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「金融のオンチェーン化は不可逆」――弁護士が語る,ステーブルコイン・AIエージェント・法改正で変わるWeb3の現在地[IVS 2026]
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印刷2026/07/02 14:27

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「金融のオンチェーン化は不可逆」――弁護士が語る,ステーブルコイン・AIエージェント・法改正で変わるWeb3の現在地[IVS 2026]

 NFTが投機的な熱狂を集めた時代は,もう過去のものになりつつある。だが,その言葉が耳に入らなくなったからといって,ブロックチェーンをめぐる動きが止まったわけではない。むしろ熱が引いたぶん,社会実装は静かに,そして着実に進んでいる。

 2026年7月1日,京都市で開催されたIVS 2026のクリプトステージのセッション「web3・クリプト競争環境の現在地〜web3ホワイトペーパー・ドラフトメンバーによる対談」に,これまで自民党のWeb3ホワイトペーパー策定に携わってきた弁護士2名が登壇した。
 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士の河合 健氏と,森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士の増田雅史氏である。

 モデレーターを務めたのは,AI企業AVILENのCEOであり,同ホワイトペーパーやAIホワイトペーパー2.0のドラフトにも関わってきた松倉 怜氏だ。今年はホワイトペーパーのアップデートこそなかったものの,ブロックチェーン周りの社会実装はこの1年で大きく前進した――そんな問題意識から,セッションは始まった。

左から松倉氏,増田氏,河合 健氏
画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / 「金融のオンチェーン化は不可逆」――弁護士が語る,ステーブルコイン・AIエージェント・法改正で変わるWeb3の現在地[IVS 2026]

 話題は,銀行が発行するステーブルコイン(法定通貨や金などと価値を連動させることで,価格の安定性を保つよう設計されている暗号資産)の登場から,なぜ金融こそブロックチェーンに向くのかという住み分け論,非金融領域でのじわじわとした浸透,AIエージェントとの親和性,そして目前に迫る金融商品取引法(金商法)入りと分離課税まで,多岐にわたった。派手さの去ったあとに残ったものは何か。Web3の現在地を,法制度の最前線に立つ二人の視点から追う。


金融機関のステーブルコインが動き出した──「金融のオンチェーン化」という本流


 かつてNFTが熱狂を集めていた頃のような派手さは,いまのWeb3にはない。だが熱が引いたぶん,社会実装は着実に進んでいる。
 松倉氏がそう水を向けると,河合氏は,市場のステージがかなり成熟してきたという見立てを示した。

 最近とりわけ増えているのが金融機関からの依頼で,なかでもステーブルコインが多いそうだ。河合氏によれば,つい先日,SBI VCトレードで,SBI新生信託銀行が発行する「JPYSC」というステーブルコインが登場したという。
 円建てステーブルコインとしては第2号案件にあたるが,先行するJPYCが1つあたり100万円の発行(購入)上限を抱えるのに対し,銀行系の信託型として発行されるこちらにはその制限がかからないとのこと。

 設計としてはブラックリスト方式を採り,AML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)上で問題のある相手には渡らないようにしつつ,パブリックチェーン上で流通させる形だという。
 税法上の手当てがまだ必要なため,現時点ではVCトレードの口座内に限られているが,いずれパブリックチェーンでの流通に移行する見込みらしい。

 河合氏は,3メガバンクでも同様の動きが進んでおり,ほかにもいくつかプロジェクトがあると明かした。
 一般の生活者の決済はPayPayのようなサービスが主流であり続けるだろうが,企業間や金融機関間の取引,たとえばデリバティブのような領域では,担保として用いることもできるぶん,ステーブルコインがかなり使われていくと見ているそうだ。

 この流れはステーブルコインだけにとどまらない。MMF(マネー・マーケット・ファンド。格付けの高い資産で運用する投資信託)をトークン化する構想や,現在は日銀の振替制度で運用されている国債をトークン化していく議論も視野に入ってきているという。

 河合氏は,金融そのものをブロックチェーンの上で走らせることが,今後の大きなトレンドの1つになっていくとの見方を語った。そして金融機関でないプレイヤーにとっては,そこにインフラを提供する側に回るという道が1つ考えられる,と付け加えている。


