいて、去年の記事と見比べつつ、この1年の変化を振り返ることができました。
今年も4Gamer様には変わらずご助力いただき、あらためて感謝申し上げます。
私たちが開発するバーチャルワールド「ホロアース」の開発も昨年から一層進み、さらに一歩進んだ体験をユーザーの皆様に届けられるようになってきております。
しかし、まだまだお見せできていない部分が山ほどあり、早く皆さんに遊んでいただけるよう開発チーム一同がんばっております。
お待たせして恐縮ですが、ぜひ応援いただけたら励みになります。
来年は春に予定しているv1.0アップデートを皮切りに、今年よりもさらに大きな変化をお届けする予定です!
引き続き2025年も何卒、よろしくお願い申し上げます。
カプコン
プロデューサー
川田将央
代表作:バイオハザード ヴィレッジ2024年は全然ゲームで遊んでいなかった年でしたが、それは仕事量と体力との相互関係に問題があったからで、関心があったタイトルは多い年だったと思います。「黒神話:悟空」は遂に発売されたアクション大作でしたが、新興メーカーとは思えないアクションゲームとしての魅力が詰まったタイトルでした。「メタファー:リファンタジオ」も今や国内メーカーでは稀有なオリジナル大作として、賞レースで多くのタイトルを受賞した2024年を代表するゲームだったと思います。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
ゲームに続いて驚くほどエンタメのアンテナを喪失していた2024年ですが、塚口サンサン劇場で今年鑑賞した「PERFECT DAYS」を見て、自分と向き合う丁寧な生き方に強い憧れを感じました。あと電子書籍で待望の「QUEEN1313」「犬狼伝説」「パイナップルARMY」がリリースされたのも喜ばしかったです。音楽はSpotifyによると自分的には名曲「RATATA」が最強だったようです。いつもどおりで安心しました。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
今年になって良く見ていた“コヤッキースタジオ”でMCを担当している「コヤッキーさん」と「とーやさん」に注目しています。以前ほど気楽(?)な配信が難しくなってきた界隈のチャンネルの中では、カジュアルな内容ということもあり、2人の掛け合いが笑いをさそう希有な存在ではないでしょうか。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2025年も忙しい年になりそうですが、老体に鞭打って頑張りたいと思います。
カプコン
プロデューサー
熊澤雅登
代表作:『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』、『バイオハザード RE:4』『アストロボット』です。
ひとつひとつのステージに多種多様な遊びが詰め込まれており、ずっと新鮮な気持ちでプレイすることができました。色々なコンテンツに時間を費やしたい身としては、凝縮されたボリュームと体験でただひたすらに充実した時間を過ごせました。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
青崎有吾さんの小説『地雷グリコ』です。
青崎有吾さんの作品としては『アンデッドガール・マーダーファルス』をアニメで見てハマったのですが、本作では主人公が繰り出す巧みな頭脳戦に、一瞬にして魅了され、刹那の如く読み終えました。好きな作品でした。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
KAWAII LAB.の皆さんです。
友人に勧められ、まずはFRUITS ZIPPERを聞き始めたのですが、中毒性の高い楽曲とダンスの数々、そこからはヘビーローテーションの日々でした。特に、デビュー当初からうなぎ上りに人気に拍車をかけたCUTIE STREETの皆さんについては来年以降の展開を非常に楽しみにしております。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年、『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』(公式サイト(https://www.kunitsu-gami.com/ja-jp/)/公式X(https://x.com/Kunitsu_Gami_JP))を無事発売することができました。遊んでくださった皆様、本当にありがとうございます。2025年も引き続き多くの方にプレイいただけるよう、尽力してまいります。その他、準備中のプロジェクトでも、様々なチャレンジをしていきたいと思います。
カプコン
ディレクター
中山貴之
代表作:「ストリートファイター6」「オトレンジャー」「ANIMAL WELL」
美麗なドットと印象的なサウンド、何も手掛かりがない状態でなにをすべきかを発見できる名作でした。
アイテムを手に入れた時の喜びが半端なかったですね。メトロイドヴァニアはすごく好きなジャンルなので非常に楽しかったです。
絶妙に求められるアクションスキルと謎解きの難易度が良い感じで、気が付いたら何時間か経っていたという事もありました。
個人的に憧れる物作りの集大成でした。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
Mokomaの「Myrsky」
フィンランドメタルの雄、Mokoma(モコマ)の4年ぶりの新譜、捨て曲なしの名盤です。
Marko Annala(マルコ)の書く何とも言えない抒情的な歌詞とフィンランド語の耳障りの良さが癖になる事間違いなしです。
ゴリゴリになりすぎずリラックスしながら聴ける(人によるか)アルバムです。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
「Kamasi Washington」さん
「Fearless Movement」最高でした!ありがとうカマシ!
「ヘアピンまみれ」さん:
2022年のパペット化くらいからずっと見させて頂いていますが、目の付け所の鋭さとあきらめない姿勢に感銘を受けています。
言葉選びのセンスや動画から伝わる探求心は疲れた心を癒してくれます。ピンまみさんの手作りフィギュアを商品化してください。
「Sam Divine」さん
Best House DJ 2024受賞おめでとうございます。
仕事に集中したい時にYouTubeで展開している「Defected Radio Show」をいつも聴いています。
選曲が毎回好み過ぎてすぐに音源を探しに行ってしまいます。なので仕事効率はダウンしています。
「BABYMETAL」さん
Electric Callboyとのコラボ曲の「RATATATA」ヤバかったですね。全てが詰まっている感じがして非常にいい刺激を頂けました。
これをドイツ大会のテーマ曲として選定したWWEも凄い!偉い!
「panpanya」さん
去年末に出版された「商店街のあゆみ」素敵でした。世界観や絵柄、台詞も大好きです。
「鈴木Mob.」さん
今年もMob.さんは素晴らしかったです。ライブにSNS活動、色々な事にチャレンジする姿勢は感動します。
自身の強みをよく理解されておりプロモーション力や発想力がとんでもないです。見習わないと。
様々なメディアでお目にかかる事が増え大変喜ばしい1年でした。
2025年3月31日(月)に日本武道館でのライブがありますので是非皆さん行きましょう!
1000円の席もございます。年度の切り替わるタイミングにどうですか?
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年は大変お世話になりました。25年も大会やイベント、アップデート等々を頑張って参ります。
是非会場などで見かけたらお気軽にお声がけください。
仕事の方は、「いろいろ」やってます!今後ともよろしくお願いいたします。
カプコン
プロデューサー
平林良章
代表作:『バイオハザード RE:4』 『ドラゴンズドグマ 2』 『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』『Balatro』です。
気軽に始められる、けれども始めると奥が深く時間を忘れて遊んでしまう。2024年も豪華なゲーム体験の作品が多々出た年でしたが、遊びの軸がしっかりしているコンテンツは大小の規模に関わらず惹かれます。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
Amazon Prime Videoのドラマ版『Fallout』です。
ゲームを題材にしたマルチコンテンツは、今はもう目新しいという事もないですが、本作はそのドラマとしての面白さと元のゲームが持っていた世界観への造詣の深さを非常に強く感じました。
次回シーズンが楽しみでなりません。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
河合優実さんです。
阿部さんと宮藤さんコンビという事で見始めたドラマ「不適切にもほどがある」で知ることになりましたが、演技の幅の広さに驚かされます。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年は、『ドラゴンズドグマ 2(公式サイト/公式X)』『祇(くにつがみ):Path of the Goddess(公式サイト/公式X)』ともに発売、加えて発売後もタイトルアップデートを行い、より楽しんでいただけるよう両チーム一同頑張ってまいりました。プレイいただいた皆様、本当にありがとうございます。
2025年は、新しい準備。そして今までの歩みに対しての拡大と進歩に向き合う年になりそうな年です。先日のTGA2024でのご挨拶を除いては、近日中に皆さんへ新たにお届けするというタイトルは無いのですが、色々と頑張ってまいります。
カプコン
プロデューサー
松本脩平
代表作:ストリートファイター6、カプコンファイティングコレクションシリーズ『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』
ジョーンズ博士大好きマンとしては、「レイダース」「魔宮の伝説」「最後の聖戦」のイケイケな時期の博士の世界に行けるのが本当に最高。ニンマリ要素もあるし、曲も良いし、マーカス・ブロディにも会えるし、博士好きにはもってこい!
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
『The Boys: Season4』 Amazon Prime Video
The BoysらしいゴタゴタがあってS4は良かった。去年の『Gen V』からの流れもしっかり入れてくれてたのでラストのSeason5がまた楽しみになりました!
『The Penguin』 U-NEXT
コリン・ファレルが良かったっすねぇ。最終話だけ「う〜ん」な感じでしたが全体的に面白くてリアルタイムで観た作品でした!
『The Crossroads』 Cordae
Cordaeの最新アルバム!2019年にこの企画で紹介した彼がめちゃくちゃ成長してリリースしたこのアルバムは本当にビートもリリックも素晴らしかったです。聴き応えのあるアルバムなんで是非、聴いてみてください!
大坂なおみさんとの第一子も産まれて今後もっともっと楽しみですね。
『Gorgeous』 GloRilla
Gloのデビューアルバム。「やっとデビューアルバム?まだリリースしてなかったっけ?」って感じですが、じっくり制作されただけあって良いです。個人的にEP『Anyways, Life's Great』が好きだったんですが、それに勝る内容で『Gorgeous』も素晴らしい!Memphis!!!
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
『Hanumankind』
インドのHIPHOP/RAP業界の超新星!Bohemia、Tamizha、DIVINEに続け!
『FLO』
UKロンドンの3人組。いやー彼女たちめっちゃ良いですよ。TLC、デスチャ、スパイスガールズを思い出させるような懐かしさを感じれたのも良いっす!
『Dr. Dre』
DETOXまだですか?いつまでも待ってます。Missionaryの次はDETOXでよろ。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
今年も『スト6』をいっぱい遊んでいただき本当にありがとうございます!オフライン/オンラインイベントもめちゃくちゃ開催されて嬉しかったです。2025年はSNKさんの『餓狼伝説』シリーズから「舞」が参戦します!見どころ満載の彼女を楽しみにしていてください。
そして、SNKさん繋がりでもある『カプエス2』が収録された『カプコンファイティングコレクション2』も発売されます!こちらもボリューム満点の8タイトル収録なのでワイワイ楽しんで欲しいです!
2025年もカプコンの格闘タイトルをよろしくお願いいたします!
ストリートファイター6 (C)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. |
カプコン ファイティング コレクション2 (C)CAPCOM (C)SNK CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED. |
カプコン
ゲームプランナー
村井亮介
代表作:デッドライジング デラックスリマスター「黒神話:悟空」
西遊記という題材をフルに活かして中国の文化の美しさ、力強さを世界へ知らしめよう、という野心を作品の隅々から感じました。
アクションゲームとしては、敵の動きを数秒止める「定身術」や大勢でタコ殴りにする「分身術」など、ここまでプレイヤー有利な要素があっていいのかと最初思いましたがそれらをフル活用しないと太刀打ちできない強敵揃いなことも相まって、敵の苛烈な攻撃を搔い潜り、孫悟空らしい無法なの技の数々を惜しみなく使ってゴリ押しするという、粗削りながらもダイナミックな攻防の切り替わりの落差に快感を覚えました。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
「ガールズバンドクライ」
可愛らしい見た目とは裏腹に肥後もっこすな主人公、井芹仁奈は何が何でも自分を曲げずに周りに噛みついて回るとんでもない奴なんですが、そのわがままな一挙一動が痛快で惹かれます。そんな彼女が物語を通じ、自分の想いと直面する現実の狭間で溜めていくフラストレーションを、3Dアニメーションだからこそできる表情や動きの豊富さ、カメラワークの激しさによって裏打ちされた圧巻のライブパフォ―マンスを通じて解放する瞬間のカタルシスに毎度脳を揺さぶられました。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
「レンタルぶさいく」
アムステルダムでうどん屋を開くのを目標に、自身の「ぶさいく」のレンタル業を営みながらYouTubeで発信されている方で、面白く生きるためにのたうち回りながらも体当たりでチャレンジされる姿に爆笑しつつも目が離せないです。数年(もしかしたら2025年)以内に開業に向けた目標金額を達成されると思うので、その時一体どうなるのか非常にワクワクしています。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年に『デッドライジング デラックスリマスター』を無事完成、発売することができました。興味のある方はぜひ、生まれ変わった唯一無二のゾンビパラダイスをお楽しみいただければ幸いです。2025年も魅力にあふれた新作ゲームの数々を遊べるのが楽しみですし、それらをプレイした経験も血肉としより良いゲームを皆さんにお届けできるよう、いち開発者としてゲーム作りに邁進したいと思います!
カプコン
プロデューサー
森本 圭
代表作:デッドライジング デラックスリマスター『ドラゴンボール Sparking! ZERO』
ドラゴンボールというIPの凄さは今更語るまでもなく…ゲームとしては17年ぶりのシリーズ新作。
この期間までに出た漫画、アニメ、映画、ゲーム、これまで様々な媒体で展開されているドラゴンボールコンテンツの美味しいところをかき集めた現時点での集大成だと感じました。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
『地面師たち』
全7話とコンパクトにまとまっていたのもあり一気見しました。
地上波では流せないような尖った内容のドラマがヒットしたことが印象深かったです。
このドラマの存在を知ったきっかけがYouTubeのショート動画で流れてきた後藤が発する「もうええでしょう」集でした。
どのように知ってもらうのか?知ってもらうと同時に興味を持ってもらうためには何を見せるべきか?仕事柄そんなことを考えさせられた一本です。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
YouTuber『ヒカルさん』
最近は長尺の映像をラジオ代わりに聞くことが多いのですが、人を惹きつけるトーク力があるなぁ、と羨ましく思っています。
現状に満足せず、常に上を目指し続ける姿勢を見ながら、自身の仕事への向き合い方を見直すきっかけにもなっています。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年にはデッドライジングシリーズ18年ぶりの新作となる「デッドライジング デラックスリマスター」とiPhone/iPad/Mac向けに「バイオハザード 7 レジデントイービル」と「バイオハザード RE:2」の計3本をリリースしました。
Apple端末向けの「バイオハザード」シリーズは計4タイトルとなりました。
他社さん含めてコンシューマーの売り切りタイトルがiPhoneやMacに対応してきており、ゲームプラットフォームとして今後どうなっていくのか、非常に期待をしています。
「デッドライジング デラックスリマスター」はグラフィックを一新しカプコンの中でも新しい形のリマスターとしてリリースしました。お楽しみいただいた皆さんありがとうございます!ゲーム体験はオリジナル版から損なわず、現代風に遊びやすくアレンジされているので未プレイの方は是非年末年始で時間がたっぷりあるタイミングで手に取っていただけると嬉しいです!
