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印刷2026/07/29 14:28

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「事前登録は短いほうがいい」は誤り? スマホゲームマーケの定説を実データで検証した講演をレポート[CEDEC 2026]

 スマートフォンゲームのマーケティングでは,「事前登録は短期間で済ませるべき」「事前登録中はリリース後より効率よくユーザーを獲得できる」「初日から広告を最大限に出すべき」といった説が広く共有されている。これらは経験に裏打ちされた判断なのか,古いデータを基にした思い込みなのか。

 こうした定説を実測データで検証したのが,サイバーエージェント パブリッシングパートナー事業部 部長の家門真明氏だ。2012年にサイバーエージェントへ入社し,アプリボットへの出向後,ゲームプランナーやプロデューサーを経て現職に就いた。

 現在は自社タイトルのマーケティングに加え,パブリッシングや社外向けのコンサルティングも担当。これまで約30本のゲームのリリースに携わり,自己紹介スライドでは累計事前登録数を「日本1位(多分)」と紹介していた。

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 CEDECへの登壇は4年連続で,毎回「スマホゲームマーケの嘘」をテーマに掲げている。開発者が中心となるCEDECであえてマーケティングを扱うのは,現場の問題をマーケター以外にも共有し,ゲーム作りに生かしてほしいからだという。

 専門用語を極力避け,難しい概念も平易に説明した結果,資料は160ページに達した。また,タイトルの「嘘」は「間違い」程度の意味であり,意図的な虚偽を指すものではないとの注釈も添えられていた。

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 内容は,事前登録広告,リリース後に広告を始めるタイミング,計測ツールとストア数値の乖離という3テーマで構成された。


「事前登録は短く済ませるべき」
「事前登録はユーザー獲得単価が安い」
――リリース前の2つの嘘


 まず1つめ。「事前登録は短く済ませるべき」という説である。

 事前登録施策の目的は,新作を知ってもらう「認知」と,登録を促す「獲得」に分けられる。家門氏のチームは,自社・顧客を問わず,リリース前タイトルの認知度を毎月定点調査している。

 5本以上のデータでは,いずれも開始から4か月ほどは認知度が伸び,それ以降は伸び率が鈍化したという。つまり,少なくとも4か月は,忘れられる割合を上回るペースで新たな認知を積み上げられていた。

 この結果から,認知施策は4か月程度続けてもよく,短期間に圧縮すると機会損失になり得るとの見解が示された。

 なお,認知度やCPM,計測誤差を示す一部のグラフは,傾向を維持したダミー数値である。

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 広告配信でも,予算を短期間に集中させると効率が落ちる傾向が示された。同一タイトル・同一メディアで,広告を1000回表示する費用を示すCPMを比較したところ,月150万円では約90円だったが,月300万円では約115円に上昇した。

 同じ効率でユーザーを獲得できると仮定した試算では,月150万円を2か月続けたほうが,同じ予算で約1.25倍を獲得できる。認知と広告配信の両面で,期間を短くするほど不利になり得るという。

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 では,なぜ短いほうがいいと言われてきたのか。その根拠になっていたのが,事前登録したユーザーが実際のダウンロードに転換する割合である。この数字は昔と大きく変わっており,現在はiOSが約90%,Androidが約50%だという。iOSは強制的にダウンロードが発生するため転換率が高く,Androidは強制ダウンロードがかからないユーザーが多く含まれるため低い。

 iOSは「いつ事前登録させても同じ」で,期間を延ばしても転換率への影響は小さいという。一方,Androidは長期化によって登録者に忘れられ,ダウンロードへの転換率が下がる可能性があるとされた。

 なお,この数値は講演者の運用経験に基づく目安であり,OS仕様や自動インストールの選択状況,タイトル特性によって変動するとの注記が入っていた。

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 提案されたのは,事前登録広告を4か月以内で継続し,直前期に予算を集中させる方法だ。費用のかからない情報発信は,さらに早く始めてもよいという。「原神」「ブルーアーカイブ」は,リリースのおよそ1年前からXで情報を発信し,東京ゲームショウにも出展していた例として挙げられた。