なぜ金融こそブロックチェーンに向くのか。住み分けと,日本が勝てるインフラ


 金融がオンチェーン化していくとして,日本はどこで勝てるのか。松倉氏のこの問いは,デジタルで負け続けてきた構図を転換できるかという期待とセットになっていた。

 増田氏はまず,Web3がWeb2を丸ごと塗り替えるという見方に距離を置く。かつてWeb3を熱心に支持する人々のなかには,Web3がWeb2を塗り替えていくと勇ましく語る向きもあったが,GoogleのIDひとつで何でも使えるWeb2はあまりに便利で,そう簡単には覆らないという。むしろ両者は住み分ける形で広がっていくだろうと増田氏は見る。

 ただし例外があって,既存インフラが相当に時代遅れな領域では,一気に置き換わる可能性がある。その筆頭が金融だというのだ。
 国際送金でSwiftを介していくつもの金融機関を経由し,手数料を取られ続ける仕組みはかなり時代遅れで,それを丸ごとスキップする試みが実用化されつつあるという。

 河合氏もこれに同意する。生活者向けのアプリはすでに十分便利で,あえてブロックチェーンでなくてもいい。だが金融は「確実に決済されなければならない」世界だと河合氏は言う。
 ブロックチェーンは履歴がすべて残り,二重支払いもなりすましも起きにくい,いわば「硬い」性質を持つ。いまの金融が法的にも技術的にも複雑な経路をとらざるを得ないところを,シンプルにできるわけだ。

 国債や社債,株式の振替制度は,保管振替機構や日銀を頂点に金融機関が何層にも連なる構造で情報を順に伝えていくが,ブロックチェーンなら階層を飛ばして誰と誰が取引したかを一度に記録できる。

 不動産のように現物と結びつくものはチェーンだけで完結しないが,金融は結局データの世界なので完結できる。だから金融のオンチェーン化は不可逆な流れになるのではないか,と河合氏は語った。

 では本丸が金融だとして,スタートアップはどこで戦うのか。河合氏が挙げたのはインフラレイヤーだ。ウォレットならFireblocksやBitGo,AML/CFTならChainalysisやEllipticといった海外勢が強い領域だが,まだ余地は大きいという。

 オンチェーンでは情報がすべて露わになるため,マネロン目的ではなく通常の利用のためにこそプライバシー化のツールが要る。日本人の資産を大量に預かるのに,最後にどうなるか分からない海外製のウォレットに頼っていていいのか,という問いも残る。

 AIのように技術差が決定的についた領域ではないぶん,オラクルのような外部データ連携も含め,勝負できる余地は多いというのが河合氏の見立てだ。この産業構造の全体像は,ジョージタウン大学の松尾真一郎氏や,上智大学の森下哲朗教授らが参加するチームによる「デジタル資産の産業構造 ディスカッション・ペーパー」に詳しいという。


派手さは消え,実装は残った。非金融領域でのブロックチェーン浸透


 金融の話が続いたところで,増田氏は非金融の領域に目を向ける。象徴的なのがNFTだ。かつてのブーム期と比べて,NFTという言葉を耳にすることはめっきり減った。だが言葉が下火になったからといって,中身まで縮んだわけではない。BtoBをはじめ,さまざまな局面での利活用はむしろ着実に拡大していると増田氏は言う。

 なぜそうなったのか。ブロックチェーンが,既存のインフラを利用する形でトークンの発行や取引の仕組みを手軽に作れる技術だと,だんだん知れ渡ってきたからだという。
 イーサリアムやEVM(イーサリアム仮想マシン)互換のチェーンを使えば,対応するウォレットはすでに存在するし,自前で開発するのもさほど難しくない。その仕組みを使えば,クーポンや参加証を発行したり,何かに参加した履歴を積み上げていったりといった機能を,比較的低予算・少人数で作れる。

 こうした認識が広がった結果,既存の金融機関までもが,自社のバンキングアプリをウォレット化してNFTを持てる機能を組み込む,といった相談を寄せるようになってきたそうだ。
 増田氏は,派手な金融局面の裏側で,Web3が情報インフラとしてじわじわ浸透してきている点にこそ注目していると語った。

 では,非金融領域の代表格として語られてきたDAO(Decentralized Autonomous Organization)はどうか。松倉氏が現在地を尋ねたが,増田氏はここでも冷静だ。分散型の新しい組織形態としてバズり,やや幻想を抱かれた時期があったが,当時喧伝されたような形でDAOが広がっているかというと,必ずしもそうではないという。