2025年は仕込み時期として粛々と仕事をこなす期間となりそうですが、新しい情報をお届けできる時を楽しみにしながら頑張ります!
ガンホー・オンライン・エンターテイメント
プロデューサー / ディレクター
荻原 智
代表作:「TEPPEN」「サモンズボード」「Pokémon Trading Card Game Pocket」
ポケットと冠するくらい運と実力が絡み合うくらいのボードゲーム感覚に落としこまれ、カードを集めるだけでも楽しく、初めてカードゲームに触れたユーザーでも楽しめるゲームだなと思います。
ランクマッチ的なものを廃したのがすごい決断だなと思います。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
今年は2024年の作品はもちろん拝見しておりますが、それ以前の作品でまだ見れていないコンテンツを多く拝見させていただいた年だと思います。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
「大谷 翔平」
棋士の藤井さんの時もそうです(今もそうです)がなにかを成し遂げ続ける人の努力と結果は感動と尊敬の念をいただきます。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年、シーズン制やチャンピオンズリーグ、ファイナルトーナメントと新たな試みでチャレンジしてきました。
ユーザーの皆様、選手の皆様本当にありがとうございました。
2025年も引き続き皆様に楽しんでいただけるように開発・運営していきたいと思います!
今年もありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします!
ガンホー・オンライン・エンターテイメント
パートナー・パブリッシング本部 課長代理
中村聡伸
代表作:ラグナロクオンライン「Elin」
知る人ぞ知る名作「Elona」の後継として、2024年11月1日にアーリーアクセス版が公開されたばかりですが、まさに今年のイチオシです。ローグライクなダンジョン攻略にサンドボックス要素が加わり、どんな生活でもできてしまう自由な世界が楽しめます。私も、パーティー会場で木魚ライブを開いたり、発電機を作ったら重すぎてその場で潰されたり、カジノの硬い壁を剥がしてハンマーに変えたりと、カオスで愉快な日々を過ごしています。遊べば遊ぶほど、できることとやりたいことが雪だるま式に増えていくので時間が足りません!
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
「天穂のサクナヒメ(アニメ版)」
ゲーム本作は「令和の米騒動」と言われるほど話題になり、私も発売日に購入してから稲作を1,000年続けるほどハマっていました。ゲーム性だけでなくストーリーも好みでしたので、アニメ化ではたしてどうなるのか……と、私の期待はまさに山盛りの白米のごとし。いざ放映されたのを観てみれば、魅力あるストーリーが凝縮されていて、期待を裏切らない満腹満足な仕上がりでした。放映後にゲーム、アニメ両方の続編制作が発表されましたが、そちらの完成にも期待しています!
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
「くまモン」
日本で最も有名と言っても過言ではない、熊本県のPRキャラクターです。なんと2025年3月で15周年を迎えるとのことで、夏には15周年ロゴの発表なども行われていました。ひとつのものを長く続けていくことの難しさを知る身として、個人的に親近感を覚えたのが注目の理由です。くまモンが15周年を迎えてどんな活躍を見せてくれるのか、今からとても楽しみですね。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
「ラグナロクオンライン」は2024年12月1日に、正式サービス開始から22周年を迎えました。キャラクター育成要素の拡張や新たなエピソードの展開はもちろんですが、皆さんの思い出深いマップやNPCにフォーカスを当てたショートストーリーの実装など、懐かしさを感じられるアップデートも積極的に行っています。少しゲームから離れている方も、広告などで思い出深い単語が出てきたときなどに、また遊びに来ていただければ幸いです。
ガンホー・オンライン・エンターテイメント
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長CEO エグゼクティブプロデューサー
森下一喜
代表作:パズル&ドラゴンズ、ニンジャラ、ラグナロクオンラインHorizon Forbidden West Complete Edition/PS5
ソニー・インタラクティブエンタテインメント/2023年10月6日発売
2023年4月19日に配信された『Horizon Forbidden West』の大型拡張コンテンツ『焦熱の海辺』をプレイしようと思っていたら、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』が発売されてドハマりしたので、『焦熱の海辺』は泣く泣く積みゲーに……。ちなみに、『ティアキン』をクリアーしたあとも1年近くプレイし続けましたが、ようやく自分の中でのエンディングを迎えたので、いまはほかの積みゲーと一緒に『焦熱の海辺』をのんびりプレイしています。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
振り返ると、ここ数年、韓国産の映画やドラマを観ることが多かったような気がします。
最近は『涙の女王』と、ちょっと古いですけど『ペントハウス』を観ました。
そんな流れに反して、今年いちばんよかったのは『SHOGUN 将軍』ですね。
もともと歴史ものが好きで、日本の大河ドラマなんかもチェックしていたんですけど、『将軍』はそれらのどれとも違う作りで、しかも海外で評価されるという、とんでもない成果をたたき出した作品です。
日本産のドラマと言えば、『地面師たち』もすごい話題になりましたし、2024年は日本のエンタメ業界がいままで以上に活気づいた年のように感じました。
これから先が非常に楽しみですね。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
NewJeans
女性アイドルグループにはあまり興味はないですけど、なぜかハマってしまいました。
まあ、いろんな騒動がありましたが、がんばって活動してほしいです。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2024年はいろんなメディアで「パワーを溜める時期です」とコメントしましたが、パワーを溜めた成果が少しずつ出てきているとか、いないとか……。
2025年中には、その成果をお見せできるかもしれません。
あまり期待しないで待っていてください。
グラスホッパー・マニファクチュア
代表取締役、シナリオライター、ディレクター
須田剛一
代表作:『NO MORE HEROES』シリーズ、『killer7』、『Shadows of the Damned』、『シルバー事件』シリーズクローズ×worst unlimited
パルコアンドデンジャラーズ、最高!
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
ZAZEN BOYS/『らんど』
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
THIS IS 向井秀徳
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
新作、発表するよ、でもね、たぶん、きっと。
グラスホッパー・マニファクチュア
コンセプトアーティスト
能丸督之
代表作:Shadows of the Damned、FrogMinutes、LET IT DIEシリーズPICO PARK 2:40年近く遊んでいる横スクロールのアクションでまだこんなに純粋に楽しめるのか!!と衝撃でした。初見ではとてもクリアは難しそうに思えても複数であれやこれや工夫することで、意外とクリアできてしまうゲームデザインも絶妙でした。
今年はあまり新しい作品をプレイすることができませんでしたが、昨年アーリーアクセスで今年正式リリースになった「Xenotilt」というピンボールゲームもとても感心しました。丁寧に集中して作り込まれた一台のピンボール台という感じが好きでした。またゲームでしか成しえないギミックが盛りだくさんな所も素晴らしかったです。)
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
タワーダンジョン:この作品はいわゆるダンジョンを舞台に人間とモンスターの対決をモチーフにした作品だと思いますが、弐瓶勉先生は馴染みのあるものでも新鮮で驚きのある世界に描いてくださいます。一見あっさりと描かれた絵のようですが感覚的にとてもリアリティのある表現が最高です。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
Russell Wilson:個人的にデビューした頃からずっと応援しているNFL(アメフト)の選手です。若いころから心のこもった熱いプレイが素晴らしいです。ここ数年は目立った活躍ができていませんが、もう一花咲かせてくれることを期待して観戦しています。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
2025年は今、関わっているプロジェクトをより良い形で発表することが第一の目標です。
今までのGhMの持ち味をしっかりと持ちつつ、レベルアップした物を体験していただけるように全力で取り組んでいますので、ご期待ください。
グラスホッパー・マニファクチュア
ディレクター
山﨑 廉
代表作:『NO MORE HEROES 3』北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ 〜追憶の流氷・涙のニポポ人形〜
理由:どうしてもネタが古くなってしまうADVというジャンルで、ただ「絵がきれいになりました」という安易な方向にならず追加された導入部分によって、古い部分を改修?回収?しつつ、説得力を持たせているのは素晴らしく思いました。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
憐れみの3章
理由:エマ・ストーンのダンスはこの映画の白眉
いや、ウィレム・デフォーも良かったけど。
これはきっとコントなんじゃないかと思います。
松本人志のコントを見たときのようなモヤっと感。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
東野幸治
理由:彼のYouTubeを見てほしい。
そこに理由があります。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
鋭意制作中。
グラビティゲームアライズ
エグゼクティブプロデューサー
神崎喜多
代表作:『神箱 -Mythology of Cube-』『東京サイコデミック 〜公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿〜』
『NBA RISE TO STRADOM(NBA RISE)』『貞子M 未解決事件探偵事務所』
『黒神話:悟空』
ゲーム開発に携わる人なら誰しもが衝撃を受けたのではないでしょうか。現在の中国におけるゲーム開発力を感じましたし、個人的には世界のゲームの価値観を根底から変えてしまうくらいのインパクトがありました。これほどの超大作がこれからどんどん台頭してくるのかと。日本でのゲーム開発を携わっている身として、あらためて脅威を感じました。
もっと自分も頑張っていかなければと、身が引き締まる思いです。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
『全領域異常解決室』 フジテレビ
身近な現代事件×最先端の科学捜査では解明できない“不可解な異常事件”を「全領域異常解決室」という捜査機関が解決していく1話完結型のミステリードラマです。扱う事件の対象は、まさに“あらゆる領域”=全領域になっており、「神隠し」といった“超常現象”など、現代科学の常識では考えられない“異常な事件”を解決していきます。
自分が携わっていた作品にとても近いテーマ性。ミステリーとしてもとてもおもしろく、超常現象的な表現もしっかり作られています。こういうストーリー構成や表現ができるのかと、毎週ものすごく楽しんで観ています。正直なところ、とても悔しい思いもありますが(笑)
この記事を書いている時点ではまだ完結していないので、最終回がどうなるのか、いちゲームプロデューサーとしても一個人としても、とても楽しみで仕方がありません。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
プロバスケットボール選手 河村勇輝選手
日本人で4人目のNBAバスケットボール選手が誕生しました。
今年はオリンピックでもバスケットは大変盛り上がったうえに、とても嬉しく、エキサイトした瞬間です。
世界最高峰のバスケットボールリーグで活躍する姿には勇気をもらっています。
これからも引き続き応援していきたいです。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
5月に『東京サイコデミック』、8月に『神箱』を発売して以降、引き続き新しい作品づくりにも力を注いでおりました。2025年に新情報を出せるよう、これからも頑張って参ります。
その時はまた是非、皆様にお手にとっていただき遊んでいただけたら嬉しいです。
クラフト&マイスター
株式会社CRAFTS&MEISTER ディレクター
福川大輔
代表作:『ガンダムブレイカー』シリーズ(モバイルを除く)、『Lost Odyssey』『ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE』
追加コンテンツですが挙げさせていただきます。プレイ再開時、レベルを上げすぎていて楽しめないのではないかと不安でしたが、まったくの杞憂でした。再び気合いを入れてプレイ中です。(まだクリアできていません!)オープンワールドのゲームは大好きなのですが、新たなエリアにドキドキしながら進む感覚が持続し、美しいアートワークとあいまって、とても幸せな時間をすごしています。
『未解決事件は終わらせないといけないから』
推理して整理すると展開していくという、気づきとカタルシスの連鎖が素晴らしかったです。ストーリーとその翻訳に感心しました。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
『デッドプール&ウルヴァリン』
元ネタさがしに頭をフル回転させながら観る楽しさがありました。他作品について期待以上に言及されており、MCUの今後が一段と楽しみになりました。
『青春18×2 君へと続く道』
最近はこのような映画はほとんど観なくなっていたのですが、なつかしい感じのせつなさに心を打たれました。ひさしぶりに『Love Letter』を観なおしました。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
『伊藤 沙莉』さん
直近に拝見したいつくかの映画での、独特な役柄のイメージが強かったため、朝ドラの主演には驚きましたが、難しいテーマの中でやさしさも勇気もユーモアも素晴らしく演じられていて、とてもよいドラマでした。とても気になる女優さんです。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
8月29日に開発を担当させていただいた『ガンダムブレイカー4』が発売されてから、多くの皆様から温かいお声をいただき、おかげさまで、その後もDLCやアップデートパッチを配信することができています。引き続きアップデートを予定しております。スタッフ一同頑張っていますので応援よろしくお願いいたします。
また、2025年には新しいことにもチャレンジしたいと思っています!
クローバーズ
クローバーズ株式会社 スタジオヘッド/チーフ・ゲームデザイナー
神谷英樹
代表作:「バイオハザード2」「デビルメイクライ」「ビューティフルジョー」「大神」「ベヨネッタ」「ザ・ワンダフル101」「ソルクレスタ」『ヒューマンフォールフラット』
2024年を振り返ってみて、皆さんのこの一年のゲームライフはどんなだったでしょうか?