 序盤はテスト期間として,アイコンやストアのスクリーンショットを改善し,登録率を高める。1か月前から配信先と広告素材を見極め,直前に山場を作る。予算は転換率の高いiOSを中心に配分し,Androidはリリース間際に比重を高める案が示された。

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 続くテーマは,「事前登録はユーザー獲得単価が安い」という説だ。事前登録中とリリース後で異なる数値を比べていることが,この誤解の主因だと指摘された。

 事前登録中とリリース後では,ユーザーの導線も成果地点も異なる。事前登録では,広告から公式サイトを経由してストアへ進み,「入手」を押した件数を成果とする。
 一方,リリース後は広告から直接ストアへ遷移する経路もあり,成果地点は「アプリオープン」だ。前者はストアの実数,後者はサードパーティツールの判定に基づくため,そもそも同じ数値ではない。

 さらに,事前登録の成果地点は2年前まで,より手前の「公式ページ内の登録ボタンPush」に置かれていた。この2年以内にアプリをリリースした経験のある人は意外と少なく,古い数字のまま比較している人が半分ほどいるかもしれない,という見立ても示された。

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 そこで,事前登録中の計測手法をリリース後も継続した事例が初公開された。広告費と配信先は変えず,広告素材も「事前登録受付中」を「配信中」に差し替えただけで,条件差を極力抑えたという。

 結果は,リリース日の前後で獲得単価がほとんど変わらないというものだった。グラフ後半で急に単価が上がっているのは,配信予算を増やしたタイミングであり,リリース日ではない。

 なお,事前登録中は1件あたりの単価をCPA,リリース後は1ダウンロードあたりの単価をCPIと呼ぶが,この事例では成果地点をそろえているため,同じ条件で比較できる。

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 予算規模が小さいから成立したのではないかという反論を想定し,月あたり億円規模の予算を投じた,2025年リリースタイトルの事例も示された。こちらはリリース後2日間ほどアプリの配信がほぼ停止するトラブルが発生し,緊急措置として事前登録の計測手法を一部流用したケースだという。配信の中心だったMeta広告では,事前期終盤のCPAとリリース後のCPIがほとんど変わっていなかった。

 獲得単価が上がるのは,反応しやすいコアユーザーから先に登録していくためだと説明された。つまり,事前登録だから安いのではなく,マーケティングの初期ほど獲得しやすい層が多い。単価が上がる時期とリリースが重なることで,事前登録とリリース後の差だと誤認されているという。

 事前登録の利点は,登録者をリリース時にまとめて呼び込み,ダウンロードランキングと自然流入を押し上げられる点にある。多くのユーザーが同時に参加することで,「モメンタム」と呼ばれる流行感も生まれる。事前登録は「安いからやる」施策ではない,というのがこのパートの結論だ。

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リリース初日に広告を打つな。
ストアランキングが落ち始めてからが本番


 次のテーマは,リリース直後に広告を始めるタイミングだ。初日から広告で勢いをつける手法は一般的だが,自社でも顧客タイトルでも採用していないという。

 初日から広告を出すべきだとする主張は,おおむね3つに整理された。

 1つめは,ランキングを押し上げ,ゲームに勢いをつけたいという主張だ。上位に必要なダウンロード数は,初日に巨額の広告費を投じるのではなく,事前登録で確保すべきだとされた。大規模タイトルでは,初日に1000万円を投じても上積みは数%にとどまるという。

 2つめは,リリース日の需要を取り切りたいという主張である。コアファンは事前登録の段階で獲得しているため,PRやCM,インフルエンサー施策は,サーバやゲームの安定稼働を確認した翌日以降に移すほうが安全だと説明された。

 3つめは,広告配信の学習を早く始めたいという主張だ。広告プラットフォームは,獲得したユーザーのデータを基に配信を最適化する。ただし初日は,事前登録者による自然流入が広告の成果に含まれる可能性があり,そのデータで学習させても適切な最適化にはつながりにくいとされた。

