ソ氏は2021年に「ブルーアーカイブ」JP版を一ユーザーとして遊んだのち入社し,イベントやメインストーリーのレベルデザイン・敵デザインを経て,2023年から戦闘チームでスキルデザインやボス「コクマー」のデザインを担当。直近1年間は,本講演の核心である総力戦ボスの改善業務に携わってきたという。なお本稿には,関連する展開のネタバレが含まれる点はご了承いただきたい。
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まずソ氏は「ブルーアーカイブ」の戦闘構造を整理した。戦闘は,敵と遭遇すると自動で進むオートバトル,EXスキルカードの手札とサイクル,限られたリソースであるコストの3要素で構成される。先生(プレイヤー)が戦闘中に直接介入できるのは「どの生徒のEXスキルカードを,いつどこで使うか」という一点だけ。介入要素が少ないぶん戦闘はパターン化しやすく,攻略は秒単位で整理された「タクティクス」を軸に回っている。
タクティクスに従えば誰でもクリアできる利点はある。だがコアコンテンツが「競争」である以上,より少ない生徒で素早く良い記録を出すために,戦闘を何度も繰り返すことになる。そこで問題になるのが,タクティクスを正確になぞっても発生するリトライ要素だ。
ソ氏は代表的なランダム要素を4つ挙げた。ボスのパターン,クリティカル,回避,そしてグロッキーだ。これらが複合的に作用し,タクティクスが成功するまでリトライするのが当たり前になっている。とりわけクロカゲやゴズは「ボスではなくランダムと戦っている」とまで言われていたという。
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過度なリトライは戦闘の疲労感に直結し,競争コンテンツのリテンション低下,ひいては新たな生徒を確保する原動力の低下にもつながる。決定的なきっかけは,より多くのパーティを編成する新難度「ルナティック」の実装だった。
パーティが増えれば1体のボスと戦う回数が増え,ランダムとの戦いも増える。このまま難度だけ拡張すれば疲労感がさらに高まる――そう判断し,一部ボスの改善に踏み切った。
改善に先立ち,ソ氏は近年のサブカルチャーゲームのバトルトレンドを分析した。鍵は,ユーザーが攻撃タイミングを選べる「バーストウィンドウ」と,それに伴う受動的ランダムの縮小だ。サブカルチャーゲームでユーザーが直面する最大のランダムは何か――それはキャラクター獲得,すなわちガチャである。
「すでにガチャという過酷なランダムを越えてきたユーザーに,戦闘中のミスやランダムパターンといった受動的ランダムを再びハードルとして課すと,それは楽しさではなく疲労として作用する」。だからこそ近年のサブカルチャーゲームは,受動的ランダムを排除・置換し,ユーザーが能動的に戦闘をリードする方向へシフトしている,というのが氏の見立てだ。
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「ブルーアーカイブ」は命中値・回避値といった受動的ランダムのステータスをすでに持つが,これは生徒側に紐づくため直接修正が難しい。そこでボス側を調整することで,直接/間接の改善を施した。
改善は「ランダムステータスの改善」と「ランダムパターンの改善」の2軸。目標はリトライを減らすことと,既存の攻略から大きく外れないことの2つだった。
ランダムステータスの改善では,グレゴリオとカイテンジャーの回避値を下げ,「敵が回避しなくなるまでリトライ」する状況を減らした。ビナはダメージのばらつきを生む命中・安定バフを削除し,遮蔽物の確率的な破壊によるリトライも改善。ゴズはクリティカル耐性が高く,クリティカル耐性を全体的に下げた。
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ランダムパターンの改善では,カイテンジャー・ビナー・ホド(被ダメ減スキルや確率的スキル使用が問題だったボス)について,難度に関係なくランダムパターンを廃止し,固定タイミングで核心スキルを使うように変更した。
これにより戦闘難度はわずかに上がるが,「ブルーアーカイブの戦闘ではリトライを減らすことを優先すべき」という結論から,この方向を選んだ。カヨコ(正月)のように戦闘中のランダム移動で生存リトライが必須になっていたケースでは,ボスのスキル対象を3人から全体に変更し,無理に編成しなくてよいよう調整した。
最も大きく作り直したのがゴズだ。分身召喚で本体位置がランダム,続く回避位置もランダムで,「望む位置にボスが出るまで」「スキルを避けずに済むまで」リトライが繰り返されていた。そこで本体の出現位置の順番を固定(右→中央→左→右…と予測可能に)し,確率的パターンも廃止。新難度ではスキル使用ごとにグロッキーゲージの蓄積が進むよう固定した。
代わりに,戦闘後半の1分間は本体位置がランダムに変わるが,うまく追跡すればコストを回復しバーストを狙える――という「ランダムというリスクにリターンを付与する」新パターンを設計し,戦闘のターニングポイントになり得るようにしたそうだ。
クロカゲは,偽装パターンのターゲットが毎回ランダムで同じ生徒に集中し,範囲ヒーラーが追いつかずリトライ要因になっていた。これを,全対象のインデックスを収集してその範囲内でランダムを適用するサイクルに変更し,1人集中を解消したという。
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結果は明確だった。改善後はコミュニティで「開発チームが問題を把握している」「ようやく正常化した」といった好意的な反応が広がり,開発チームへの信頼が高まったという。プレイデータでも,クリアにかかる平均時間と,制限時間超過による戦闘失敗率が大きく改善したことが確認された。
そしてソ氏は,講演タイトルの問いに立ち返る。「戦闘状況を変化させるランダムは確かに楽しさをもたらす。新鮮さや緊張感を生む」。だが結論はこうだ。「ユーザーがコントロールすべきランダムにまで楽しさを求めるのは,2D(サブカルチャー)ゲームでは避けるべき」。2D(サブカルチャー)ゲームの核心はキャラクターへの共感=愛であり,不快な戦闘ではなく爽快で楽しい戦闘体験を提供することに注力すべきだ,と締めくくった。
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