僕ですか? そうですね、僕はゲームライフ以前に、まずはリアルライフをどうにかしなきゃいけない無職の身だったので、いつものようにおもちゃをポチってはガンガン貯金が減っていく通帳を眺めて背筋に冷たい汗を感じる、エキサイティングな日々を生きるので精一杯でした。
まぁ無職とは言っても、思い付きで始めたYouTubeの動画配信のために、友人を無償で手伝わせてどこかの公園で適当に話すだけの撮影を行い、リビングのソファに寝転がってアマプラやNetflixを見ながら気が向いた時にiPadで編集するという作業で多忙を極め、おかげさまでこの一年で15本もの動画を公開することが出来て、合計で3万数百円もの収益を得るに至っておりますので、皆さんがなんら心配することはございません。
それに、ひとたびソファに寝転がれば、すぐ脇に置いたSwitchを手に取ってテトリス99に興じ、幾度となくテトワンを獲得していましたので、僕のゲームライフは間違いなく豊かに彩られたものだったと断言できます。
そんなことよりおもちゃと言えば、これまで僕の守備範囲は主に完成品トイが中心で、ガンダム系はもちろん仮面ライダー系、ウルトラマン系、スーパーロボット系、リアルロボット系、スターウォーズ系…と、一般教養として嗜んでおくべきエンターテイメント作品のフィギュアをひたすら買い集め、無職になる以前のプラチナゲームズでは、「社員みんなで好きなおもちゃを展示しよう!」という名目で設置されたディスプレイ棚に、副社長チーフゲームデザイナー(当時)として、社員の皆のパフォーマンスを最大化するために率先して仕事の参考資料になるものを展示しなければならないという使命感に駆られて、棚の半分以上を占有してそれらフィギュアを並べ、いざ退職するとなったら、それらを全てを段ボール箱に梱包するのに後輩たちの手を借りても尚一ヶ月超を要して、もちろんその片付け期間のお給料もしっかり戴いたわけですが、それはさておき、最近何年振りかでガンプラに興味が沸いたことがきっかけで、暫くノーマークだったガンプラ界隈に久しぶりに目を向けたところ、思いもしなかった現実を目の当たりにして、少しばかり困惑してしているところです。
というのも、近年僕は完成品トイにターゲットを集中させ、少ない出荷数を巡って血で血を洗う争奪戦を幾度となく繰り広げてきており、目当ての商品の予約開始時刻の10分前には、仮に仕事があっても放り投げてPCの前に陣取って、信用できる販売サイトを複数開いて準備万端整え、充血した眼で時計の秒針を睨みつけて心の中でカウントダウンしながら虎視眈々とその時を待ち、予約開始時刻になると同時に間髪を入れず片っ端からページを更新して、表示された「予約ボタン」に素早くマウスカーソルを合わせて、“クリック” と呼ぶにはあまりにも重すぎる圧力と念を込めてボタンを押下するも、どのサイトも脆弱なサーバーが悲鳴を上げて読み込み状態のまま遅々としてページが更新されず、ようやく何か表示されたと思ったら、そこには「予約終了」の冷たく残酷な文字が無慈悲に並び、すがる思いで他のECサイトを巡ると、どの小売店でも該当商品がなぜか定価に万単位の金額を上乗せした価格で平然と売られていて、涙目になりながらネットオークションやフリマアプリを覗けば、たったいま予約が始まって締め切られたばかりのはずの商品が、莫大な利益分を乗せられた転売品として当たり前のようにズラリと並んでいるという阿鼻叫喚の地獄絵図の巷を、自分を含む敗北者の血と涙が染み込んだ泥を啜りながら這いずってきているわけですが、一方で僕が主戦場としないガンプラ界隈については、プラモ売り場に行けば幾らでも商品が積まれていて、欲しいものを選んで買えるんだから、さぞかし居心地がいいんでしょうなァ…などと、勝手な思い込みに任せて高をくくっていたわけです。
ところが、いざ自分がガンプラを買おうと現実に目を向けてみると、ECサイトはどこも高額なプレ値を付けていて、「いつか気が向いたら全種類集めて組み立ててみるか」とかつては呑気に眺めていた旧キットのベストメカコレクションたちでさえ、今や定価の数倍以上という信じられない価格に高騰しているではないですか。そんな馬鹿な、と無い髪を振り乱して家電量販店のプラモ売り場へ急行してみたら、ほんの数年前まで色とりどりのガンプラの箱で埋め尽くされていた棚は閑散としていて、ディフォルメ等身のコミカル系のものが隅に少し並んでいる程度で、主力のマスターグレードはもちろん、ハイグレードすらも置かれてないという目を疑う惨状が広がっていて、今更ながら愕然としました。
プラモデルはいつでも在庫が揃っていて、売れ切れたものは自動的に補充される…と勝手に思い込んでいた僕は、自分の認識が数十年以上昔の古い記憶で固定されたままだったことを思い知らされて、自分の浅はかさに自己嫌悪に陥ると同時に、「ガンプラよ、お前もか」と、おもちゃの未来を憂いて暗澹たる気持ちになったわけです。
遥か昔、僕が小学生の頃のガンダム/ガンプラブームは、それはもう狂気じみていて、プラモ売り場にはまともなガンプラと言えるものはひとつもなく、ホワイトベースやムサイ、ガウなどの戦艦系が棚の残り物の常連で、アッザムやガンタンクでも残っていれば御の字、劇中でも大した活躍の場がなかったザクレロやゾックでさえ瞬く間に売れていくという有様で、ある日などは、「何も買わないからね!」と先制攻撃を放つ母親の車に強引に乗り込み、買い物に同行して松電ストアへ行き、その向かいにある目当てのプラモ屋へ急行したら、今まさにガンプラが入荷したばかりのところに出くわすという奇跡に恵まれ、群がる敵を押しのけてその中から1/60ゲルググを掴み取り、店のおっちゃんに「お母さんにお金もらってくるからこれ取っといて!」と預けて、松電ストアで買い物中の母親のもとへ猛然と取って返し、「お母…」と言いかけたところで「駄目!」と被せ気味に言葉を遮られ、意気消沈してとぼとぼプラモ屋に引き返して、おっちゃんに「ダメだって…」と虚しく告げなければならなかった不遇の幼少期についてはまた別の機会に詳しくお話しするとして、また別の日には、東京出張した親父が買ってきてくれたお土産の包みを開けると、中から1/1000ホワイトベースが出てきて、「ガンプラといえばガンプラだけど、コレ…いや、親父が好意で買ってきてくれたものだし、豆粒のように小さいとは言えガンダム、ガンキャノン、ガンタンク、ガンペリーのミニサイズモデルも付属してるから、ブンドドもギリ出来なくもない…!」と、何とか納得しようとしているところに、親父から追い打ちをかけるかのように、「そう言えば “しおんぐ” ってのと “がんきゃのぶ” ってのも売ってたぞ」と、名前を間違えているのはご愛敬としても、その時の僕にとっては蛇足極まりない情報を浴びせかけられ、「買うならソッチ買って来てくれよ、買ってこないんだったらワザワザ言わんといてくれ!」…と、やり場のない怒りと悔しさに拳を握って打ち震えざるを得なかったものの、後年になってそれを思い返した時、「ああ、親父は世代的に戦艦が一番上等という感覚だろうし、きっと箱が一番デカいのを選んでくれたんだろうな」と気づいて、思わず目頭が熱くなったという、そんな思い出もこの原稿を書いている僕の脳裏に走馬灯のように甦るというものです。
…ちょっと話の着地点が見えなくなりましたが、話を戻しますと、要するに「ガンプラが手に入らない」などという話は遥か太古のおとぎ話で、流石に今の世の中では、製造工程が複雑な完成品トイならともかく、単に金型から抜いて箱詰めするだけのプラモデルなら潤沢に製造・出荷されているはずだよね、と勝手に信じ込んでいて、まさか同じ悲劇がまた繰り返されているとは、夢にも思いませんでした。
それだけに留まらず、かつての品薄騒動と比較して、今の状況をより深刻にしているのが、「転売」という行為の介在です。僕がわざわざ改めて申し上げるまでもないことですが、そうした行為のために、人気商品(のみならず、そうでない商品までも)が、それを本当に必要としている人の手に渡りにくくなるのはもちろんのこと、本来負う必要のない、中間介在者(いわゆる転売屋)の利益分さえも、支払いに上乗せされて購入者が負担することになるため、それは巡り巡っておもちゃメーカーにとっても機会損失を招くことにもなるでしょう。このような道を辿っていって、我々のおもちゃライフに明るい未来があるのでしょうか? いや、ない(反語)。
何よりも、“ガンプラを買う” というのは、そんなに仰々しいものではなく、本来はフラっとおもちゃ売り場を訪れて、「ほほう、RGガンダムver 2.0ですか。これを組み立てて、バンダイが培った現代技術の粋とやらを味わうというのも一興ですが、設定画からかけ離れたこの突出した胸部ダクトのデザインはいただけませんね。ここはやはり、旧来からのファンと現世代ファンの求める理想を一番良いバランスで立体に落とし込んだ、秀逸なデザインのお台場ガンダムに準拠したRGガンダム初期版を…と言いたいところですが、いっそサイズアップさせてMGガンダムver 3.0をセレクトするとしましょうか。実はそんなこともあろうかと、既にプレバンで「拡張セット」も予約済みなんですよ、ザーボンさん」などとぶつくさ独り言をつぶやきながら、棚をあっちこっちと物色し、目当ての品を購入したら、買い物袋を提げて帰宅する道中も組み立て行程に思いを馳せる…というのがガンプラというものの正しい嗜み方だったはずです。
しかしそれが今では、いつ入荷するかもわからない目当ての品を求めて販売店を渡り歩き、虚ろな目でガランとした棚を眺め遣って、虚しく家に帰ればネットショップで法外な値のついたプレミア品ばかりを見せつけられて怒りに打ち震えざるを得ない日々になり果てているというのは、甚だ異常事態だと言わざるを得ません。一体どうすれば、かつての平穏な日々を取り戻せるのでしょうか? …ということを議論するのが今回の目的ではないので、解決方法は頭のいいどこかの誰かにブン投げるとして、アイスブレイクとしては甚だ短くはありましたが、早速話題をゲームの方に移しましょう。
さてゲームと言えば、この一年で最も業界の注目をさらったのは、「アーケードアーカイブス」と「EGGコンソール」の二つだったということに異議を唱える人はいないでしょう。
「アーケードアーカイブス」は言わずと知れたハムちゃん(株式会社ハムスター、業界ではこう書く)による歴史的アーケードゲームのアーカイブ(記録保存、未来への伝達)化プロジェクトですが、年の瀬も迫る11月の末になって、サクセスのアケアカ参入第一弾タイトルとなる「コットン」がリリースされ、これはもしかして「スーパーオセロ」や、まさかあの幻の「PLAY BALL」までもが移植ラインナップに加わる前触れなのか…? と業界が騒然となったのは記憶に新しいところです。
オールドゲームの黎明期を牽引したナムコのタイトルも、年始早々に「コズモギャング ザ パズル」がリリースされたのに始まり、その後貴重な古株タイトルの「タンクバタリアン」や、また「VS. スーパーゼビウス ガンプの謎」、「VS. スターラスター」、「VS. ワルキューレの冒険 時の鍵伝説」、「VS. バトルシティー」、「VS. カイの冒険」といった、ファミコンキッズには顔なじみでありながらも、当時ゲーセンで業務用稼働していたものとしては中々お目にかかれなかった通なタイトル群も続々とリリースされて、僕個人としては、弟が誕生日に買ってもらったか、あるいはお小遣いを貯めて買っか、はたまたおばあちゃんに買ってもらったかしたであろう大切な「バトルシティー」のファミコンカートリッジを友人に借りパクされた記憶が蘇り、いたたまれない気持ちになったことは横に置いておいて、例えば「VS. スターラスター」などは、ファミコンの「スターラスター」が大好きな僕の元上司の三上真司氏も、きっと今頃嬉々として暗黒惑星攻略に勤しんでいるだろうなぁ…と、僕の心をほっこりさせてくれたり、また「VS. バトルシティー」(ファミコン版の発売が1985年9月9日)も、その系譜の始祖に当たる「タンクバタリアン」(ゲームセンターでの稼働開始が1980年10月)と遊び比べてみることで、ゲームの進化の歴史に思いを馳せることが出来るばかりか、勢いあまって他の移植版にまで触手を伸ばして、ゲームボーイ版「バトルシティー」と、ナムコのゲームボーイソフト「ナムコギャラリー VOL.1」収録版「バトルシティー」という、まるでサンソフトバージョンとテンゲンバージョンが存在するファミコン版「ファンタジーゾーン」のような、同一ハード上での違ったアプローチによる2つの移植版との邂逅を果たす人も少なくないんだろうな…などと幸せな気持ちにさせてくれました。
とは言え、任天堂VS.システム対応のナムコタイトルはまだまだ他にもありますし、そのほかにも「ジービー」、「ボムビー」、「キューティQ」、「海底宝探し」、「メルヘンメイズ」、「クエスター」、「ミズ・パックマン」、「ニュージグザグ」といった、多くのファンから移植が望まれているメジャータイトルもたくさんありますので、来年の一発目に何を持ってくるのか、注目せずにはいられません。
一方で、ナムコ繋がりでバンプレストのタイトルの方に目を向ければ、今年は参入第一弾である「マジンガーZ」に続いて、この原稿が公開になる頃には第二弾タイトル「超時空要塞マクロス」がリリースされていることだろうと思いますが、いささかスローペースではなかろうか?という感が否めないところです。
バンプレストと言えば、「機動戦士SDガンダム サイコサラマンダーの脅威」と「機動戦士ガンダム」は、移植希望アンケートにおける上位陣の常連だとは思いますが、バンプレストの前身「コアランドテクノロジー」時代の名作群、すなわち「ペンゴ」、「ジャンプバグ」、「青春スキャンダル」、「ごんべえのあいむそ〜り〜」、「モンスターランド」、そしてあのYouTube「神谷英樹チャンネル」において、お手製の解説図を用いて詳細に説明されていたことでも記憶に新しい、「ゼビウス」の流れを汲む空中地上撃ち分け縦スクロールシューティングの佳作「ガルディア」も、賢明なる4Gamerの読者諸氏にとっても切望してやまないタイトルであることでしょうから、週一本という配信ペースの中に、来年は一体どういう形でそれらのタイトルを散りばめてくるのか、ハムちゃん社長濱田氏の一挙手一投足にゲーム業界全体の注目が集まっているその張り詰めた緊張感が、今回この4Gamerに寄せられた著名人各位のコメントにも滲み出ていることを、僕のコメントを読み飛ばしている皆さんもきっと読み取っていることでしょう。
