
インタビュー
[インタビュー]猫,潜水艦,そしてキリン。元SIE・吉田修平氏がBICで見た,韓国インディーの現在地。「もう2,3年したらドカンといくかも?」
もっとあっていいとは思いますけどね。
それこそさっき言ったように,日本人の性質からしてリスクをとって独立っていうのがちょっと難しいじゃないですか。でも若い人なら,やりやすいかな?
4Gamer:
私や,たぶん吉田さん世代も「若い人なら違うかな」と思うかもしれないんですが,現実は意外とそうでもないぽいんですよこれが。
吉田氏:
確かに学校とかに聞いても,一番の問題は「一番優秀な生徒は必ず就職してしまう」と。
だから,優秀な人は独立して自分の力で……とかじゃなくて,優秀な人とかトップ数十人は,みんな大手ゲーム会社に入るのが目標になっちゃってると聞いたことありますね。
4Gamer:
まぁ他人様の人生なのでアレですが,なんかちょっと寂しいですね。
何が足りないんだろう。シンプルにマインドの問題なんですかね?
吉田氏:
いや,成功例が出てくれば,変わると思いますよ。
2年前……いや去年かな? 夏のキャンプをやってる団体がいて,クリエイターになりたい中高生を集めて,合宿みたいなのを夏休みに提供している会社があってですね。
4Gamer:
ほうほう。
吉田氏:
夏休みの期間に大学の校舎を借りて,中高生を集めてキャンプをやるんですよ。
そこで講師として呼ばれて,テーマはなんでもいいから喋ってくださいって。ゲームデベロッパー志望の中高生と,あと映像系とかも含めたクリエイターになりたい人たちの集まりだと聞いていたので,「インディーゲームクリエイターという道がありまして」という,そういうプレゼンを用意して行ったんですね。
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4Gamer:
真面目に聞いてくれました?
吉田氏:
これが,行ったらすごいざわざわしてて,全然話なんか聞いちゃいない(笑)。
なのでプレゼンを始めて最初に,みなさんインディーゲームって知ってますか? と言って「この中のどれがインディーゲームだと思いますか?」って。
そこに7つぐらい並べて,まぁ全部インディーゲームを並べたんですけど,「Minecraft」とか言う子がいたら「正解!」みたいな。
4Gamer:
ははは。
吉田氏:
でね,「Minecraftを作った人はとんでもなくゲームが売れて,自分の会社をMicrosoftに2800億円で売ったんだよ」と言ったら,みんな目の色変わって,ざわざわしてたのも止まって注目して。
Access Accepted第441回:Microsoftと「Minecraft」

世界的なヒット作「Minecraft」を開発したスウェーデンのデベロッパ,MojangがMicrosoftによって買収され,ゲームの生みの親であるマルクス・ぺルソン(Markus Persson)氏が,買収発表のタイミングでMojangを離れた。今週は,巨額買収を行ったMicrosoftの意図などについて探ってみたい。
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- ライター:奥谷海人
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4Gamer:
え,そこなんですか。
吉田氏:
そう。後で運営の人が言ってんだけど,そこから急にみんなメモを取り出したんだと。講義でメモをとってるのを見たのは初めてです,と。
若い子たちにも,お金なんですよ。
4Gamer:
なるほど,お金なのかぁ。
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それを本当の意味で知りましたね。
だから,もっぴんくんとか生高橋くんとか※そういう名前も出て,例えば「8番出口」みたいに売れて,それですごいお金持ちになったりして,それがニュースとか話題になったりすると,それに続いていくというか。
ゲームクリエイターっていうのは元々まぁ人気の職業ではあるけれど,さらにインディーゲームクリエイターというのが上がってくる可能性あるかなと。
※「もっぴんくん」とは,インディーゲーム「Downwell」を開発して,その後任天堂に入社した藝大出身のクリエイターである麓 旺二郎氏。「生高橋くん」とは,「Öoo」と「ElecHead」の作者である生高橋氏。初出時,筆者の文字起こし時の勘違いで違う名前が書いてありました。申し訳ありません。
4Gamer:
まぁ頭では理解できるんですが,昭和のおじさんとしてはちょっと微妙な感じがします。「そこなの?」という。
吉田氏:
やっぱり世の中が厳しいからですかね。なんか就職も大変じゃないですか,今は。だから,そういうところは僕らよりよっぽどしっかりしてるんじゃないのかな。
4Gamer:
今どきの若い人は貯金が好きっていう人もいますしねえ。
吉田氏:
そうそう。やっぱりみんな,現実の厳しさを分かっちゃってるのかもしれないですね。
4Gamer:
まぁでも動機はそれでもいいかもですね,最初は。
吉田氏:
びっくりしましたけどね。「なるほど」とは思いました。
4Gamer:
なんかあれですね,昔セガとかで,レジェンドクリエイターたちがフェラーリとかブイブイ乗り回してたのを思い出しますね。