 そのうえで,広告を始めるべき別のタイミングが示された。前提となるのが,ストアのランキングロジックだ。iOSとAndroidでは,ダウンロードランキング上位に入る条件が異なる。

 iOSは1日のダウンロード数を見るため,1日で約1万2000ダウンロードを積めば3位以内に入る。Androidは平均値を見るため,3日間の平均が約1万2000ダウンロードで3位以内となる。結果として,iOSは「すぐ上がり」「すぐ落ちる」,Androidは「ゆっくり上がり」「ゆっくり落ちる」という傾向になる。

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 事前登録によるダウンロード数を可視化すると,iOSは初日に山ができて急速に落ち,Androidはなだらかに低下していく。ここで初日に1000万円を投じても,もともと高い数値に上積みされるだけで,2日目以降の推移は変わらない。広告による効果は,初日の増加分に限られるという。

 一方,初日は事前登録者の流入を観測し,ランキングが下がり始めてから広告を配信すれば,低下を抑えて上位を維持しやすくなる。掲載時間が延びれば,ランキングや検索からの自然流入も増えるためだ。開始時期の目安は,iOSが2日目以降,Androidが3日目以降とされた。

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 リリース初日は,事前登録施策の成果を「観測する日」と位置づけられた。ダウンロード数,ストアランキング,自然流入,ゲームの稼働状況に加え,初期ユーザーが将来もたらす売上を示すLTVを確認する。

 LTVを把握すれば,ユーザー獲得に投じられる上限額を判断できるためだ。たとえばLTVが1人1000円なら,獲得単価が2000円の広告は採算が合わない。


最大の嘘は「インターネット広告は計測しやすい」。
復帰ユーザーが「新規」に化ける


 最後のテーマは,例年もっとも時間を割いている広告効果の計測だ。「インターネット広告は計測しやすい」「CMより運用しやすい」という説を,講演最大の「嘘」と位置づけた。

 インターネット広告の効果を完全に正確に測ることは,現在の技術では不可能だという。

 しかし,正確に計測できると思うプロデューサーや経営者は多く,マーケターに厳密な数値を求めてしまう。その結果,講演によれば8割程度の精度しかない推計値が,確定値のように報告される悪循環が生じる。そこで,マーケター以外の職種にも,広告効果の計測には限界があることを理解してほしいと呼びかけた。

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 講演では,計測値の乖離を示す2つの事例が紹介された。1つめでは,計測ツール上で約170件と最も多かったメディアCが,App Storeでは10件未満だった。

 2つめでは,あるタイトルの7月の新規ダウンロード数について,iOS,Androidともストアと計測ツールの数値に約3倍の差があった。長期運用タイトルでは,乖離が70%に達する場合もあるという。

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 乖離が生じる背景として挙げられたのが,広告効果の計測をサードパーティツールだけに依存していることだ。ツール自体の有用性は認めつつ,ほかのデータと照合せずに使う点を問題視した。

 依存によって起きる問題の1つが,計測ロジックのハックだ。ストアとツールでは,そもそもダウンロードの判定条件が違う。

 ストアはクリックのみを対象とし,ストア来訪後24時間以内にダウンロードしたユーザーを,実際にダウンロードした時点でカウントする。対してツールはクリックに加えてビュー,つまり広告を見ただけのケースも対象にし,効果対象時間はストア来訪後最大7日,カウントのタイミングはアプリの起動時だ。ツール側の判定のほうが広く,時間差もある。

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 判定条件が広いと,ユーザーが意識して操作していない広告接触も成果に含まれ得る。たとえば,アプリの画面下部に表示され続ける広告は,一定時間の表示で接触と判定される場合がある。動画広告やプレイアブル広告から自動的にストアが開いた場合も,ユーザーの意思にかかわらずクリックとして扱われることがあるという。

 その結果,ゲームへの関心が高く,ほかのタイトルや攻略サイトに触れる機会が多い人ほど,意図しない広告接触が記録されやすい。その後,対象のゲームを自発的にダウンロードしても,一定期間内であれば広告経由として計上される場合がある。広告が新たなユーザーを生んだのではなく,本来自然流入だったユーザーを成果として数えてしまう可能性があるという。

 対策として示されたのは3点だ。報酬と引き換えに視聴を促すリワード広告の数値を慎重に見ること。広告の掲載先や表示位置が分からない媒体を避けること。そして,事前登録期には目立った成果が出ないのに,リリース後だけ極端に好成績を示す媒体を疑うことだ。特定の媒体を名指しするのではなく,こうした傾向に注意すべきだと説明された。