また、上に並べたタイトル群がどれもセガとの関係が深いことに鑑みれば、それらが「アーケードアーカイブス」でリリースされた暁には、80年代にオールドゲームの盛況に貢献したメーカーでありながら、崇高なるハムちゃんの理念になぜか寄り添う形を取らず、まるで周囲の誰もが「ストリートファイターII」の対戦で盛り上がっているさなかに、ゲームセンターの隅の方で独り「餓狼伝説」のシングルプレーに興じて「俺かっこいい」を気取っていた、思春期真っ盛りの僕のように、独自路線で勝手気ままに移植タイトルをリリースし続け、それにより「アーケードアーカイブス」とのフォーマット不同一問題を引き起こして、Switch実機上でオールドゲームを整理する際にも、実際に遊ぶ際にも、僕に大変な不快感を強いている張本人であるセガを、「アーケードアーカイブス」参入メーカーとして導き入れる流れが自然に生まれて、「モナコGP」、「ターボ」、「スタージャッカー」、「ZOOM909」、「ピットフォールII」、「忍者プリンセス」、「テディーボーイ・ブルース」、「フォートレス」、「ギガス」、「ピタゴラスの謎」、「ファンタジーゾーン」、「ハングオン」、「スペースハリアー」、「アフターバーナーII」、「パワードリフト」、「サンダーブレード」、「ギャラクシーフォースII」、「エンデューロレーサー」、「SDI」、「ブロックギャル」といったタイトルのリリースが実現することにも期待が高まるだけでなく、返す刀でハムちゃん社長濱田氏が秘蔵する “濱田メモ” に書き記されているはずの「クラッシュローラー」、「コロスケローラー」、「ミサイルコマンド」、「マーブルマッドネス」、「ガルディア」、「ビーストバスターズ」、「ザ・グレイト・ラグタイムショー」、「シスコヒート」、「ピンボ」、「フィールドコンバット」、「ニューヨークニューヨーク」、「リバーパトロール」、「ガルディア」、「シェリフ」、「スペースフィーバー」、「スペースファイアバード」、「ポパイ」、「B-WINGS」、「マッドエイリアン」、「ファイティングファンタジー」、「ガルディア」、「ミスタージャン」、「スパルタンX」、「ロットロット」、「R-TYPE」、「バスター」、「ギャラクティックウォーリアーズ」、「RF-2」、「新入社員とおる君」、「急降下爆撃隊」、「ブラックパンサー」、「WECル・マン24」、「チェッカーフラッグ」、「ガルディア」、「アルカノイド」、「プランプポップ」、「スカイデストロイヤー」、「オペレーションウルフ」、「スラップファイト」、「ワイバーンF-0」、「ガルディア」、「ビューポイント」、「TX-1」、「ロックオン」、「ザインドスリーナ」、「平安京エイリアン」、「麻雀狂時代」、「リアル麻雀 牌牌」、「麻雀CLUB90's」、「華の舞」、「ガルディア」が移植される道筋さえも見えてくるので、来年もハムちゃんからは目が離せません。
またもう一方の「EGGコンソール」の方も、公式サイトによれば、 “Nintendo Switch に懐かしのレトロPCゲームが登場! プロジェクトEGGがNintendo Switchに参入! 1980〜90年代にPC-8801・PC-9801・MSXなどで発売された名作PCゲームは、今のエンタテインメントに大きな影響を与えました。 弊社はゲームを愛する方々へのリスペクトを忘れずに、これからもより多くの皆様に楽しんでいただけるよう復刻を行っていきます” とのことで、 “レトロ” というのは復古 “調” を意味する、例えば「ロックマン9」のような “前時代的味わいを復古したもの” を指す言葉であり、真に “歴史的に古いゲーム” は紛れも無いオリジナルであって、復古したもの(=レトロ)などでは断じて無いというスタンスを取り、ゲーム文化を正しく伝えていくべき側にいる者として歴史的作品たちへの尊崇の念も込めて「オールドゲーム」、その中でもとりわけ名作とされるものは「クラシックゲーム」と呼ぶなどして慈しんでいる僕個人としましては、嗚呼、公式でそんなハズカシイこと言っちゃってるんだ、とアルカイックスマイルを湛えて生暖かく見守ってしまう、そのような部分はあるものの、先行してPC向けに始まっていた「プロジェクトEGG」が、“継続的に定額料金を支払ってサービスに加入しつつ、更にそれぞれ作品ごとに代金を支払え” という理解に苦しむ珍妙集金システムで、僕を含む多くのオールドPCゲーム愛好家たちの購買意欲を削ぎ落し続けてきたのに比べれば、至極当然な売り切り型販売形式でオールドPCゲームを提供してくれていて、僕もホッと胸を撫で下ろしているところですが、それはさておき、こちらも今年は「メルヘンヴェール PC-8801mkIISR」に始まり、「妖怪探偵ちまちま PC-8801」、「イース PC-8801mkIISR」、「ハイドライド3 PC-8801mkIISR」、「イースII PC-8801mkIISR」、「サーク PC-8801mkIISR」、「ドラゴンスレイヤーIV ドラスレファミリー MSX2」、「ハイドライドII PC-8801」、「ワンダラーズ フロム イース PC-8801mkIISR」、「真・魔王ゴルベリアス MSX2」、「ソーサリアン PC-8801mkIISR」、「トリトーン PC-8801」、「トップルジップ PC-8801」、「ぽっぷるメイル PC-8801mkIISR」、「セイレーン PC-8801mkIISR」、「アルギースの翼 PC-8801mkIISR」、「スタートレーダー PC-8801mkIISR」、「ザナドゥ シナリオII PC-8801mkIISR」、「ハイドライド MSX」、「ドラゴンスレイヤー英雄伝説 PC-8801mkIISR」、「スタークルーザー PC-8801mkIISR」、「シルバーゴースト PC-8801mkIISR」、「太陽の神殿 -ASTEKA II- PC-8801」、「アンデッドライン MSX2」、「殺人倶楽部 PC-8801」、「サークII PC-8801mkIISR」、「イース MSX2」、「ガーディック MSX」、「ザ・スキーム PC-8801mkIISR」、「リグラス 魂の回帰 PC-8801」と、後世に残すべき名作、良作の数々を矢継ぎ早にリリースしてくれ、その中でも特に「ハイドライド3 PC-8801mkIISR」などは、去年もこちらでお話しした通り、僕にとって念願の初パソコンとなったPC-8801MAで初めて遊んだ思い出深いゲームで、「プログラミングを勉強するため」という名目で両親を説得してパソコンを買った手前、両親の目を盗んでゲームを遊ぶことを余儀なくされ、夜な夜な親が寝静まるのを待ってからタンスの奥に隠した大人の教科書…いやハイドライド3のソフトを引っ張り出して、モニターの中に広がるフェアリーランドで、ガイザック討伐の冒険の旅に精を出した僕としては、当時を思い出しながら得意のSwitch寝転びプレイに没頭して、まさかこんなふうにオールドPCゲームを遊べる時代が来るなんて…と感慨に耽りながら、このプロジェクトを実現してくれた全ての関係者への感謝の気持ちを新たにしたわけです。
そして、皆さんもすでにお気づきのことかと思いますが、今回僕がここで特に取り上げたいのが、これまでの一連の作品ラインナップから判明した、「EGGコンソール」というプロジェクトの新たな事実についてです。上に並べたタイトル群から一つを例に挙げれば、「イース PC-8801mkIISR」と「イース MSX2」がリリースされたということ、これこそが胸躍らずにいられない “ある事実” を示してくれました。
…そうです。それはこの「EGGコンソール」というプロジェクトが、「イース」という作品単体を世に送り出すというだけに留まらず、そのタイトルの “他機種バージョン” もラインナップしていくものであるということを、メーカーサイドがはっきり約束してくれたということであり、ひいてはそれが、ゲーム史的にも人類史的にも非常に有意義な取り組みへと繋がっていることを雄弁に物語っているのです。
ピンときていない人もいるかも知れないので、まずは順を追って、1980年代当時のホビーパソコン市場のゲーム事情について、そして “マルチプラットフォーム展開” というものに対する当時の認識に関して、簡単に(当時高校生だった僕の視点での)説明をしていきましょう。
現在では「PC」というと、どのメーカー製のものであっても、Windows PCを買っておけば、スペックの差が少々影響することはあっても、まぁザックリどのソフトウェアも動くよね、という程度の緩い認識で、誰でも問題なく使えていると思います。
ですが、いま「EGGコンソール」でリリースされているゲームが発売されていた1980年代、まだ家庭用で使われるパーソナルコンピューターが、そのままの略称で“パソコン” と呼ばれていた時代( “PC” という呼び名は、もともとIBM社のパソコン「IBM PC」を指すものだったとされています)というのは、パソコンには現在のような統一規格は存在せず、メーカー各社がそれぞれ独自の規格で設計した、互いに全く互換性のないパソコンが市場に並び立っていました。
参考までに、当時のゲームキッズたちの話題の中心となっていた代表的なパソコンを挙げれば、まず圧倒的なトップシェアを誇っていたのが、NECの「PC-88シリーズ」、それに次いでSHARPの「X1シリーズ」、更にそれに続いて富士通の「FM77AVシリーズ」。この三機種が、ホビーユースの分野においては、スペックにおいても価格帯においても、横並びになって競い合っていたと思います(当時長野県松本市在住の高校生だった神谷英樹調べ)。
更にそこに付け加えるなら、上記三機種とは少し毛色の違う、スペック的にも価格的にもむしろコンシューマ機に近い位置づけの「MSXシリーズ」があったり、主にビジネスユースでシェアを広げていた「PC-9801シリーズ」があったり、比較的お金を自由にできる大人か、あるいは一部の恵まれたお金持ちの子供だけが手にすることができた「X68000」や「FM TOWNS」といったハイエンドマシンが後年になって登場したりしましたが、いずれにしても、いまここで挙げたパソコンは、どれも相互に互換性は一切なく、当然ゲームはどれもがそれぞれの機種専用のものでなければ動きませんでした。
それどころか、同じメーカーの同じシリーズのパソコンであっても、例えばNECの「PC-88シリーズ」は、初代機である「PC-8801」が1981年12月に発売され(228,000円)、二年後の1983年12月にはその後継機となる「PC-8801mkII」が発売(FDDを2基内蔵した「model30」が275,000円))、さらにそこからわずか一年後となる1985年1月には、シリーズ最上位機となる「PC-8801mkIISR」が発表(「model30」が258,000円)されるという、怒涛のハイペースで目まぐるしくバージョンアップをしておきながら、最終型のPC-8801mkISRを境に、旧機種と新機種との間の互換性が決定的になくなり(PC-8801mkIISR側には後方互換あり)、またこのPC-8801mkIISRがヒットを飛ばして以降は、どのメーカーもこのPC-8801mkIISR向けゲームを作るようになって、その結果旧機種ユーザーは完全に置いてきぼりにされることになり、人気ソフトのパッケージにいちいち表記される「対応機種:PC-8801mkIISR以降」の文字を怨嗟の念に満ちた目で睨みつけ、購入時期がたった一年違うだけで愛機がただの鉄の箱になり下がってしまったその身の上を呪って、血の涙を流しながらパソコンショップ高知開発の「ギャラック」や「パックンボーイ」をひたすら攻略し続けた、という話は都市伝説の域を出ませんが、ともかくそのような悲劇を生み出す始末でした。
またSHARPの「X1シリーズ」に至っては、1984年7月の「X1Cs」、「X1Ck」発売からわずか3ヵ月後となる1984年10月に、飛躍的にスペックアップしたシリーズ上位機「X1turbo」が発売されるという容赦のないスピード進化を見せ、その後この「X1turboシリーズ」がフラグシップモデルとして、「X1turboII」、「X1turboIII」、「X1turboZ」…とバージョンアップを重ねていき、それにより「X1turboシリーズ」専用ソフトが徐々に増加していって、「X1(非turbo)シリーズ」専用のソフトが減少していく中、なぜか下位機種の「X1(非turbo)シリーズ」も平行してバージョンアップを行いながら販売が続けられるという、例えるならプレイステーション5の世代になっても尚、プレイステーション4がPro、Pro2、Pro3と更新されていくかのような、奇怪極まりない戦略がとられて、挙句の果てには、当時コンシューマー市場で覇権を争う勢力の一つだった家庭用ゲーム機「PCエンジン」となぜかフュージョンさせられた、 “上位のX1turbo専用ソフトは動かないけどPCエンジンのゲームが遊べますよ” という珍品「X1 twin」までもが、「これがX1誕生5年目の解答です」という、更に問題を複雑にするキャッチコピーを引っ提げて爆誕し、当時の中高生の誰もが授業で習った覚えのある「此は如何に?」の一言を脳裏に浮かべざるを得なかったという話は、当時PC-88ユーザーを代表するコンソール(パソコン?)ウォーリアーとしてX1ユーザーの高木と熾烈な戦いを繰り広げていた僕にはどうでもいいことなので、ここでは控えておきます。
話を戻しますと、僕が青春の全てをゲームに費やした高校生当時は、前述の通りざっくり分けて「PC-88シリーズ(NEC)」、「X1turboシリーズ(SHARP)」、「FM77AVシリーズ(富士通)」の3機種が、ホビーパソコン界の主要プラットフォームとして互いにしのぎを削っていて、ソフトメーカー各社はこれらのいずれか、あるいは全機種をターゲットにゲームを開発・販売して、パソコンゲームキッズたちも、話題のゲームが自分のパソコンで遊べるのかどうかを雑誌で熱心に情報収集しながら、一喜一憂していました。
…と、ここまでの話は、現代のコンシューマー市場に照らしても当てはまる部分が多いので、皆さんも想像しやすいかと思いますが、80年代のホビーパソコン市場でのマルチ展開における “ゲームの形” は、今とは大きく違うものでした。
現世代のゲームシーンにおいても、ひとつのタイトルがマルチプラットフォーム展開されることは珍しい話ではないのは皆さんもよく知る通りです。もちろん機種をまたいだ開発には様々な課題があって、簡単にできることではありませんが、スペックが近似したハイエンド機のプレイステーションシリーズとXBOXシリーズの間で、グラフィックもサウンドもプレイフィールもほぼ見分けがつかない品質を実現しているタイトルは多くありますし、また更にそこからスペック的に少し落ちるSwitchにターゲットが広げられたものでも、ハードの特性に合わせて取捨選択を工夫することで、寸分たがわず…とはいかなくても、遊びの体験としてはほぼ同等と言っていい品質のものを実現した例があります。
こうした展開によって、世界各地に生息する、なけなしのお小遣いをはたいて高価なゲーム機をようやく手に入れたことから生じる暗い執着によって、ハードメーカーの社員でもなければ株主でもない無関係者であるにも関わらず、メーカー代表者のような顔で目を血走らせて、やれ俺の大好きなハードのバージョンではフレームレートがどうだ、お前の薄汚いハードのバージョンは解像度がどうだと、わざわざ機械の力を使って微細な違いを検出しては、狭い世界で不毛な争いを繰り広げている、所謂 “コンソールウォーリアー” と呼ばれる極一部の頑張り屋さんたちを除いて、大半の平和なゲームユーザーたちは、所有ハードの如何に捕らわれることなく、互いにゲーム体験や攻略の話題に花を咲かせたりしているわけです。