 一方で,地方創生のプロジェクトや特定のサッカーチーム,コンテンツなどを支援する「推し活」的な活動では,トークンを使ってファンの熱量をエンゲージメントにつなげる仕組み自体は相当に増えている。問題は,それをあえてDAOと呼ぶかどうかだと増田氏は指摘する。

 意思決定にトークンの仕組みそのものを関与させる設計まで踏み込むのか,それともファンエンゲージメントが高まるならDAOと称さなくてもよいのか。呼称にこだわらない多様なバリエーションが広がってきている,というのが増田氏の見立てだった。


「どこから来たか」の証明が必要な分野で,ブロックチェーンが生きる


 もう1つ,増田氏がトレンドとして挙げたのが,来歴証明が重要になる分野だ。「どこから来たものか」を辿れることに価値がある領域では,履歴が改ざんされずに残るブロックチェーンの性質が効いてくるという。

 その1つがカーボンオフセットである。やや金融に近い領域ながら,扱うもの自体は排出権だ。グローバルには,いわゆるボランタリー(自発的)なカーボンオフセットの排出権取引が先行してきたが,日本でも政府発行のJクレジットをベースにした仕組みが立ち上がりつつあるという。

 増田氏によれば,排出権はもともと,たとえば森林を保全したといった具体的な行為から生まれ,その分の権利が発生する。しかもプロジェクトが約束どおりに実行されなければ,後から権利が取り消される構造になっているため,「どういう来歴で生まれた権利なのか」がきわめて重要になる。
 この来歴をどう可視化し担保するか――そこにブロックチェーンが使えるのではないか,と考えられているそうだ。

 もう1つは,これもグローバルな潮流である「ビジネスと人権」だ。サプライチェーンをたどり,そこで奴隷労働や児童労働が行われていないかを確認する必要が急速に高まったのは,ここ5年から10年のトレンドだと増田氏は言う。そのためには「このものはどこから来たのか」の可視化が大前提になる。

 だが,ものは国境を越えて動く。いまの貿易金融や船荷証券のあり方はペーパーベースが非常に多く,きわめて非効率だという。荷物は届いているのに船荷証券が届かず,港で貨物が止め置かれる,といった事態すら起きてしまう。

 だからこそ,このあたりを丸ごとブロックチェーン化し,可視化のついでに効率化してしまえばいいのではないか,というのが増田氏の見立てだ。さらにその貿易決済の部分に,先の議論で出た国際的な金融インフラのブロックチェーン置き換えを重ねれば,ビジネスと人権への対応と,取引そのものの効率化とを一挙に果たせるのではないか。そうした構想が語られているという。


AIエージェントはWeb3を必要とするか。高い親和性と,決済を委ねる壁


 今回のIVSでも大きなテーマとなっていたのが,AIエージェントとWeb3インフラの関係だ。手数料の安さ,AIがウォレットを持てること,スマートコントラクトで一気に処理できること――さまざまな親和性が語られるなか,AIエージェントの時代にWeb3インフラは一気に拡大するのか。

 松倉氏の問いに,増田氏はまず技術的な親和性の高さは間違いないと応じた。すべてがデジタルで完結するため,AIエージェントが自律的に経済取引を行うのは容易で,API連携すら要らない経済圏を生み出す可能性すらあるという。

 ただし,それを既存の金融機関を飛ばして実現できるかというと心もとない,と増田氏は続ける。いま自分の財布をAIエージェントに委ねようという人はそう多くない。まずは,それでも構わないと考えるギークな層から徐々に進むだろうから,短期間で劇的に置き換わるとは思えないという。

 むしろ増田氏が本命と見るのは,人ではないものとやり取りする場面だ。たとえば,AI学習のためのクローリングによってWebサイトへのアクセスが急増し,CDN(Akamaiなどを指すとみられる)への支払いが増大している問題に対し,クローラーからマイクロペイメントで薄く徴収できれば解決しうる。
 手数料がほぼゼロというWeb3インフラの特性は,こうした機械と機械のあいだの自律的なやり取りにこそ向いている,というのが増田氏の見立てだった。