 今回新たに扱われたのが,既存ユーザーを「新規」と誤認する問題だ。主な要因は,端末変更と長期離脱からの復帰である。

 計測ツールは端末情報を基に利用者を識別するため,端末が変わると別ユーザーと判断する場合がある。また,一定期間離脱したユーザーが復帰した際も,プラットフォームの規則によって情報が更新され,新規扱いになることがあるという。ゲーム側のIDでは同一人物と分かっても,計測ツールからは判別できない。

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 端末変更と長期離脱からの復帰は,運用期間が長くなるほど発生しやすい。長く遊んでいるユーザーほど端末を変更する可能性は高くなり,コラボをきっかけに復帰する人も増える。そのため,長期運用タイトルほど乖離は大きくなる。

 アニバーサリーやコラボで「新規ダウンロードが増えた」と報告されても,実際には復帰者や端末変更者が含まれている可能性がある。これは計測ツールの欠陥を責める話ではなく,ゲーム側のデータと照合する確認作業が不足していることが問題だとされた。

 なお,自分が使っている計測ツールは情報が更新されないと思っているマーケターに対しては,すべてのツールで起こり得るため,必要なら講演後に説明すると話していた。

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 確認には,ストアのダウンロードデータを使う。流入経路までは分からないと思われがちだが,とくにiOSでは参照元を細かく確認できるという。

 iOSのストアデータには「ソースタイプ別の初回ダウンロード数」という項目があり,「App Storeの検索」「App Storeの閲覧」「参照元アプリ」「参照元Web」に分類して表示される。検索と閲覧は,ストアで検索して自然にダウンロードした人,あるいはストア内のバナーやアイコンから入った人。参照元アプリと参照元Webは,SNSやWebから直接遷移した人を示す。

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 「参照元アプリ」は,Instagram,X,TikTok,YouTube,Yahoo! JAPANなど,アプリ単位で確認できる。これらは,Meta広告,X広告,TikTok広告,Google広告,Yahoo!広告からの直接遷移を把握する手掛かりになる。自発的にストアで検索したユーザーは「検索」や「閲覧」に分類されるためだ。

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 計測ツールとストアの数値が異なると,ストア側を疑う人も多いという。しかし,実際のダウンロード数を持つストアを基準にし,計測ツールやゲーム側のデータと照合すべきだとされた。1つのツールだけに依存せず,複数の数値を比較することが,誤った判断を防ぐという。

 誤った定説が残る背景の1つに,リリース経験の不足があると指摘された。開発期間の長期化により,1人がマーケティングを最初から最後まで経験する「打席数」は減っている。一方で手法は変化し続けるため,複数回の経験を持つ人材が少ないという。

 もう1つの要因は,情報の非対称性だ。ストアやゲーム内の一次データを持つのはゲーム会社で,代理店や媒体が得られる情報には限界がある。たとえばダウンロード数の推移やストア上の流入経路は,外部へ共有されない場合がある。そのため,ゲーム会社自身が一次データを確認する必要があると訴えた。

 誤った定説が「天動説」のように広く信じられている,という比喩も示された。誰かの嘘を追及するのではなく,ゲーム会社が一次データを基に,マーケティングの「地動説」を作っていきたいと語った。

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 質疑応答では,事前登録者とリリース後に獲得したユーザーの行動やLTVを比較できるかが問われた。事前登録時の情報とゲームIDを直接ひも付けられないため,厳密な比較は難しいという。

 ただしiOSでは,事前登録者の多くがリリース当日に流入する。そのため,当日のユーザーと,翌日以降に広告経由で獲得したユーザーのLTVを比べれば,近似的な傾向は確認できると回答した。

 講演の終盤には,約30本のリリース経験を「30回ミスをしたと考えてもらって構わない」と表現し,そこから得た知見を業界へ共有したいと語った。開発者が力を注いで作ったゲームを,誤ったマーケティングで届けることは避けたい。作品の魅力が正しく伝わる環境を,業界全体で作っていきたいと訴えた。


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