そうした開発実態は、その根底に「どのハードを持つユーザーに対しても、同じゲーム体験を提供する」という精神が、今のゲーム開発におけるトレンドとして自然に定まっていることによるものである…と、僕は推察しているのですが、まさにその点こそが、80年代のホビーパソコン市場においては大きく異なった部分なのです。
難しく説明するよりも、80年代のコンシューマーの例を挙げた方が伝わりやすいでしょう。例えば、かの有名な歴史的家庭用ゲーム機ファミリーコンピュータにおける、アーケードゲームタイトルの移植の例を思い浮かべてみてください。
ベルトコンベアー階消滅事件の「ドンキーコング」、短小レーザー&オプション半分失踪事件の「グラディウス」、ボス地面へばり付き事件の「ゼビウス」、これはチラつきじゃないのよ事件の「エグゼドエグゼス」、わんぱく事件の「スプラッターハウス」、マークIII版移植しちゃったテヘッ事件の「スペースハリアー」、このおじさん誰?事件の「高橋名人の冒険島」、なんで2種類あるの?事件の「ファンタジーゾーン」、これは月風魔伝の方を買えってことなの?事件の「源平討魔伝」と、愉快な思い出は枚挙にいとまがないと思いますが、コレどう考えてもハードの基本設計とスペックがあまりにも違いすぎるが故に、出足を挫かれるどころかバギ折られて、「壁高すぎるからアッチの方に行こうや」と勝負から逃げたよね?と疑わざるを得ない一部のタイトルにはここでは目を瞑るとして、基本的には、「同じゲーム体験をしたい」と願うユーザーの気持ちを汲んで、ハードスペックのギャップのために少々形が変わることは余儀なくされつつも、何とかそのタイトルを楽しく遊んでもらえるようにと苦心を重ねて産み出された、数々の名作が思い出されることと思います。
このようにアーケードからファミコンへの移植展開においては、あまりに開いたハードスペックのギャップのために、どのゲームも、コードもアセットもイチから作り起こされて、オリジナルに似てるけどちょっと違う、「手作りコピー品」へと生まれ変わるのが常でした。
スペックが劣る機種に移植することで品質も下がるのか、というと必ずしもそのようなことはなく、開発者の創意工夫によってオリジナルにはない新要素が追加されたり、再現不可能なものは全く新しい遊びに作り変えられたり、ゲームジャンル自体が突然大幅変更になって「コンピュータボードゲーム」と銘打たれて紙のマップやカード、メタルのミニフィギュアとセットで販売されたり…するのは如何なものかと思うところも若干ありますがその話を蒸し返すのはさておき、「無茶して移植するよりも、この機種ならではの味付けをして “楽しく遊べる” という部分は守ろう」という、あくまで前向きなクリエイティブ精神に則って開発に向き合ったその姿勢そのものは、僕のような移植忠実度至上主義者としては少々残念に思うところも当時はあったものの、無職改めスタジオヘッド/チーフゲームデザイナーという一丁前な肩書を持つ身となった今となっては、大変学びになるところもあるなぁと、感慨深く思うわけです。
気付いたらまた脱線していきそうなので話を戻しますと、そのようなオリジナルとはちょっと違う味付けの “似てるけどちょっと違う手作りコピー品” の移植作品が、コンシューマー市場で世界中のゲームキッズたちに笑いあり涙ありの様々なドラマを提供していた80年代、ホビーパソコン市場でも同様に、「同一タイトルでありながら全く設計思想の異なる機種毎にチューニングが施された、バージョン違いのゲーム」が、それぞれの機種に向けてマルチ展開されていました。
しかも前述したように、当時のホビーパソコン市場では、代表的な大手三社のフラグシップモデルのみならず、同じメーカー製であっても、非常に短い期間でバージョンアップした新機種が矢継ぎ早にリリースされて、互換性のないシリーズ機種が同時に市場に並び立つ形になっていましたから、ゲームの方も現代のマルチプラットフォーム展開は非にならないほど、数多くのバージョンが店頭に並ぶことがあったのです。
1983年にアーケードに登場して好評を博した、縦スクロールシューティングの金字塔「ゼビウス」が、そのような数多くのバリエーションを持つ顕著な例です。アーケードで空前のブームを生み出し、またその人気が長期にわたって継続されたため、コンシューマーやホビーパソコン向けに再三に渡って移植されて、幾つものバージョンが店の棚に並ぶことになったのですが、パソコン向けのものだけをザッと数えただけでも、PC-6001版(電波新聞社)、PC-6001mkII版(電波新聞社)、X1版(電波新聞社)、FM-7/FM-77版(電波新聞社)、PC-8001mkIISR版(電波新聞社)、PC-8801版(エニックス)、PC-9801版(エニックス)、MZ-2500版(電波新聞社)、X68000版(電波新聞社)と、ほとんど全ての国産機を網羅すると言っていい範囲に展開されました。
もちろんここに挙げていない海外パソコンや、コンシューマー機のバージョンも存在するので、それらも並べたらものすごい数になるでしょう。
そして面白いのが、どのバージョンも、先ほどから繰り返しご説明している “ハードに合わせた味付け” がされて移植されているために、名前はもちろん「ゼビウス」でありながらも、それぞれがオリジナルのアーケード版とは似て非なる個性的な「ゼビウス」に仕上がっているというところです。
この “味付けによる違い” というのは、サイゼリヤの間違い探しや、あるいは現代においてハイエンド機のプレイステーションシリーズとXBOXシリーズのゲームをフレーム単位で比較して「ここがちょっと違う!」と指摘することに血道を上げる狂気の沙汰とはワケが違います。なにせ、キャラクターも、背景も、プログラムも、サウンドも、全てが対応機種のスペックに合せてイチから作り直されてますから、例えるなら2012年8月にスペインアラゴン州の教会で起こった歴史的大惨事、エリアス・ガルシア・マルティネスによるフレスコ画「この人を見よ」の修復事件において、BBCのヨーロッパ特派員をして「似合っていない外衣を着た毛むくじゃらの猿のスケッチ」と言わしめ、「このサルを見よ」とさえ揶揄されるほどの変貌を遂げた、あのイエス・キリストの肖像画の修復前と修復後…というのは、もしかしたらここでは不適切な例だったかも知れないので、一旦忘れてください。
その上、この「ゼビウス」の移植バリエーション群は、上に挙げた国産機種の分だけでも9種類が存在するわけですから、フレスコ画のケースに当てはめて説明するなら、9人の修復おばちゃんがそれぞれ腕を振るって描き上げた9つの力作が揃い踏みするのと同義であり、それはすなわち、歴史的修復失敗事件をきっかけに、スペイン北東部のわずか人口5000人の街ボルハのサントゥアリオ・デ・ミゼリコルディアの教会に、連日数千人とも言われる観光客が「このサルを見よ」を目当てに押し寄せるようになったことで稼ぎ上げた、4万ユーロ(約650万円)の観光収入の、更にその9倍ということになるわけですが、書いていて自分でも意味が分からなくなってきたので、この話は忘れてください。
さて、80年代パソコン市場における、ゲームの機種間のバージョン違いの在り方というものが分かって頂けたところで、ようやくお話しできるのが、今後の「EGGコンソール」において多くのユーザーが固唾をのんでその動向を見守っている、「スペースハリアー」の展開についてです。
「スペースハリアー」については過去にも散々語っていますが、誰も読んでいないのは明白なので改めて簡単にご紹介しますと、1985年12月にセガの体感ゲーム第二弾タイトルとしてアーケードで稼動を開始した、疑似3Dシューティングゲームです。
メインCPUにMC68000を2個、サブCPUにZ80を搭載したモンスター基板で、同時期のどのゲームも比較にならない異次元のグラフィックとスピード感を実現して、当時のゲームキッズたちの度肝を抜くと同時に、「どう考えてもこの怪物を家庭で遊ぶのは夢物語」と、失意の底へと叩き落としさえもした罪深いゲームなのですが、家庭用ゲーム機「セガ・マークIII」を皮切りに、セガだけでなく他の多くのソフトメーカーによっても、コンシューマー機、国産パソコン、海外パソコン問わず広く移植され、「ただでさえ高品質なアーケードゲームの中でも飛び抜けて優れた表現を実現しているこのタイトルを、どうやって非力な家庭用の箱の中に落とし込むか」という命題に、各メーカーが腕を振るって挑戦し、中でも先に挙げた国産主要三大パソコン(神谷英樹が独断でそう認定)である「PC-88シリーズ」、「X1シリーズ」、そして「FM77AVシリーズ」の三機種に向けて開発されたバージョンは、互いに熾烈なシェア争いを繰り広げていたライバル機種間でのリリースで、しかもそれが非常に近い時期に重なったということもあって、少なくとも松本市の某高校2年7組の神谷英樹を擁する一部のグループ内においては、コンソールウォーリアーの巣をつついたような、非常に大きな騒ぎとなりました。
当時、「PC-88シリーズ」の最新機「PC-8801MA」のユーザーだった僕は、数ある移植バリエーションの中からPC-88版の「スペースハリアー」を手に取ったわけですが、これが大変すばらしい仕上がりだったことは過去に語った通りなので、詳しいことはそちらを参照して頂くとして、ともかく僕はこのPC-88版「スペースハリアー」に無上の愛を捧げ、オリジナルのアーケード版同様にノーミスクリアを果たすまでひたすらやり込み、それを達成した後も「一日一スペースハリアー」を標榜して、毎日のようにプレイに熱中したわけです。
ただそんな日々を送り、X1ユーザーの高木、MSX2ユーザーの長沢と相変わらず熾烈なコンソールウォーを繰り広げながらも、僕の頭からは他のバージョンの「スペースハリアー」が離れることがありませんでした。
もちろんこのPC-88版「スペースハリアー」は、フルカラーだった敵キャラクター達を単色にしたり、木や岩などの障害物をただの長方形で表すなど、大胆な処理負荷削減を行うことで、オリジナルのアーケード版が持つスピード感と迫力の表現を最大化した、「スペースハリアー」の名に恥じない見事な移植作だったわけですが、そのPC-88版よりも少しカラーの再現度にリソースを割いてビジュアルの向上を試みているX1版や、他の2機種より強いグラフィック能力を活かしてビジュアルの再現度にウェートを傾けたFM77AV版と、それぞれ味付けの方法は違うものの、いずれも「スペースハリアー」が持つ溢れるほどの魅力をどうにかユーザーに伝えようと創意工夫が凝らされた力作であることは、雑誌記事やパッケージ裏に掲載されたスクリーンショットからも明白で、しかしながら今のように動画サイトで気軽に動いているところを見たり、体験版などで実際に遊んでみたりなどということは出来ない時代でしたから、静止画を穴が開くほど見つめて想像を巡らせて、出来ることならこの手で実際に遊んでみたい、サウンドはどんなだろうか、動くスケイラの迫力はどんなだろうかと、思い焦がれていたのです。
もちろん言うまでもないことですが、それら三機種のバージョンだけに限らず、例えば国内ホビーパソコン向けには初の移植となった、グラフィックを全て “四角形” で表現するという大胆極まりない手法でとにかくスピード感だけを貪欲に追求し、当然のことながら雑誌記事の静止画ではその魅力を伝えきれずに何かと物議をかもしたPC-6001版や、当時のアーケード基板で広く使われていた、日本ではホビーパソコン史上唯一の採用例となる、モトローラ社のMC68000をCPUに用いるその恩恵から、当然オリジナルのアーケード版と遜色ない再限度を期待されたX68000版…は高校の学園祭で情報処理(という名のゲームを遊ぶだけの)部で展示されたものを実際遊んでみて「あれっ…?」の波が押し寄せた悲劇については以前にも軽く触れたことがあるのでそのくらいにしておきまして、ともかくキングオブアーケードとして君臨した絶対王者の怪物タイトル「スペースハリアー」の魅力を何とか家庭に届けようと苦心に苦心を重ねた人類の英知の結晶たちがゲームショップの棚を賑わせていていました。
それらのパッケージを手に取りながら、どれほど「遊んでみたい」と願ったことか、その気持ちを言葉で表現するには紙幅がもう少ないのでここでは省きますが、「スペースハリアー」への愛情がいくら強いとは言え、当時のゲームキッズたちの垂涎の的だった本体369,000円+専用モニター129,800円の価格を誇る最強ホビーパソコンX68000は論外なので置いておいても、校則で禁止されていたアルバイトにいそしんでどうにか購入した僕の愛機PC-8801MAでさえ定価が198,000円(プラス神谷が購入したディスプレイPC-KD854が定価89,800円)、X1(移植版スペースハリアーが発売された時点でのシリーズ最新機X1turboZII)が定価179,800円、FM77AV(移植版スペースハリアーが発売された時点でのシリーズ最新機FM77AV40EX)が定価168,000円と、昨今の某ハイエンド機のPro仕様機の価格が高いだのなんだで大騒ぎしているのが、園庭から漏れ聞こえてくる幼稚園児たちの微笑ましい運動会の声に思えるほど、とてもではないですが高校生の財力では越え難い壁が立ちふさがっていて、断腸の思いで諦めざるを得ませんでした。
斯くして、結局その思いが成就することはなく、他の移植バリエーションについては残念ながら指を咥えて見ているしかなかったわけですが、ともあれPC-88版スペースハリアーは、それを取り巻く賑やかな高校生活の日々とともに僕の記憶に刻まれ、今も僕にとって忘れられない思い出の名作であり続けています。
もちろん、オリジナルのアーケード版「スペースハリアー」こそが僕にとって初めての「スペースハリアー」であり、出会った時の衝撃は言葉に尽くせないほど大きいものだったのですが、だからと言ってそれが唯一無二で至高の「スペースハリアー」なのかと言いうと決してそうではなく、性能が限定されたパソコン向けに様々な取捨選択が行われて姿かたちが変わった “移植版「スペースハリアー」” もまた、僕にとって掛け替えのない存在であり、同様にセガ・マークIII版やPCエンジン版、ファミコン版やゲームギア版でさえも、全てが忘れられない “本物の「スペースハリアー」” だった…ということは、きっと皆さんにも共感していただけることと思います。
いえ、確かに僕にとって青春を彩ってくれた「スペースハリアー」はPC-88版でしたが、皆さんの中にはX1版が思い出の「スペースハリアー」だという人や、FM77AV版を最も愛したという人もいるでしょう。もしかしたら3機種全て制覇していたお金持ちのプリンスだっているかも知れません。ひとくちに「スペースハリアー」と言っても、移植のバージョンごとにその在りようは全く違い、それにまつわる思い出の形というのもまた人それぞれ全く違って、一つとして同じものはないのです。