吉田氏:
そうそう,あの頃はみんな若かったし,クリエイターが六本木とかのお高いお店で飲んでたりね。
4Gamer:
俺もこうなれるんだ,という姿を見せるという意味では,悪くなかったと思うんです。
吉田氏:
まぁ今だから言えるけど,スーファミのゲームが出る前に,サンプルを持っていってお店の子達に配って「これ次の新作だよ」とか言ったりしてね。そうするとモテるんだとか(笑)。
4Gamer:
褒められたものじゃないけど,牧歌的でいい時代でしたよね昔は。ゲーム業界もインターネット業界も。
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それもあるし,あの頃はやっぱりクリエイターが「育つ時期」だったんですよね。
みんな規模が小さくて,それこそ大手でもインディークリエイターみたいなものだから,例えば外山君が「サイレントヒル」のディレクターを任されたとき20代なんですよね。
4Gamer:
あれ,そんな若かったんですか。
吉田氏:
確か2本目かなんか。だから,入社して3年目ぐらいで,もういきなり任されるわけですよ。
開発規模も小さいし,会社にとってはリスクが低いので「まぁやらしとけや」みたいな。そんな感じで任せてもらえた。しかも開発期間も短いから,出して,結果を見て,それで学べるわけです。
4Gamer:
そうそう。昔は何サイクルもできましたもんね。なんなら1年に1本作ったりして,作って出して結果を見るというサイクルがバカみたいに速かったので,どんどん成長できたんですよね。いまにして思えば。
吉田氏:
そうなんです。だから,その頃のクリエイターはすごく育つ環境にありましたよね。
4Gamer:
なので,今はちょっと状況的に可哀想……というか切ないです。一生ノンストップで作り続けてたとして何本作れるんだろう?
吉田氏:
入ったら最低でも5,60人のチームで,なんか4〜5年同じことずっとやってたりね。
4Gamer:
挙げ句,その4〜5年の成果は世に出なかったりして。
吉田氏:
そう,キャンセルになったりとか。だから,もうクリエイターが育つ環境というのがなかなかないのが,今の日本のゲーム業界の悩ましいところだと思うんです。
4Gamer:
世界共通ですよねそれたぶん。
吉田氏:
まあ,そうですね。だからこそ,独立したインディーゲームで少人数でやると,一通り回せて,自分の経験値がより高まる可能性はありますよね。
4Gamer:
そうですね。とても良い業界の下支えが作られていくと思います。
吉田氏:
人が育ってきますからね。
さっき例に出したもっぴんくんもね,「Downwell」が売れたあと任天堂さんに入社してマリオ3Dのチームに入ってるんですけど,やっぱり大きなチームだから自分のゲームが作れないと。
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4Gamer:
そりゃまぁそうでしょうね……。
吉田氏:
で,ゲームの企画職のいちメンバーにしかなれないので,結局辞めちゃったんですよね。だから,人を育てるという意味では,大きなスタジオでは難しいのかもしれないですね。
4Gamer:
なるほどそれは言えますね……。でもAAAも厳しいですしねえ。
吉田氏:
そうですね。かなり二極化してますよね。
4Gamer:
AAAのコストかけてもペイしないですよね,もはや。
吉田氏:
さすがに大きくなりすぎたという反省は,どのパブリシャーさんもしてるんじゃないですかね。
私が開発してた頃は,開発費が一番高いといっても300億ぐらいです。世界中でヒットしたIPのやつですが。
4Gamer:
吉田さん時代くらいまでが,ちょうど「過渡期」だった気がするんですよね。
吉田氏:
確かにあのときくらいまでは,逆にある程度お金使った方が安全,みたいな感じに思ってたんですよ。でもそこからさらに倍とかになると,もう無理ですよね。そろそろ誰か止めないと。
クリエイターって際限ないですし,同じジャンルの競合と比較したりするじゃないですか。だから,そういうのに任せていてはまずいということに,パブリッシャー側が気付いたと思いますね。
4Gamer:
大きなものを作ることに慣れてしまっているので,なかなか方針転換も難しそうですね。
吉田氏:
だから,いかにゲームの規模を絞るというか,あんまり大きくならないようにするかというのを,今考えてるんじゃないかなと思います。
4Gamer:
僕は自分で開発したことないので,ただの素人考えでしかないんですけど,ゲームのアイデアというものは,その根幹部分ってたぶん誰でも同じレベルにあると思うんですね。昇華のさせかたにプロの技があるとは思いますが。
でも,プロ開発者も素人も,アイデアベースではあまり差がないのではと思っています。そこへ持ってきて今はAIがあり,例えばブループリントがあり,頑張れば誰でも結構なものが作れるじゃないですか。
吉田氏:
うん,そうですね。
4Gamer:
となると,今まで大手のパブリッシャーやデベロッパーの大きな優位性の一つだった「グラフィックス」とかも,遜色ないレベルまで追いつかれちゃうわけです。
吉田氏:
追いつかれる可能性はあるでしょうね。
だから,ツールをさらに使いこなすという方向に行くと思いますよ。徹底した効率化。
4Gamer:
なるほど,そこですか。
吉田氏:
AIも,最初のコンセプトアートを作るとかでは,すでにかなり使われてるみたいですし。それによって,イテレーションがすごく速くなるわけです。
例えばアートディレクションの方向性を決めるために,いろんなものを描いてもらうために発注して,そこから1週間後にラフが出来て,それを見て,じゃあこれでもうちょっと違うのをやって,みたいな感じで何週間もかかっていたアクションが,もうほんと数日でバンバン候補が出て「あ,これだ」みたいな。ものすごい効率が上がってると聞きますよ。
4Gamer:
ええ。でもそれは会社の大小の規模にかかわらず出来ることですよね。なのでそこでもあんまり差がないと思うんです。
吉田氏:
あぁそうですね。AIの使い方というのは,もうすでに世間で稼働していて,それは大手も小さいとこも変わりないですね。
でもゲームそのものをAIを使って変えていくとかそういうのは,やはりインディーの方が面白いことやろうとしてますよね。キャラクターにAIでいろいろ喋らせたりとか,ユーザーに好きなテキストを入力させて会話させたりとか。
4Gamer:
まぁ大手だと,表立ってまだ使いづらいというのは分かるんですが。
吉田氏:
でもそういう部分というのは過去にできなかった使い方だと思うので。そういうところから,何か新しいコンセプトのものが出てきてもいいなと。最近インディーのイベントに行くと,必ずそういうのが2,3個ありますよね。今回もあったし。
4Gamer:
コンビニのやつですね。
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やっかいなAIクレーマーを自分の言葉で撃退する「コンビニ・サバイバル」。日本語版は8月22日ごろにリリース[BIC2025]
![やっかいなAIクレーマーを自分の言葉で撃退する「コンビニ・サバイバル」。日本語版は8月22日ごろにリリース[BIC2025]](/games/937/G093715/20250817002/TN/001.jpg)
2025年8月15日から17日まで,韓国・釜山で開催されたインディーゲームイベント「BIC2025」の会場で「コンビニ・サバイバル」が出展されていた。AIカスタマーハラスメント客に,自分の言葉で立ち向かうシミュレーションゲームだ。
吉田氏:
そういう新しいコンセプトコーナーを作ってもいいかな。
今思いついたので,あとで言っときます。
4Gamer:
ぜひぜひ。
それにしても,「大きいの」と「小さいの」の両方を見てる吉田さんは結構珍しい人なので聞いてみたいんですが,この後のゲーム業界はどうなっていくと思います?
吉田氏:
そうですね……大きいところは変わらないと思うんですよね。むしろもっと大きくなる可能性もある。
サービス系のゲームって,ユーザをずっと囲い込みたいわけじゃないですか。それで,ついこないだ発表されてましたけど,例えば「原神」でね,UGCができるようになったり。
そうなるとまた「フォートナイト」みたいに,ユーザーがコンテンツを作って,それで勢い付いてワーってデカくなって……。そういう,大きいところがますます大きくなって,参入障壁がますます上がると思うんですよね。
「原神」,開発中の新機能「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」を発表。経営シム,サバイバル,パーティーゲームなどを自由自在に作れる

HoYoverseは本日(2025年8月13日),オープンワールドRPG「原神」で,開発中の大型コンテンツについての最新情報を公開した。公開された「開発者からの手紙」によれば,「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」と呼ばれる“プレイヤーが主導して作り上げるコンテンツ”の開発が進行中とのことだ。
4Gamer:
では「小さい」ほうは?
吉田氏:
インディー規模でもAAA的な,それこそ「エクスペディション33」(Clair Obscur: Expedition 33)みたいな感じのものが,今後は増えてくる気がしますね。
つまり,そのどっちでもない大手……というか日本の大手メーカーさんは,みんなその「どっちでもないところ」にいそうで。その方たちは,まさに今,どうしていこうかと考えてると思いますね。
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発売と同時に話題を呼んだ“なんとか33”は,果たしてJRPGの進化形なのか? 「Clair Obscur: Expedition 33」で探る異文化RPGの現在地

なんとか33はなぜあそこまで話題になったのか? 独特の世界観とゲーム性で注目を集めたSandfall Interactiveのデビュー作「Clair Obscur: Expedition 33」。JRPGの影響を感じるターン制バトルに,反応や構築力が問われるアクション要素を融合させた戦闘を特徴とした本作を,実際のプレイ体験を通して掘り下げる。
4Gamer:
そうなんですよね。日本はまさにどっちつかずの位置にいる感じはあります。
吉田氏:
どっちに進むかという。でも,あんまり無茶をしてないから,大きな傷も負いませんけどね。
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