 河合氏は,親和性はその通りとしたうえで,問題はAIエージェント側にあると指摘する。決済までエージェントに委ねる選択を人や企業がどこまでするのか,そう簡単に進むだろうか,というのが率直な感想だという。

 金融ではとりわけ,誰のところで取引が行われているかを特定する必要がある。相手が分からず契約も成り立たない状態では,安定した金融取引は難しい。ならばエージェントのアドレスと背後の主体を特定していく世界が要るが,その方向性が示されない限り,本格実装は難しいというのが河合氏の見方だ。

 もっとも両氏とも,10年20年先を見据えた議論を今から始めることの意義は認める。増田氏は,コンビニでポイントカードやキャンペーンをいちいち自分で考える手間を引き合いに,「いいように買っておいて」と任せられれば楽なはずだと語る。

 事故が起きても保険で賄われる仕組みが整えば怖くない,という点は,トラブル時にカード会社が面倒を見てくれるクレジットカード決済がすでに信頼を得ている構図と重なる。企業の最適調達まで自律実行される世界もあり得るぶん,インフラが追いついたとき「AIエージェントの議論をしておいてよかった」となるのではないか,と締めくくった。


金商法入りと分離課税,そしてSociety 5.0を見据えた法体系へ


 目先の制度改正にも話は及んだ。暗号資産の金商法入りと,分離課税(ほかの所得金額と合計されず,分離のうえで税額が計算される制度)の導入である。河合氏によれば,改正案は今年4月に出て衆院を通過したものの,参院での議論がなかなか始まらないという状況にあるという。

 仮に2027年7月ごろに成立すれば,そこから1年後の段階施行となる見込みだ。分離課税の適用は2028年1月からが予定されているが,これは金商法改正の成立が前提になるとのこと。

 世間では分離課税というアメと,金商法で規制が厳しくなるムチとして語られているが,もっとも,河合氏は,厳しくなるのはサービスを提供する側のルールで,分離課税の恩恵を受けるのは利用する側だから,両者は別の方向に働いており,本当にアメとムチと言えるのか疑問だと率直に述べる。

 要は,暗号資産は有価証券とは別物としつつも,規制のうえではかなり有価証券に寄せる方向性になるという。公募で発行すればディスクロージャーが必要になり,インサイダー取引規制も入ってくる。
 交換業者は金融商品取引業者へと名を変え,資本増強を含めた重いルールを課される。残る者と脱落する者が出てくるのは,もう見えているという。

 一方で河合氏は,証券会社が暗号資産交換業の取得を求める相談が現に来ていると明かす。暗号資産ETFが始まるであろうことも背景にあり,資産運用会社が暗号資産の運用に踏み込めるようになる。
 2020年にセキュリティトークンが金商法に位置づけられて市場が開けたのと同じように,金融機関が動ける領域が広がる。

 これはルールのなかでやっていくことになるが,マーケットとしては拡大し,プレイヤーの顔ぶれは変わっていくというのが河合氏の見立てだ。
 増田氏も,本格的に金融が塗り替わる局面でこそ,新しい金融インフラを支える仕事や,それを使ってできる新しいことに勝ち筋があると応じ,既存事業者のイノベーションのジレンマの隙間を埋める担い手が現れてほしいと語った。

 最後に松倉氏が持ち出したのは,自身がこだわって盛り込んできたというSociety 5.0だ。現実空間と情報空間がシームレスに統合される新しい社会像であり,その入口となるのが没入型技術やIoTデバイス,そして自律的に動かすためのAIだという。

 EUがこれをWeb 4.0と呼び始めるなど,各所が同じ方向を語り出したのがここ数年のことだ。だが,民法をはじめとする既存の民事法体系が全く追いついていない。有体物や紙を前提とした制度設計が数多く残り,社会がじわじわ塗り替わっていくのを既存の法体系が妨げかねない,と松倉氏は懸念を示す。

 これまで自民党のホワイトペーパーは金融領域中心に提言してきたが,新しい技術が社会に与える影響はもはやその範囲に収まらない。
 民事法体系そのものの見直し,少なくともその議論の開始を,次の機会があれば提言に盛り込みたい――そう語る松倉氏に河合氏も,有体物や紙を前提とした古い制度をガラリと切り替える必要があると同調し,セッションは締めくくられた。

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