すなわち、この話の冒頭で挙げた、EGGコンソールにおける「イース PC-8801mkIISR」と「イース MSX2」のリリースが意味するところは、「イース」というゲームの体験を届けるというだけではなく、その体験とともにユーザーがそれぞれに大切にしている “思い出” も届けようという想いがそこにあるということにほかならないと、僕は思うのです。
現時点では「スペースハリアー」の発表はまだありませんが、歴史の遥か奥の方に眠ったままのオールドホビーパソコンのゲームたちは、「サンダーフォース」、「ヴォルガード」、「野球狂」、「サラダの国のトマト姫」、「ジェルダ」、「ジェルダII」、「ヒロトンウォーズ」、「ザ・ブラックオニキス」、「ウィザードリィ」、「ナッツ&ミルク」、「夢幻の心臓」、「デーモンクリスタル」、「ザ・コックピット」、「ドラゴンスレイヤー」、「Emmy2」、「ファンタジアン」、「プラズマライン」、「EGGY」、「ドアドアmk2」、「TOKYOナンパストリート」、「ザ・キャッスル」、「アメリカントラック」、「ホットドッグ」、、「クリムゾン」、「サイキックソルジャー」、「サイキックウォー」、「ルナーボール」、「超次元戦士エプシロン3」、「ボンジャック」、「チャンピオンプロレス スペシャル」、「ぺんぎんくんWARS」、「走れスカイライン」、「ロードランナー」、「SeeNa」、「フォーメーションZ」、「スーパーランボー」、「クルーズチェイサー ブラスティー」、「忍者くん 魔城の冒険」、「覇邪の封印」、「ロボレス2001」、「アルファ」、「グラディウス」、「グーニーズ」、「アルカノイド」、「影の伝説」、「フロントライン」、「スーパーマリオブラザーズスペシャル」、「エキサイトバイク」、「バルーンファイト」、「アイスクライマー」、「ゴルフ」、「マンハッタン・レクイエム」、「スパイ VS スパイ」、「ウィバーン」、「カサブランカに愛を」、「ロマンシア」、「まじゃべんちゃー・ねぎ麻雀」、「うっでいぽこ」、「ロットロット」、「ディーヴァ」、「スーパーピットフォール」、「夢幻戦士ヴァリス」、「ハングオン」、「パチコン」、「1942」、「魔界村」、「戦場の狼」、「ヴァクソル」、「ジーザス」、「上海」、「ガンダーラ」、「ロウ・オブ・ザ・ウエスト」、「ガイアの紋章」、「雀ボール」、「キングスナイト スペシャル」、「くりぃむレモン スタートラップ」、「デジタル・デビル物語 女神転生」、「リバイバー」、「コムサイト」、「ルクソール」、「ヨコスカウォーズ」、「テスタメント」、「アイドロン」、「スーパー大戦略」、「リトル・コンピュータ・ピープル」、「ゼリアード」、「F-15 ストライクイーグル」、「DOME」、「アルギースの翼」、「スカイフォックス」、「レプリカート」、「スタークルーザーII」、「ARCUS」、「ラストハルマゲドン」、「アンジェラス」、「エグザイル」、「アクロジェット」、「マスターオブモンスターズ」、「サイオブレード」、「テトリス」、「コラムス」、「スナッチャー」、「ヴェイグス」、「サバッシュ」、「ウルティマ1」、「ディガンの魔石」、「デリンジャー」、「死霊戦線2」、「ファイヤーホーク」、「BURAI」、「シュヴァルツシルト」、「プラジェーター」、「エメラルドドラゴン」、「ルーンワース 黒衣の貴公子」、「ミスティ・ブルー」、「ガンシップ」、「ティル・ナ・ノーグ 禁断の塔」、「ダイナソア」、「クラックス」、「ファイナル・クライシス」、「神羅万象」、「デス・ブリンガー」、「R-TYPE」、「天使たちの午後」、「聖女伝説」、「聖女ぱにっく」、「エリカ」、「177」、「クリスチーヌ」、「口説き方教えます」、「その後の慶子ちゃん」、「フェアリーズレジデンス」、「美しき獲物たち」、「悪女伝説II セーラー服ラプソディ」、「今夜も朝までPOWERFULまぁじゃん」、「麻雀狂時代SPECIAL」、「カインドゥギャルズ 〜口説き方教えます2〜」、「セーラー服美少女図鑑」、「美少女写真館」、「スターシップランデブー」、「カオスエンジェルズ」、「Genji」、「不思議の壁」、「スカポン探険隊」、「リップスティックアドベンチャー」、「ポッキー」、「きゃんきゃんバニー」と、リリースの順番待ちで長蛇の列を作っていることと思いますので、次にどんなものが来るのかを楽しみにしつつ、いつの日か「スペースハリアー」にその順番が回ってきて、PC-88版、X1版、FM77AV版、PC-6001版、X68000版、そして海外パソコン版…と、全てのバリエーションが僕たちの手元に届けられることを願ってやみません。
くどいようですが、もしもそれが実現した暁には、全てのバージョンの「スペースハリアー」を並べて遊び比べてみるという夢のような贅沢が出来ますし、「スペースハリアー」という作品に対して、それぞれの移植者がどのようなアプローチを試みたのか、どのような創意工夫で立ち向かったのかを知る、またとない教材にもなることでしょう。そして、これまで遊ぶ機会に恵まれなかった人にとっても、歴史的作品に触れる絶好の機会になることは言うまでもありません。
また “思い出も届ける” ということにも注力していくということは、サウンド機能がステレオFM音源6音+リズム6音+SSG3音+ADPCM音源1音へと強化された(いわゆるサウンドボードII相当)「PC-8801MA」ユーザーだった僕としては、今年9月にリリースされた「スタークルーザー PC-8801mkIISR」を起動して、なぜかリズム音源が鳴っていないという不具合に一時はキョトンとしたものの、後日修正パッチが無事配信されて、アップデートすると間違いなく高校生当時に我が愛機が奏でたのと全く同じサウンドが流れたのに感涙し、さてサウンドボードIIを切り離してノーマル音源版も楽しむか、と設定を開いてその項目を探すも、どこにも切り替え機能が見当たらない…と困惑したまま今日を迎えていますので、年末は開発スタッフの皆さん何かとお忙しいでしょうから無理は申しませんが、来年早々には音源切り替え設定の対応アップデートが行われるはずだと信じて、安心して年末年始を過ごしたいと思います。
また今のところ、「EGGコンソール」では「PC-88シリーズ」と「MSXシリーズ」のタイトルしかラインナップされていませんが、これからは間違いなく「X1シリーズ」、「FMシリーズ」、「MZシリーズ」、「PC-6001シリーズ」、「PC-98シリーズ」、更には「X68000シリーズ」、「FM TOWNSシリーズ」のタイトルへと展開を広げていくことでしょうから、ワイヤーフレーム表現の名作「スターウォーズ(X68000版/PC-98版)」はもちろん、某ファミ通誌のレビューで「魔界村に置き換えたのがしっくりきていない、意味がない」との高評価を受けた、某元無職クリエイターが業界に就職して初めて関わったプロジェクト「謎魔界村」の、オリジナル作品に当たる「インクレディブルトゥーンズ」の、更に前作に当たる「インクレディブル・マシーン(FM TOWNS版)」の移植にも期待がかかりますし、来年の今頃はX68000版とFM TOWNS版の「アフターバーナーII」を遊び比べて、当時の思い出話に花を咲かせることになるのだろうなぁと期待を膨らませながら、この辺でそろそろ前置きを終わりにしたいと思います。
さて、毎度ここで独りよがりなオールドゲーム談義を垂れ流している僕ですが、今回ばかりはゲーム業界に従事して30年周年を迎えようという目前で所属企業を退社し無職の身となって記録が途絶えた者として、未来に向けてビデオゲームを牽引している先進的な作品たちにも目を向けなければならないという使命のもと、このタイトルについて所見を述べなくてはならないでしょう。
今回取り上げたい「ヒューマンフォールフラット」は、さる2016年にWindows版が発売され、その後コンシューマ機にも移植されて、今や広く愛されている作品です。ご存じの方も多いとは思いますが、ゲーム内容をザックリ説明すると、「人間キャラクターを操作して、様々な地形で跳んだり登ったりとアスレチックをしながらゴールを目指すゲーム」ということになります。そう言ってしまうと単純ですが、この作品がユニークな点は、主人公キャラクターのジャンプしたり物を掴んだりというアクションはもちろん、ステージに存在する物体や機械、からくり装置などの挙動が、全て物理制御されているというところにあります。
操作する人間キャラクターは、ふよふよユラユラと頼りない動きで立ち、方向レバーを入力するとヨチヨチとおぼつかない足つきで歩きますが、「右手ボタン」と「左手ボタン」でそれぞれの手で物や壁を掴むことが出来、そのまま押したり引っ張ったりぶら下がったり、更にジャンプを駆使して段差をよじ登ったりと、プレイヤー自身が動作を組み合わせることで、様々なアクションをこなしてくれます。その動きはちょっと滑稽で、なんだか健気でさえあり、見ていて愛おしくなります。
僕が遊んだのは2017年の暮れに発売となったNintendo Switch版で、いつ頃購入したのかはもはや記憶が定かではないのですが、確かこのソフトがセールでお買い得になった時に、当時小学校低学年だった姪っ子たちに買ってあげた(正確には姪のアカウントでログインして購入して姪のSwitchに勝手にインストールした)のが、出会いのきっかけだったと思います。
僕は普段から、「これなら幼い子供でも楽しめそうだな」というソフトを勝手に購入して姪っ子たちのSwitchに勝手にインストールする…ということを(もちろん保護者の許可を得た上で)よくやっているんですが、「ヒューマンフォールフラット」も、そんな軽い気持ちで買ってあげたものでした。
ところが、僕の想像以上に姪っ子(ここでは「メイ」としておきましょうか。歳恰好も性格も某「メイ」に似てるので)がこのソフトに熱中してハマったようで、暫くして僕にも本ソフトを買うように強く求めてきました。僕はその時点ではこのソフトのことをよく知らなかったのですが、どうやらオンラインでマルチプレイが出来るということで、メイが「一緒にステージ攻略をしたい」と言ってきたのです。
やれやれ、仕方ないな、と僕も本ソフトを購入することになったわけですが、それが単に「一緒に遊んで楽しかった」に留まらない、思いもよらない効果と恩恵を僕にもたらしてくれることになりました。
まず、僕もこのゲームをインストールして、試しにゲームを始めてみることにしました。物理制御で動作する主人公キャラクターの操作は独特で、単に歩いたり物につかまったりすることは出来ても、それらをうまく組み合わせて障害物を乗り越えたり、ギミックを作動させたりする(スイッチを押したり、レバーを上げたり下げたりする)にはコツが必要です。
初歩的な操作を学習する最初の方のステージでも、一つの障害を乗り越えるのがやっとという有様で、これを幼いメイと遊んでクリアをアシストしてやるには骨が折れるぞ、と先が思いやられる始まりでした。…が、その心配はまったくの杞憂に過ぎなかったということを、僕はすぐに思い知ることになります。
何日かしてメイに会うと、彼女は待ち構えていたようにさっそくマルチプレイをせっついてきて、二人のローカルでの初マルチプレイがスタートしました。僕はてっきり初歩的なステージから始めるのかと思っていたのですが、メイがセレクトしたのは僕がまだ見たこともない…というかとてもじゃないですが、僕では越えられそうもない障害がのっけから立ちはだかっている、上級者向けのステージでした。
え、こんなのクリアできるの…? と、僕は戸惑いながらも、取りあえずメイと一緒にステージを進みます。僕の操作するキャラクターは、頼りなくヨチヨチ歩き、モタモタと壁をよじ登っていきますが、一方メイのキャラクターは、そうした地形を事も無げにヒョイヒョイと超えていきます。子供にしてはずいぶんと器用だな、こんなに短時間で操作方法に馴染めるものなのか? …と感心しながら僕は必至でその後に続き…二人はやがて複雑なアスレチック装置の前に辿り着きました。どうやらそれを動かしたり、その辺にある木箱を使ったりと工夫して先へ進んでね、というギミックのようです。さて、どこから手を付けたものか? と僕は考え込みました。
その時です。装置の根元でボンヤリしている僕のキャラクターを尻目に、メイのキャラクターは、はまさに “ましらの如き” 俊敏な動きで、あっという間に柱をよじ登り、その上の木の棒に飛びついて、オリンピック競技の鉄棒の選手のように体を振ってその上に立つと、すぐさまその細い足場からジャンプしてその先へと飛び去って行くではないですか。それはまるでSASUKE…は僕は一度も観たことはないんですが、多分そのファイナルステージで目にするような、まさに鍛え上げられた熟練のアスリートそのものでした。更に付け加えるなら、それは、レベルデザイナーが想定した正規のルートではなく、メイが高度なテクニックと精密な操作にものを言わせて編み出した、独自の解法だったのです。
「なに今の…?」
僕は茫然と立ち尽くしてしまいました。
僕自身、これまでにそれなりの数のゲームを遊んできた人間で、人に自慢できるくらいやり込んだゲームもあります。「ヒューマンフォールフラット」だって、まだ遊び始めたばかりで慣れてないだけで、プレイを重ねればやがてコツを掴んで、それなりにテキパキと動けるようになるでしょう。…でも、メイが見せた鮮やかすぎる身のこなしは、そんな僕でも到底真似出来るイメージが湧かない、手が届かない領域のものでした(実際、あれから大分経った現在でも、あのメイの領域には到達出来ていません…というか永遠に到達できる気がしない)。
「早くおいでよー」と涼しい顔でガンガン進んでいくメイに、僕はただ慄然とするばかりで、その後もマルチプレイを続けたものの、もう文字通り手取り足取り、何から何までメイにアシストしてもらって、壁を登れず立往生すれば頭を掴んで引っ張り上げてもらったり、「そこで待ってて」と言われてメイがギミックを解くのをただ傍観していたり、「メイがチェックポイントを超えたらわざとミスしてリスポーンで追いつく」というズル技を使ったり…と、切なく…いや楽しく遊んで、一日を終えました。
そんなわけで、僕の「ヒューマンフォールフラット」初体験はもう惨憺たる有様だったわけですが、それでも僕がこの「ヒューマンフォールフラット」という作品に深い感謝の念を抱くに至った、大きな理由があるのです。
メイは天真爛漫を絵に描いたような性格で、普段から僕みたいな珍獣を慕ってくれていました。いつも僕と会うのを心待ちにしてくれ、会えば「七並べやろう」「人生ゲームやろう」「ドンジャラやろう」と、面倒な…いや愉快な遊びをせがんできて、延々とそれを一緒に遊ばされ…いや遊びました(ちなみにドンジャラは、メイの遊び相手をするという名目でテイよく麻雀気分を楽しめるように僕が買い与えたものです)。
そんなメイが可愛くて、僕も時間が許す限りは会って遊んでやりたい…と努めてはいたのですが、お互い離れて暮らしていましたし、無職とは言えYouTuberとして多忙な日々を送っていた僕は、中々そうした時間を作ってあげることができず、それでもようやく会うことができた時には満面の笑顔で僕を迎えてくれ、別れる時には悲しそうにすがってくるメイに、僕は申し訳なさと切ないさで、いつも心にやるせない気持ちを抱いていました。
そんな僕たちの前に現れたのが、この「ヒューマンフォールフラット」でした。メイは、僕と二人でマルチプレイをしてからというもの、その楽しさに味を占め、また距離が離れていてもインターネットを介して遊べるということもあって、僕を頻繁にマルチプレイに誘ってくるようになりました。それも小学生ならではの、無垢なるが故の遠慮のなさというか…とにかく欲求に正直に、「あそぼー」「ヒューマンフォールフラットやろー」と、時間を選ばず頻繁に僕のスマホにメッセージを飛ばしてきました。
特にメイが夏休みに入ってからは、そのお誘い攻勢が熾烈を極め、「ねーヒューマンやろー」「いまちょっとご飯食べてるから…」「いつ食べ終わる?」「もうすぐ食べ終わるけど、いま外だから帰らないと…」「何時に帰る?」という調子で、遊ぶまで絶対引き下がらないぞ、という圧力溢れるメッセージの連投が、容赦なく僕に襲い掛かりました。
おさがりのスマホを彼女に与え、Wi-Fi環境で連絡できるようにとスカイプをインストールしてやったのがこんな形で仇になる…いや功を奏するとは、と落涙…いや感涙しつつ、ともあれ幸い無職の身で無限に時間があった僕は、その都度彼女の要求に応えて、二人でインターネット越しに「ヒューマンフォールフラット」のマルチプレイに興じていったのです。
すると、僕の中での「ヒューマンフォールフラット」というゲームの捉え方に、少しずつ変化が表れ始めました。
最初は少しとっつきにくいゲームだと思っていたはずが、プレイを重ねていくうちに次第に物理制御のクセが掴めてきて、ひとまずどうにか思うように動けるようになってきました。やがて、木箱や棒など、ゲームの中にあるオブジェクトの扱いにも慣れてきて、それらを使って正規の攻略が出来るようになりました。そうして色んなテクニックが身についてくると、今度はそれらを本来の使い方だけでなく、ほかの使い方が出来ないか試してみる余裕が生まれました。「こうやったらどうなるだろう」という遊び心が膨らんで、本来想定されていない解法やルートを開拓出来るようにもなりました。
「ヒューマンフォールフラット」には、お城や工場、雪山といった、バラエティに富んだ12のステージがあり(その後のアップデートで、現在は更に増えています)、それぞれ違った体験が楽しめます。ステージの中には数々のギミックが用意されていて、先へ進むたび「今度はどうやって解くんだろう?」「どうやって進むんだろう?」と、創意工夫する楽しみを提供してくれます。
そうしたステージを、ゴールを目指して進んでいくだけでも楽しいのですが(それが本来の目的です)、 正規ルートから外れ、工夫を凝らして本来は行けない場所へ行ったり、登れない場所を登っていったりすることも楽しく、そして何よりもこの作品には、そうした遊び心を許容してくれる柔軟さと奥深さがありました。
主人公キャラクター自体には大それた能力はなく、人並みの速度で歩き、人並みのジャンプをし、自分より少し高いところへよじ登るくらいしかできません。でも、右手と左手の「掴む」をうまく使えば、雲梯みたいなことが出来たり、壁面に掴まって壁伝いに延々と横へ進んで行けたりと、変なことをして、変な所へ行けちゃったりもします。
更にそこに加わるのが、本作の最大の特徴でもある「物理制御」のシステムです。キャラクターの動きも、オブジェクトの動きも、全て物理制御によってコントロールされているため、歩くにも、掴まるにも、何かを持つにも、全て物理制御が適用されて、何が起こるかわからない楽しさがあります。例えば木箱を放り投げても、どう転がるかは物理制御のなすがまま。思いがけない挙動さえ、説得力があって現実味を高めてくれるのです。
それらが生み出す本作独特の味わいがたまらなく童心を刺激してくれ、男の子なら誰もが経験したような “探検遊び” へといざなわれるように、僕はこのゲームの深みに引き込まれていきました。
そうして、毎日のようにメイとのマルチプレイに没頭するうちに、僕はあることに気づきました。
今回はこのステージ、次はあのステージ。時にメイと一緒に進んだり、時にメイを放って勝手な行動をしたり。協力し合ったり、邪魔し合ったり。メイと二人で自由気ままに「ヒューマンフォールフラット」の世界を歩き回っている時間が、まるで現実の体験のように思えてきたのです。
実際には遥か離れていても、ゲームの中の僕とメイには、そんな距離は全く関係ありませんでした。エモートやチャットの機能はなくても、右手や左手、ジャンプなどの動作を駆使して、掴み合ったり、押し合ったり、指をさして合図したりと、互いに色んな感情を交換し合うことが出来ました。僕とメイは、ゲームの中の世界でまるで会話を交わしているかのように意思疎通し、二人で現実の公園で遊んでいるかのように、楽しい時を過ごしていました。
そう、「ヒューマンフォールフラット」は、もはやゲームであるということを超えて、遠く離れた僕とメイを引き合わせてくれる、電子空間の “遊び場” になっていたのです
余談になりますが、この“遊び場” のような感覚は、僕が過去に「スーパーマリオブラザーズ」で味わったものに似ていました。「スーパーマリオブラザーズ」を初めて遊んだ時、横道に逸れて土管の中に入れば地下空間が広がっていたり、つたを登っていけば雲の上の世界があったり…と、自分だけが秘密の道を見つけて、自分だけが秘密の場所に辿り着いたかのように感じられたその興奮は、それまでどのゲームでも味わったことがないもので、新鮮な体験が記憶に深く刺さりました。
「ヒューマンフォールフラット」は、そんな「スーパーマリオブラザーズ」と同じ、いやそれ以上に輪をかけて自由な世界でプレイヤーを迎えてくれる作品で、更にそこに “マルチプレイ” も加わって、僕は久しぶりにゲームで “新鮮な体験” というものを味わった気がします。
ともあれ、そんなわけで「ヒューマンフォールフラット」は僕にとって掛け替えのないゲームとなり、少し鎮静化したとはいえ、今もたまにメイから「あそぼー」とせがまれては、電脳空間で二人で仲よく遊んでいます。ステージも定期的にアップデートしてくれますし(しかも無料で…! ありがたくて、少しお金払いたいです)、続編のリリースも発表されたようなので、そちらも楽しみです。
本作の開発陣に、心からお礼の言葉を送りたいと思います。本当にありがとうございました。
<質問2>2024年に発売/公開されたエンターテイメントコンテンツの中で最も印象深かった作品
「SPECIAL ENTERTAINMENT STAGE『RUNWAY』」
今年も宝塚歌劇鑑賞の方は控えめで大変恐縮なのですが、花組の大劇場公演だけは何としても観ておかなければ、YouTuberとしての僕の創作活動に悪影響が出る…と、今年2月の「ミュージカル『アルカンシェル 』〜パリに架かる虹〜」と、10月の「ファンタジー・ホラロマン 『エンジェリックライ』 / レヴュー グロリア 『Jubilee(ジュビリー)』」の二つは、しっかり観劇させていただきました。
「ミュージカル『アルカンシェル 』〜パリに架かる虹〜」の方は、明日海りおさんからバトンを受け取る形でトップスターに就任し、花組では12年ぶりに誕生となった生え抜きのトップスターとして、約5年間にわたってご活躍された柚香 光(ゆずか れい)さんの退団公演ということで、やはり真飛 聖さんの時代から花組を観て育った僕としても、その頃から個性の際立った端麗な容姿と抜群のダンス力で観客の目を奪い、『Le Paradis!!−聖なる時間 −』での妖精フィーの役や、壮 一帆さん主演の『カナリア』での小悪魔の役など、演目の中で確かな印象を残してきた柚香 光さんの宝塚最後のお姿を、この目にしっかり焼き付けてこようと、芽吹幸奈さんのサイン入りのロックオン用双眼鏡を携えて観劇して参りました。
贔屓にしている花組の公演で、しかも「この人の作・演出なら間違いない」と(僕の中で)評されるあの小池修一郎氏の作品という、至福の時間が約束された絶対のコラボレーションだったわけですが、実際に劇場で煌びやかなステージを前にすると、その素晴らしさは想像を遥かに上回るものでした。
舞台はドイツ占領下のフランスで、柚香 光さんは、街のレビュー劇場「アルカンシェル」の人気ダンサーのマルセルという役どころで、ドイツの占領軍から街を、そしてレビューの灯を守ろうとする姿は、これから宝塚を離れて更に飛躍していこうとする柚香 光さんへのエールでもあるかのようで、観ていて胸が熱くなると同時に、柚香 光さんの凛々しい男役姿を観られるのはこれが最後かと思うと、出来ることなら時を止めたいという衝動にも駆られました。
そして、そこから約8ヶ月後に観劇したのが、「ファンタジー・ホラロマン 『エンジェリックライ』 / レヴュー グロリア 『Jubilee(ジュビリー)』」です。もうステージの上に柚香 光さんの姿はないんだ…と思うと、観劇前から少し寂しさも覚えましたが、こちらは新トップスター、永久輝せあ(とわき せあ)さんと新トップ娘役の星空美咲(ほしぞら みさき)さんの大劇場お披露目公演ということで観るのが待ち遠しくもあり、そして実際に幕が上がると、柚香光さんの切れ味の鋭いクールな佇まいとはまた違った、なんとなく明日海りおさんを彷彿とさせるような、繊細でどこか柔らかみのある永久輝せあさんの新しい魅力で、劇場はすぐに暖かい空気に包まれました。
また作品の方も、天界一の大ホラ吹き、天使アザゼルが、度重なる素行の悪さの末に、ついに天帝の怒りを買って、人間修行(天使修行?)と称して、全ての能力を封じられて人間界へと堕とされる…というコミカルなタッチのもので、永久輝せあさんは主人公アザゼルにその柔和なキャラクターを生き生きと投影し、そこに星空美咲さんの可愛らしくも凛とした美しさが華を添えて、花組の新しい始まりを力強く感じさせてくれる、見応えある公演に仕上がっていました。
そしてここで、僕の中での推しタカラジェンヌ、娘役の初音 夢(はつね ゆめ)さんについて触れておかなければなりません。…と言っても、僕が初音 夢さんの存在を知ったのは、恥ずかしながら本当にごく最近なのですが。
初音 夢さんは宝塚歌劇団に105期生として入団し、2019年4月の宙組公演「オーシャンズ11」で初舞台を踏んで、その後花組に配属となったそうで、つまり今から5年前の2019年8月年の公演『A Fairy Tale −青い薔薇の精−』以降ずっと花組生として出演されていたということですから、花組贔屓だ何だと騒いでいた僕の目は完全に節穴だったと言わざるを得ないわけですが、僕がこの初音 夢さんの存在にようやく気が付いたのは、今年7月に観劇した「ロマンチックコメディ『Liefie(リーフィー)−愛しい人−』」でのことでした。
この公演は、花組の若手注目株の聖乃あすかさん主演の公演で、関西では梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演され、聖乃あすかさんと同期の糸月雪羽ちゃんも出演されますから、公演期間も僅か一週間ほどということで、当時無職だった僕も貴重なチケットをなんとか手に入れて観に行ったわけですが、この中でヤンという少年を演じていたのが初音夢さんでした。
劇中、ヤンは無邪気でとても溌溂とした少年で、また体格も小さかったので、本当の少年のようで驚きましたが、表情がコロコロと変わるさまが、とても演技とは思えないほど自然だったので、表現力が群を抜いているなと深く印象に刻まれ、演じているジェンヌさんはどなたかと幕間に慌ててパンフを開いて、初音夢さんという名前を突き止めました。
そしてその3か月となる10月に「ファンタジー・ホラロマン 『エンジェリックライ』 / レヴュー グロリア 『Jubilee(ジュビリー)』」を観劇したわけですが、あの飛び抜けた表現力を持ったジェンヌさんはどこに?…と双眼鏡で探していると…いました。主人公の天使アザゼルのライバルとなる、聖乃あすかさん演じる悪魔フラウロスに付き従う、二人の使い魔のひとりファルファッラが、間違いなく初音夢さんだったのです。
少年ヤンとは全く逆の役柄で、悪魔らしくダークな衣装に、某閣下を彷彿とさせる濃い目のメイクという出で立ちでしたが、それでもやはりその演技力、表現力は抜群で、見事に妖艶さを醸し出す視線や表情に、僕は釘付けになってしまいました。
そしてそのミュージカルの後に始まったレビュー 『Jubilee(ジュビリー)』では、初音 夢さんは悪魔とは打って変わって優美なドレス姿で登場し、そのはじけるような笑顔で歌い踊るさまは、これまで僕が見てきたどのジェンヌさんよりも楽しそうで、きっと本当に演技が好きなんだろうなと、見ているこちらまで暖かい気持ちになりました。…と偉そうに語っている僕は、5年間も初音 夢さんの存在に気付かずにいたわけですが。
ともあれ、僕は初音 夢さんのお名前とご尊顔はもうしっかり胸に焼き付けましたから、これからの全ての公演で双眼鏡ロックオンをして参る所存です。
…ちょっと興奮して前置きが長くなってしまいましたが、話を元に戻しましょう。今回僕が取り上げたいのは、記憶も新しい12月6日に観劇したばかりの「SPECIAL ENTERTAINMENT STAGE『RUNWAY』」です。
こちらは、2014年、宝塚歌劇100周年記念公演時のトップスター、蘭寿とむさん、龍 真咲さん、壮 一帆さん、柚希礼音さん、凰稀かなめさん、そこに北翔海莉さん、退団したばかりの柚香 光さんも加わり、元娘役スターの夢咲ねねさん、朝月希和さん、更に瀬戸かずやさん、愛月ひかるさん、光月るうさん、沙月愛奈さん、響 れおなさん、天寿光希さん、音波みのりさん、笙乃茅桜さん、夢妃杏瑠さん、和海しょうさん、風馬翔さん、晴音アキさん、秋音 光さん、希峰かなたさん、大原万由子さん、帆純まひろさん、花束ゆめさんという、本家タカラヅカではまず見られなかった、とんでもなく豪華なキャストが勢ぞろいした、歌とダンスのショーで、“タカラヅカ版アベンジャーズ”と言ってもいい錚々たる顔ぶれに、僕は上演開始からカーテンコールの終わりまで、終始興奮しっぱなしでした。
のっけから柚香 光さんが歌詞に合わせて花組ポーズだあああ!とか、
凰稀かなめさんが女の人になってるううう!とか、
うおお!蘭とむさんと海莉さんが一緒にいるううう!とか、
蘭とむさんと壮一帆さん同期コンビで並ぶの熱ちいいい!とか、
蘭とむさんと柚希礼音さんで「Fate city」来たあああ!とか、
晴音アキさん存じ上げなかったけど幕間の失敗エピソードトーク頑張ってて好きになっちゃってその後双眼鏡ロックオンしてたら絶対目が合ったあああ!とか、
それはもう全ての瞬間が最高でした。言葉で説明するのも無粋なので、観劇中の僕の心の叫びで表現してみましたが、如何だったでしょうか。
キャストの皆さんは、どなたも退団後はそれぞれにご活躍されている方ばかりですし、また蘭寿とむさんはここ最近は芸能活動をされていなかったと思いますから、そんな方々がスケジュールを合わせて集結するというのは簡単なことではないと思いますが、これを一回で終わらせてしまうのはあまりにも惜しい…叶うことなら、このような機会をこれからも是非作って欲しいと、両手は双眼鏡で塞がっているので心の中で手を合わせながら、カーテンが閉まる最後の最後まで、華やかな舞台の全てをこの目に焼き付けました。
…ハァ。こうして思い出しながら書いていても、溜息が洩れますね。
溜息と言えば、芽吹幸奈さんご結婚の報が11月の末に突然飛び込んできましたね。東京ゲームショウでバッタリお会いして少しお話した時には、そんなそぶりは露ほどもお見せにならなかったので、もしかしたら俺にもワンチャンあるかも?と血迷ってしまったというのに、此は如何に?(※ これはいったいどうしたことだろう、の意)。
そんなわけで僕にはもう橋本真帆ちゃんしかいません。真帆ちゃん、これからも頑張ってください。
<質問3>2024年に、個人的に注目した(している)人物
クローバーズの仲間たち
普段こういう場所で、あまり自分のことや身内のことは書かないのですが、今年は自分がようやく職に就くことが出来たことを記念して、特別に自分の仲間たちのことを書きたいと思います。
既にご承知の方もいるかと思いますが、僕は去年の10月にプラチナゲームズを退職してから、大人の事情により一年間の無職を貫いたのち、今年の10月付けで「クローバーズ株式会社」のスタジオヘッド/チーフゲームデザイナーに就任いたしました。
「ずいぶん手際がいいから最初からその予定でプラチナを辞めたのでは?」と考える方もいるかも知れませんが、去年の退職時点では自分のその後については本当にノープランで、目の前は真っ白(真っ暗?)の状態でした。…というか僕自身、プラチナゲームズを辞めることになるなどとは夢にも思わず、会社の壁一面のディスプレイ棚の半分以上を占領するおびただしい数のフィギュア群と、デスクの周りに山のように積み上がったガラクタは、もう僕の“巣”のようなもので、そこに骨をうずめることになることを信じて疑っていませんでした。
そもそも僕はカプコン、クローバースタジオを経て、元カプコン第四開発部の仲間たちと一緒にプラチナゲームズの設立に参加し、そこでゲームの監督として、また会社が開発するゲームの全体的な方針やクオリティに対して責任を持つチーフゲームデザイナーとして、主に開発現場に軸足を置いて、一応副社長としても経営に関わりながら、会社設立以来(多分)16年間(くらい)仕事をしてきました。
プラチナゲームズでの僕の監督作品は、開発中止などの残念な結果に終わったものもあったために「ベヨネッタ」と「ザ・ワンダフル101」の2本だけに留まりますが、その中でも「ベヨネッタ」に関して、その後も「ベヨネッタ2」、「ベヨネッタ3」、「ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔」と、シリーズを展開することが出来、自分がそれぞれの監督を務めたわけではないものの、その全ての作品において世界観設定やシナリオ執筆など、全体の監修を行って自分なりの「ベヨネッタワールド」を作り上げることが出来たことが、何よりの思い出として残っています。
それまでの自分のキャリアの中では、「デビルメイクライ」や「ビューティフルジョー」、「大神」といったオリジナルのタイトルを立ち上げて来ましたが、残念ながら様々な事情により自分自身ではその続編を手掛けることが出来ず、「神谷は続編を作らない主義」といった事実と異なる噂を流されることもありました。
カプコンに入社して以来、三上真司さんという、クリエイターとしても上司としても尊敬出来る方に巡り会い、その三上さんのもとで計り知れないほどの教えを受け、ぬくぬくと甘えながらたくさんのチャンスを頂いて、それらのオリジナルタイトルを開発する機会に恵まれたことは、何ものにも代えがたい僕の宝物ですが、その一方で、自分が立ち上げた我が子のようなゲームの続編が、他人の手によって作られていくのをただ傍観しなければならないのは、もどかしさや悔しさ、嫉妬のような感情が入り混じって、言葉では言い表せない複雑な気持ちでした。
もちろんそれらの続編の中には、クオリティも高く多くのファンを獲得した人気の作品もありますが、作品の良し悪しは、いずれにしても僕の気持ちを納得させるものではありませんでした。
「どうしても避けられない事情で別れた元カノが、誰か別の男性のもとで幸せになるのも見たくないし、当然不幸になるのも見たくない。」
僕は当時の感情を、周りの友人にはそんな風に話していたように記憶しています。
「ベヨネッタ」は、そんな僕が初めて見つけたライフワークのような作品でした。早くも「ベヨネッタ2」の製作途中で危うく開発が頓挫しかけましたが、そこを任天堂さんに救ってもらい、僕個人にとって言葉に尽くせない恩ができると同時に、そこからシリーズを更に展開させて、あまつさえベヨネッタの幼少期にまでその世界観を広げることが出来、それまで自分の手では出来なかった、キャラクターやストーリーの深掘り、そしてゲームデザインの洗練など、自分が納得いくまで手を尽くすことが出来て、「ここから世界観を更にどう展開させようか」、「こんな新しい遊びが作れるんじゃないだろうか」、「このキャラクターにはこんなバックグラウンドを与えよう」と、どんどん構想は広がっていきました。
そんな矢先に、僕にとってどうしても曲げられない、自分の信念にかけてどうしても譲れないことが起きたことが、プラチナゲームズを退職することを決意した理由です。
多くの社員を抱えて経営を続けていく会社の使命と、面白いものを作りたいというこだわりと。その間で難しいバランスを取りながら、自分の中でうまく折り合いをつけてきたつもりではありましたが、その時ばかりはそのバランスが壊れるところに突き当たってしまったのです。
それは、聞く人によっては僕の我儘だと捉えるかも知れません。でも僕は、単に自分が作りたいものを作るというだけではなく、自分が所属する場所を信じ、その看板を輝かせるためにずっと仕事をしてきました。その“信”を失ってしまったら、僕はそこではもう自分の能力を発揮できない。それまで一緒に仕事をしてきた現場の仲間たちには申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、僕には退社を選択するしか道がありませんでした。
その辺りの事情についての詳細は、もしかしたらいつかお話しできる日が来るかも知れませんが、ここではこの辺で一旦置いておきましょう。
ともかく、僕は会社側と何度かの話し合いを経て、去年の7月中頃には退社を決意したわけですが、現場の仲間たちに黙って去ることは出来ないと思い、わざわざ全体会議を開いてもらって、社員全員に対して、僕が退社を決意した理由とその経緯を事細かに話しました。
その日から、膨大な量の僕のおもちゃとガラクタの片付けが始まりました。会社には一ヶ月の時間をもらって、毎日せっせとおもちゃを緩衝材でくるんでは段ボール箱に梱包する…のを後輩に手伝わせて、積み上がる段ボール箱を車で貸倉庫にピストン輸送する、「おもちゃ片付けおじさん」と化したわけですが、そうしてる間に、自分でも予想しなかったほどのスタッフが僕の声をかけに来てくれ、その都度ミーティングルームへ行って個別に話をしました。
僕は、副社長という立場にもかかわらず、突然会社を去る身勝手さを申し訳ないと思いながら皆と向き合ったのですが、誰一人として僕を責めることはなく、それどころか予想に反してみんな口々に「もっと神谷さんと一緒に仕事がしたかった」、「神谷さんと仕事をするためにプラチナに来た」と、自分で書くのも口幅ったいものがありますが、今こうして思い出しながら書き起こしていてもこみ上げてくる言葉を切々と訴えてくれました。時にそのまま長時間話し込んだり、中には涙ながらに無念の思いを打ち明け、僕の退社を悔やんでくれる人もいました。
驚いたことに、誰一人として僕に「会社に残ってほしい」と言う人はいませんでした。「神谷さんの気持ちを考えると、とても残ってくれとは言えない」と、みんな僕の苦しみを一緒に感じてくれていました。
こうした対話を通じて、僕の気持ちに少しずつ変化が生まれていきました。
X(旧ツイッター)で会社役員とは思えない振る舞いで、暴言を吐き散らかしていた僕を、みんな疎ましく思っているばかりかと思っていましたが、まぁそれはそれでそう思っていた人もいたんでしょうけどここではそういう話には耳を塞ぎまして、果たして自分はこのまま独りで去ってしまっていいのだろうかと、自分のこれからの道に、はたと疑問が浮かんだのです。
もしもこのまま僕がどこかの会社に所属することになったら、彼らの思いに応えることは出来なくなってしまう。だからといって、会社に残るわけにもいかない。彼らと集まれる場所を作るにしても、一人で会社を立ち上げるなんて大それたことをする知識もないし、自分にはそんな甲斐性もない…。そう思った時に、僕はあることを思い出しました。
実は、僕は退職の決意をした直後、それを社員全員に伝える前に、身近な人間には直接声をかけて、その事情を伝えていました。自分がディレクターを務めていたプロジェクトのプロデューサーたち、リーダー陣たち、チームは違っても付き合いの長い人たち…。
そんな中で、僕と数年間に渡って一緒に仕事をしてくれていたリード・プランナーの小山君が、冷静な態度でこう尋ねてきたのです。
「神谷さん、辞めた後はどうするんですか?」
僕は、こんな50歳も過ぎてX(旧ツイッター)で暴れ回ってる面倒なジジイは、きっとどの会社からも敬遠されるだろうと我が身を憂いていたので、
「何も考えてないなぁ。多分就職活動みたいなことはするんだろうけど、どこにも引っかからなかったら実家に帰って雑巾がけでもするかな。」
と答えました(脚色なし)。それは冗談でも何でもなく、例え僕がどれだけゲームを作りたいと願っても、誰からも受け入れてもらえなければそれは叶わない話だからです。
すると、そこからお互いにあれこれと雑談を広げていくうちに、小山君の口から
「それなら、会社を作って一緒にやりませんか?」
という言葉が出てきました。
それは一瞬ワクワクする話でしたが、実家が農家だから、お金が儲からなくてもお米は支給できますと、と冗談を交えながらの言葉でしたし、あまりに荒唐無稽なことだったので、僕の方も、じゃあ就職活動失敗した時にはお願いするよ、と冗談で返して、その時はその話は終わりました。
その小山君とのやり取りが、社員のみんなからの訴えを聞いて悩み始めた僕の頭に蘇ってきたのです。
小山君という人間について少し説明すると、彼は「World of Demons - 百鬼魔道」の開発中に、中途入社の形でプラチナゲームズに加わりました。
開発チームではリードプランナーを務め、彼曰く、入社の動機は「Scalebound」を手掛けたかったから、ということで、彼の採用面接には僕も面接官として出席していたらしいのですが、僕はさっぱり覚えていないのでその辺は飛ばすとして、その時点での「World of Demons - 百鬼魔道」は、皆さんが知っているApple Arcadeにて配信されたバージョンとは全く異なり、運営系のゲームとして開発が進められていて、彼はそこでそれまでの経歴で培った管理能力や処理能力の高さをバリバリと発揮していたのですが、プロジェクトが諸事情により完成を目前にしてペンディングとなってしまったため、それを機に小山君はプラチナゲームズを一度退社することになりました。(その後、「「World of Demons - 百鬼魔道」は、全く別のプロジェクトに再生し、アクションゲームとして生まれ変わることになりました)。
彼が仕事で発揮していた高い能力は、チーム外の僕の耳にも届いていたので、僕は彼が会社を去ってしまうことをとても残念に思っていたのですが、そこから数年して、僕がどうしても彼の力が必要になったタイミングで、既に別の会社で働いていた彼に、知人を伝ってラブコールを送ってもう一度プラチナゲームズに呼び寄せて、そこから数年に渡って僕の仕事をサポートしてもらうことになったわけです。
小山君が二度目にプラチナゲームズに加わった時には、社員としてではなく、フリーランスでの契約という形だったので、僕は何度となく彼を社員にならないかと誘ったのですが、彼は頑としてそれを拒み続けました。そんな彼の自分をマネジメントする能力、そして仕事で見せてくれていた高い処理能力(もちろんクリエイティブの面でも信頼出来る仕事をしてくれます)が、僕が彼の「会社を作ろう」という言葉を信じ、おんぶに抱っこ…いや、彼なら経営を任せられると確信できる決め手になったのかも知れません。
そうして僕はすぐさま小山君に声をかけ、もう一度二人で話し合って、いまの「クローバーズ」設立へと繋がる夢物語のような構想を、実現に向けて動かし始めたのでした。
いま僕は、骨をうずめる覚悟でクリエイティブの全てを注ぎ続けた会社を辞めるという予想外の事態を経験し、更にそこから一年間の無職の期間を経験して、どれだけ仲間の協力というものが大切なのか、どれだけ人と人の縁というものが大きな助けになるのかということを身に染みて学び、クリエイターとしても人間としても、少し成長出来たのではないかと感じています。
小山君と二人で構想し始めた小さな会社に、一人、また一人と仲間が集まって来て、この一年で20人の仲間が、それもそれもとびきりパワフルなゲーム職人たちが結集して、「クローバーズ」は特濃のクリエイター集団になりました。
とは言え、会社はまだまだ走り始めたばかりなので、クリエイティブなこと以外にもやらなくてはならない膨大な仕事が山積みです。ゲーム作りの現場一辺倒だった僕にはさっぱり分からないことばかりですが、優秀な仲間たち一人一人が二人力、三人力になって、それらをテキパキとこなしてくれているのを見ていると本当に頼もしく、彼らの能力と志の高さに改めて感心させられます。
そこに僕もあぐらをかいて…いや、責任ある立場で正式にジョインして、これから自分の役目を果たしていくことになります。
一人では何もできない僕が、彼らの力を借りることで自分の能力を発揮することができる場所を得た喜び、そして高い志を持つ仲間たちと一緒に細部まで血の通ったゲームを作っていくことの楽しさや、ワクワクと胸が躍る気持ちを、いま改めて噛みしめています。
これからもまだまだ強力な仲間たちが加わる予定ですし、そこに志を同じくする仲間たちがもっともっと集まって来て、いつしかユーザーの皆からも深く信頼してもらえる会社として成長する…そうなれるように、一つ一つ階段をのぼっていきたいと思います。そんなクローバーズに、皆さんも是非注目してください。
<質問4>2025年に向けての抱負、また4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
がんばります。
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